ChatGPTをはじめとする「生成AI」の登場以降、社内で「生成AIを活用した新規事業を検討してほしい」と依頼された方も多いのではないでしょうか。
「業務効率化を支えるAIプロダクトを作ってほしい」「社内ナレッジを活用したサービスを考えてほしい」──そんなふわっとした依頼から、プロジェクトが始まることも少なくありません。しかし、実際に取り組んでみるとこんな壁に直面することがあります。
- とりあえずチャットボットを作ってみたものの、誰も使ってくれなかった
- それらしいプロトタイプを作ったが、売れる目処が立たない
- 技術的なハードルに行く手を阻まれ、事業の検討が止まってしまう
これらの壁の背景には、「生成AIで何ができるか」に引っ張られすぎてしまい、「誰にどんな価値を届けるのか」というユーザー(顧客)視点の思考が抜け落ちてしまっているという共通点があります。
本記事では、生成AIを始めとする新しい技術を事業に活用する際、失敗しないために必要な視点を3つに分けてご紹介します。
目次
生成AIを使った新規事業でも、「誰の、どんな行動を変えたいのか?」という鉄則は変わらない
生成AIに限らず、IoTやRPA、ブロックチェーン……新たな技術が出てくると必ずと言っていいほど「ウチの会社でも何かできないか」という話になります。
実際に、人々の仕事や生活が変わる影響力を持つ可能性があるのは間違いなく、今も「生成AIで社内の業務を効率化したい」「新しいビジネスチャンスを探したい」といった目的の下、多くの企業が生成AIの導入に着手しています。
ただ、先ほど触れた通り、プロダクト作りに失敗してしまうケースは後を絶ちません。ある企業では「ナレッジ共有を生成AIで支援したい」と考え、生成AIが社内ドキュメントを自動要約するチャットボットを開発しました。聞く分には便利そうなプロダクトですが、リリース当初は試しに使ってくれる人がいたものの、その後はほとんど使われなくなってしまったのです。
なぜでしょうか? 社内のメンバーに聞くと以下のようなことが分かったと言います。
- 実際にナレッジを探す場面では、生成AIの出力結果を待つよりもSlackで人に聞いた方が早い
- 出力された結果が正しいかどうか不安で、結局社内ドキュメントを確認してしまう
- 生成AIの精度が高いと思っておらず、そもそも使おうと思えなかった
こうした事例は決して珍しいものではありません。技術の活用が先に立ち、「誰が、どんなシーンで困っているのか」という課題やニーズの設計が不十分なまま進んでしまうと、どれだけ優れた機能があっても使われないプロダクトが生まれてしまいます。
まず押さえるべきは「生成AIで何ができるか」ではなく、「誰の、どんな課題をどう変えたいのか」というプロダクトの方向性です。生成AIはあくまで手段であり、価値の本質は「どの行動がどう変わるか」という点にあります。課題については、例えば以下のように整理してみましょう。
- どの職種の人が
- どんなタイミングで困りごとを感じているのか?
- 現在はどうやって対応しているのか?
- そこに生成AIが入り込むと、体験や行動がどんなふうに変わるのか?
プロダクトの核となる価値は「生成AIで何を作るか」ではなく、あくまで「ユーザーがどんな行動変容を起こすか」という点にあります。この視点が抜けている場合は、早急に方向性を再設計した方が良いでしょう。
生成AIの新規事業で外してはいけない、「収益」と「開発」の設計観点
「どんな行動変容を起こすか」というAIプロダクトの価値や方向性が決まったら、収益や開発といった要素の検討に進んでいきましょう。ここではそれぞれに必要な観点を紹介します。
「どのように儲けるか?」を事前に描く
新規事業において、ユーザーがいる(使ってもらえる)ことの次に重要なのは、きちんとビジネスとして成立することです。そのためにも「収益構造の見通し」を最初から描いておくのが良いでしょう。AIは機能であって、収益モデルそのものではありません。PoCの成功や一部ユーザーでの好評に満足してしまい、収益化への道筋を描かなかったことでプロジェクトが停滞するケースも多く見られます。
- SaaS型で継続的に課金するのか?
- 業務フローに入り込んで、BPOとして価値提供するのか?
- 利用量ベースの従量課金にするのか?
また、「なぜ自社がこれをやるべきか?」──つまり、自社の持つドメイン知識や既存アセット、チャネルとの接続を前提に構造を考えておくことも重要です。
今は市場にないサービスのように思えたとしても、OpenAIやGoogleといったLLMプロバイダーが、その機能に対応した瞬間に淘汰されるということも珍しくありません。こうした巨大企業に開発のリソースで太刀打ちするのは極めて難しいです。他社が簡単にはマネできないような、自社がこれまで培ってきたドメインの深さやアセットをいかに活用できるかが、AIプロダクト開発の肝になると考えています。
「技術とデータ設計の難度」を見つめながらプロトタイプを作る
最後に注意すべきは開発に関する観点です。これはAIならではのポイントですが、技術的な実現可能性とデータ設計の難しさを正しく見通すことが重要です。特にデータ設計については、読み込ませるデータの量や良し悪しが出力の精度に直結するので、プロンプトと同様に試行錯誤が必要になる部分です。
また、生成AIは機能や精度が日進月歩で進化しています。だからこそ「全部を完成させてから提供する」のではなく、「できるところから段階的にリリースして育てていく」という視点が欠かせません。生成AIプロダクトの開発においては、以下のようなポイントでつまづくことが多いです。
- 生成AIのAPIと連携したが、データの整理ができておらず活用できない(精度が上がらない)
- 文脈に沿ったプロンプトと出力結果のコントロールが困難
- セキュリティやガバナンスの壁で実装が遅れる
こうしたリスクを避けるには、初期段階から以下のようなロードマップを共有し、事業サイドと技術サイドで合意しておくことが有効です。新規事業において一般的に言われることではありますが、いわゆる「プロトタイプ」を作りながら進めるという姿勢が求められます。
- フェーズ1:プロンプト×既存データの組み合わせによる価値検証
- フェーズ2:API化や業務フローへの組み込みによる定着
- フェーズ3:独自データの蓄積と機械学習(ML)活用による差別化
「思想」と「構造設計」がAI新規事業の成否を分ける
生成AIは従来よりもはるかに短期間でアイデアを形にできる手段を私たちに提供してくれました。しかし、そのスピード感に流されて「本質的に価値のあるプロダクトか」という問いを後回しにしてしまうと、成果にはつながりません。
だからこそ、この記事で触れてきた3つの「設計視点」が必要になります。
- 誰の行動を変えるか(行動設計)
- どのように儲けるか(収益設計)
- どんなプロセスで段階的に実現していくか(技術・データ設計)
これらを基にプロダクトの成長を「構想段階」から「技術設計」までつなぎ、無理なく進めるための共通認識がカギになります。生成AIというのは一種の「ブースター」のようなもの。そのスピードを生かすためにもしっかりとした基盤が必要です。それが「収益」と「インパクト」の両立を目指す新規事業において、最も再現性のある道筋だと考えています。
グッドパッチでは、生成AIを活用した新規事業の事業構造設計からプロトタイピング、ユーザー検証、実装、グロースまで一貫した支援を行っています。技術検証やPoC止まりで終わらせたくない企業の新規事業担当者の方、AIプロダクトを収益構造に組み込んでいきたい事業開発担当者の方に向けて、戦略構築から伴走いたします。
新規事業推進における壁や課題を感じている方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。
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