私たちは世界に何を残せるのか──そんな問いを背景にグッドパッチでは「MAKE A MARK」というコンセプトをグループ総会で掲げました。

グッドパッチで働くデザイナーたちは、なぜグッドパッチに集い、これから何を残していきたいのか。MAKE A MARKというコンセプトに沿って、各々が胸に秘めた思いに迫るインタビュー企画。第2回はクライアント事業部でUXデザインマネージャーを経て、現在はUXデザインチーム全体を統括するディレクターを務める秋野比彩美が登場。

デザイン未経験からヤフーのデザインリードへ——と言うと、シンデレラストーリーのように聞こえるかもしれません。しかし実際は「負けず嫌い」精神で自力でキャリアを切り開いた、まさに「たたき上げ」。そんな彼女が描く、これからのデザイナー像とは?

デザイン未経験からヤフーのデザインリード、そしてグッドパッチへ

私のキャリアは少し変わっていて、大学を出て新卒で就職するというケースではないんです。大学在学中に出産し、3年ほど専業主婦として生活していました。でも、元々の性格が多動気味だったので、家にいることがだんだん退屈になってきて。子育てをしながら働ける場所を探していたところに、モバイルのコンテンツ制作の会社がデザイナーアシスタントのアルバイトとして拾ってくれたんです。

当時は、高校生のころにデザインの勉強をかじった程度で、まともにデザインツールも使えない、超未経験者でした。実務ベースでガラケーの待ち受け画像やバナー制作、UIデザインなどを少しずつ学んでいった感じです。

そのころ「iOS 7」が発表され、デザインの世界がどんどん変わっていっていたこともあり、もっとデザインができるようになりたいと思い、ヤフーの子会社のコミュニティファクトリーの面接を受けたんです。ちょうどヤフーでUXデザイナーを増やすためのプロジェクトが進んでいたタイミングで、前職でUI/UXを経験していたことを買われて、そのプロジェクトをリードしてほしいと、気付いたらヤフーに入社していました。

デザイナーは横串のチームだったので、関わっているサービスも経験値もみんなバラバラで。自分より年齢も経験値も上の方から、新卒の方まで、いろんな人のマネジメントを経験させてもらいました。

子育てをしながら仕事をするのは本当に大変でしたが、私はとにかく負けず嫌いなので、「とやかく言ってくる人には数字で証明してやる!」という心意気で仕事をしていました。マーケティングリサーチをデザインに落とし込んだり、アナリティクスを学んだり、興味があること、成果に結びつくことには何にでもチャレンジしていましたね。

ヤフーでは本当に貴重な経験をさせてもらいましたが、新型コロナウイルスの流行に伴って自分のキャリアや将来を考えるようになりました。デザイナーとして突き詰める前に、マネージャーを経験したことで、ジェネラリスト的なキャリアは積んでいるけど、何かに特化したスペシャリストにはなれていないことに気付いて。

「UXデザインって、結局ビジネスにどんな良いことをもたらすの?」という問いに明確に答えられない自分を変えたい、UXデザインのスキルをしっかり身につけたいと思い、UXデザイナーが多く所属している株式会社medibaに転職しました。

medibaのデザイナーたちはみんなUXデザインを体系的に学んできていたので、UXリサーチを基礎から徹底的に叩き込んでもらって。そこで初めて、ヤフーで培った実務と体系的でアカデミックな知識が合わさり、ステップを一段登れた感覚がありました。

そんなある日、たまたまWantedlyにログインしたら、半年前に当時デザインリードをしていた栗田さんからスカウトがきているのを見つけて。転職するかどうかは別にして、カジュアル面談を申し込んでみたら「UXデザイナーってどうあるべきか?」という話題めちゃくちゃ盛り上がったんです。面談を通して、グッドパッチがデザイナーを大切にしている会社であることがすごく伝わってきて、「一生働くならここがいい」という思いを強く持ちました。入社してからも、その印象は変わっていません。

プロダクト作りもマネジメントも「“相手“に合ったものを提供する」ことが大切

グッドパッチでも、マネジメントに携わらせてもらっています。私はヤフー時代に教わった「マネージャーの仕事はメンバーの才能と情熱を解き放つこと」という考えを今でも大切にしてます。その人の得意なことや良さを生かすためにはどんなプロジェクトが合うのか、どんな環境を提供すれば良いかを考えることがすごく好きで。今所属しているデザイン部署の「世界を前進させる、創造性に満ちたサービス・プロダクトを生み出す」というコンセプトも、まさに私がマネジメントで大切にしている「クリエイティビティの可能性を解き放つ」ことに通じると感じています。

あとふたつ、仕事をする上で大切にしていることがあります。ひとつは、一人ひとり考えていることが違うことを忘れないこと。当たり前に聞こえるかもしれませんが、人間は自分の知識と経験で物事を判断してしまう生き物なので、ついつい「この人はこういう人」と思ってしまいがちです。

ですが、当然人によって考えていることも、見ている景色も違うので、サービスやプロダクト作りにおいても、マネジメントにおいても、「“その人”に合ったものを提供する」ことを心がけています。一人ひとりの違いが新しいものを生むので、自分と違う考えや視点と出会うことが好きなんです。

もうひとつは、自分から心を開くこと。サービスもメンバーも、愛せば愛すほど良い方向に育つんです。なので、褒めるときも、厳しいことを言うときも、「本当にその人のためになるのか」と自分に問いながら伝えることを心がけています。ユーザーさんもメンバーも、そこに愛があるか、心からの発言かどうかってわかるんですよね。サービスであれメンバーであれ、どんなときも自分の心に正直に愛を持って向き合うことを大切にしています。

秋野がリードするグッドパッチのUXデザイン認知向上を目指す社内有志チーム。Goodpatchブランドの向上に寄与したとして、先日の12周年総会でMost Valuable Knowledge賞に選出された(2023年8月撮影) チームで発信している記事はこちら:UXデザイナーの自由帳

マネージャーからディレクターに昇格し、より「ビジネスとしてのデザイン」ということに向き合う場面が増えました。よく、「ビジネスかデザインか」の二項対立のように語られがちですが、私自身はそうは思っていません。

ユーザー体験が良くなればよくなるほどビジネスが成長するし、ビジネスが成長しなければ、中長期的にはデザイナーは楽しく仕事ができない。デザイナーもちゃんとビジネスのことを考えたほうが、結果的にハッピーになれるはずです。

その前提で、デザイナーのキャリアパスは、ビジネスとデザインの両軸を見ることができるジェネラリストと、デザインを突き詰めるスペシャリストの両方が選べることが重要だと考えています。若手の間は、知識や経験を積むことが優先されて良いと思いますが、その先に多様な選択肢を準備することは会社や組織の役割。その点、グッドパッチはいろんなスタンスのデザイナーがいるので、バランスが良いと感じますね。

デザインと事業成長の関係を「デザイナー自身も」ロジカルに説明できないといけない

今後はデザイナーの仕事を通じて、日本の企業の意思決定層レベルに、デザインの重要性を浸透させたいですね。サービスをきちんとデザインする、ユーザーの目線でプロダクトをデザインすることが、中長期的にビジネスを大きくすることを、企業の経営者やトップレイヤーの人たちに理解してもらうことが必要です。

ヤフーでは、レイヤーが上の人たちもみんなデザインのことが大好きで「こんなの誰も使いませんよ」と私が言うと、ケラケラ笑いながら話を聞いてくれていました。そういう、デザインへの視線や向き合い方が、日本全体で見るとまだまだ足りない。

例えば、たったひとつのボタンが押しやすくなっても、短期的には売上には繋がりません。ですが、そのひとつのこだわりはユーザーには必ず伝わり、中長期的にはビジネスに効いていきます。「デザインの力を証明する」ということは、表面だけを綺麗にするデザインをするのではなく、中長期的にビジネスを成長させるサポートをすることだと思うんです。

そのために、「このデザインを良くすることで、事業がこう良くなります」とロジカルに説明できるスキルを、デザイナー自身も高めていかなければなりません。グッドパッチのコアバリューに“Good Design Equals Good Business(良いデザインを良いビジネスにする)”とありますが、まさにその通りだと思います。

グッドパッチは「自分ができることは最大限やりたい」というスタンスの人が多い組織です。それはデザイナーだけでなく、バックオフィスのメンバーなどもそうで、「一緒に働いてるメンバーが心地よく仕事をするために、自分たちは今何ができるんだろう」と常に120%の力で考えてくれています。

もちろん、常に80点を取り続ける価値観も良いですが、「今よりももっと良くするためにはどうすれば良いんだろう」という視点は忘れたくありません自分のできる範囲で期待を超えていく、そういう思いを持った人と一緒に働きたいですね。期待を超えたいと思う人が、自分の可能性を最大限に発揮できるように、私も120%の力でサポートしていきたいです。