人材不足の救世主? UXデザイナーこそ「プロダクトマネージャー(PdM)」に挑戦しよう
こんにちは!グッドパッチのUXデザイナー兼プロダクトマネージャー(以下、PdM)のかのうです。
UXデザイナー兼PdMというと、「何それ、両立できるものなの?」と思われる方もいると思いますが、実は今、グッドパッチでは、PdMとしてクライアントワークにアサインされるUXデザイナーが増えています。
PdM、すなわちプロダクトの責任者が担うべき領域は幅広く、開発、マーケティング、デリバリーと多岐にわたり、今もっとも人材不足が叫ばれている職種といっても過言ではありません。
そんな職種にUXデザイナーが挑む理由はただ一つ。UXデザインの知見がプロダクトマネジメントで生きてくる、つまりスキルセットに似た部分があるためです。例えば、プロダクト開発を進める上でぶつかりやすいこんな課題。
- 多種多様なユーザーがプロダクトを使うため、ターゲットが定まっていない
- ユーザーの要望に応えることはできているが、プロダクトが成長している実感がない
こうした悩みもUXデザイナーの知見を活用すれば解決されるかもしれません。この記事では、事例とともにPdMが直面する課題に、UXデザインがどう活用できるのかを紹介していきます。
目次
プロダクトマネージャーの仕事は「3つの役割」に集約できる
先ほどお話ししたように、プロダクトマネジメントで求められる業務は多岐にわたります。例を挙げるとこんなところでしょうか。
- プロダクトのビジョンを策定し、どう向かうのかロードマップで示す
- ビジョンやユーザーの声、収益性のバランスを見ながら開発優先度を決める
- 上層部や開発チーム、マーケ、セールスなどのステークホルダーと連携してプロジェクトを管理する
ただ、これらの業務を掘り下げていくと、最終的にプロダクトマネージャーとは、「プロダクトの成功に向け、3つの役割を担う人」と言い表せると考えます。
- 「なぜ」するのか決める
- 「何を」するのか決める
- 「なぜ、何をするのか」をステークホルダーに広める
ここからは、この3つの役割に沿って、UXデザイナーの知見がどう生きるかを探っていきましょう。
「なぜ」するのか決める
PdMは「なぜ、そのプロダクトを作るのか」「なぜ今、その機能を作るのか」といった「なぜ(Why)」を決める役割があります。
これらを管理する手段としては、ロードマップやバックログがありますが、Whyの根源は以下の3つに集約でき、詳しく見ていくと、実はどれもUXデザイナーが行う仕事やスキルと相性が良いことが分かります。
- 目指す世界に近づけるため(ビジョン)
- ユーザーが求めているから(ユーザーニーズ)
- プロダクトを継続するため(事業戦略)
……といっても、分かりにくいと思うので、実際に私が手がけたプロジェクトを例に説明していきます。とあるスマートフォンアプリの開発プロジェクトで、機能の1つである「記事の閲覧機能」を担当したときの話です。
実際の開発でもあると思いますが、「何を目指して機能を作るか」「ユーザーに使ってもらうためにどうするか」「成果をどう定義するか」という点が争点になりました。
目指す世界に近づけるため
まずはプロダクトのビジョンとも言える部分、プロダクトを作る理由そのものである「目指す世界に近づけるため」です。
このプロジェクトでは、アプリ全体のビジョンやミッションは定まっており、メディア機能の目的や役割を定義する必要がありました。そこで行ったのは関係者へのヒアリングです。アプリ全体の責任者やメディア機能のオーナーなどから、機能のあるべき姿や期待する役割を聞いて整理し、無事に機能の全体像を定義できました。
ヒアリングというと簡単に聞こえますが、UXデザイナーはユーザーが感じる価値をユーザーインタビューやワークショップを用いて引き出し、課題解決を進めるのが仕事。プロダクトビジョンの策定に求められる「個々人の思いを引き出し、集約する」というのはまさに主戦場とも言える領域なのです。
ユーザーが求めているから
2つ目はいわゆる「ユーザーニーズ」の領域。ここでUXデザイナーが活躍するのは分かりやすいと思います。ユーザーニーズを仮説を立てて検証し、ユーザー体験の向上を図る。ここはまさにUXデザイナーの責任領域と言えます。
インタビューや行動観察、アンケート調査、アクセス解析など、定性調査と定量調査を掛け合わせ、あらゆる方法でユーザーニーズを把握しに行きます。これはプロダクトマネジメントを行う際にも力を発揮できる部分でしょう。
プロジェクトでは、機能の実装に際し、「どのようなコンテンツを掲載すると、ユーザーは読みたくなるのか」といった理解を深めるため、アンケート調査で興味のあるジャンルを把握し、その後、プロトタイプを用いたインタビュー調査で興味の惹かれる記事の特徴を特定しました。
プロダクトを継続するため
3つ目は少し意外に思われる人もいるかもしれません。売上を生み出し、会社や他の出資者から投資を続けてもらうという、いわゆる「ビジネス」領域の話であるためです。
グッドパッチのUXデザイナーは「ユーザー体験の向上がどう売上につながるのか」という設計までを担うことが多いです。どんなにユーザー体験を求めても、どんなにユーザー体験を求めても、それが売上につながらなければ、事業を続けることができなくなってしまうためです。
具体的には、グロースサイクルを用いてユーザー体験の向上から収益を上げるまでのステップを整理したり、NSM(North Star Metric)を立てて、売上を盲目的に追ってユーザー体験が損うことを予防したりします。ユーザーが長く、かつ頻度高く使うことで売上が上がる構造を設計します。
件のプロジェクトでは「KPIツリー」を作成しました。メディア機能チームの最上段KPIはメディア機能のWAU(週間アクティブユーザー数)だったため、そこからブレイクダウンし、記事の読了率や前週記事を読んだユーザーが今週も読んでくれたか、といったユーザー体験も考慮した指標の設計を行いました。
「何を」するのか決める
上記の「なぜ」に基づき、「何を」するのか決めることもPdMの重要な役割の一つです。
このとき「ビジネス要件」「ユーザー要件」「開発要件」を考慮した優先順位を付け、有限なリソースを何に費やすのかを判断します。この判断を行う際にも、UXデザインの視点が大きな力となります。
まず得意とするのは「ユーザー要件」の定義です。UXデザイナーはユーザーの視点を深く理解し、それをプロダクト設計に生かすことができます。例えば、プロトタイピングやユーザーテストを活用し、新しい機能や施策がユーザーにどの程度有用なのかを素早く評価し、具体的な機能を開発すべきか、どの優先順位で開発すべきかを判断できるでしょう。
一方で、グッドパッチのUXデザイナーはユーザー要件だけを考えるのではなく、エンジニアやビジネスサイドの人たちともコミュニケーションを取ることが求められます。理想的なユーザー体験を考えても、実装できなければユーザーのもとへは届かないし、ビジネス成果へコミットできなければ事業そのものが縮小してしまうからです。
私自身もプロジェクトでロードマップを作成する際は、エンジニアに見積もってもらった開発工数と照らし合わせましたし、それを事業責任者と一緒に確認することで、初期リリースにおけるスコープとその後の開発優先度の合意を得ることができました。
「なぜ、何をするのか」をステークホルダーに広める
最後に、上記の「なぜするのか」「何をするのか」をプロダクトチームに伝え、浸透させることもPdMの大事な役割です。
チーム内の認識をそろえることで仕様のズレを防いだり、目的に沿ったアイデアを出しやすくしたりします。加えて、メンバーの納得度を高めることでモチベーションの向上にも大きく貢献します。
ここまで説明してきたように、UXデザイナーは「価値」の言語化を得意としています。例えば、一つ一つのユーザーの声を基に、「価値マップ」や「上位下位分析」といった手法を用いて欲求や課題を抽象化します。抽象化することで「ターゲットユーザーが抱えている課題は〇〇」「プロダクトで△△という価値を提供することで、ユーザーは□□を実現できる」といった言語化を行えるというわけです。
プロダクトの方向性や提供価値を明らかにすることで、メンバーとグロースの方向性を擦り合わせることに貢献できるでしょう。
グッドパッチのUXデザイナーがデザインする対象には、エンドユーザーだけでなく、チームメンバーも含まれます。メンバーが「なぜ、何をするのか」に納得し、腹落ちして仕事ができるようデザインすることで、目指す方向性がそろった、質の高い議論ができるのです。
一例として、定期的にビジョンを振り返るワークを行うことがあります。ビジョンという抽象度の高い目的から、「各メンバーが日々のタスクを行う理由」という具体まで落とし込むことが狙いです。
そのために、ビジョンを達成するために「プロダクトは何をすべきか」「チームは何をすべきか」「自分は何をすべきか」というように順序を立てて、目的を自分ごと化することで「なぜ、何をするのか」をメンバーに広めることができます。
「UXデザイナー→PdM」へのキャリアは有力な選択肢
ここまでまとめたように、UXデザインの知見を活かすことで「ユーザーやステークホルダーの課題や欲求を基に、その人がどのような状態になるとうれしいか」を考察しながら、プロダクト開発を進めることができます。
UXデザイナーはPdMになれる素質を持っている、つまりPdMはUXデザイナーのキャリアとして有力な選択肢となり得るというわけです。
とはいえ、UXデザイナーの誰もが簡単にPdMになれるというわけではありません。ユーザーにまつわる課題を解決するには強い一方で、いわゆるプロダクトマネジメントトライアングルでいう「開発者」と「ビジネス」の側面は弱点になりやすいです。
要求定義や要件定義を重ね、エンジニアと密にコミュニケーションを取る。ユーザー体験の向上が、どのようにビジネスにも貢献するのかを設計する。自らの担当領域を決めつけず、プロダクトの全てに関わっていく──そういった経験を積むことで、足りない観点を補っていく必要があると考えます。
記事冒頭で触れたように、グッドパッチでは、PdMロールでクライアントワークに参加するUXデザイナーが増えており、グロースフェーズを中心に、PdMがプロダクト開発チームにジョインして、UXデザインのスキルや知見を伝えるケースも生まれています。こうした取り組みにご興味ある方は、ぜひご連絡ください。