「もっと経営・事業を前進させるデザインをしたい!」
「経営陣がデザインの重要性を頭では理解しているものの、上手に使いこなせていない……。」
── そんな願望や課題感を抱きながら、日々業務に邁進するデザイナーさんも多いのではないでしょうか?

Goodpatch社内では、2021年9月よりデザイナー×事業家育成プログラム「アントレパッチ」を実施しています。1年間かけて学んできた第一期終了に伴い、アントレパッチに参加したデザイナーたちの学びや気づきを座談会形式でお届けします。

座談会参加者

土屋:グッドパッチ 代表取締役 兼 CEO

デザインパートナー事業所属
北濱:UXデザイナー、アントレパッチ発起人
大本:UXデザイナー、2020年中途入社
吉田:UXデザイナー、2021年新卒入社

デザインプラットフォーム事業所属
宮本:ReDseignerマネージャー、キャリアデザイナー

合弁会社所属
米永:BXデザイナー、Muture執行役員

私たちはなぜ“今”アントレパッチに参加する必要があったのか?

大本:
まずは、みなさんがアントレパッチに応募した時の話から始めましょうか。
実際にメンバーとなった10人よりも多くのメンバーからの応募がありました。エントリー時にはどんな選考を行ったんでしょうか?

土屋:
まず、全員にエントリーシートを書いてもらって、30分くらい希望者全員と面談をしたね。エントリーシートの問いは、「①なぜ参加したいのか、チャレンジしたいことは何か」「② N年後のGoodpatchはどんな会社であるべきか」の2つ。
その後の面談では、「今じゃなくてもいいと思うが、なぜ今アントレパッチに参加したいのか?」ということを全員に聞いたと思う。

大本:
みなさんは「なぜ今なの?」と聞かれた時なんと答えたんですか?

吉田:
今です!って(笑)
私は新卒で入ったばっかりの8月に面談でした。新卒1年目というのが人生で今だけという安直な理由ですね。
真面目な話をすると、やりたいことはその時点であったので、善は急げということで、今だなという感じでした。できるだけ早くまっさらな状態で、この機会を使いたいという気持ちでした。

宮本:
私はちょうどReDesignerの中途事業のマネージャーに挑戦する話をもらっていたタイミングだったんです。これまでプレイヤーしか経験しておらず、自身がマネージャーに上がることで事業の成長を自分で止めたくなくて。事業を学びたいタイミングだったのでちょうどよかったです。

米永:
私はちょうどその時期がキャリアを考えるタイミングだったんです。土屋さんにも前からお話ししていたんですけど、第三者としてクライアントワークでブランドデザインをやるときに、自分自身で手触り感を持って事業や組織を作った経験は武器になると感じていて。アントレパッチで事業作りや起業家の思考を体験することで、キャリアにも活かせることが多いと思いました。タイミングがピッタリ重なった印象です。

SmartHR、ココナラ、FABRIC TOKYO…起業家にインタビュー。一番の学びは「いいねはノイズ」「JUST DO IT」

大本:
アントレパッチがスタートしてから、「GoodpatchのPMFがどのようになされたか」についての土屋さんからのレクチャーを参考に、まずはいろんな会社のPMFまでの軌跡を追ってみようという感じでケーススタディが始まりましたね。
その後、リサーチをした起業家の方に実際にインタビューに行く機会を作っていただきました。

起業家インタビューにご協力いただいたみなさま
※インタビュー実施順

土屋:
企業のリサーチをして、創業者に直接話を聞けることはとんでもなくプレミアムな体験だと思うんだけど、話を聞いて深く印象に残っている箇所はある?けっこう名言が出たよね。
例えばFABRICTOKYO 森さんがメルカリの進太郎さんから言われたと話してくれた「商売と事業は違う」とか。商売はお金儲けが目的になるが、事業はマーケットや社会の課題解決や提供価値やビジョンやミッションがあるものが事業で、自分は事業をやりたい、という話は俺も印象に残っているな。

宮本:
明確に印象に残っているのは、南さんの「いいねはノイズ」ですね。

一同:
あ〜!

宮本:
Goodpatchは挑戦を受容してくれる文化があるから、行動やアウトプットにも「いいね」と言われやすい環境だと思います。でも、受容する文化があるからこそ、自分で「本当にそうなのか」と疑って、本当のペインを見極めなければならないとReDesignerをやっていく中でも感じていて。最近、上長と話していて「いいね」と言われても、素直に喜べない自分がいます(笑)
先日リリースしたデザイナータイプ診断を開発するときも、この言葉を思い出しながらやっていました。

北濱:
土屋さんしかり、起業家の方と直接話す機会は普通ないと思います。グロースしている企業の方は特に。実際にお話を聞いてみると、時代の流れを読んだりすごくグロースすることは、結局行動力なんだなと実感をもって感じました。それが大きかった。ハートが強いとかいろいろな凄さをみんな持っているけれど、結局「JUST DO IT」の精神なんだな、と。アントレプレナーシップを間近で感じました。

宮本:
私も、どんな学びも実践には敵わないと思いました。座学や本を読んでも、自分の中で残っていないことが多いですよね。その時は感動したりするんですけど、生の失敗談を聞くことで、改めて自分でも実体験を持たないといけないなと強く思いました。
ちょっとみんなと違う話で言うと、掘る穴はちゃんと決めないといけないなと。市場や業界動向やトレンドなどを含めて冷静に分析して、どこにアクセルを踏むかが大切と感じました。

大本:
よねさんは、いかがですか?今Mutureで組織づくりを実践されている中で、どんな学びが活きているか伺いたいです。

米永:
二つ大きくあるかなと思っていて。
ひとつは、座学フェーズ(リサーチ)では資金調達やお金の使い方を学んでいたので、お金をどう使うか。一見ドライというか、ロジックだけで決めているのかと思っていたけど、その中に企業の意思決定の美学やスタンスが含まれているという視点を得られたのがすごくよかったです。

もうひとつは、さまざまな企業の経営者にインタビューをしていくと、みんな「デザイン」という言葉は使わないんだけど、アプローチがすごくデザイン的だった。顧客の声を徹底的に聞くとか、強いニーズに投資するとか、「それってデザインじゃん」と感じることが多かったのは嬉しかった。私たちがやっているデザインは間違いないんだ、ちゃんとビジネスに繋がるんだと改めて実感できて、ちょっと嬉しくなる部分もありました。
会社を経営していく上では、ロジックや数字の感覚と、定性的な価値の知覚力を、バランスを保つことでうまくいくんだろうなと学びました。

アントレパッチの通期プログラム

アントレパッチの通期プログラム

大本:
インタビューが終わった後の、ファイナンス、M&Aの講座も本当に刺激的でしたね。
ファイナンス講座はGoodpatch CFOの槇島さんがゲストで、投資家と経営者の視野・視点をそれぞれ話してもらいました。それを聞いたときに、普段自分が見えている視野とはあまりにも違うなと感じました。今後はさまざまなステークホルダーの視点でビジネスを捉えられるようになりたいと思うきっかけにもなったので、印象深いです。
なかでも印象的な言葉は、「会社は起業家とか創業者だけのものではなく投資家のものでもある。投資家や市場の協力を得ながら、自分たちがしたいことやビジョンを実現していくんだ」という話。その話はめちゃくちゃ気に入ってます。

土屋・北濱:
意外!なんでそう思ったの?

大本:
私がビジネスを知らなすぎたんですよね。心の奥底で、資金を集めるとか、お金を儲けることを純粋にいいと思えていなかった。ちょっと嫌悪感があるというか、ビジョンとは対を成すものだと思っていたんです。だけど槇島さんの話を聞いて、ビジョンを実現するための協力者なのだから、頼ったり活用していくことが大事なんだ、と整理ができた。ビジョンとビジネスは対立構造ではないと気づくことができたので、めちゃくちゃ大事にしている言葉です。

アントレパッチ前後で起こった変化「デザインをどう経営に活かすか、ではなく、経営をやる自分のリソースの一つとしてデザインを捉える」

大本:
アントレパッチのプログラムが終了した今、日頃の業務でどんなことが変わりましたか?

吉田:
Goodpatch社内や対クライアント、個人的にやりたいことなど、いろんなところにタネをまけた1年だったと思っていて。社内では同僚や先輩やマネージャーに対して「私こういうことをやりたいんですよね」と声をかけることで機会と運を引き寄せるきっかけになったと思います。
行動できるようになったのは、「JUST DO IT」の精神に気づけたからです。

北濱:
クライアントワークでの視座も変わったというのは感じていて。
日頃のクライアントへの提案で、僕らはサービスやプロダクトによりがちだったけど、それ以外の組織などに課題があるのかもしれない、と広い視野で提案ができるようになりました。

米永:
私はアントレパッチに参加していたから、Mutureという組織をゼロから作る機会を掴みにいけたと思っています。
アントレパッチで起業家精神を学び、さらにMutureでブランディングと組織づくりを数ヶ月やった今気づき始めていることは「デザインをどう経営に生かすか」ではなく「デザインはリソースの一つであり、経営は自分の使えるリソースを全て使う総合格闘技」だということです。

土屋さんはいつも私たちに「デザイナーにはデザイナーとしてのバイアスがあるよ」という話をしてくれますが、今はその意味がすごくよくわかるんです。例えば、これまでのいちBXデザイナーの私だったら「会社の中で起きた事象を、どう可視化して発信してブランドを作っていくか」と考えていましたが、Mutureの執行役員としての私は「こういうことをファクトとして発信したいから、事業としてこんなことをやろう、経営の施策としてこれをやろう」と考えるようになっています。すでにあるものを引き出して発信するのではなく、何をファクトや成功体験として残したいのかを考えて逆算して施策に落とし込む、ということにトライ中です。かつては全然なかった視点だなと思っています。

土屋:
事業会社のインハウスデザイナーでも、そこまでの視点を持っている人は少ないと思う。経営者の視点で捉えられる人はなかなかいないよね。

北濱:
僕はデザイナー出身ではないので、元々思っていたことではあるかもしれないですけど、経営資源の一つとしてデザインがないと「摩擦のない社会」は実現できないと確信しています。Goodpatchでクライアントワークという形でさまざまな企業に入り込むたびに、経営者の視点を持ったデザイナーを増やすことと、デザインをアセットとしてちゃんと使える経営が大切だと思います。

グッドパッチは、デザイナーが経営に入り込む機会を作る

土屋:
日本や世界の課題を解決して、価値を創造するためには、顧客やユーザーのインサイトを特定して、目に見える・手で触れられるようにできるデザインの力が不可欠なんだよね。ここ10年間でだいぶ変わったとはいえ、デザインの価値がまだ浸透していない社会なので、デザイナーの給料が低かったりだとか、デザイナーでなくてもデザインをするプロセス自体に十分な投資がいかない状況がまだまだあります。

この状況を変えるためには、「経営に関わるデザイナーを増やす」ことが社会的に最も重要だと俺は思っているんだよね。CTO(Chief Technology Officer)やCHRO(Chief Human Resource Officer)と同じように、デザインの重要性を理解している人材が経営層にいること。もしくは、デザイナーから経営幹部になるということが大事だと思う。その人材が、企業の予算を決める状況で一票を持つことが、ゆくゆくは社会課題の解決だったり、価値創造につながっていく。

今までは、日本で経営層に入り込めるデザイナーは多くはなかった。それはデザイナーがユーザーの方向だけを見てプロダクトを作って、「いいものを作れば売れるよね」という認識にとどまっていたり、「経営は自分達の専門範囲じゃないから」と領域を分けてきた結果だと思う。だけど実際には、事業や組織への投資額を決める意思決定機関は取締役会だったり経営層にあるので、意思決定機関においてデザイナーが一票を持つ、これがものすごく大切。

Goodpatchでは、今後もアントレパッチのような活動を広くしていきたい。以前noteにも書いたけど、自らが事業を作ったり、経営トップになれるデザイナーをもっと生み出したいと思ってる。

大本:
アントレパッチは一年ごとにメンバーを変えて今後も続けていくので、卒業生はどんどん機会を作っていきたいです!待ってるだけじゃ来ないので。

吉田:
こうした取り組みを応援してくれる文化があることってすごくいいなと思っていて。見方によっては「意識高い系(笑)」と揶揄されるかもしれないけど、Goodpatchは土屋さんをはじめ、挑戦したい人たちに真っ直ぐ向き合ってくれるので、挑戦したいデザイナーにとってはいい環境だと思いますね。

米永:
「意識高い系」と言われても、自分のキャリアなんだから自分で決めるよね(笑)。でも、本当はやりたくても手を挙げられない人たちって世の中には多いと思うんですよ。
土屋さんが「デザイナーが意思決定の場にいて一票を持つことが大事」という話をしていましたが、これまでのデザイナーが価値を発揮してきたのは、強烈なリーダーの右腕としてのフォロワーシップだったのかなと。でも、これから社会にもっと大きな価値を提供していくために、デザイナーもリーダーになってもいい。そうなれるように頑張りたいなと思いました。

大本:
やっていきましょう!皆さん本日はありがとうございました。

2021年9月の初回キックオフ

アントレパッチは今後も二期、三期と続いていきます。
Goodpatchではユーザーと事業、企業価値を網羅的に考えながらデザインに取り組みたい方を募集しています。


Special Thanks

Interface Designer / Graphic Designer:mine
今回アントレパッチのアートワークを担当。
「常識に真面目に、流れに従順に行くのではなく、パンクに新しい道(ストリート)を作っていく。破壊的であり革新的、クールなアントレプレナー」というコンセプトからグラフィティアートに昇華させてくれました。感謝!