ナレッジ・ノウハウ

AIエージェント時代のプロダクト作りの基礎知識「Agentic UX」とは?

昨今のAI技術の急速な進化により、ビジネスにおけるデザインのあり方が変化しています。AIが自律的にタスクをこなす「AIエージェント」が普及することで、デジタルプロダクトにおけるユーザー体験(UX)の考え方が大きく変わろうとしているのです。そのキーワードとなっているのが「Agentic UX」という概念です。

この記事では、次世代のAI体験設計とも言える「Agentic UX」について、注目されている理由やこれまでのUXとの違い、そしてAgentic UXを考える上で考慮すべきポイントなどを解説していきます。

今後、生成AIを取り入れたプロダクトやサービスを開発する際、必ずぶつかるポイントなので、デザイナーの皆さんはもちろん、新規事業に関わる方などもぜひ読んでみてください。

世界的に注目を集めるAIのトレンド「AIエージェント」とは?

生成AIのトレンドとして、今最も注目されている「AIエージェント」。これは、業務の目標を理解したAIがさまざまなツールを自動で使い分けながら、タスクに取り組む自律型のソフトウェアを指します。要するに「ユーザーが『〜〜をしたい』という意図を伝えるだけで、目的を達成するAI」ということです。

日本企業で取り入れている企業はまだ多くないと思いますが、アメリカを始めとする海外では様子が大きく異なります。

PwCが2025年5月に発表した調査レポート「PwC’s AI Agent Survey」によると、300人の経営層のうち、79%が「自社でAIエージェントを導入している」と回答しており、EYの調査でも、経営幹部のうち約2割が「1000万ドル以上をAIエージェントに投資している」と答えたというデータもあります。

AI企業のトップたちが、AIエージェントの可能性について言及していることもあり、このトレンドは近いうちに必ず日本にやってくるでしょう。アドビの各ソリューションを連携し、ユーザーの依頼に沿ってコンテンツの制作、配信やマーケティング施策を遂行できる「Adobe GenStudio」などが良い例ですが、AIエージェントを取り入れたサービスやプロダクトが次々と開発されることが予想されます。

しかし、生成AIやAIエージェントを組み込むプロダクトは、これまでのソフトウェアと同じような考えで作ってはいけません。

従来のソフトウェアとAIエージェントの違い

従来のソフトウェアとAIエージェントでは、「ユーザーの行動」と「ソフトウェア側の処理」、それぞれに違いがあります。

従来のソフトウェアは、ユーザー自身が複数の画面を遷移しながら、ゴールにたどり着くための操作(How)を一つひとつ実行する必要がある一方で、AIエージェントは、ユーザーから「やりたいこと(意図)」を受け取ると、AI自身が自律的にゴールまでの道筋(計画)を立て、必要なツールを駆使して複数のステップを実行します。

例えば「会社のホームページを作成して」というあいまいな依頼に対しても、AIが競合調査、要件定義、デザイン設計、実装といったプロセスを自律的に進め、ゴールへと導いてくれるのがAIエージェントの世界です。まさに、ユーザーに代わって実行を担う「デジタルな代理人」と言えます。

従来のソフトウェアとAIエージェントの違い

ユーザー側の操作が大きく減ることで、生産性向上などに大きな期待が寄せられているAIエージェントですが「弱点」もあります。既存のソフトウェアでは操作(ボタンを押すなど)をすれば、必ずユーザーが望む結果が得られるのに対し、AIエージェントツールでは、依頼の仕方や渡した情報によって、生成される回答(結果)が変わり、必ずしもユーザーが望む結果になるとは限りません。

そのため「ユーザーがAIにうまく意図を伝えられるようにする」「ユーザーが望む結果を得られるようにする」といった、従来のソフトウェアと全く異なるポイントが、価値や体験を左右するポイントになるのです。

AIエージェント時代のUX設計論「Agentic UX」 従来のUXデザインとの違いとは?

以上のように、AIエージェントにおいては、ユーザーの行動が「ソフトウェアを操作する」のではなく、「ソフトウェアに依頼する、任せる」というものになります。サービスとして求められる理想的な挙動や体験も一般的なソフトウェアと変わりますし、インターフェース(=画面)自体が不要になる可能性すら出てきているのです。

そのため、デザインの目的も「ユーザーが操作しやすい画面(インターフェイス)を作る」のではなく、「AIとのコミュニケーションをスムーズにし、ユーザーの意図を叶えるシステムを設計する」という形に変わります。ゆえに、これまでのUXデザインの発想とは異なる考え方が求められる──これがAIエージェント時代のUX設計論である「Agentic UX」という言葉が生まれた背景にあります。

Agentic UXと従来のUXデザインとの違い

AIエージェントの導入が進む欧米では、早いうちから2026年におけるUXデザインのトレンドについて「Agentic UX」を挙げる記事が多く、Agentic UXというキーワードが出てこなくとも、AI時代のUXとして「AIとの協働に最適な体験を考える必要がある」とする論調がほとんどです。また、ユーザーの依頼によってインターフェイスがリアルタイムで構成されるという、デジタルサービスにおける新たなパーソナライゼーションの姿も提唱されています。

「Agentic UX」はAI導入の成否を左右する

このようにビジネスやデザインにおける大きなトレンドになりつつある「Agentic UX」ですが、日本では諸外国と比べて生成AIの導入が遅れている現状があります。

Agentic UXでは、設計すべき対象がAIエージェントとの協働、すなわち「コミュニケーション」となることに触れてきましたが、AIエージェントをはじめとする生成AIの企業導入が進まなかったり、ユーザーに受け入れられない理由はまさにここにあります。導入に頓挫する代表的な3つの理由を見てみましょう。

まずは「有効な使い方が分からない」というもの。ユーザーがAIが何ができるのか、どのように指示をすれば良いのか分からず、活用しようというモチベーションがわかないという状態です。

次に「AIを信じきれない」という問題。システム側(AI)が出力した結果の根拠が不透明であるため、結果を信頼することができず、利用に及び腰になってしまうというもの。特に業務に使う場合は重要な問題で、「AIは責任を取ってはくれない」と感じて使わないユーザーも少なくありません。

最後は「結局、手作業に戻る」という問題です。AIエージェントが、自分の思惑を超えて勝手に作業を進めているように感じてしまい、不安になるため自分で作業をやってしまうという経験をした方もいるのではないでしょうか。

こうした課題の原因は技術ではなく「ユーザー体験」にあります。

AIを駆使する方法をユーザーに伝えること、AIを信頼できる存在にするためのやりとり、AIを制御できていることが分かる見せ方──これらは「AIとのコミュニケーション」と言い換えることができます。すなわち、デザイナーが得意とする「体験設計」で解決できる領域なのです。Agentic UXはAIエージェント導入の成否を左右する要素にもなるのです。

Agentic UXにおける「4つの設計観点」

Agentic UXにおける「4つの設計観点」

ここまで、Agentic UXが設計すべき対象は「AIとのコミュニケーション」にあることを説明してきましたが、特に導入課題で挙げたような「AIへの意図の伝達」「AIに対する信頼」「AIの挙動の制御」といったポイントが重要になります。それぞれの要素を解説していきましょう。

1.意図(Intent)

ユーザー側が出す指示やゴールは、明確なものであるとは限りません。AIがその意図を理解できていないと、出力される結果の質も下がってしまいます。指示をAIが理解可能な形に「翻訳」し、実行可能なタスクへと落とし込むためのプロセスが求められます。場合によっては、ユーザーとの対話によって意図を引き出すといった形も考えられます。この要素はユーザーとAIエージェントをつなぐAgentic UXの基礎になります。

2.環境(Environment)

意図を理解したAIエージェントが正しく動くためには、ルールやワークフロー、データ構造の設計が必要です。例えば、エージェントが自律的に動いていい範囲と、ダメな範囲を定めるといったルールづくり。これは後ほど触れる「制御」の要素に通ずるものがありますが、権限をフローを明確にすることで、予期せぬ暴走や誤作動を防ぎながら、目的を達成できる環境を整える必要があります。

3.信頼(Trust)

ユーザーが安心してAIにタスクを委任できるための、透明性・確認フローの設計です。「なぜAIがその判断をしたのか」というプロセスを可視化したり、重要な局面では人間が承認できる仕組みを設けたりすることで、「AIの出力結果を信頼できる」という状態を構築します。

昨今、AIエージェントにおいて「Human-in-the-Loop(HITL)」という言葉がよく出てきます。AIの学習サイクルに対して、人間が介入(参加)するという考え方を指すもので、AIの出力結果に対して人間がレビュー、修正、承認するといったインタラクションは「信頼感」や「制御感」を生むために必須の要素になると思われます。

4.制御(Control)

AIが自律的に動きつつ、人間がいつでも介入・修正できる操縦性の確保です。「環境」や「信頼」の項目で触れている対応も含め、完全にAI任せにするのではなく、人間が最終的な主導権を持ち、必要に応じて軌道修正できるという安心感が求められます。「車の自動運転においても、人間がハンドルを握っている状態」というイメージが分かりやすいでしょう。

AIエージェント時代に避けては通れない「Agentic UX」

Agentic UXは、AIエージェントの発展とともに重要になるトピックであり、プロダクト開発において今後、避けては通れない要素になるでしょう。とはいえ、技術がどれほど進化しても、それだけでは「使われるプロダクト」にはなりません。それはAIにおいても同じこと。AIの価値を届けるにはデザインの力が必要になります。

グッドパッチが創業以来培ってきたUXデザインの知見や体験設計のノウハウは、Agentic UXの基礎となるものです。AIデザインツール「Layermate」を子会社化したり、社員のほとんどがAIエージェント(Claude Code)を活用したアプリケーションの開発を行うなど、会社を挙げてAgentic UXの実践を進めています。

生成AIを組み込んだサービス開発、AIエージェントの導入促進といったテーマに興味やお悩みがある方は、弊社のAI専門組織「Gp-AX Studio(Goodpatch AI Experience Studio)」にぜひご相談ください。

AI時代の新しいプロダクト開発を伴走