「たまに見返す」だって立派な読書さ──自分の心や技術の軸を思い出させてくれる本
Goodpatchのメンバーが今、読者の皆さんにオススメしたい本を紹介する「読書週間2023」。3日目のテーマは「自分をあるべきスタンスに立ち返らせてくれる本」。UXデザイナーとして働く小関が、折に触れて見返している本を紹介してくれます。心の支えになる存在、これもまた本との一つの付き合い方なのでしょう。
読書が習慣、とは言いにくいけれど
「読書週間」の企画と聞いて、立候補した私、しかし私はそこまでたくさん本を読むわけではありません。
……なんとこの企画にふさわしくない始まり方でしょうか。
でも。素敵な本が自分の軸となり、日々忙殺される中でも、自分をあるべきスタンスに立ち返らせてくれることがあると思っています。
「趣味は読書です」とか、「読書が習慣になっています」と言うと、いろいろな本に出会って、読破しているというイメージになりがちですが、別のあり方もあっていいのではないでしょうか。
例えば、お気に入りの、自分を体言しているような一冊、こうありたいと思える一冊を折に触れて見返すことも、「読書を習慣にする」ことなのかもしれません。
UXデザイナーとして「自分の心」に向き合う──『ナナメの夕暮れ』
そう思えたのはこの本。お笑い芸人、オードリーの若林正恭さんが書いた『ナナメの夕暮れ』です。
この本は、雑誌で連載されていた若林さんのショートエッセイを集めたもので、若林さんが日々の中で感じたことを「本当に」正直に語っています。
世間に対して少し斜に構えていた結果、自分自身の趣味を発見できなかったり、やってみようという気持ちが削がれていたりした状態から思い直し、世の中を、そして自分自身を肯定的に見れるようになった話は、この作品の中心とも呼べるエピソードです。そして僕が大好きな部分でもあります。
デザイナーという職業は、技術の変化、自分たちが関わっているサービスの変化、そして、それによる人間の生活環境や文化の変化にも対応する必要があると感じています。
SNSなどを見ると、常に業界のいろんな人の、こんなことやってみた、あんなことやってみた、あれはどうだ、これはどうだ、といった意見が否応なしに見えてしまいます。
「自分も頑張ろう」と思うと同時に、どきどき周りのことが羨ましく思えたり、「綺麗ごとを言うのは簡単だけどさ」と他者の発言の価値を低く捉える(若林さんの言葉で言えば「価値下げ」する)ような心がちらつくことがあるのも正直なところです。
でもそれは、自分がやりたいことやできていることに自分自身が向き合えていないから、そう思ってしまっているのかもしれない──そんなことを素直に思えるようになったのは、この『ナナメの夕暮れ』のおかげです。
人にはいろんなペースがあって、その価値に上も下もない。自分がどう成長しているか、どんなことを純粋にやりたいと思えるのかにフォーカスすればいい。そう、思い直させてくれるのです。
ある意味、プロダクトにとっての「デザインシステム」や「Tone of voice」のような、自分にとって重視したい心の原理原則を、定期的にリマインドしてくれる存在かもしれません。
UXデザイナーとして「ユーザーを成功に導くこと」に向き合う──『カスタマーサクセス実行戦略』
では、僕は自分に真っ直ぐに向き合って、どんなことを純粋にやりたいと思うのか。
今向き合っているクライアント企業のヘルスケアサービスでは、サービス導入企業に理想的な体験を届け、その先にいるエンドユーザーの人生がちょっとハッピーになる瞬間を作りたい、と思っています。
企業向けのサービスに携わっていると、個人向けサービスよりも“顧客を成功に導く”という発想が重要だと感じることが多々あります。単に楽しいなどと思ってもらうだけではなく、いかに業務に溶け込む形で使ってもらえるか、「これは仕事に欠かせない」と思ってもらえるかが大切です。
そこで、僕が取り入れているのが「カスタマーサクセス」の考え方です。今回は企業向けサービスのUXデザインに役立つ、少しテクニカルな本も紹介します。SansanでCSを推進されていた山田ひさのり氏の著書、『カスタマーサクセス実行戦略』です。
今までいくつかカスタマーサクセスに関する本を読みましたが、本書が優れているのは、実践への「近さ」。カスタマーサクセスの解説だけでなく、ゴールの置き方、ゴールの達成に向けた戦略の組み方、組織の作り方まで細かく、かつ簡潔に書かれています。
そして、この戦略設計の内容が非常にUXデザインと親和性が高い……というより、もはやカスタマーサクセス戦略とは、企業向けサービスにおけるUX戦略そのものに近いのではないか、と思えるような内容が詰まっています。
一般的にカスタマーサクセスのプロセスでは、顧客の理想の状態やROIを定義し、その状態になっていくために必要な行動を起こしてもらえるよう、オンボーディングを行ったり、成功事例を紹介したりします。
これはまさにUXデザインにおいて、ユーザーの理想状態を定義し、コアな行動を促せるようにプロダクトを設計することと同義と言えます。読んでいくうちに、企業向けのプロダクトやサービスを扱うときには、UXもカスタマーサクセスも同時に考える重要性に気付かされました。
企業向けプロダクトやサービスのグロースフェーズで、サービス設計に携わっている方は、一読の価値があるでしょう。僕はこの本についても、折に触れては読み返し、今自分が携わっているサービス設計において、どこが足りていないか、どうしたらもっとうまく検討できそうかを考える際の指針にしています。
お笑い芸人のエッセイとカスタマーサクセスの実践本。一見すると、並列に語ることがなさそうな2冊ですが、私の中では、今の心や技術の軸を作ることに役立ち、大切なことを思い返させてくれる存在です。
本は自分の心や仕事の礎になってくれるもの。これからもいろんなジャンルの本に緩やかに出会いながら、これは自分の軸だな、と思えば振り返る。そんなふうに「読書」と付き合っていけたらいいなと思っています。