みなさんは「契約」と聞いて、なにをイメージしますか?多くの方が「契約書」を思い浮かべるのではないでしょうか。もしかしたら、堅苦しさや自由な活動に制約をもたらすものというネガティブなイメージをされる方もいらっしゃるかもしれません。企業においては、法務部をはじめとする専門部署の管轄で、できれば効率化したいタスクと位置づけているケースも少なくないようです。

そうした中、革新的なプロダクトを開発されたのが株式会社ContractS(旧:Holmes)さん。創業者であり代表取締役CEOの笹原健太さんは「企業の事業活動は契約で成り立っています。切り離すことのできない表裏一体という意味では契約は事業そのものであり、人の健やかな成長に欠かせない大動脈のようなもの。「わたしたちが提供するプロダクト『ContractS CLM』(旧:Holmesクラウド)で契約をマネジメントすることは、曖昧で不確実性の高い社会において、事業に成長をもたらす確かな戦略なんです。」と話します。

しかし、Goodpatchにご依頼いただいた頃の笹原さんには強い焦燥感があったといいます。当時の状況や、Goodpatchがブランドデザインを共創させていただいた現状までをお話しいただき、デザインの可能性や力について考察します。

お話を伺った方:
株式会社ContractS 代表取締役CEO/創業者 笹原健太さん

Goodpatch
Brand Experience Planner 岩田
Brand Experience Designer 米永
Design Director/Senior Manager 大山

プロダクトの本質的な価値が誰にも伝わっていないという危機感

—— 本日はありがとうございます。プロジェクトの立ち上げから現在までのお話を改めてお伺いできたらと思います。

笹原さん
資金調達にも成功し、支持してくださる企業やジョインしてくれる仲間も増えていたので、表向きには順調でした。でも、すごく焦っていたんですよね。プロダクトとしての「ContractS CLM」はどんな課題を解決するのか、なんのために存在するのかが曖昧で、本質的な価値が誰にも伝わっていないもどかしさがあり、実際、多方面でひずみが生まれていました。

株式会社ContractS 代表取締役CEO/創業者 笹原さん

—— 具体的にどのような状態でしたか?

笹原さん
プロダクトの方向性が定まらず、中長期的な戦略が描けていませんでした。そのため開発は市場ニーズを近視眼的に反映する機能ドリブンの磨き込みに偏っていましたし、セールスにおいては機能売りや競合状態にあった企業との価格競争に陥っていました。そうした状況に、いまは伸びているけれど限界がくる、どこかで頭打ちになるという危機感を募らせていたんです。Goodpatchさんとブランドの根っこを確固たるものにした今は容易に説明がつくのですが、プロダクトの世界観が描けていなかったことが原因でした。

—— 「契約」というアプローチで「紛争裁判をなくす」という思想はあったものの、「ContractS」というブランドやプロダクトの世界観が描けていなかったということですね。

笹原さん
そうなんです。原因もわからなかったので、自分ひとりの力ではこの状況を突破できないと感じていました。そんなときメディアで取りあげていただいた「ContractS」の記事に対し、土屋さん(Goodpatch CEO土屋尚史)が「このサービスは絶対に伸びる」とコメントしてくれて。それで僕から「一度お会いしたいです」と連絡したんです。といってもブランディングをお願いするという発想はなくて、UIを変えたら改善できるかもしれないという気持ちからでした。

お会いしたときには、プロダクトの理想や、現実とのギャップ、目指す戦略などを熱く語りました。土屋さんは共感してくれただけでなく、手間やコストを削減するサイニングサービスというポジションから脱却するという展望に対し、「間違っていないから絶対にやるべきだ」と力強く背中を押してくれたんです。そこから理想の実現に向けて、僕の想いや概念を、デザインの力で可視化してもらうという話になりました。

大山
笹原さんの挑戦は、Goodpatchの挑戦と重なるお話でもあったんです。具体的に言うと僕らは普段、ユーザードリブンのデザインでクライアントのビジネス課題を解決しています。クライアントがマーケットの常識やルールを覆すゲームチェンジャーとなるには、事業やサービスのビジョンやバリューを圧倒的かつユニークな世界観で描き、プロダクトに落とし込む必要があります。言い方を変えれば、概念(形のないもの)を実体感のあるものにする、すべてのステークホルダーが触れることのできるタンジブルなプロダクトに具現化することで、はじめて共感が生まれるという考え方です。それを実現するうえで、今後はより上流からの並走、事業のブランドコアやブランドバリューを共創するパートナーシップが必要になると考えていたんです。

Goodpatch Design Director/Senior Manager 大山

米永
そうなんです。UI/UXをデザインするうえで、戦略の上流にある事業やブランドのコアが揺らいでいると、デザインの力を最大化できないという課題感がありました。わたしたちのミッション「デザインの力を証明する。」を実現するためにも、上流の関わりまで領域を広げたいと感じていました。

Goodpatch Brand Experience Designer 米永

岩田
そういう流れにあったので、ContractSさんのプロジェクトにアサインされたときはワクワクしましたね。UI/UXデザインとは切り離し、ブランドコアのデザインだけにフォーカスするプロジェクトというのも新鮮でした。

Goodpatch Brand Experience Planner 岩田

突破口となった概念図が世界観を伝える大切なツールに

—— UI/UXデザインとアプローチが異なる中、どのような意識で臨みましたか?

岩田
プロジェクトデザインに関して言うと、3ヶ月のタームを3つのフェーズにわけました。ひとつ目は「ContractS 」を内側から理解する。「契約」についてGoodpatch社内でヒアリングをしたり、笹原さんやメンバー、「ContractS 」ユーザーへのインタビューを実施しました。次にワークショップを主催し、笹原さんやメンバーのみなさんとブランドやプロダクトのありたい姿をディスカッションし、視覚化や言語化をはかりました。そして最後に、伝わりやすい言葉へとデザインしました。

プロジェクトの細部まで緻密にデザインすることや、あらかじめ納品物のラインナップや形態を決めることは避けました。Goodpatchが普段から大切にしていることでもあるのですが、フレームワーク的な手法論にあてはめるのではなく、クライアントに寄り添ったフレキシブルなプロジェクトにしたかったんです。

米永
ブランドを担うのはわたしたちではなく、笹原さんやメンバーのみなさんなので、わたしたちの手法を押しつけたり、そこから無理やり導きだしたアウトプットを一方的に押しつけてはいけないと思っています。言語化できていないけれど、みなさんの中にすでにあるものを、みなさんで掘り起こしてゆく。そのためのプロセスや体験をデザインすることがわたしたちの役割なんです。

岩田
そのぶん時間も必要で、「Why=なぜ、そう考えるのか?」「Who=誰のためのプロダクトなのか?」「How=想いを、どう実現するのか?」を何度も問いかけさせていただきました。

米永
「ContractS 」が人なら、どんなキャラクター?といった投げかけなどもさせていただきました。

その一方で、みなさんの発言を構造化したり、図で可視化したり、抽象と具象を行ききしながら本質的なディスカッションにつなげ、目に見えないブランドのコアやバリューをデザインしていったんです。

笹原さん
僕がいちばん驚いたというか、これがデザインの力か!と感じたのが、「ContractS 」のあるべき姿を可視化した概念図でした。モヤモヤがクリアになりましたし、本質的な価値が伝わらなかった理由もよくわかりました。というのも僕は、「ContractS 」のバリューを語るときに「契約書」という「点」の話と、「事業と表裏一体の「契約」をマネジメントする」という「線」の話を同じ次元で語っていたんです。でも「点」と「点」の間には時間軸がありますし、ひとつの「点」がステークホルダーとの関わりで構造化する部分がある。そして、それらが事業と表裏一体の「線」となる。そのすべてをマネジメントすることでクライアントの成長をリードすることが「ContractS 」の目指す世界観なのに言語化できてなかったんです。僕の頭の中だけにあったイメージを概念図で可視化してもらったことでブランドの解像度がいっきにあがり、言語化できるようになったんです。

実際に作成した概念図

米永
ありがとうございます。あの図をつくることが目的ではなく、わたしたちの理解は正しいですか?という確認をとりながらディスカッションを前進させるためのツールとしてご用意したのですが、すごく喜んでいただいて嬉しかったです。

岩田
チームの共通認識がディスカッションの前提となるので、クオリティよりもスピード重視、なるべく早い段階で提示しようと思っていました。笹原さんの頭の中にあったイメージとズレがなかったのは嬉しかったですね。

笹原さん
ディスカッションのためのツールというお話でしたが、実はいまでも活用しています。新入社員のオンボーディングで僕は1時間ほど話しますが、あの概念図からはじめますし、メンバーと認識をあわせるために定期的に行うセッションでも必ず使います。

米永
ありがとうございます。逆に、わたしたちが驚かされたのは、みなさんの熱さでした。ブランドデザインには想いの強さが大きく影響するので熱いチームだといいなぁと期待していたのですが、想像を超える熱量に圧倒されました。

岩田
そう。それと「ContractS 」のユーザーさんにインタビューさせていただいたときに「プロダクトの機能よりも、社員のみなさんの熱さや、わたしたちの事業の成長に全力でアジャストしてくれるスタンスに共感している」という声が多かったんです。僕はそこにものすごく可能性を感じました。想いの源泉に確かなバリューがある。僕らはそれを可視化していくだけでいいんだなって。

プロダクトは目指す世界観を構成する魅力的な登場人物

—— 最終的に、どんなアウトプットにいたりましたか。

大山
インナーに向けたミッションステートメントやロゴの意味、プロダクトを一言で表現する言葉、営業ツール、ブランドへの想いを書き込むボードを共創させていただきました。

ステートメントは社外に向けたものと社内に向けたものであり方が変わりますが、今回は社内に向けたもの。創業者である笹原さんの想いを共有し、株式会社ContractSで働く方がいつでも立ち戻ることができる土台を目指しました。創業者の想いは一部の人だけでなく、すべての人に同じ熱量でバランスよく伝わるものでなければなりません。バランスが悪いと会社が土台から傾いてしまうので。そのため外部のコピーライターをアサインし、客観的で偏りのない視点でステートメントを策定してもらうことで最適なバランスを追求しました。

米永
ロゴの意味は、ロゴを策定した際につくるのが一般的ですが、明文化されていないとのことだったので、このタイミングで言語化することをご提案しました。ロゴに限らず、すべてのアウトプット、たとえばプロダクトの機能ひとつとっても、ビジョン、ミッションの実現につながっているのが理想です。いわば「ContractS 」の主張、すべてのアウトプットを笹原さんの想いやストーリーにつなげたいと考えました。

ステートメントもロゴの意味も、キャッチーなものではなく、地に足のついた言葉を目指しました。説明的になりすぎず、初見で見た方にもパッと伝わり、共感してもらえる言葉です。そこに向けて、コピーライターにはインタビューやワークショップで抽出したものを事前にインストールし、ディスカッションにも同席してもらいました。それから、目指す世界観に近いビジュアルエレメントをコラージュしたムードボードを作成し、方向性やトーンがブレないようにナビゲートしながら複数案を開発してもらい、ContractSさんと一緒に検証を重ねながら形にしました。

笹原さん
想いと密接につながった言葉なので強くて柔軟性があると感じています。HPをはじめとするメディアに自分たちで展開してますが、土台がしっかりしているためアウトプットの場や目的にあわせてカスタマイズするうえでも迷いが生じませんし、表現を変えてもブレないんです。ブランドをデザインするって、こういうことかと実感しています。

—— ブランディングの効果は感じてらっしゃいますか?

笹原さん
ものすごく感じていますね。いちばん大きいのは競合を意識しなくなったこと。新しい機能を実装するうえでも、セールスにおいても、他社との比較ではなく「ContractS」の世界観をもとに判断できる状態になりました。メンバーの意識が変わったのも感じられます。数字的なところでは受注単価が大きく向上しました。「契約書」の作成や管理にフォーカスした限定的なサービスよりも、クライアントの成長をリードする包括的なサービスへのアップセルが自然にできているんです。限定的なサービスしか受注しないと、仲間から「あれ?世界観を伝えきれなかったの?」というツッコミが入るほどです(笑)

米永
競合比較がなくなったというのは驚きです。つまり圧倒的差別化が実現したということですよね。すごい。もともと競合と差別化ができていない、というお話があったので。

岩田
ありました。すごいことですね。
いまのお話で嬉しかったことがもうひとつ。組織に新しい文化をつくっていけそうな兆しが感じられたのが嬉しいです。プロダクトのブランドデザインだけでなく、組織文化の芽を育むことができたのかなって。

大山
世界観で勝負する、なにで戦うかが明確になったというのは、今後のポジショニングという観点でも素晴らしいことですね。ビジョンドリブンで事業やプロダクトを成長させるというアプローチは、今の世の中にも、とてもフィットしていると感じます。

笹原さん
ありがとうございます。一方で、思考停止に陥らないように注意したいとも感じているんです。プロダクトを一言で説明する言葉として「契約マネジメントシステム」をもらいましたが、わかりやすく、伝わりやすいからこそ、記号的に使わないように気をつけたい。「契約マネジメントシステムで、契約を最適化するんです」と言えば正解で、自動的に受注もできる、となるのは違うと思うので。みんなが世界観を本質的に理解し、体現する組織文化を根づかせられるよう、長期的に働きかけてゆく必要があると感じています。

岩田
長期的なアプローチは大切ですよね。僕たちもデザインしたものを納品して終わりとは思っていないんです。僕らが離れても組織が自走できる状態をデザインすることを目指しているので。そういった意思の表れが、プロジェクトがローンチした後のお披露目でした。社員総会でお時間をいただきましたよね。社員のみなさんの前で 思考やプロセスをプレゼンテーションしたうえで、アウトプットしたものをお披露目させていただきましたが、ここに至る経験を追体験してもらうことで共感や愛着を深めていただき、ブランドを自分のものにして欲しいという想いがありました。

米永
自走する組織に向けた経験のデザインは、わたしたちとしても力を入れていきたいところですし、ブランドづくりは長期戦ということを、今回のプロジェクトでも実感しましたので、これからも並走できたらと思います。

笹原さん
ありがとうございます。それでいうと、すでにGoodpatchのみなさんにお願いしたいことがあるんです。これから加速度的にプロダクトを増やしていく計画があるので、ぜひ力を貸してほしい。今度はプロダクトのUI/UXデザインも含めて。新しいプロダクトが増えてゆくと世界観がブレてしまう可能性もありますよね。

大山
ありがとうございます。事業は世の中をどうしていくか、どういう未来を創造するかという想いや構想がベースとなるもの。そして、それは自然と成し得るものではなく、サービスやプロダクトを通じて実現する必要があります。言い方を変えれば、サービスやプロダクトは実現したい世界における登場人物のようなもの。どのような人物を描き、どんなストーリーを紡いでもらうかが大切なので、これからも魅力的な人物がたくさん登場する世界観を一緒に創造できたらとても嬉しいです。

わたしたちにとっても大きな挑戦となったこのプロジェクトで、株式会社ContractSのみなさんとチームになれたことが本当に嬉しい。ありがとうございます。

笹原さん
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


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