「セサミンEX」や「ロコモア」といったサプリメントなどを提供するサントリーウエルネスから、ユーザーの体と心の健康に寄り添う無料アプリ「Comado(コマド)」が、2022年10月に、サントリーウエルネス会員向けにリリースされました。

Comadoは、実績のある多数のインストラクターによる全レッスンに無料で参加できるオンラインフィットネスや、「朝起きて水を一杯飲む」など、生活でのちょっとした行動をリマインド・記録することで習慣化を促す健康習慣、健康だけでなく落語などの趣味・教養のジャンルも豊富な記事や動画など、多機能アプリとして利用されています。

Goodpatchは、Comadoの構想段階からアプリリリース後のグロースに至るまで、UI・UXデザインを中心とするデザインパートナーとしてプロジェクトに伴走し続けてきました。

今回は、リリース前からプロジェクトメンバーとしてユーザー体験設計を担ってきたGoodpatchのUXデザイナー陣に、ComadoのならではのUXデザインの気付きや、デザインパートナーとして伴走してきた歩みについて、2本立てでお届けします。

第1回となる今回は、UXデザインにおけるユーザーインタビューについて。これまで総数100回以上にわたって行ってきたインタビューで見えてきた、Comadoユーザーの主要な層である、シニアユーザーならではの発見や提供価値についてお話を聞きました。

話し手:
Goodpatch UXデザイナー 塩田
Goodpatch UXデザイナー 三浦

ユーザーインタビューから考えるUXデザイン

──まずは、お二人のそれぞれの役割を教えてください。

Goodpatch 三浦:
Comadoのリリース前から、フィットネスコンテンツのUXデザインを担当していました。Comadoのオンラインフィットネスは、TIPNESSさんなどと提携し、自宅で5分からできるレッスンを気軽に楽しめるコンテンツです。現在は250種類以上のレッスンを展開しており、インストラクターさんによる生放送レッスンも行っています。

Comadoのフィットネス機能

Goodpatch 塩田:
リリース前はアプリ全体のUXデザインとして、主にオンボーディングやログイン、通知設定、FAQなど、アプリにおいて欠かせない基本的な機能をトップ画面でどう見せていくかをチームで考えていました。加えて、スマホのヘルスケア機能と連動させて自動集計できる、歩数機能の切り出しと開発も担当しました。現在は、新企画のユーザーコミュニティ領域を担当しています。

──Comadoでは、どのようなアプローチからのUXデザインが印象的だったでしょうか?

Goodpatch 塩田:
ユーザーインタビューが検討の土台になっています。Comadoの主な対象でもある50代から80代までの方々に対し、リサーチや検証で何度もインタビューを重ねてきました。

実は、チーム全体としてユーザーインタビューの経験者は多いのですが、実際にComadoユーザー層にインタビューをしてみると、これまで認識していた一般ユーザーの知見との違いが見えてきたんです。例えば、オンボーディングなどで表示される「プッシュ通知」が何を指すのか分からない、といった発見があったり、一般的には読み飛ばしてしまいそうな画面を、Comadoユーザーはていねいに読んでくださったり。

Goodpatch 三浦:
リリース後もユーザーインタビューは続けています。Comadoを全く使ったことがない方と一緒にテストを行った際に「いいアプリだね」と言ってもらえたり、「Comadoがあるからサントリーウエルネスの商品を購入し続けたい」など、ポジティブな意見が見えて、効果を実感できることが、我々のモチベーションにもつながっています。改善点の発見はもちろん、チームメンバーにとっての「Comadoを提供し続ける意義」も醸成できました。

Goodpatch 塩田:
ロジックと励ましの両面から、インタビューに支えられてきました。新規サービス・プロダクトの企画途中は、実際のユーザーさんが見えなかったり、不確実性が高いために乗り越えることが難しい壁もあります。

ユーザーインタビューを通してプロトタイピングを早い段階で検証することで、本当に必要とされていること、ユーザーが待ってくれていることを、クライアントの開発メンバーと共通認識として持つことができました。

Goodpatch UXデザイナー 塩田

Comadoユーザーならではの気づきとアップデート

──シニアユーザーならではのインタビューの気付きから、どのようなアップデートが行われたのでしょうか?

Goodpatch 塩田:
歩数設計は通常、目標と結果が比較されるような設計が多いですが、Comadoユーザーは「比較しないこと」が基礎になっています。その背景には「自身の体を労って無理をしない」という考えがあるからです。

キャラクターが歩数に合わせて褒めてくれる、という点も、インタビューで価値が伝わっていることが実証でき、クライアントにも根拠として伝えることができたのが良かったです。

Comadoの歩数記録機能

Goodpatch 三浦:
私はフォントサイズに発見がありました。初期段階は、アプリのテキストサイズを大きくしていたのですが、スマートフォンの「ダイナミックタイプ」を設定しているユーザーが多く、フォントサイズがそれぞれバラバラだったんです。そこで、文字サイズを調整する必要が生まれました。

他サービスをリサーチすると、文字崩れしている状況が少なからずありまして。ダイナミックタイプを使用するユーザーにとって、デジタル離れの要因が、デジタルソフトウェア側の歩み寄り次第で解決へと導けるのではないかと気づいたんです。

Goodpatch UXデザイナー 三浦

Goodpatch UXデザイナー 三浦

Goodpatch 塩田:
身の回りにいるユーザーとの会話も、検討のきっかけになっています。私の母がComadoのフィットネスのヘビーユーザーで、会話で気になる点を聞くようにしているのですが、「Comadoで頑張ったことを毎日の積み重ねとして見たい」と話していたことをPOに共有しました。

そこから定量調査と定性調査で検証し、履歴を可視化する必要性が見えてきたんです。自分自身の頑張りを可視化することで、継続率に寄与する施策を検討しています。

Goodpatch 三浦:
リリース直前にも、サントリーウエルネスの担当者さんが「われわれもいつか来たる未来」とおっしゃっており、今後どんどん増えていくミドル〜シニア世代にデジタルコンテンツが対応していくためにも、Comadoは先進性を持って進んでいると思っています。

ペンを使用した画面操作など、体の変化まで考慮した視点を持てたのは、Comadoユーザーに向き合ってきたからこそたどり着いた発見でした。

Goodpatch 塩田:
余談ですが、ブランドデザイン領域では公式キャラクターの開発も新発見に溢れていました。ユーザーにとってかわいらしいと思える描写や感覚が、年齢によって異なる傾向が見えてきたんです。ブランド設計を担当するチームを中心に、目元や頭身など、細かな部分でインタビューを繰り返しながら、試行錯誤を重ねてComadoを象徴するキャラクターが生まれました。

デザインパートナーとして共創する体験設計

──リリース前後でクライアントと伴走しながらのユーザーインタビューには、どのような価値があったのでしょうか。

Goodpatch 塩田:
インタビューを通じて想定や仮説から覆ったところは、ひとつふたつではありません。企画段階では、ユーザーについて分かっているようで実は理解していないことが多く、ユーザーインタビューはそのスタート地点になります。

ユーザーの心情まで理解しようと、ただ話した言葉だけでなく、背景まで考察していきました。さらにインタビュー結果を単にまとめるだけでなく、適宜、考察と分析を変えていく。難しいですが、より良い体験を作るには欠かせないプロセスです。ユーザーの声を聞いた上で、それをどう調理していくかも、UXデザインにおいてはとても重要です。

Goodpatch 三浦:
Comadoをアップデートしていく中で「育てていく」ことの重要性に気付きました。

リリース後は特に、改善点や提供価値を明確化し、そこから体験をどう良くすべきかの大幅なステップアップをユーザーに期待されます。Comadoのグロース施策では、インタビューという対話から生まれる小さな気付きをどう生かすかで、アプリが大きく変わっていくことに気付けました。

定量分析と定性分析は、何かと二項対立になってしまうところがあります。ですが、グロースではそれらの価値が共存すべきで、フェーズによって定量を重視するときと定性を重視するときとで、観点の比重が変わるだけだと改めて実感しました。

──クライアントとの共創において、どんなことが大切だったと思いますか?

Goodpatch 塩田:
5、6人からスタートしたプロジェクトが、何十倍もの関係者が携わるようになるまで、役割分担のアップデートを適宜重ねてきたことが大きかったと思います。

インタビューを通じたユーザー理解が前提にあるため、他チームとの横連携も、サービス全体の設計を壊さずに柔軟に対応できました。

指示されて動くのではなく、良い体験を作るために目線を合わせる意識や、取り組み方は随時メンバー間で共有されています。そういった意味で、第三者視点からの質の良いプロダクト作りが活かされていると感じています。

Goodpatch 三浦:
大きな組織で新しい企画を推進していく部署では、チーム全体のコミュニケーションが大事になってくると思います。

UXデザインは、従来バズワードとして捉えられてしまい、上層部や他の部署などにはなかなか本質的な理解が及ばないこともありました。一方で今回のプロジェクトは、信頼関係を初期から構築してきたからこそ、他の部署や意思決定レイヤーまでUXデザインの価値が伝わっていると感じています。

状況が変わっても、ユーザー視点を軸としたものづくりのスタンスを強く持っているメンバーが組織にいることで、UXデザインの考え方や重要性がプロジェクト全体に染み出していき、結果的に良いサービスづくりに繋がっていくのではないでしょうか。

──今後はどのようなことに力を入れていきたいですか?

Goodpatch 塩田:
ここから、1年後のアクションプランニングをしつつ、並行して「ユーザーが本来どんな課題を抱えていて、何を望んでいるのか?」という課題解決のために、ユーザーコミュニティの施策などを通して中長期的な「シニアの自己実現」に、UXデザインを活かしていきたいと思っています。

Goodpatch 三浦:
プロジェクトを通じて、人生のネガティブな面を改善したい人と、さらに豊かになっていきたい人には行動やComadoにおいて体験したいことがあることが分かりました。特に自分の担当するフィットネスについては、両者にとってどんな機能があると良いのか、解像度を上げる必要があると感じています。コロナ後など時代の潮流も含め、ユーザーの目線や欲求に適合できる機能や価値を提供するためにデザインしていきたいです。

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