クライアントワークに従事される皆さんは、受注前のデザイン提案をどんな手順で作っていますか?

今回は受注前の提案書作成の際に、デザインスプリントを取り入れるメリットをデザイナーの視点でお話ししようと思います。クライアントワークだけでなく、事業会社でデザイン提案をする際にも、きっと役立つお話だと思います。

スプリントとは

デザインスプリントは、GV(旧:Google Ventures)がスタートアップ支援の為に用いているプログラムで、スタートアップだけでなく企業の規模感に合わせて活用することが出来る柔軟なフレームワークになっています。

プログラムの基本構成は5日間で構成されており、時間的な制限の中で素早く「理解」→「アイディエーション」→「アイデアの決定」→「プロトタイプ」→「検証」を行うフレームワークになっています。

スプリントについては以下で詳細を説明しています。

なぜ提案書の段階でデザインスプリントをやる必要があるのか?

デザイン提案をする時、要件を頭の中で組み立て・チームですり合わせたあと、トレンドやかっこよさを取り入れたデザインをする事に時間をかけがちではないですか?

初回のヒアリングから提案まで、あまり時間が取れない事も多いですよね。そんな中、文字で見ただけの課題を解決し、かっこいいデザインを作る事に時間をかけてしまうと本質的な課題に割く時間がとても少なくなってしまいます。
今回は実験的にハーフコミット以下の時間で5日間、提案書作成のためにデザインスプリントを行いました。弊社では活発に行われているデザインスプリントですが、触れる機会がなかったUXデザイナーとUIデザイナーの二人で、デザインスプリントの本と社内の事例(デザインスプリント資料)を見ながら行いました。結果、無事受注する事と、素晴らしい評価を頂くことができました。(この案件以外の案件まで一緒にやりたいと言って頂けました!

受注につながり、評価を得られた理由とは?

躓いた時に自社の前例からヒントを得られた

「SPRINT 最速仕事術」には”専門家に聞く”という項目があるんですが、提案の場合この”専門家”がいません。クライアントと密に連絡を取ることもできない中で進めていくしかないので、必然的に自分たちで虱潰しに調べるしかありません。

そこで自社の前例から、ブランドイメージ・競合アプリの調査・ターゲットの定量的な調査資料を元にざっくりとしたペルソナを導き出し、ユーザーインタビューをした後にペルソナを作りあげるという手順をデザインスプリントに取り入れました。そして、カスタマージャーニーマップをペルソナに成り切って制作した所で、どんなアプリにするのか?という答えが見つかり始めたのです。

無駄に議論をせずに「そもそも論」を踏まえてソリューションを考えられた

ここまでやった所で、当初の想定通りに進められない「そもそも論」が発生し始めます。クライアントが想定していたサービスをユーザーが使いこなせない可能性や、スコープ範囲を狭めたほうがビジネス的にも効果的である事がわかってきました。デザインスプリントでは限られた時間を有効に使うため、無駄な会議はしません。会議中に考えながら話すのではなく、各自熟考した事を発表し、投票で決めます。

「どうすればメモ」や「ソリューションスケッチ」などをこなし、発表した時には既にほぼ同じソリューションが出来上がっていました。これはチームで調査したペルソナのニーズ・課題を考えた上で、導き出した案が被ったという事。「ユーザー・クライアントの悩みを理解し、この仮説を試す価値がある」という確信と自信を持っていました。

クイックにプロトタイプを作成して検証出来た

クライアントと話す時のスムーズさも段違いでした。なぜならチーム全員が同じ認識と自信を持ち、ブランドイメージやユーザー・競合を調査してきた上でのプロトタイプを持参しているからです。「専門家に聞く」気持ちでリサーチした所がより自信を深めてくれました。
デザイナーだけが作ったプロトタイプは、デザイナーが話すのが基本ですが、このスプリントで作ったプロトタイプの本質はチームのメンバーならば全員が理解し・専門領域でより詳しい話をする事が出来ます。

とは言っても失敗もしています

理解不足の二度手間・見切り発車

初心者故に本に頼りすぎ、内容の3分の1くらいまでの工程は、正直効果的な物を出せませんでした。「なんだかよくわからないものを作っている!!」という不安が3日目の終わりくらいまであり、自社のデザインスプリントの資料を読み漁りました。

そこで、カスタマージャーニーやペルソナ作り、競合調査が「専門家に聞く」の代わりを果たしている事に気付き、それらを制作してからまたやり直しました。二度手間で貴重な2日間を無駄にしてしまったんです。

本を読んですぐやった事で、理解する前に本を片手に見切り発車した事もたくさんあります。もっと早く本を読んでいたら…理解できていれば…と思いました。また、クレイジー8などは慣れの問題ですが、チームメンバーは8つ書く事に必死になり同じ内容を何度も書いてしまっていました。最初はクレイジー4や6でも良かったかもしれません。

提案時にデザインスプリントを取り入れた3つのメリットを振り返る

提案段階から[ ユーザー / ビジネス ]の課題を同等に考え解決方法を導き出せた

ついついユーザーの事を考えすぎてビジネス的な視点を忘れてしまう私にとっては、企業側の課題からリサーチし、解決する事でユーザーの課題もクリアになるという現象は新たな発見でした。情報の少ない提案の段階から、デザインスプリント+αの手順を踏む事で「ユーザーの課題」「ビジネス的な課題」を同等に考えどちらも最優先することができたのです。
最初は実際に手を動かす時間が少なすぎて不安でしたが、しっかりと考えがまとまっていた後だったので短時間で集中して作業をする事ができて却って生産性が上がったような気さえします。

チームの誰もが「なぜ?」を説明できる状態のプロトタイプを作成できた

前職は制作会社出身だったのですが、その時はディレクターに伝達された事をその場で話し考え発言し、収束しないまま手を動かす事が多かったように思います。当然会議が終わっても「ここってどうでしたっけ?」「やっぱりこうしませんか?」というやり取りは多く発生していました。
提案は尚更仮説を重ねて作成するので、短い期間で後戻りの少ない、チーム全体の納得感のある仮説をたてる事が重要です。デザインスプリントでは各々の熟考した提案を投票で決定するので、揺り戻しが少なくなりました。 仮説を元にクイックに作成したプロトタイプを誰もが説明できる状態で製作できたことが、スムーズにクライアントの納得感を得られたポイントです。

デザインスプリントを気軽に実験することができる

実際デザインスプリントを回すとしたら、本を読んだからといっていきなり上手く出来る人は少数でしょう。
提案書作成のために、「デザインスプリントのプチ体験」をする事ができ、実際のデザインスプリント案件の前に手順や課題をインストールする事が出来たことは今後の自信につながりました。

実践してみた結果、ハーフコミットのデザインスプリントなら、大きな思考の途切れを感じず業務の傍ら集中する事が出来ました。

いつまでも決まらない議論や、個人的な思想に縛られる事なく、「ただ素晴らしいプロダクトを作るためにはどんな検証をしよう?」という事にチームで集中出来ることは、作り手として本望ではないでしょうか?

あなたの会社の素晴らしい文化を+αして、ぜひプチ・デザインスプリントを提案に取り入れてみてください!