デザイナーが考える「組織デザイン」④:そのダメ会議、ファシリテーションでもっと良くなります!
「今日の会議、結局何が決まったんだっけ?」「言いたいことがあったのに、タイミングを逃しちゃった」「一部の人だけが話していて、他の人は置いてけぼり……」
こんにちは。グッドパッチでデザインストラテジスト兼ワークショップデザイナーとして活動している田中拓也です。
皆さんの仕事の中で一定の割合を占めるであろう会議ですが、「もっと良くできる」と感じている人は少なくありません。日々の打ち合わせで、冒頭に挙げたような不満や後悔を抱いたことは一度はあるのでは。
もったいない会議の時間を、活気あふれる「価値創造の時間」にするにはどうすれば──? それこそ「場づくり」のプロフェッショナルであるワークショップデザイナーの本領です。
皆さんは「ファシリテーション」という言葉を聞いたことがありますか? 初めて聞いたという方や「会議を仕切るテクニックでしょ?」と思っている方にこそ、今回の記事はぜひ読んでいただきたいです。
また、日々デザイナーとして活動する身からすると、デザイナーこそファシリテーションを体系的に学ぶメリットが大きいと感じています。
ユーザーの課題を解決し、より良い体験を創造するためには、チームやクライアントとの建設的な対話は不可欠。ファシリテーションには、チームの可能性を引き出して成功に導くだけでなく、デザイナー自身の価値を高めるための深い知恵と具体的なテクニックが詰まっています。今回はそのエッセンスを初心者の方にも分かりやすく、たっぷりお届けします!
目次
ファシリテーションは「会議の進行役を務めること」ではない
誤解されがちではありますが、ファシリテーションというのは、単に会議の進行役を務めること(または、そのスキル)ではありません。それはあくまでファシリテーションの一部分。本質はもっと深いところにあります。
ファシリテーション(Facilitation)の語源は「容易にする」。つまり、グループやチームが何かの目的を達成するために活動するプロセスを「より活発に」「よりスムーズに」進められるように、あらゆる角度から支援(促進)することです。
これって、なんだかデザイナーの仕事に似ていませんか? デザイナーはユーザーのニーズを理解し、本質的な課題を見つけ出し、解決策を形にし、そのプロセス全体を導いていきます。ファシリテーションも同様に、参加者の意見を引き出し、課題を明確にし、目標達成までのプロセスに伴走する役割を担います。
ファシリテーター(ファシリテーションをする人)は、特定の意見に肩入れせず、あくまで中立な立場。議論の内容そのものではなく議論の「流れ」や「進め方(プロセス)」に意識を集中します。デザイナーがユーザー中心にプロセスを設計するように、ファシリテーターは参加者中心にコミュニケーションのプロセスをデザインするのです。
イメージとして分かりやすいのは優秀なナビゲーター。チームという船が、目的地(ゴール)まで安全かつ効率的に航海できるよう、海図(アジェンダ)を読み解き、天候(場の空気)を観察し、時には舵取り(議論の方向修正)も手伝う、そんな存在です。
活発な議論を支える、5つのファシリテーションデザインプロセス
では、優れたファシリテーションを実現するためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。私はいつも、以下に挙げる5つの要素を意識的に「デザイン」することが重要だと説いています。デザイナーの皆さんなら、共感できるポイントがきっと多いはずです。

ファシリテーションデザインのプロセス概要
1. プロセス全体を俯瞰する(全体設計のデザイン)
まずは会議を始める前に全体設計から考えましょう。皆さんが思う「良い会議」とはどういうものでしょうか。これは「目的」と「プロセス」の2つに分けて考えることができます。
意思決定が目的ならば、何かしらかの物事が決まっていること。ブレインストーミングが目的だったらさまざまなアイデアが出ていること。会議には何かしらの目的がある以上、それが達成されていることが良い状態であることは間違いありません。
一方のプロセスですが、ファシリテーションの価値として、「より活発に」「よりスムーズに」進めると先ほどお話ししました。参加者の満足度も追求することを考えると、会議の「体験」に着目せざるを得なくなります。これが会議のデザインの第一歩です。ユーザーの体験ジャーニーを描くように、会議やワークショップの始まりから終わりまでのプロセス全体を設計しましょう。
- 制約・前提条件
- 目的・ゴール
- 参加者
- 方法(アジェンダ)
- 設備・必要物
という5つの要素を踏まえ、ゴール達成までの最適な道のりを計画します。行き当たりばったりではなく、目的意識を持ったプロセス設計が重要です。
2. 最高の体験を設計する(場のデザイン)
会議が始まったら全体設計を踏まえ、会議のゴールを明確にし、参加者に共有することから始めます。プロジェクトの要件定義と同じですが、これができていない会議は意外と少なくありません。ところでこの会議の参加者については吟味しましたか? 誰が参加すれば最も価値ある対話が生まれるか、ペルソナを考えるように参加者を深く理解することも大切です。
そして、プロセスの質を高めるために、参加者が心理的に安心して、創造性を発揮できるような「場=体験」を物理的・心理的側面からデザインします。例えば、ホワイトボードなどを使った「見える化」は、プロトタイピングのように思考を具体化し、共有する助けとなるでしょう。
3. 共感と対話を生み出す(対人関係のデザイン)
意思決定のための議論にしても、アイデア出しの集まりにしても、参加者の考えや発言がどれだけ出るかによって会議の質は左右されます。
ここでのファシリテーターの役割は、参加者が発言し、対話しやすい雰囲気を作ること。そのためにも「傾聴」のスキルが重要となります。ユーザーの声を聴くように、チームメンバーの話に深く耳と心を傾け、共感を示すことが信頼関係の基盤です。デザイナーにとって最も重要なスキルと言っても過言ではありません。
課題の本質を探るように、「問い」を使って参加者の思考を深掘りし、潜在的なニーズやアイデアを引き出します。活発な議論が生まれるかどうか、ここが腕の見せ所です。
4. 思考を整理し、構造化する(構造化のデザイン)
活発な議論を目指すということは、収束に必要なコストが増えるということでもあります。皆さんも「話は盛り上がったけれど、まとまらずに会議が終わってしまった」という経験はしたことがあると思います。
ここで必要になるのが「構造化」のスキルです。ユーザー調査の分析や情報設計のように、飛び交う意見や情報を整理し、構造化します。先ほどホワイトボードの例を挙げましたが、「スクライブ(板書)」は思考のプロセスをリアルタイムで可視化し、チームの共通認識を形成する強力なツールです。複雑な情報を分かりやすく伝え、議論を前進させる力は、デザイナーの情報整理能力と通じると考えています。
5. 多様性から価値を創造する(合意形成のデザイン)
会議で最も難しいと言われているのが着地点、つまり「合意形成」のフェーズです。目指すのは、各人にとっては必ずしも最良の案でなくても、メンバー全員が支持できる案をチーム全体で作り出すこと。「共創的な着地点(コンセンサス)」と表現することもできます。
表面的な合意ではなく、参加者の真のニーズや懸念(氷山モデル)に寄り添いながら、創造的な解決策を探りましょう。
デザイナーの皆さんは、デザインプロセスにおける多様なフィードバックや制約条件の中で最適な解を見つけ出すように、異なる意見や対立を、より良い解決策を生み出すためのエネルギーとして活用することがポイントです。
デザイナーだからこそ、ファシリテーションを武器にしよう!
今回の記事では、ファシリテーションとデザイナーの仕事に共通点が多いとお話ししていますが、デザイナーが意識的にファシリテーションスキルを活用すれば、普段の業務がスムーズに進みやすくなるのは間違いありません。
なぜなら、デザイナーの仕事は一人で完結することがほとんどないから。ユーザー、クライアント、エンジニア、マーケターなど、多様な立場の人々と協力し、合意形成を図りながら業務を進める必要があります。今日紹介したファシリテーションスキルだけでも、以下のようなメリットが見込めるでしょう。
- ユーザーの深い声を引き出す:
ユーザーインタビューや共感ワークショップで、表面的な言葉だけでなく、その裏にある本音や潜在的なニーズを引き出すために、傾聴や問いのスキルが役立ちます。 - 多様な意見を創造力に:
アイデアソンや共創ワークショップで、さまざまなバックグラウンドを持つ参加者の意見を整理し、発想を広げ、建設的な議論へと導くことで、より革新的なアイデアを生み出せます。 - 合意形成をスムーズに:
デザイン案に対するフィードバックや意思決定の場で、感情的な対立を避け、それぞれの意見の背景にある意図を理解し合い、全員が納得できる方向性を見出す手助けをします。 - デザインの価値を伝える:
自分のデザインの意図や価値を、相手に分かりやすく伝え、理解と共感を得るためにも、場の設定や対話の進め方をデザインする視点が生きるでしょう。
ファシリテーションはデザイナーが持つべき「共感力」「課題発見力」「課題解決力」といったコアスキルを、チームや組織の中で最大限に生かすための触媒となるのです。「何だか大変そう」と感じるかもしれませんが、デザイナーであるあなたには、既にファシリテーションに必要な素養がたくさん備わっています。
ファシリテーションは、これらの能力をチームの中でさらに輝かせ、あなたのデザインの価値を最大化するための強力な武器となり得ます。
最初から完璧なファシリテーターである必要はありません。次の打ち合わせで、意識的に「傾聴」の時間を増やしてみる。ホワイトボードに議論の流れを簡単に書き出してみる。アジェンダの最初に、今日のゴールを確認する一言を加える──そんな小さな実践から始めてみませんか?
デザインの力とファシリテーションの力を掛け合わせ、チームを、そしてあなた自身の可能性を大きく広げていきましょう!次回は「ふりかえり」というテーマでお話ししたいと思います。お楽しみに。