こんにちは!UIデザイナーのharuです。
AIと一緒に仕事をするようになって時間が経ち、最近「自分にとってAIはどういう道具なのか」をぼんやりと考えていました。
私はAIの仕組みを技術的にわかっていたり高度な使い方をしているタイプではありませんが、そんな私も、知識ではなく経験として「これはAIにやってもらったほうがいいやつだ」だったり、反対に「これは私がやらないとだめだ」といった感覚を日々積み重ねていて、その結果、自分とAIの役割分担にはなんとなく傾向があるなと思い始めました。
目次
AIでできないこと=自分がうまくAIに指示できないこと
前提として、私は「情報処理作業において、AIにできないことはないのかもしれない」と思っています。AIが万能だと言いたいわけではなく、AIに何ができて何ができないかは、使う人が何をどう頼むかという「指示のクオリティ」によって変わると思っています。
そういう意味で、これから書く「私がAIに期待していないこと」は、AIが本質的にできないのではなく、単に自分がまだ指示の仕方を知らない、もしくは手段を持っていないだけだと捉えています。すでにうまくできる人はきっといますし、自分もいつか指示の方法を発見すればできるようになるのかなと思います。
今回は、UIデザイナーである私の等身大のAI活用状況を振り返り、「デザインのどのフェーズで、私はAIに何を期待し、何を期待していないのか」を考察してみます。
私がAIに期待すること・しないこと
1. インプット・リサーチ
💚 AIに期待すること
- 一般的な情報をかき集めて、初歩的な背景知識を得る
- ボリュームのある情報を要約する
- 特定の情報を抽出する
- 観点を与えた上で情報を整理・分析・評価する
「何かを知る」というインプットのフェーズでは、AIのおかげで圧倒的に情報を集めやすくなりました。AIが提示した情報を全て鵜呑みにするわけではないものの、関わるドメインの基礎知識や統計情報などに一瞬でアクセスできることで、その分野の「最初の一歩」を知った上でデザインし始められるようになりました。

また、AIは「渡した情報を網羅的に見る」といったことが得意なので、すでにまとめたい方向や観点が決まっている際には、分析作業がとても早くなります。
💔 AIに期待しないこと
- 面白いポイントを見つけて、そこに着目して情報を読む
- 一般的ではないが、なんか示唆が出そうな分析の切り口を見つける
- 感覚的な違和感を発見する
- N=1から興味深い示唆を見つける
集めた情報を基に考えるフェーズでもAIを使いますが、私の経験上、AIはたくさん視点を出してくれますが、どうしても面白い発見は生まれにくいと感じます。

AIはあくまで「確率的にもっともらしいものを返す機械」なので、単純な指示だけでは、人が持つ「自分にとっての面白さ」を見つける感性や思考の偏りのようなものを生み出せないのかなと思います。
もちろん技術的には、temperatureを調整してランダムな回答を導いたり、RAGを増やすことで思考のこだわりをAIで再現することはできるかもしれません。ただ、そこまで準備するコストに見合う効用は、まだあまり証明されていない気がします。
そう考えると、リサーチした情報から興味深い示唆を見つけたり、「こっち方面を深めると面白そうだ」と嗅ぎつけるセンスは、まだAIでなく人の力が試されるところなのかなと思います。
2. アイディア・企画・構想
💚 AIに期待すること
- アイディア出しの初速を上げるために、ありがちな方向性を先に洗い出す
- 参考事例を集める
- 企画の土台となる論点を整理する
アイディアを構想するときは、初速出しのためにAIを頼ります。例えば、ある企画の方向性を考えているときに、AIに「このテーマで考えられる打ち手を列挙して」と頼むと、ちょうどいい情報粒度にそろった案が一瞬で出てきます。

また、「こういうことを考えてるんだけど、世の中の参考事例ある?」と聞けるのも便利で、アイディア出しの際は必ず聞くようになりました。いわゆる王道パターンの整理は本当に強いので、私ひとりでボードに向き合っていたときより、入り口のスピードは10倍ぐらいになった感覚があります。
また、企画を進めていく上で、ゴールややるべき理由といった、説得材料の整理も手伝ってもらうことが多いです。

💔 AIに期待しないこと
- 「これで行こう」と思えるアイディアを出す
- 違和感やこだわりをもって考える
- 関係ない文脈の経験や記憶をかけ合わせる
- 本当にやりたい案を決める
一方で、核心となるアイディアがAIから現れることは、私の経験上はまだほとんどありません。
私の感覚では、アイディアの議論が面白い方向に進む瞬間というのは、例えば昔の経験を思い出したり、全然関係なさそうな別プロジェクトの話が急につながったり、引っかかっていた小さな違和感が一気に解消されたり……そういった偶発的な瞬間に起きる気がします。
そういうとき、言葉にできない感覚や引っ掛かり、ぼんやりとした記憶などがアイディアの材料になりますが、言葉にできない限りこれらをAIに分かってもらうのはなかなか難しいです。
企画フェーズでは、AIはアイディアの数を生み出すことは得意でも、芯になるところは自分の感覚を頼りながら深く掘り下げていくのがいいかなと思っています。
3. UIデザイン制作・プロトタイピング
💚 AIに期待すること
- 完全に新しいレイアウトを組む場合、粗めのレイアウト案を発散する
- デザインにこだわらず、触れるプロトタイプを生成する
- UIの参考例を収集する
- 情報設計フェーズでの壁打ち
私がこれまでUIデザインでAIをうまく使えたなと思うのは、主に「まだ何もできていない段階で、まずは形にしてみる」だったり「議論を進めるためのプロトタイプ」といった、ゆるふわ段階でのUI作成です。いい意味でこだわりなく作った方がうまくいくフェーズでは、一旦自分で考えを煮詰める前にAIに作ってもらってしまうのが速いなと思います。

また、ワイヤーを引けた段階で、動かして触り心地を確かめてみるためにv0やFigmaMakeでプロトタイプを生成しますが、これはデザイナーの私にとって革命的なツールです。動くプロトタイプを触ることで圧倒的にユーザー目線を憑依しやすくなり、「触ってみたら全然違うわ」とか「欲しいのはこっちじゃなくてこっちだな?」といった気付きがたくさん生まれます。

さらに、UIの情報設計フェーズでもAIに壁打ちします。例えばプロダクト全体を横断した画面遷移のルールを作ったり、権限ごとにユースケースを分けたり、コンテンツをカテゴリに分類したり……こうした複雑な情報をきれいにしていく作業では、AIの論理的思考を頼ると圧倒的にスピードアップできます。
💔 AIに期待しないこと
- 実装に渡すUIを作成する
- UIの良し悪しやクオリティを判断する
- 細部を調整する(カラー、サイズ、余白、あしらいなど)
- サービスのらしさをつくるデザインを判断する
一方で、実装してもらうUI、最終的にユーザーに届けるUIは、私はまだAIでなく自分で作っています。理由はいろいろありますが、特に以下の2つの理由が大きいかなと思っています。
- 実装用のUIはコンポーネントやレイアウトを踏襲して作る必要があるが、その文脈をAIに伝える環境ができていない
- UIを考える際は、新しく作る部分だけでなく、今までの仕様全般を理解しておく必要があるが、そうした情報を蓄積できていない
プロジェクトの制約上、AIに読ませるコンテキストの整備と環境構築、セキュリティ面をクリアすることなどが難しく、実装用のUIデザインは手作業で作るのにとどまっています。こうしたAI活用をうまく運用に乗せるには、腰を据えて準備する余裕や組織の協力体制が重要だと思います。
ちなみに、グッドパッチでもこの領域の研究が加速しており、デザインシステム「Sparkle Design」とAIを組み合わせることで、AI駆動のUIデザインが実現しつつあります。私もできる限りプロジェクトでの活用レベルを上げていきたいと思っています。
4. 画像生成・ビジュアルデザイン
💚 AIに期待すること
- 画像を加工する
- モックアップなどの画像を合成する
- カラーなどのパターン展開を試す
私の場合、ビジュアルデザインでAIを活用できているのは、すでにやりたいことが決まっている画像加工やパターン展開のような作業です。「〇〇をきれいに消して」や「AをBに置き換えて」「AにBを合成して」「ここのカラーを#XXXXXX に変えて」などは本当に精度高くやってくれます。(もちろん権利侵害に気をつける必要があります。)

💔 AIに期待しないこと
- ビジュアルの方向性を考える
- 最終ビジュアルの決定稿をつくる
- ビジュアルの細部を詰める
正直なところ私は、ビジュアルデザインをする際、画像加工以外の作業ではあまりAIを活用できていません。
方向性を探る初期段階では、やはり自分の目でいろんなビジュアルを見たりリサーチをして、その過程でインスピレーションを得て思考する時間が必要です。また、やりたいことが見えてきてAIに作ってみてもらうこともありますが、案として採用できるデザインやアイディアを生成できたことはまだありません。

うまく活用できていない理由を考えてみました。
- 作りたいビジュアルがあっても、それを言語化するのが難しい
- 与えたい印象が言語化できても、それをどんな表現にするかはある程度飛躍して考える必要があり、AIのようにまっすぐ考えすぎるとうまくいかないことが多い
- そもそも作ること自体が楽しくて好きなので、AIに教えて作ってもらうことに真剣に取り組めない
とはいえ、アニメーションや3Dなど、技術面を補完してもらうかたちでAIをもっと頼っていきたいなと思っています。
5. 提案など、伝え方の設計
💚 AIに期待すること
- デザイン提案での、説明のストーリーラインを整理する
- より伝わりやすい言葉にする
- 反論を洗い出して考慮点を深める
デザイン提案を持っていくとき、伝え方の整理によくAIを活用します。提案で達成したいことを定めた上で、伝えたいことは自分の頭におきつつ、AIにはまずありがちな視点を洗い出してもらい、考えを深める材料にします。

このように提案作りの際は、考慮漏れを埋めたり、観点を網羅して提案を強化してくれる存在としてAIを頼ることが多いです。
💔AIに期待しないこと
- 何をどう提案するかを考える
- 伝えるべきことと伝えないでいいことを判断する
- どう伝えたら相手に満足してもらい、心を動かせるかを考える
何をどう提案するかの大きな流れは、プロジェクトの文脈で自然と決まったり、自分で考えるので、AIに聞くことはありません。
また、提案の説明を最終的にまとめ上げるのも、今のところ自分(人間)しかできないのかなと思っています。なぜなら、相手の心を動かすためには、相手の立場やこだわりを持っているポイント、前回の議論での反応、チームの空気感など、言語化しきれない文脈を踏まえる必要があるからです。
AIに期待すること・しないこと まとめ
AIに上記の内容を伝えて、私が考えていることをキーワードでまとめてもらいました。うまくまとまっているでしょうか?
💚 AIに期待すること
- 網羅的な情報収集:一般知識や統計情報を素早く集める
- 要約と抽出:ボリュームのある情報から必要な部分を取り出す
- 初速の加速:ゼロから何かを始める際のスタートダッシュ
- パターンの列挙:ありがちな方向性や王道を一覧化
- 論理的な整理:観点を与えた上での分析・分類・構造化
- 定型的な加工:指示が明確な画像編集やパターン展開
- プロトタイピング:触れる形にして検証する段階の生成
- 考慮漏れの補完:見落としがちな視点や反論の洗い出し
💔 AIに期待しないこと
- 感覚的な着目:言葉にできない違和感や引っかかりの発見
- 飛躍的な思考:直線的でない、創造的なジャンプ
- 文脈依存の判断:プロジェクト固有の空気感や関係性を踏まえた意思決定
- マイノリティへの注目:N=1の示唆や一般的でない切り口の発見
- 異質な統合:関係ない経験や記憶を偶発的に組み合わせる
- こだわりの形成:思考の偏りや執着から生まれる独自性
- 最終的な決定:「これで行こう」という核心的な意思決定
- 細部への執着:サービスらしさを生む繊細な調整や表現
以上、2025年末時点での私のリアルなAI活用状況と、その背景を考察してみました。
来る2026年もまた、AIの進化によって自分とAIの役割分担が変わっていくと思うので、今回のような定点観測をこれからも続けてみたいなと思います。
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この記事は、Goodpatch Design Advent Calendar 2025 Day7の記事です。他の記事もぜひどうぞ。
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