世界では、デザイン思考をビジネスに実践できる人材の重要性が高まっています。マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学など世界のトップスクールでは、MBAの中にデザイン教育が含まれています。

本記事では、デザイン入門者向けに、デザインへの理解を深めるためのTED動画を番外編を含めて5つご紹介いたします。特に、デザイン思考をビジネスに取り込みたいビジネスパーソンにおすすめです。ご紹介する動画を通じて、デザインを理解・実践するヒントに繋がれば幸いです。

1.自分のクリエイティビティに自信を持つ方法 – デビット・ケリー

おすすめポイント
才能に関係無く、人は生まれながらにクリエイティブだと教えてくれる動画

デビット・ケリーは、世界各地でイノベーションを牽引するデザインコンサルティングファームIDEOの創設者です。IDEOは、デザイン思考を提唱した企業であり、Appleのマウスデザインやサムスン電子の戦略立案を手掛けた実績があります。動画では実例を踏まえて、自身がクリエイティブではないと恐れを感じている人でも、段階的に小さい成功を積み重ねることで恐れていたものに馴染み、少しずつ自信がもてるようになることを説明しています。事例として、クリエイティビティに自信がもてないロジカル思考だった技術者が、子供にとって恐怖体験だったMRIを楽しい冒険体験に変えた例が紹介されています。

私は、デザインの良し悪しは才能の有無で別れるのではないかと考えていた時期がありました。しかし、この動画を見て、人は皆クリエイティブの素質があり、努力次第でクリエイティビティは後天的に伸ばせるものだと学びました。特に、クリエイティビティやデザインとは無縁だと考えている人に、最初に見ていただきたい動画です。

2.デザイナーはもっと大きく考えるべきだ – ティム・ブラウン

おすすめポイント
デザイン思考の生みの親からデザインが学べる動画

ティム・ブラウンは、デザイン思考が広まるきっかけとなった『デザイン思考が世界を変える』の著者であり、デザインコンサルティングファームIDEOのCEOです。この講演で「DESIGN’S TOO IMPORTANT TO BE LEFT TO DESIGNERS(デザインはデザイナーだけに任せるには重要過ぎる)」という有名な言葉を残しました。デザイン思考は、発散的なアプローチで、今までになかった新しい選択肢、解決策を生み出すために有効な手法です。デザイン思考の活用例として、アメリカの医療機関カイザー・パーマネンテの患者体験の向上を目指すプロジェクトを紹介しています。観察調査とブレインストーミングプロトタイピングを通じて、新たな勤務シフトの引継ぎ方を生み出し、看護師が患者から目を離す時間を平均40分から12分に縮めたことで、患者の安心感と看護師の満足度をともに向上させました。動画内では、他にもデザイン思考を活用したプロジェクトを複数紹介しています。

デザインの教科書としておすすめされて、大学生になって初めて読んだ本がティム・ブラウンの『デザイン思考が世界を変える』でした。当時デザインの事を全く知らなかった自分にとって、ブレインストーミングやプロトタイピングなどの手法は新鮮で、デザインに深くハマるきっかけを与えてくれました。デザイン思考とは何かを理解したい人、デザイン思考の生まれた背景を知りたい人におすすめの動画です。

3.デザインの最大の秘密…気付く事 –トニー・ファデル

おすすめポイント
誰もが見過ごす問題を発見するための3つのコツ

元iPodの部門担当上級副社長であり、iPodの父と呼ばれたプロダクトデザイナーのトニー・ファデルが、思い込みを捨てて「誰もが考えつく問題」から「誰もが見逃すような問題」を発見するための3つのコツを紹介しています。1つ目は、視野を広げること。2つ目は、近くで見ること。3つ目は、若く考えることです。人は、習慣化によって不便なモノでも当たり前なものとして捉え、問題に気が付かなくなります。しかし、デザイナーやイノベーターは、そういった問題に気付くだけではなく、解決することが重要だと述べています。例として、メアリー・アンダーソンが世界初のフロント用のワイパーを開発した話を挙げています。当時、路面電車で視界を確保するため、車内に冷たい冷気が入るのを我慢して窓を開け、フロントガラスを拭くことが習慣化していました。乗客のほとんどがフロントガラスを拭くには、窓を開けるのが当たり前だと思っていた中で、メアリー・アンダーソンは「運転手が車内からフロントガラスを拭く事ができれば安全に運転を続けられるし乗客も暖かいままでいられるじゃない?」と考え、世界初のフロントガラス用ワイパーを考案しました。

日常には、当たり前が溢れています。しかし、それは本当に当たり前なことなのか疑う視点を持つことはイノベーションには欠かせない思考法です。例えば、JINS PCは、メガネは「目の悪い人が視力矯正する道具」という当たり前を疑い、「ブルーライトから目を守る道具」としてのメガネの新しい役割を生み出しました。デザイナーが得意とする「当たり前を疑う」発想法から生まれたプロダクトです。この動画もデザイン視点の問題発見法を学べ、職種問わず日々の業務に活かせる内容です。

4.Airbnbの成功の裏にある信頼のためのデザイン – ジョー・ケビア

おすすめポイント
Airbnb創業物語から始まり、どのようにユーザー間の信頼をデザインしたかが分かる動画

Airbnbは創業者3人のうち2人がデザイナーである、デザインの力で社会に大きな変化を生み出した企業の好例です。動画はAirbnbの創業物語から始まり、どのようにホストとゲストの信頼をデザインしたのかを紹介しています。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)出身で、共同創業者のジョー・ケビアは、「美大ではデザインというのは見た目だけのものではなく、全体的体験なのだと教わりました」と言及しており、デザインは装飾だけではなく体験を生み出すものとして捉えています。実際にAirbnbは、ゲストとホストが互いに信頼し合える体験をデザインしました。例えば、ゲストからホストへ送るメッセージによる受け入れ率の違いに着目して、短すぎたり長すぎるメッセージは、ゲストへの信用が下がり受け入れ率が低下することを発見しました。そこで、ホストとゲストの信頼関係を築くためメッセージの入力欄を適切な長さにリデザインしました。試行錯誤しながらデザインで問題解決を行った結果、世界191ヶ国78万5千人が 使うグローバルサービスへと成長を遂げたのです。

動画内で、ジョー・ケビアは、「怖れを楽しみに変えることがクリエイティビティの才能だと私はいつも思ってきました」と述べています。この言葉から、リスクや不確実性と向き合う際に、それを前向きに捉えるだけではなくチャンスに変える発想の転換が、優れたサービスを生む秘訣なのではないかと思いました。デザインのマインドセットを学ぶと同時に優れたデザインがビジネスを成長させる事例を知ることが出来るおすすめの動画です。

【番外編】優れたリーダーはどうやって行動を促すのか – サイモン・シネック

おすすめポイント
Goodpatchの行動指針「WHYから考え、行動する」を生んだ動画

Appleやマーチン・ルーサー・キング、ライト兄弟など革新的な結果を出してきた人や組織を事例に、人は「WHAT(何を)」ではなく「WHY(なぜ)」に突き動かされることを説明した動画です。
人々の感情を動かす時に大事な事は「なぜそれをやるのか、なぜ必要なのか、自分たちが何を信じているのか」というような「なぜ」から考えることです。グッドパッチでは、人々の感情を動かし、ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させるため、WHYから考え行動することを1つの行動指針としています。社内でもWHYから考えることが浸透しており、グッドパッチの重要なカルチャーとなっています。

おわりに

いかがでしたか?本記事では、デザインを学び始めたばかりのデザイン入門者向けにおすすめな動画を5本セレクトしました。今回ご紹介した動画は無料で公開されており、1本10分弱で見終わるので気軽にデザインについて学べます。

ティム・ブラウンの「DESIGN’S TOO IMPORTANT TO BE LEFT TO DESIGNERS(デザインはデザイナーだけに任せるには重要過ぎる)」の言葉が物語るように、デザインには力があり、デザイナーだけが扱う限られたものではありません。ビジネスパーソンもデザイン思考を身につけることで、問題解決・価値創造に有効な手法を得ることができます。

個人的に、デザイン思考は、筋トレのように日頃から意識して継続的にトレーニングしなければ、効果を得にくいものだと考えています。デザインは理解するだけではなく、実践することによって血となり肉となります。この動画で新たに発見したことを、日々の仕事に取り入れて活かして頂ければ幸いです。

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