【デザイン組織の作り方】失敗しないデザイナー採用方法
私はGoodpatchのクライアントワーク部門のマネージャーとしてメンバーのマネジメントを行いながら、クライアント社内にデザイン組織を構築するサポートを行なっています。これまで、複数の制作会社で組織を作るデザイナーを採用・育成するということを経験してきましたが、まだまだデザインを狭義に捉えている企業様が多くデザイナーの活躍の場が限られていると感じています。私はデザイナーが社会にまだ十分に価値を提供できていない、デザイナーが十分に評価されていないことについて常日頃から課題を感じ、デザイン組織を構築する支援を行なっております。
今回はその取り組みをご紹介する第一弾として、デザイナーの採用をどのようにすれば良いかという部分にフォーカスして、デザイン組織構築のプロセスについてご紹介します。デザイン組織をこれから構築していこうと考えている方や、デザイン組織をマネジメントしている中でデザイナーの採用に悩んでいる方に、ぜひ読んでいただき参考になれればと思います。
目次
デザイン組織を新たに構築するための7Sフレームワーク
デザイナーが活躍できる組織を構築するためには、現在の組織を理解し課題を見つけて最適な組織を構築する必要があります。その際に活用したいのが「7Sフレームワーク」。
7Sフレームワークは、3つのハードSと4つのソフトSによって成り立っています。既存の事業で最適化されている組織の中において、デザイン組織をどのように構築していくか検討するために活用されます。
ハードSへのアプローチ
まずは上図の青丸部分にどのような要素が含まれていて、どういったアプローチが可能かを見ていきましょう。
Strategy(戦略)
事業の方向性や経営資源の配分、優位性、戦略の優先順位などを分析します。ここではデザインにおける戦略を調査し、組織の状態を把握します。
Structure(組織構造)
組織の構造や形態(事業部別、機能別など)、部署間の関係、指揮命令系統などを分析します。ここでは、どのような部署にデザイナーが配置され、どのように指揮命令系統の中にあり、他部署とどのように連携しているのかを調査します。
System(システム)
社内の管理システムや情報システム、業務フロー、人事評価、給与体系、教育・育成制度などを分析します。ここでは、デザイナーの業務フローや評価制度、教育・育成制度について調査します。
ソフトSへのアプローチ
次に下の4つのピンク色の丸に該当する箇所に対する適切なアプローチを述べます。
Shared Value(共通の価値観)
社員の価値観や会社のビジョン・ミッションを分析します。ここでは、ユーザー中心設計やデザイン経営、デザインシンキングの共通価値観をインストールしていきます。
Style(経営スタイル、社風)
会社の社風やカルチャー、経営方針、経営スタイル(トップダウン、ボトムアップなど)について分析します。こちらでも、会社の社風やカルチャー、経営スタイルに対して、デザイン経営・デザインシンキングの共通価値観をインストールしていきます。
Staff(人材)
会社の人材や採用・教育について分析します。ここでは、デザイナーを適切に配置・採用するためにさまざまなことを実施。デザイナーの採用に関するノウハウやナレッジを組織へインストールし、デザイナーが活躍できる組織を構築します。
Skills(能力)
社員の能力や組織全体の技術力、販売力、マーケティング力などを分析します。ここでは組織へデザイン経営やデザインシンキング、デザインプロセスを浸透させるために、デザイナーに対して教育を行いながら、ナレッジの共有やスキルトランスファーを行い、エバンジェリストの育成をしていきます。
7Sの「ソフトS」にフォーカスしてデザイン組織を構築
既存事業に最適化された組織で、いきなりハードS(Structure・Strategy・System)から変えてデザイン組織を構築していくことは極めて難しいです。そのため、まずはソフトS(Shared Value・Style・Staff・Skills)から徐々に組織にデザインシンキングが浸透していくようにしましょう。
上図で表すように、デザイン経営やデザインシンキング、デザインプロセスを組織へ浸透させるには、人材育成が鍵となります。いきなり社風や共通価値観(Shared Valueの部分)を変えるのは困難なので、まずはデザイナーを採用して徐々に組織を構築して浸透させていきましょう。
次の段落では、ソフトSの中でも肝となる「Staff(人材)」にフォーカスを当て、適切な人材配置・採用をすることで実現できるデザイン組織構築をご紹介します。
ソフトSの「Staff(人材)」にフォーカスしたデザイナー採用
私は上記のフローでデザイナーの採用を行なっています。以下では一つひとつのステップで何を行なっているのかを説明します。
❶ 組織理解・課題発見
主にやること
- デザイン組織リサーチ
- エグゼクティブインタビュー
- デザイナーインタビュー など
現在の組織を理解するために、組織図、企業理念、沿革、文化・社風などを調査します。目的は、新たに構築するデザイン組織のロードマップや採用戦略、仕事内容、環境などを構築・整理することです。
中でも、デザイン組織の責任者に実施するエグゼクティブインタビューはとても重要です。組織の現状や今後の戦略、ロードマップなどを具体的に描いてもらい、採用や組織戦略を考えていく際の参考にします。また、課題や問題点を抽出して今後の施策を立案していく際にも役立ちます。
デザイナーインタビューは在籍しているデザイナーに対して行うインタビューです。仕事内容や課題について聞き、課題を解決していくための戦略や施策を立案します。エグゼクティブインタビューで抽出した課題との差も検証しましょう。
❷ 組織戦略やビジョン・ミッション策定
主にやること
- デザイン組織の役割、戦略や戦術策定
- デザイン組織のミッション、ビジョン策定
- デザイン組織の人材戦略、人員構成(現状と未来)策定
- デザインシンキング、デザイン経営、デザインプロセスの啓蒙 など
ここでは、デザイン組織のビジョン・ミッションを整理します。前のフェーズで行なったエグゼクティブインタビューを元に、構築するデザイン組織が持つビジョンやミッションを考え、会社の中でのポジショニングや役割を整理します。言語化することで、いつでもそこに立ち還られるようにしておくとさらに良いです。
また、デザイン組織のロードマップを整理します。どのような組織を構築するか、どのくらいの規模にするか、それを何年で行うかなどのロードマップを考える必要があります。エグゼクティブインタビューを参照しながら、組織の状況を鑑みて今後どのように組織を構築していくかを話し合った上で、現実的なロードマップを描きます。
また、在籍しているデザイナーのスキルセットや仕事内容を考慮して、グロースさせていった時の職種や人数構成などをイメージして具体的な組織構成を作成することが重要です。在籍するデザイナーのスキルが低い場合、いきなりスキルの高いデザイナーを入社させてもうまくワークしないどころか不満を抱えて退職してしまうため、定着率を考えた採用が必要です。
❸ 採用
主にやること
- ターゲットペルソナの策定
- 求人媒体選定
- コンテンツ作成(募集要項など)
- 面接官トレーニング
- ダイレクトリクルーティングの実施と社内へのナレッジのインストール
- 応募者とのコンタクト
- 面談日の設定・調整
- スカウティング など
採用フェーズでは、ペルソナを設定します。現在の組織に足りていない、欲しい人材をイメージし、具体的なペルソナに落としていきます。可視化することにより、イメージが共有でき、応募時の選考や面接時の評価にブレが無くなります。その際に、身近にいるデザイナーをイメージしながら、年齢や年収、経験、マインドセット、スキルセットなども設定するとより具体性が増して選考時に役立ちます。
また、ここではデザイナーに見てもらえる募集要項をライティングします。求職者に募集要項に興味をもってもらうためには、魅力的な募集要項を作る必要があります。ペルソナをイメージしたら、そのペルソナに向けてどのようなコンテンツ(募集要項)であれば魅力的に伝わるのか、興味をもってもらえるのかを考え、募集要項のタイトルや内容、キャッチコピー、写真などに工夫をこらす必要があります。
募集要項は、ペルソナごとにカスタマイズして、そのペルソナの経験やスキルセット、興味関心をイメージして、ライティングすると、より良くなります。
さらに、募集要項が完成したら、そのペルソナがどこにいそうかイメージし媒体を選定します。マーケティングファネルでいうと「認知」にあたります。募集要項を見てもらわない限り認知は広がりません。人材紹介企業や求人媒体、SNS、採用サイト、セミナー・イベントなど、募集要項をどこに掲載すればペルソナに見てもらえるか考える必要があります。
掲載を終えたら、応募を待たずにダイレクトリクルーティングを積極的に行いましょう。募集要項を掲載しても応募がない場合は、こちらからスカウトを送信し、募集要項に興味をもってもらう必要があります。スカウトを送る際は、相手のことをきちんと理解した上で、組織での活躍イメージや相手のどのようなところに興味を持ちスカウトしたのか、経歴やプロフィール、スキルセット、ポートフォリオなどをよく見て、それらをきちんと伝えると良いでしょう。
❹ 面接
主にやること
- 面接フローの確認・改善
- 面接の準備(ドキュメント、面談で確認すること)
- カジュアル面談の実施
- 面接の実施
- 面談、面接の評価
ここでは面接のフローを確認・改善します。面接のフローを見直し、最初の面談から現場の人間にも積極的に参加してもらい、実際に会ってもらい一緒に働くイメージが湧くかどうかを見て、マッチングの制度を上げていきます。
面談・面接時にインタビューする内容を整理します。これまでの人事主導型から脱却し、現場主導型へと面接のフローも変更する必要があります。実際の面談では、以下のような項目について聞きます。
- マインドセット
- 勤勉性や情熱、協調性、自制心、好奇心、行動力、注意力などを確認
- カルチャーマッチ
- 行動指針や共通価値観、理念、社風、上司・社員とのマッチング、スキル差などを確認
- スキルセット
- デザイン領域やデザインツールの習熟度、資格などを確認
- これまでの経験
- これまでの経験(成功・失敗体験)や実績(ポートフォリオ)、受賞歴を確認
相手が「なぜ働くのか?」「どんなことをしたいのか?」を確認していき、採用した際に活躍の場を与えられるのかを判断・確認していきます。
また、いきなり面接ではなく、カジュアル面談などを設けて、まずはお互いを知るためにも面接応募へのハードルを下げると良いでしょう。
さらに面談にきていただいた方に、会社のこと・組織のことをきちんと知ってもらうためにも、面談時に話す内容を資料にして整理し、しっかりと伝えられるよう準備するようにします。その際に、具体的に組織の状態や未来の話、環境や応募者の入社後のメリット・デメリットもしっかりと伝えると、入社後のミスマッチが減り定着率もアップします。
最後に、面談・面接を評価しましょう。職種に応じた評価基準で、面談・面接後を評価し、内容を共有します。共有した内容は次の面接の際に面接官に参考にしてもらいます。
❺ 入社後オンボーディング
主にやること
- 入社後の業務や環境の整理
- 入社後のオンボーディングや面談の整理
- 定期的な面談の設定(メンタリング、ティーチング、コーチング) など
入社オンボーディングでは、仕事や環境、体制を整理します。入社後の仕事内容や環境を整理し、求めている役割や行動についても伝えられるように整理することが重要です。オリエンテーションを数回実施し、環境や仕事に慣れるまでサポートしましょう。また、定期的に1on1を実施してメンタリング・ティーチング・コーチングを行います。
最後に
本記事で最も述べたかったことを要約します。それは、「ただデザイナーを採用するだけではデザイン組織は構築できない」ということです。
デザイナーにより組織の中で活躍してもらうためには、入社後に実務支援を行いながらスキルトランスファーをしたり、教育や育成カリキュラムを定期的に実施してエバンジェリストの育成を行い、組織へとインストールしていく必要があります。
クライアント様のデザイン組織構築を支援
Goodpatchでは自走できるデザイン組織を構築するために、クライアント様に下記をご提供しております。
- 組織課題の整理・解決方法のご提案
- デザイナーの採用コンサルティング
- ReDesignerの活用、ダイレクトリクルーティング支援
- 入社後の育成、実務を通してのエバンジェリスト育成
- クライアントワーク・ワークショップの実施
- 組織へのデザインシンキング、デザイン経営、デザインプロセスの啓蒙活動
- ワークショップの実施
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また、過去のデザイン組織に関するおすすめの記事も掲載しますので、よかったら併せて読んでみてください。