生成AIによって、仕事にかかる時間は短くなるのか──?

そんな問いに後押しされるように「理想の働き方」「デジタルシフト」という言葉が、多くの企業で当たり前のように語られる今。では実際に、その理想像をどのように形にし、現場に浸透させていくのか。明確な答えを出すのは簡単ではないでしょう。

そうした課題感を共有し、未来の組織づくりのヒントを探る場として、日建設計、ユーザベース、そしてグッドパッチの3社による共催イベントが開催されました。

イベントのテーマは企業のインナーブランディングと業務基盤の両輪を担う「コーポレートポータル」。社員全員が見る情報の「居場所」をいかに刷新し、理想の働き方の出発点へと変えていけるか。さらに、デジタルの仕組みと働き手の思いをどのように結びつけ、組織全体を巻き込む変革につなげるか。参加者の間で活発な議論が交わされました。

本記事では、イベントの内容をダイジェストでご紹介します。ポータルのリニューアルや社内コミュニケーションの在り方に課題を感じている方にとって、自社のDX推進や組織変革を考える上での示唆となるはずです。

理想の働き方を、ボトムアップで考え創出するコーポレートポータル

最初に登壇したのは、日建設計のデジタル戦略室室長を務める角田氏。数十年ぶりとなるポータルサイト刷新プロジェクトの事例が紹介されました。

角田氏が強調したのは、「ポータルを単なるリンク集ではなく、会社の入り口・玄関・出発点に位置付けたい」という想い。全社員が日常的に使い、情報を共有・蓄積していく場に育てるには、従業員一人ひとりの主体的な参加が欠かせません。

この大規模プロジェクトを成功させるため、日建設計は以下の3つのアプローチで全社を巻き込みながら進めたといいます。

日建設計のデジタル戦略室室長を務める角田氏

日建設計 デジタル戦略室室長の角田氏

プロジェクトの推進にあたっては、まず未来の姿を社員と共有するために「コンセプトブック」がつくられました。そこには「NIKKENのすべてを、ひとつのポータルで」というビジョンが掲げられ、さらに「すぐ探せる、すぐ見つかる」「経験を広げる」「時間をより創造的に」「つながりを育てる」という4つの体験コンセプトが示されています。

加えて、ポータルやその他のデジタルツールをどのように使っていくかを明文化した「ガイドブック」も用意され、社員の利用のばらつきによって生じる混乱を防ぐ工夫が施されました。

何より特徴的だったのは、そのすべてがトップダウンではなく、社員を巻き込みながら進められた点です。意見を広く集めて反映し、出来上がった成果物も完成品として閉じるのではなく、常に声を受け止めてアップデートし続ける。まさに「みんなで育てていく」というスタンスが貫かれていました。

グッドパッチは、その姿勢に深く共感し、社員の声を汲み上げながらコンセプトブックを形づくり、さらにブラッシュアップしていくプロセスと、そこに集まる声を活用してガイドブックとして整える活動を支援しました。

ナレッジマネジメントを進化させる──社員1000人超のユーザベースがNotionを全社導入した理由と成果

次に、Notionを全社で活用されているユーザベースの北内氏より、導入の背景、経緯と具体的な効果、そして利用促進のための具体的な取り組みをご紹介いただきました。北内氏の1日の業務におけるNotion活用例を通じて、その効果と楽しさが伝わってきました。

ユーザベースは、世界中のビジネスパーソンがアクセスできる経済情報インフラを目指し、経済情報プラットフォーム「Speeda」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」などを展開している企業です。

フロー情報とストック情報、それぞれに適したツールを模索

ユーザベースでは長らく、日々のコミュニケーションとして流れる「フロー情報」と、長期的に参照する「ストック情報」を分けて管理してきました。以前はフロー情報にメールを用いていましたが、スレッドの見づらさや検索性の低さが課題となり、2016年にはSlackを導入しました。

一方でストック情報についてはGoogleドキュメントや、記号で文章構造を整えるマークダウン系のツールを利用していましたが、情報整理や検索が難しく、マークダウンの知識が必要になる点がハードルとなっていたといいます。

こうした背景から、2023年に全社で導入されたのがNotionです。導入の決め手は、マークダウン不要で見出しや項目ごとに整理された文書を簡単に作成できること、多様な表示形式や他ツールとの連携機能を備えていること、そして大規模組織でも部署横断で情報を整理できる拡張性だったそうです。

ユーザベースの北内氏

ユーザベース データサイエンティストの北内氏

Notionでしか実現できない効果

Notionは、ドキュメント作成・プロジェクト管理・ナレッジ共有をひとつにまとめられるプラットフォームです。

ドラッグ&ドロップで柔軟にページを構築でき、チームの働き方に合わせて自由にカスタマイズできる点が特徴で、情報共有のために必要な、豊富な機能があります。その中でも、特にユーザベース社内での情報共有に効果的だった機能や、他の情報共有ツールでは実現できなかった効果があったと北内氏は続けました。

文書作成においては、見出しや箇条書きだけでなく、段組みレイアウトや埋め込みコンテンツなど、多彩なブロックを直感的に配置できるため、誰でも整ったドキュメントを短時間で作成可能に。

さらに文字サイズや行間を細かく設定できない仕組みも「デザインが破綻しにくい」という利点につながり、誰でも見た目が美しい文章を作れるようになっていることが、北内氏にとってNotionの美学や哲学を感じたポイントになったそうです。

他にもAIによる文書改善や議事録機能、他のページ内容を同期できる「同期ブロック」、タグ付けやビュー切り替えに優れた「データベース」、部署ごとに情報を集約できる「チームスペース」など、大規模組織特有の“情報のカオス化”を防ぐ仕組みについて語られました。

機能の紹介の中で北内氏が強調したのは、機能性だけでなく「使っていて楽しい」と感じられる体験の重要性です。ページごとにアイコンやカバー画像を設定できる視覚的な楽しさ、軽快な動作、頻繁に追加される新機能。それらは日々の業務にポジティブな感覚をもたらし、ツールの定着を後押ししているといいます。

北内氏からは、エンジニアとしての1日の業務フローをNotionで完結させている具体例をご紹介いただきました。

朝会での進捗確認、タスクのステータス更新、GitHubとの連携によるスムーズな開発、全社ミーティングでの質問受付、AI議事録を活用した定例会議、1on1での議事録作成に至るまで、Notionが単なる文書作成ツールではなく、「仕事のハブ」として機能していることが浮き彫りになりました。

定着の鍵は「泥臭いフォローアップ」

最後のパートでは、ユーザベースでの導入期から利用促進に向けた工夫をご紹介いただきました。利用ガイドやガイドラインの整備やデジタルツールの利用制限を行い、CEOからのメッセージ発信をNotionに一本化するなど、ルールとトップダウンの両面で利用を推進したそうです。

導入後も利用状況を継続的にモニタリングし、利用が進まない部署には専任メンバーがレクチャーなどを実施。こうした地道な伴走があったからこそ、1000人規模の組織においてもNotionが社内情報共有の中核として根付いたということです。

これらの取り組みの結果、現在では利用率が90%後半に達しているのだとか。「機能が豊富で使いやすいNotionですが、ただ導入しただけでは浸透しない。使い方のルール作りや地道な啓蒙活動が必要だ」という言葉は、ポータル刷新やナレッジマネジメントの在り方を考える上で参考になる”先人の知恵”なのではないでしょうか。

パネルディスカッション:私たちをつなぐ、これからのテクノロジーの使い方

最後に日建設計、ユーザベース、グッドパッチの3社によるパネルディスカッションが行われました。ここでは、情報共有というシーンにおいて「どのように社員に自主的に動いてもらうようにしているのか?」というテーマを中心に、さらに深い議論が交わされました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

フロー情報とストック情報の使い分け

「フローとストックの使い分けで社員が混乱しなかったか?」という角田氏からの問いに対し、北内氏は、「最初は個人差があったが、議事録データベースのような『箱』を用意することが重要。そこに書くことを習慣づければ、見返すときに便利だと実感し、自然と定着していく」と答えました。

グッドパッチからは、「情報の重要性を判断して書くことを躊躇しないよう、まずはどんな情報でもNotionに書く文化が大切」という意見も出ました。

実際に「出社はいいぞ」というラフで圧倒的に短い文書が社内ポータルに投稿されたことが社内でバズり、気軽に発信することの重要性が社内で再認識されたエピソードが紹介されました。

オープンな情報共有文化の醸成

ユーザベースの企業文化である「オープンさ」の重要性も議論されました。

北内氏は、「プライベートなチャネルやDMはなるべく使わず、情報公開を原則とすることで、専門性の異なるメンバー間のコンフリクトを乗り越え、建設的な議論ができる」と語りました。

グッドパッチからは「フィードバックを加速させよう」という取り組みを紹介。まずは信頼し合える最小単位のチーム内でナレッジ共有を徹底し、それを徐々に組織全体に広げていくという連鎖的なアプローチが、クローズドな文化からオープンな文化への変革を促す鍵となると語りました。

さらに、角田氏からはグッドパッチ独自のナレッジ集についても話題が広がりました。グッドパッチには、会議をデザインする一環として、冒頭にフランクなアイスブレイクを取り入れる文化があり、日建設計との会議でも活用されています。

背景には「いい加減なアイスブレイク集」と題された社内ドキュメントの存在があり、ユニークなアイデアのストックを許容する文化が、社員の自発的な情報発信を後押しし、部署や職種を超えた偶発的なコミュニケーションを生み出すヒントになっているという話題に笑いが起こりました。

未来を共創するコーポレートポータルへ

今回のイベントを通じて改めて感じられたのは、ポータル刷新やDX推進は単なるシステム導入の話ではなく、「組織文化や働き方をどのように変えていくか」という問いそのものである、という点です。

便利なツールを選び、機能を整えることはもちろん大切ですが、それ以上に求められるのは、社員一人ひとりが共感できる未来像を描き、日常の業務に寄り添う体験を設計していくこと。その過程には、コンセプトを言語化し、ルールを共有し、社員の声を反映しながら継続的にアップデートしていく地道な営みが欠かせません。

日建設計、ユーザベースの取り組みやパネルディスカッションを通じて共有された知見は、まさに「仕組みと人の想いをつなぐ」挑戦のリアルであり、同じ課題に直面する企業にとって大きな示唆となるはずです。

グッドパッチとしても、今後も企業の皆さまと共に、理想の働き方を支えるポータルとその先の組織づくりを探求していきたいと考えています。

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