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組織にデザインシステムが必要な理由とは──その効果や価値を徹底解説

これまでさまざまな組織のデザインシステム構築や運用を支援してきたグッドパッチ。本連載ではデザインシステムにフォーカスし、その概要や歴史、導入から運用、構築にいたるまで網羅的にお届けします。第2回は「デザインシステムの意義や効果」についてです。

※本記事はウェブマガジン「CreatorZine」に2023年10月27日に掲載された記事を再掲載したものです。


こんにちは。グッドパッチのUIデザイナーの乗田です。前回の連載「良いデザインシステムとは その基本と構造をグッドパッチが解説」では、デザインシステムの構造や特徴、性質について解説しました。第2回ではデザインシステムが組織にとってなぜ必要であり、どのような効果をもたらすのかについて紹介します。

デザインシステムの必要性

はじめに、デザインシステムが組織や組織文化、ブランドとどのように接続するのかについて解説します。

組織とユーザーの媒介としてのデザインシステム

組織の「文化」はそのアイデンティティ価値観ミッションビジョンなどの集合によって形成されています。この文化を具体的かつ外部に伝えやすい形で表したものが「ブランド」です。デザインシステムはこの「ブランド」を誰もがプロダクト全体で一貫して表現し、ユーザーに伝えるための役割を担います。

一方デザインシステムは「プロダクト」における「ユーザー」のニーズやアクセシビリティ要件を満たす形で構築されるため、結果として組織の理念とユーザーの要求の媒介となり、両者をつなぐ役割を果たすものです。

デザインシステムが組織とユーザーの媒介として機能することを表した図。組織、カルチャー、ブランド、デザインシステム、プロダクト、ユーザーがつながっていることを表している。

デザインシステムとプロダクトは、組織の成長市場の変化に応じてアップデートを重ねる必要があります。それによって組織は、変化するユーザーのニーズや期待に柔軟に応えることが可能となります。

ではなぜ、組織とユーザーの双方にとってデザインシステムが欠かせないのでしょう。その背景には、デザインシステムが両者の媒介として双方のコミュニケーションを継続的にサポートしていることが影響しています。

デザインシステムがユーザーへもたらす価値

まず、デザインシステムの導入によってユーザーへ還元される価値について解説します。デザインシステムの恩恵を強く受けるのはデザイナーや開発者ではありますが、プロダクト開発では「ユーザーへ価値を提供すること」が不可欠です。

デザインシステムがユーザーへもたらす価値を理解することは、デザインシステムをより効果的に構築/運用することにつながります。

一貫性のあるユーザー体験

前回の記事では、良いデザインシステムには「Single Source of Truth」の性質が満たされていることに触れました。この性質によって、デザインシステムで取り扱うデザイン原則、色やフォント、ひいてはコンポーネントに一貫性がもたらされます。

この性質が確保されたデザインシステムをもとに構築したソフトウェアやウェブサイトは全体でインタフェースが統一されるため、ユーザーは一貫性のある体験を享受することができます。一貫性によってユーザーは、ソフトウェアを直感的に理解したり学習することが可能になります。

統一されていないデザインはユーザー体験に悪影響を及ぼすだけでなく、ブランド自体にネガティブな印象を与える原因となったり、愛着を抱きにくくさせてしまったりします。そのため「一貫性の実現」は、組織にデザインシステムを取り入れることで生まれる効果の中でもとりわけ重要なのです。

速度と効率性の向上

デザインシステムは、後述する「デザインと開発の効率化」ももたらします。作業工数が削減され、新機能の開発や改善スピードが向上することによって、ユーザーは新しい機能より良い体験素早いサイクルで受け取ることができるようになります。

デザインシステムが組織へ与える効果

またデザインシステムには、ユーザー体験を向上させるだけではなく、プロダクト開発を行う組織に還元される効果もあります。ここではデザインと開発の効率化の観点から、デザインシステムが組織に与える効果について紹介します。

デザインと開発の効率化

前回の連載では、良いデザインシステムには「再利用性」が存在することもお伝えしました。デザインシステムの再利用性が高く維持されていることで、プロダクトにおける多様なユースケース/コンテキスト下においても、同一のコンポーネントやパターンなどのアセットを繰り返し利用できます。

デザインや開発を行う際、組織における「良いデフォルト」としてあらかじめ構築されたコンポーネントや定義されたガイドラインを活用できるため、デザインシステムは両者の作業工数の削減に大きな効果をもたらします。

その良い事例が、Figmaによる「適切に構築されたデザインシステムがデザイナーの時間をどれだけ削減できるのか」を定量化するための実験です。結果として、デザインシステムを活用することでそれを使えない場合より34%早くUIデザインのタスクを終えられることが明らかになりました。(出典元:Measuring the value of design systems

Figmaの実験に使用されたデザインシステムのコンポーネントが展開された図

Sparkboxも「デザインシステムはより良いプロダクトをより速く実装するのに役立つ」という仮説を検証するための実験を実施しており、デザインシステムを活用することで、使えない場合より47%早く実装のタスクを終えられるという結果が得られました。(出典元:The Value of Design Systems Study: Developer Efficiency and Design Consistency

またこの実験では、デザインシステムを活用することで実装者がデザインファイルと成果物を一致させることができる確率が高く、アクセシビリティも適切に確保されたインタフェースを構築することが可能になったことも分かりました。

2つの実験結果を見ても、デザインシステムが存在する場合とそうでない場合でのパフォーマンスには差があることが分かります。加えて、デザインシステムはレイアウトの乖離アクセシビリティの低下を防ぎ、負債の発生を未然に解消する効果があることも明らかになりました。

価値の最大化

ここまでで、デザインシステムが作業工数の削減に大きな効果をもたらすことについてお分かりいただけたかと思います。その効果を言い換えれば、デザインシステムは「チームの時間を生み出す」存在であるとも言えるでしょう。

グッドパッチではよくデザインシステムのことを「クリエイティブのジャンプ台」と表現しています。デザインシステムによって生まれた「時間」を活用することで、組織はより本質的な課題に向き合うことができるようになるためです。デザインシステムのこの効果は、ユーザーへの提供価値を最大化させることに貢献します。

コラボレーションの促進

デザインシステムはデザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャーなど、開発組織に属するすべてのメンバーの共通言語です。デザインシステムが存在することで、メンバー間で意思決定が必要になった場合にも、デザインの目指す方向が明文化されたデザイン指針によって、目的やゴールのすり合わせがすでに完了している状態でスムーズにコラボレーションできるようになります。

デザインシステムの構築には、全職能のメンバーによる共創が必要です。さまざまなロールがコミュニケーションを取りながらデザイン原則を体系化し、デザインシステムを生み出すことは、チームの一体感構築にも貢献します。

また新しいメンバーがチームに加入した際には、オンボーディング用の資料として機能します。デザインシステムでガイドラインを提供することによってデザインの背景や意図を共有する時間を短縮したり、コンポーネントの提供によって高速なアウトプットを支援したりします。

デザインシステムを外部に公開する意義とは

デザインシステムは組織やユーザーに恩恵をもたらすだけでなく、社外のステークホルダーや開発者など、業界全体にも大きな価値があります。多くの開発組織がデザインシステムを外部に公開していますが、その背景にはどのような意義があるのでしょうか。

外部組織のリファレンスとして機能

デザインシステムの構築/運用に取り組んでいる組織にとって、公開されているデザインシステムは非常に有用な参考資料です。そのようなデザインシステムには組織課題を解決するためのヒントが多くあるため、さまざまなチームが参考にしています。

2023年10月には、Amebaのデザインシステム「Spindle」がグッドデザイン賞を受賞しました。全体最適と部分最適が両立されている点、Spindleがデザイン業界全体を前進させるデザインシステムになり得る点が評価されています。

Spindleのキービジュアル

Spindleのキービジュアル(出典:プレスリリース「『Ameba』のデザインシステム『Spindle』、2023年度グッドデザイン賞を受賞」)

このようにデザインシステムを外部公開することはデザイン業界全体を牽引し、業界におけるベストプラクティスや品質の基準構築にも効果をもたらすのです。

採用活動への貢献

デザインシステムの存在やその取り組みは、組織の価値観やコラボレーションへのありかたなどが反映されます。組織文化が色濃く表れるため、求職者へ組織について伝えるときの貴重な資料として機能します。デザインシステムを公開することで、組織のオープンさコミュニケーションを重視している点なども強調できるため、求職者へのメッセージングツールとしても効果を発揮します。

また前述のように、デザインシステムはデザイナーやエンジニアの作業時間を削減し、組織が本質的な課題に向き合うための土台としての役割もあります。多くのデザイナーやエンジニアにとってクリエイティブな活動に時間を使うことができる組織は魅力的なため、組織への関心を高める効果もあるでしょう。

フィードバックの受け入れ

デザインシステムを外部に公開することで、幅広いフィードバックやコミュニティの支援を受けることも可能になります。デザインシステムの改善案新しいアイディアの獲得、デザインシステムのさらなる発展に寄与します。

まとめ

今回はデザインシステムの必要性や効果、価値について紹介しました。

デザインシステムは組織の理念とユーザーニーズの媒介となり、両者をつなぐ役割を果たします。デザインシステムを活用することで、ユーザーの体験価値を向上させたり、組織の円滑な開発とコミュニケーションを支えたりすることが可能です。組織が本質的な価値に向き合うためのツールとして、デザインシステムは大きな効果を発揮すると言えるでしょう。

次回はデザインシステムの始め方や構築のポイントについてお届けします。お楽しみに。

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