ビジネスモデルを図解する必要性とその種類とは
ビジネスとデザインの関係についてはこれまでもたくさん本や動画を紹介したり、事例を紹介しながら説明してきました。
リリースしたサービスを多くのユーザーが使ってくれたとしても、利益がなければビジネスとしては成り立ちません。サービスを作ることに関わる全ての人は、事業としてそもそも可能性があるのかどうか、また事業を成長させていく上で、どのような指標を追って行けばよいのかということも考慮しなくてはなりません。
つまり、どのような職種においてもビジネス理解は不可欠なのです。デザインの業界とて同じことです。Goodpatchのデザインプロセスの序盤には「課題特定フェーズ」を必ず組み込んでいます。ユーザーリサーチや競合リサーチを重ねた後に、サービスに影響する重要要因を分析し、ユーザーとビジネス両方の課題を定義するのです。どのような課題を解決するためにサービスを作るべきか、ユーザーと企業課題を同時に解決してビジネスに利益を生む方法はないかを考えます。
もちろんビジネスの課題を定義するために用いる手法はKPIツリーやエグゼクティブインタビューなどもありますが、今回はビジネスモデルに焦点を当ててその重要性を紹介できればと思います。
ビジネスモデルを図解する重要性
Michael Lewisは自身の本The New, New Thingでビジネスモデルとはアートの用語であると記しています。アートのように目で見ることはできるけど、実際に理解することは難しいということを示しています。また「どのようにお金を儲けるかを示したもの」としても説明していますが、ビジネスモデルの定義は人によってさまざまです。
最も有効なビジネスモデルキャンバステンプレートを作成したと言われているAlex Osterwalderは、ビジネスモデルを「仮説の融合」と説いています。ビジネスモデルキャンバスを使えば、頭の中でユーザーについてだけでなく、ビジネスも含めて立てた仮説を可視化できます。
なぜ、このようにビジネスモデルを考えたり、可視化することが重要なのでしょうか?ビジネスモデルを考えることで、どのように利益を生み出すかを正確に把握して競争戦略を立てられるようになります。また、図解することで他のモデルと比較できるだけでなく、何か抜け漏れがないかをチームで確認できることも1つのメリットです。
情報を可視化することのメリットは以前も記事で述べましたが、人間は文章で理解したことの20%しか記憶に残らないのに対して、図式で認識したものは80%脳内に記憶できるそうです。この重要性をより詳しく知りたい人は、データビジュアライザーの専門家David McCandlessによる動画をぜひご覧ください。
また、企業にとって重要な業績を表す財務三表なども、図式化することにより抜け漏れなく分析・共有することができます。
このように、企業の儲けるための仕組みをビジネスモデルと呼びますが、この記事ではビジネスにおいてどのように儲けを出すかという盲目な課題に対する最適解を出すために、チームと共有できるように図解する方法を紹介します。
ビジネスモデルの図解方法
文章で説明してもうまく伝わらないでしょうから、ここからは図で説明したいと思います。ビジネスモデルを図解するために用いられる方法は大きく分けて2つあります。1つは如何にして企業がユーザーからお金を儲けるかという「お金の流れ」を矢印や人物を使って表すピクト図と呼ばれるものです。もう1つは9つに分類されたキャンバスに企業とユーザーとの関係や収益の流れを記載したビジネスモデルキャンバスです。
両方とも図式であることと、お金の流れを表すことには変わりありません。ここでは1つずつどのようなものであるかを説明します。
ピクト図解
はじめにお金の流れをピクト図解したビジネスモデルを見てみましょう。
こちらはとあるキュレーションメディアのビジネスモデルをピクト図解したものです。見ての通り文字で説明するよりもわかりやすく、メディアの収入源が明確にわかります。さらに、中核となるサービス提供者を真ん中に置くことで、ユーザーと企業の関係性も表しています。
簡単ですが、ある程度ルールを設定しておくことで、ビジネスモデルを読み解く側と図式化する側が共通認識を持てるでしょう。エレメントを用いて注意しなくてはいけないことは、図解したものから主要な関係者がわかることです。関係者はユーザーだけでなく、時に別の企業が含まれる場合もあります(上の図で取り上げたメディアの場合は広告主A)。
また、それらの関係者がどのようにビジネスの収益に関わっているのかをお金・価値・時間を表す矢印で正確に示す必要があります。そして、いざ俯瞰した時に「何が何だかわからない」ということが起きないように、簡潔に重要な関係性だけを図解することも重要です。
ルールに従えばいかなるビジネスも図解することが可能です。書くときには誰が(Who)、誰に(Whom)、何を(What)、いくらで(How much)の3W1Hに留意して書き進めることがコツです。
ビジネスモデルキャンバス
もう1つ知っておきたいのがビジネスモデルキャンバスと呼ばれる、9つのマス目に別れた1枚のシート。
ピクト図と同様、様々なタイプがあります。ここではStrategyzerのものを例に取り上げますが、見た目のデザインは他と誤差があるものの、中の要素については同じです。9つのマス目はそれぞれ以下のような要素が記されています。
1. キーパートナー
ビジネスにおけるパートナーシップをここに記します。また、パートナーシップのモチベーションとなるファクターを書いておくと良いでしょう。例えば、あなたのサービスを代理で販売してくれる小売店、あなたのサービスを運営するために必要な備品や材料を仕入れてくれる業者さん。1つのサービスを運営するためには多くの人が関わっています。
2. キーアクティビティ
キーパートナーを考えるときは、キーアクティビティと連携して考えましょう。
ビジネスモデルを実現するために、取り組むべき施策のことを指します。バリュープロポジションに必要とされる、顧客とのリレーション構築や収益源に影響する最も重要なものを記しましょう。プロダクトドリブンなビジネスにおいては、継続的にユーザーと新しい技術について学び続けることがより良いプロダクトを作る鍵となります。
例えばブログを運営しているのであれば、ブログに記事を投稿することがキーアクティビティですし、Twitterアカウントの運営をしているのであれば、ツイートをすることがキーアクティビティです。
3. バリュープロポジション
ユーザーに提供するコアバリューを描きます。ユーザーのどのようなニーズを満たせたのかを示しましょう。また、バリュープロポジションはビジネスモデルキャンバスでも中核となる部分に位置しており、事業の存在価値を示しているとも言えます。
ペルソナのどのような課題とニーズを解決しようとしていますか?あなたの製品のユニークなバリュープロポジションは何で、ペルソナが現在の製品の代替としてあなたの製品を選ぶ理由は何ですか?バリュープロポジションは大切なので、ホワイトボードやポストイットに全て書き出してみましょう。どのような施策が競合優位性を発揮しますか?
ここで考えるバリュープロポジションは仮説でしかありません。しかしその仮説を都度書き出して優先順位をつけることで、リサーチを重ねるごとに仮説を実証することが可能になるのです。繰り返し磨くことがバリュープロポジションを強化していくことへと繋がります。
4. カスタマーリレーションシップ
ターゲットとなるユーザーはあなたのサービスとどのような関係性を望んでいますか?あなたはどのようにして、その望みをビジネスの中に取り入れることができますか?ここではサービス全体のUXを考える必要があります。
ユーザーとあなたがどのように接しているかを考えましょう。直接サービスを提供しているのか、あるいは何かのプラットフォームを通じてなのか。リレーションを強化するために、何か新しいリレーション構築の戦略をとる必要はありますか?
5. カスタマーセグメント
どのセグメントのユーザーに対して価値提供をしているのかを表します。一番重要なユーザーは誰なのでしょうか。ものの溢れた今の時代に、明確にターゲットユーザーを定めた上で商品を提供することは不可欠です。ユーザーのことを徹底的にリサーチし、ペルソナを立てた上でサービスを作りましょう。ペルソナはどのような顔つきで、どのようなファッションで、どのような思考を巡らせていますか?また、あなたのサービスに触れた時、ペルソナはどこに最初に目が行き、どのような感情になりますか?
6. キーリソース
バリュープロポジションが必要とする重要なリソースを示しましょう。経営における主なリソースはヒト・モノ・カネ・情報の4つに分けることができます。多くの場合はキータレントとなる人材のことであったり、人材により生み出される専門知識などがキーリソースとなります。キーリソースを示すことによって、自社の強みや弱みも明確になるでしょう。
7. ディストリビューションチャネル
どのチャネルを使ってユーザーにサービスを届けるのかを指します。また、どのチャネルを使うことが最も有効的にターゲットユーザーにリーチできるか、いくらかかっているか、どれほどユーザーの日常に浸透できているかということを考えながら書きましょう。
例えば何かの商品を売っている時、それを掲載するウェブサイトはチャネルの1つです。また、もしあなたがGoogle AdWordsを使っているなら、それもユーザーのアテンションを得るためのチャネルとしてカウントします。もしあなたが何かのサイトを使ってサービスの広告やキュレーションを行なっているのであれば、それもチャネルです。
チャネルとカスタマーリレーションはユーザーとのリレーションを示すものです。この2つを考えるときはカスタマージャーニーマップを元に考えることが重要です。また、ユーザーと接点をもつためのチャネルは十分であるかを考えましょう。
8. コストストラクチャー
ビジネスの最大のコストを見極めましょう。どのキーリソースに最もコストがかかっているかを知ることで、ビジネスの利益最大化へつなげることができます。
ビジネスにかかるコストを計算して、サービスがビジネスとして成り立つかどうかを検証するときは、まずはじめに固定費と変動費を計算しましょう。時間とともに変わるものなので、固定費と変動費をこの段階で確定させることはできません。ポイントは正確でなくても追える数字を試算しておくことです。出した固定費と変動費から損益分岐点を計算しましょう。そこから何人のユーザーが利益獲得に必要かを洗い出します。
9. レベニューストリーム
どのような価値に対してユーザーはお金を支払うのでしょうか?また、どのような支払い方法を通じてユーザーはどれだけのお金を払っていますか?無料ユーザーと有料ユーザーがいるのであれば、それぞれの収益の違いを見極めなくてはなりません。
これら9つの項目は1つのキャンバスに表されます。企業のビジネスモデルを可視化すると同時に、企業がどのような価値を顧客に提供するべきかを示し、成功するための戦略を立てるには圧倒的に有用であると言えます。
継続的にビジネスモデルを磨いて利益最大化を目指そう
全てのビジネスはWIP(Work In Progress)です。一度ビジネスモデルを考えたからといって、その後見返してブラシュアップを重ねなくては意味がありません。頭の中で描いているビジネスモデルをピクト図もしくはビジネスモデルキャンバスを使って図解し、俯瞰してみましょう。描いたキャンバスは理にかなっていますか?もう少し深掘りできる箇所はありませんか?チームメンバーと共有して、全員が同意できる内容であるかを確認しましょう。一度描いたら終わりではなく、繰り返し改善していく必要があります。
この記事ではビジネスモデルとは何かという部分に焦点を当て、ビジネスモデルを如何にして図解するかをざっくばらんに説明しました。今後はサービスによって異なるビジネスモデルなども考察しつつ、成功したサービスのビジネスモデル分析をしていけたらと思います!