Goodpatchでは、ベルリンと東京両拠点の交流の活発化に力を入れています。年に数回はお互いが顔を合わせてコミュニケーションをとるために、数名がオフィスを訪れて交流します。

今回東京オフィスへ足を運んでくれたのは、Goodpatch Berlin(以下Goodpatch)の最初のHRとしてジョインし、今も唯一のHRとして働くSandra。彼女が日々行なっているHRとしての業務や、彼女ならではの目線から見るGoodpatch Berlinの今を語ってもらいました。

ー まずはGoodpatchに入社した経緯を教えていただけますか?

2017年4月24日のことです。もともと勤めていた会社が解散することになったため、いくつかの会社に履歴書を送りました。Goodpatchをその中の一社として選んだのは、私が長い間アジアの国に魅了されていたからです。日本発であるデザイン会社という点が、私の中で最も刺さりました。
連絡をすると、すぐにBorisとTeodoraがインタビューをアレンジしてくれました。その時した会話がとても楽しかったことを、今でも昨日のことのように覚えています。彼女たちも、私との会話を楽しんでいたのだと思います。その証拠に、次の日にはKhanhという別の社員から2回目の面談をしたいと電話がかかってきました。2回目の面談の後には、ちょうどProduct Crunchが開催されていて、そこにも参加させていただきました。Borisはその後すぐに私にコンタクトをくれて、入社のオファーをくれると共に手続きを進めてくれました。私の想像をはるかに超えて、スムーズに転職することができました。これだけ考える前にことが進むと、正解だと思わざるを得ませんよね。こうして、Goodpatchにジョインしました。

ー 当時はベルリンと拠点を絞って転職先を探していたのでしょうか?

はい、私の中ではベルリン一択でした。常に故郷のライプツィヒではない場所で働きたいという思いはあったのですが、ベルリンに絞っていたのは親戚も友人もいたからです。東ドイツの文化も好きだったこともあり、東と西の両方の文化側面を持つベルリンにはずっと惹かれていました。移住に抵抗はなかったのですが、移住するのであればすでに知り合いもいる場所がいいと考えていました。思ったとおり、ベルリンへ移住してから瞬く間にここがホームであると感じることができました。

ー Goodpatchの最初の印象を教えていただけますか?

私が入社した当時のGoodpatchは、まだ15人の小さなスタートアップでした。誰もが片手間でオフィスマネジメントやHR、アカウンティングの業務に手をつけている状態でした。会社が成長するにつれ、片手間では手が回らなくなると気が付いた彼らは、それらのバックオフィス系の業務を点ではなく一貫して責任をもてる人材を探すことにしたのです。私はこれまで、どちらかというとジェネラリストとして働いてきたので、ざっくりとしたマネジメントの仕事には適していたのだと思います。

ー 現在の役割について教えてください。

現在は管理職をしています。法務のような書類にまつわる仕事をしつつ、人事の仕事も兼務しているため、採用ページの作成や書類選考通過者とファーストコンタクトもとります。インタビューを繰り返した応募者とは、チームと一緒にその人が本当にカルチャーフィットするかを議論します。またインタビューだけではなく、より実践的なスキルを測るために、デザインもしくはコーディングの課題を与えます。Goodpatchでは、Apple CarPlay Challengeを行なっています。

ー Apple CarPlay Challengeとは何でしょうか?

Apple CarPlayはiPhoneを車載装置と連動させるシステムのことです。まだまだベーシックなデザインのものしかなく、改善余地が多くあります。だからこそ、応募者がどのようにApple CarPlayのリデザインをするかを見たいのです。次世代を思わせるような、未来的なデザインを見せてくれることを私たちは期待しています。ですが本当に見たいのは、彼らがどのように課題にアプローチをし、短期間でどのようなアウトプットを出してくれるかという部分です。UIにより焦点を当ててリデザインを行う人もいれば、UXを中心に改善を行う人もいるでしょう。アウトプットからは彼らが入社後、どのようなことに重きを置きながら働くかという予想もできます。

また、「私たちが何を期待しているか」という部分を伝えるチャンスでもあります。応募者がプレゼンテーションを行なった後には、実際にうちで働くデザイナーと一緒にディスカッションする時間が設けられます。GoodやMoreな点を中心に議論が繰り広げられ、私たちが複数人の応募者を比較する場でもありますね。

ー Apple Carplayはエンジニアとデザイナー両方の採用に用いられているのでしょうか?

Apple CarPlayは主にUIデザイナー、UXデザイナー、ストラテジストに課せられるものですね。エンジニア希望者にはApple Carplayではなく、コーディングを要する課題をリードエンジニアが用意します。

彼らの異なるアプローチを見るのはとても楽しいです。採用者として、私たちは同じようなアプローチをする人ではなく、互いにスキルを補い合えるような人を採用します。もちろん、仕事に対するマインドセットという部分では、同じマインドセットをもつ人を探していますが。

ー 応募者が課題に取り組む期間はどれぐらいですか?

かなり短いです。時々、応募者の都合上すぐには提出できないと言われるケースもあります。そういった場合には私たちも比較的柔軟に対応していますが、通常は4日から5日です。

応募者にはパッケージ以外は特に何も条件などを与えません。どれだけ時間や労力を費やすかも、彼らの自由です。例えば、今GoodpatchのUIデザイナーとして働くLorisは、壮大なプレゼンをものすごく詳細に用意してくれました。それが彼のやり方であり、私たちは一瞬で彼のその勢いと情熱の虜になりました。数枚しかスライドを作ってこない、もしくは課題に取り組まないといったようなケースも稀にありますが、そういった場合は私たちのやり方には合わないのだと判断します。

ー Apple Carplay Challengeは東京では行なっていないので、聞いていてとても新鮮です。

そうですね、他の課題であってももちろん良いです。最近では、もう少し簡単な課題にしようかということも検討しています。ですが、不確実性が高い中でどのようなアプローチをするかという部分も、評価対象の一つだと考えています。応募者は周りの力を借りながら課題に取り組めるのですから。課題に取り組む中での一つひとつのステップを私たちは見ています。

ー Apple CarPlay ChallengeはSandraのアイデアだったのでしょうか?

いいえ、私が入る前からすでにこのアプローチは取り入れられていました。私は応募者に対するファーストコンタクトとスケジュールの調整を行う役割を担っています。社内のデザイナーが評価者として参加する調整なども行なっています。私が見るのはあくまでもカルチャーフィットの部分で、テクニカルスキルの部分はプロのデザイナーに評価を任せています。

ー 担当されている最初のインタビューについて、もう少し詳しく教えてください。

最初は30分程の対面もしくは通話のインタビューで、主にカルチャーフィットを見ています。このインタビューは私たちが応募者を理解するためのものだけでなく、応募者が私たちについての理解を深めるインタビューでもあります。私だけでは判断できない部分もあるので、後の2、3回インタビューを行い、テクニカルスキルとヒューマンスキル両方を見てから判断できるようにしています。

ー 現在の採用プロセスは、相対的に上手くいっていますか?

そうですね。応募者が少ない場合には、LinkedInで直接アプローチをしたりもします。一年前に私がこの仕事に就いてから、すでに10人以上の人材を採用しました。

Borisは新しくジョインした人を最適な案件にアサインすることに長けています。ですが、たまに採用が上手くいったとしても、アサインする案件が見つからずに残念な結果になる場合があります。例えば、iOSデベロッパーはプロジェクトにアサインするのが非常に難しい職種の一つです。大型プロジェクトであれば、1人以上のデベロッパーが必要ですし、スタートアップのプロジェクトであれば、自社にデベロッパーのチームを抱えている場合が多いため、外注の必要がありません。

デザイナーやデベロッパーのベンチタイムは、会社にとっては損失となります。彼らにとっても、アサインされるプロジェクトがないということはフラストレーションとなるでしょう。私たちは極力チーム内でできることを見つけ出し、ベンチタイムを有効活用できる状態を作っています。

ー アサインの課題を解決するには、どのようなことができるのでしょうか?

私たちもこの課題と真剣に向き合っています。もちろんデベロッパーとして採用された人で、プロジェクトにアサインされて楽しく力を発揮できている人もいます。ですから、フルスタックエンジニアのみに絞って採用を行うかという決断をすることには、まだ振り切れていません。マッチする案件を見つけてこれるかという運にもかかっていますから、一つの決まった答えはないのだと思っています。これは決してマーケットにおいて、iOSデベロッパーの需要がないという意味ではありません。
クライアントにはクライアントの意向がありますから、彼らが自分たちのデベロッパーチームを持っているのであれば、その体制を尊重しなくてはなりません。ですが、私たちはデベロッパーとデザイナーが同じマインドセットを持ち、密に連携することがより良いサービスを作ると信じています。なので、今後もデベロッパーの採用は行う予定でいます。

ー Goodpatchで担当している複数の仕事の中でも、一番好きなことは何ですか?

いくつか担っている役割の中でも、物事を整理する役割が一番好きです。散らかっていれば散らかっているほど、やりがいを感じます。採用ページのポストや応募書類の選出などは、作業として行なっていますが、特別好きな部分ではないのかもしれません。やっぱり人と関わる部分が一番楽しいですよね。

ドイツ語で”Gute Seele”(グッドソウル)という言葉があります。私自身、そのようなイメージで働いています。社員全員が良い出来事も悩みも打ち明けられる存在でありたいですし、打ち明けてもらったことを口外することはありません。メンバーには理解を示し、常に助けになりたいと思っています。

実際に日々働く中で、メンバーから信頼されていると感じることがたくさんあります。私は性格上、「公平性」をかなり重視する人なので、全員が公平に接されるような環境づくりを心がけています。社内で何が起きているかをより多く把握したいのも、そのせいかもしれませんね。

ー 公平性を重視するという行為は、HRにとって重要だと思いますか?

そうですね。私にとって、HRはピープルマネジメントに他なりません。もっとも重要なのは、人と向き合うこと。その他のことは作業として終わらせなくてはならないことです。HRは、マネージャーと現場のメンバーの間に置かれる複雑なポジションです。双方の言い分を汲み取る必要があるのです。

少し前は、HRというと管理職であるイメージが強かったかと思います。ですが、最近では徐々に人材中心へと変わりつつあります。人々が会社を作る上で「社員がもっとも重要」ということに気づきはじめたのです。幸せだと感じていない社員が良い仕事をすることはないでしょう。良いアウトプットを出せなければ、クライアントにも良い成果物を納品することができません。結果、会社がうまくいかなくなるのです。ですから、私は社員をまず第一に考えることが重要だと考えています。どんな課題に取り組むときにも。

ー Goodpatchにおけるピープルマネジメントは順調ですか?

ピープルマネジメントの文脈で言えば、とても順調です。組織が大きくなるにつれ、難しくはなると思います。私にとってGoodpatchのチームに馴染むことはとても簡単なことでした。初めて、自分が与えられる仕事よりも多くの責任を担いたいと感じた場所でもあります。Borisが「マイクロマネジメントをしない」ということを考え方を組織にインストールしたことも、チームの責任感を高めた一つの要因でしょう。彼はメンバーからも多くを求めますが、同時に多くを与えています。私たちはBorisの手から離れて、全員で、もしくは個々が各自責任を持ってものごとを進めることができます。これは、私たちに組織への帰属感と、自分たちが組織に及ぼす影響力を自覚させています。

ー それだけ多くの役割を担っているのであれば、自分の役割や責任を他の人に手渡したくないという気持ちもあるのではないでしょうか?

ありますね、まさにそう考えていたところでした。組織が大きくなれば、いずれ自分の役割を誰かに渡していかなくてはいけない。だけど、それは私にとってはすごく難しいことだとも感じます。もちろんチームで働くことで自分も成長できると感じますが、自分がこれまで担ってきた役割を手放すのは、子離れする気持ちになるのです。その時は今年になるかもしれませんが。

ー この先、Goodpatchでどのように働いていたいですか?

私がHRのバックグラウンドからきていないということは、私に大きな勇気を与えています。専門にしない分野でも、活躍できることを証明できたからです。多くの人は、自分のキャリアを決める時に、大学で専攻していたことや得意なことから絞りがちです。もちろんそれも一つなのですが、人は取り組めば何でもできると思うんです。新しい領域にチャレンジすることを恐れてはいけません。失敗しても、またチャレンジすればいいのですから。一つの仕事にずっと依存する必要もないと思うんです。

私はGoodpatchに来る前も、多くの職種を経験しました。そして今、自分の天職とも言える仕事に就けました。まだまだ道の途中で、勉強することもたくさんあります。HR戦略の部分を今年はより専門的に学んでいきたいと思っています。まだまだGoodpatchから去るつもりはありません。ですが、いつかその日が来たとしても、自分では言葉にできないぐらい多くを学んだと心から言えます。それは、先ほども伝えたように、Borisが信頼してくれて、私に多くの責任を与えてくれているからです。一つ言い切れることは、「信頼することで全てがはじまる」ということです。信頼することこそが、人をモチベートして、幸せにする鍵なのです。