はじめまして、現在アメリカの大学でグラフィックデザインを学んでいる2018年卒の榎本と申します。

この記事では、インターナショナルスタイルというデザインの歴史の一部に言及しつつ、それらが現代のプロダクトデザインにどのように影響しているかを掘り下げていきたいと思います。

インターナショナルスタイルとは?

インターナショナルスタイルは、1950年代にスイスでジョセフ・ミュラー・ブロックマン等の手によって発展を遂げました。完璧な直線や曲線を多く使った原始的なスタイルは、非常に革新的で多くのデザイナーに好まれ、名前のごとく国際的な基準になり世界中に渡ります。

こちらの画像をご覧ください。

       

(参考: IBM公式サイト)           (参考: designishistory.com)

IBMのロゴやbeethoven(ベートーヴェン)と書かれたポスターや媒体に一貫性はありませんが、実はこれらが作られた時期は数10年も前なのです。

全くそうは思えませんよね?非常に美しく洗練されていて、言われない限りそんなに古いデザインだとは思わないはずです。

実はこうしたロゴやポスターは、インターナショナルスタイルのデザインの影響を受けています。

では、インターナショナルスタイルと同年代のデザインを見てみましょう。

(参考: Boston College)

この画像は、1940年代のヒトラー政権下にあったドイツのプロバガンダのポスターです。ドイツで昔から使用されてきた書体を使い、非常に古風に見えます。デザイン全体から特定の個人の政治思想が見えてしまい、これでは世界のどこにいても通用するデザインとは言えません。

最初に出てきたインターナショナルスタイルに沿って作られたIBMのロゴとbeethovenと書かれたポスターと比較してみてください。どちらも同年代に発表されたということを念頭に置いて考えてみれば、インターナショナルスタイルが当時のデザイン界においてどれだけ先進的であったかは明白だと思います。

作例と特徴

インターナショナルスタイルを元に作られたデザインは、遜色なく未だにそのタイムレスな普遍性を遺憾なく発揮しています。

ここでは現代のデザインとともに、インターナショナルスタイルの特徴を見ていきましょう。


(参考: Behance)

(参考: Behance)

上はレッドブルが主催したイベントのポスターで、下は任天堂スイッチのユーザーインターフェースの一部です。

1. レイアウト

インターナショナルスタイルの特徴は、まずは何と言ってもグリッドシステムです。もちろん徹底的に法則に従う必要はありませんが、ある程度グリッドに従ってデザインすることで整理された綺麗なデザインが簡単に作れます。

これらのデザインにグリッドを当てはめてみました。どうでしょうか?細部まで見ると画像やタイポグラフィー、アイコン等の要素がグリッドに沿ってお互いの関係を綺麗に維持しているのが良くわかると思います。

ですが、先程記した通りグリッドに完全に沿う必要はないのです。任天堂スイッチのUIの例を見てみましょう。右下にあるルイージの画像を見てみてください。ルイージの頭と車輪がボックスから少しはみ出しているのが見られます。意図的にグリッドシステムに従わないようにすることで、全体のデザインをより流動的にアグレッシブに出来るわけです。これは初期のインターナショナルスタイルには見られなかった傾向ではないのでしょうか。

また対角線を意識したデザインもインターナショナルデザインの主な特徴の一つです。

右側の画像は1960年代のブロックマンによるデザインです。シンメトリーであり複数の要素を対角線上に意識して置くことに加え、同時にそれぞれが全体のグリッドに収まることで一見不規則に見えるカオスな中に、整理されたビジュアルを取り入れて革新的なスタイルを生んでいるのです。この特徴はインターナショナルスタイルの時代背景を汲んでいます。

2. 色使い

1960年代頃のインターナショナルスタイルでは徐々に明るい色を取り入れ始めてきました。そして近代に進むに連れて、ビジュアルデザインのトレンドにおける色の多様化は進んできています。現代では、目に焼き付きやすいように相反する色を積極的に使うようになりました。これらはドイツのSachplakatというスタイルの影響によるものですが、後にインターナショナルスタイルに統合されるようになります。

(参考: Wikipedia)

上の画像は1906年のマッチの広告です。19世紀後半に流行したアール・ヌーヴォーから考えるとSachplakatが非常に革新的なスタイルであったことは間違いありません。また、シンプルな背景にレイアウトの大部分をしめる商品の画像を使うことで非常に効率的に商品の魅力を伝えることが出来ます。

下の画像は背景が寒色系であるのに対し、ロゴや画像が赤やオレンジという暖色系を使うことで、情報を見ている人の目に付きやすくするという狙いが込められています。もしそれらが同じ寒色系の色であれば、どの要素が一番伝えたい情報なのか混乱を招きかねません。

3. タイポグラフィー

そしてもう一つのインターナショナルスタイルの大きな特徴はタイポグラフィーです。

ドイツのタイポグラファー、ヤン・チヒョルトが提唱した『The New Typography』から発展したインターナショナルスタイルでは、使用する書体の種類を一つに制限する代わりに、ヘッダー、サブヘッダー、ボディコピー毎に書体のウェイトを変えることで全体に階級を持たせることをガイドラインに記しています。そうすることで同時に伝えたい情報にも階級を持たせているのです。

もちろん今のデザインでは、前述の通りその法則に完璧に従う必要ありません。

(参考: naoan.ga)

これは自分が大学で制作した日本固有の動物のイラストレーション集の一部です。非常にインターナショナルスタイルの影響を受けています。

幾何学模様で形成されたイラストレーション、シンプルな背景に対照的な色使い、グリッドシステムと対角線を意識したレイアウト。そしてタイポグラフィーですがなんと従来の法則を大幅に無視して3つもタイプフェースを使用しています。

少し細部に目を向けてみましょう。ヘッダーは各動物の名前になっておりGothamを使用しています。これは各イラストレーションが非常にシンプルな幾何学的模様で構成されているので、このタイプフェースがマッチするという狙いからです。ボディコピーは読みやすさと扱いやすさを考慮し小塚ゴシックを使用しています。

サブヘッダーはそれぞれの動物の学名になっており、専門家以外の見る人にとっては非常に難解な内容です。この本の狙いはイラストレーションだけではなく動物の分布図や生態なども記した少し図鑑のような内容にしたかった為、セリフの書体にすることでアカデミックな印象を与えるという狙いです。

結果、この本は国籍問わず色んな人にウケました。

“ウケる”理由とは?

では何故“ウケた”のでしょうか?

前述した例たちを思い出してみてください。IBMにレッドブル、任天堂。いずれも世界中に知れ渡る国際的企業です。そして自分のデザインも規模はまるで違いますが一応、国際色あふれる環境の下にありました。日本人である自分のデザインが、アメリカの大学で色んな国の人に好印象だったのにはこのインターナショナルスタイルの力が関係しているのです。

それらのデザインがいずれもインターナショナルスタイルの影響下にあるのは決して偶然ではありません。

もう一度、歴史に戻って考察してみましょう。インターナショナルスタイルが生まれたのは1920年代の戦争の真っ只中で、確立されたのが戦後の1950年代。そして舞台は永世中立国のスイスです。

デザイナー達は戦時中この画一的で規則的なデザインを使うことでいかなる国の国家主義や個人の思想をデザインと切り離し、戦争で生まれたカオスから脱却し、秩序ある表現を見出したのです。この国家主義というのはこの時代のデザインの歴史を語る上で非常に重要なキーワードになります。

そして戦後、多くの企業が大きな発展を遂げ世界中に知れ渡るようになります。やがてアメリカをはじめ、インターナショナルスタイルはさまざまな企業のCI(コーポレートアイデンティティ)に広く採用されました。企業のデザイナー達はインターナショナルスタイルが持つ普遍性というものを利用し、個人や場所、思想、時代などにとらわれず世界中にやがて広がっていく企業や商品を宣伝できると考えたからです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?人は規則的な物を好む傾向にあります。変拍子の音楽はマニアックなジャンルになり、世界的にも人間の顔はシンメトリーであればあるほど美しいと言われています。国籍問わず、ものに対する人の美的感覚は変わらないようです。

その普遍的な美に対する人間の性質を巧妙に取り入れたインターナショナルスタイルは、もはやビジュアルデザインの基礎中の基礎であり、名前の通りグローバル化がより一層進む社会にとって必要不可欠な存在です。

とは言いつつも全てが同じようなデザインであればあまりに画一的であり、”つまらない“デザインになってしまいます。そうなってしまわないためにも、前述の任天堂の例のように法則にとらわれないようにデザイナーとしての貴方のスタイルをプラスし、より魅力的なデザインにしてみてはいかがでしょうか?