2020年にサントリー食品インターナショナルがリリースしたヘルスケアアプリ「SUNTORY+(サントリープラス)」。健康経営を実践するために導入する企業が増えています。

「朝起きて水を1杯」「大股で堂々と歩く」「よく噛んで食べる」など、血糖・血圧・コレステロール・体脂肪対策になるタスクを実行していくことで、従業員の健康行動の習慣化をサポートします。

Goodpatchは、サントリープラスが構想段階だった2018年12月からプロジェクトに参画。アイデア創出からプロダクト開発、グロース、プロモーションまでを一貫して共創してきました。アプリのリリースから3年半が経った今、導入した企業が1000社に迫るなど飛躍的な成長を遂げています。

新たなフェーズを迎えつつあるサントリープラスですが、ここまでプロダクトが成長するまでには、さまざまな苦労があったと言います。プロダクトの進化の裏には何があったのか、Goodpatchとサントリー、それぞれにプロジェクトの裏側を伺いました。

【話し手(写真左から)】
東 琢人(ひがし たくと):サントリープラス プロダクト開発責任者
四方 彩香(しかた あやか):サントリープラス カスタマーマーケティングチームリーダー
小関 弾(こせき はずむ):Goodpatch UXデザイナー
石井 翔太郎(いしい しょうたろう):Goodpatch BX(ブランドエクスペリエンス)デザイナー

アプリをリリース、それからどうする? グロース支援を期待し、Goodpatchに依頼

──まず、自己紹介として皆さんが「サントリープラス」にどのように関わっているのか、教えていただけますでしょうか。

サントリー 東さん:
サントリーの東です。サントリープラスのプロダクトオーナー(PO)を務めていまして、主に企業担当者様向けの運用ツール「サントリープラスNavi」をGoodpatchの皆さんと一緒に開発しています。プロダクトオーナーとして、事業への接続も同時に見ています。

サントリー 四方さん:
サントリーの四方と申します。所属部署はデジタルマーケティング部で、カスタマーマーケティング(CM)の責任者を務めています。オフライン領域のコミュニケーションを担当することが多く、ファンミーティングなどのリアル領域を担当しています。

Goodpatch 石井:
Goodpatchの石井です。僕はブランドエクスペリエンスデザイナーという肩書きで、ブランドの観点から手を動かしつつ全体を見ています。相談役じゃないですけど、皆さんの壁打ち相手というか。とにかく、いろんなところに顔を出していますね。

Goodpatch 小関:
Goodpatchの小関です。今回のプロジェクトにはUXデザイナーとして参加していまして、今はプロダクトのエンハンスメントやカスタマーサクセスの戦略設計をしています。基本的にはプロダクトやサービスのUXを磨く役割です。

──サントリープラスは、2020年夏にリリースしましたが、その後もGoodpatchにパートナーをお願いしようとなったのは、なぜだったのでしょう。

サントリー 東さん:
サントリーは飲料メーカーということもあり、当時はアプリなどのデジタルサービスをグロースしていくための知見が、内部にあまりありませんでした。アプリのリリースにこぎつけたのはいいものの、そこからどう改善し、利用者数を伸ばしていくか。Goodpatchさんはグロース領域も得意ということで、引き続き見ていただこうと考え、継続をお願いしました。

サントリープラス プロダクト開発責任者 東さん

サントリープラス プロダクト開発責任者 東さん

リリースしてからが本当の勝負──ユーザーの反応を見て、アプリの修正に追われた2020年

──アプリのリリース後、まずは何から始めたのでしょうか。

サントリー 東さん:
最初は、インタビューやアンケートからユーザーの反応を見ることに集中しました。

Goodpatch 石井:
実際にどれだけの人が使ってくれているのか、データや数値は気になりますよね。細かい数字をみんなで追って、どんな施策を打っていくのか。仮説を立てて、テストして……といったことをずっと繰り返していました。

サントリー 東さん:
今思えば、アプリを出すまでの方が楽しかったと思うくらいです(笑)。リリースしてからの方がめちゃめちゃ大変で。自分たちの仮説で組み立てていた部分について、実際に使ってもらうと、思ったような評価が得られないところもやはり多くて。

Goodpatch 石井:
数値にはっきりと表れてしまいますからね。

サントリー 東さん:
リリース後半年くらい、2020年の間はひたすら「穴を塞ぐ」ような改善を繰り返していました。特に印象に残っているのは「健康ノート」ですね。自分がやった健康行動を蓄積して可視化する機能が、初期のバージョンではあったんです。

血糖、血圧、コレステロール、体脂肪の4つの健康課題に対して、自分がどれぐらいタスクをやったかっていうのを「体脂肪75プラス」のような形で表示していました。「体脂肪減少にいいことを75回やったよ」っていう意味なのですが、これがユーザーに全く伝わらなかったという。ユーザーの皆さんの反応を見て、見直した機能はたくさんあります。

──そこから現在に至るまで、大まかにはどのようにプロダクトの改善を進めたのでしょう。

サントリー 東さん:
不具合対応のような対処が終わったあと、2021年は利用ユーザーを増やすために、アプリの「体験価値」を磨き込んでいきました。

アプリ側の完成度が高まってきてからは、ビジネスをスケールさせるための施策にも注力するようになりました。それが大体2022年からです。企業の人事担当者の方に導入してもらうために、カスタマーサクセスチームを立ち上げたり、担当者が見るダッシュボードの「サントリープラスNavi」を別プロダクトとしてリリースしたりしましたね。

アプリの改修はまず「オンボーディング」から。新規ユーザーの離脱をいかに防ぐか

──体験価値の磨き込み、というのは、具体的にどういう点を改善したのでしょうか?

Goodpatch 小関:
まずは、ユーザーの初期離脱を防ぐための「スタートミッション」のようなものを作りました。価値を感じてもらうまでが、離脱のリスクが一番高いので。オンボーディングプログラムをアプリ内で行えるようにしました。

サントリー 東さん:
「歩数計機能」も大きな改修だったと思います。リリース時は敢えて省いたのですが、ユーザーの声を聞く中で、 やはり間口が圧倒的に広いのは歩数だと分かったので、追加しています。歩くのって、一番簡単な健康行動ですから。ただ、単なる歩数計と見られてしまうと、届けたい価値とずれてしまうので、そうならないように気を付けました。

2021年には「歩数計」や「スタートミッション」などの機能を追加した

Goodpatch 小関:
インタビューをして見落としている課題やニーズを見つけて、そこからみんなでブレストし、一段飛ばしたアイデアというか、面白いと思ってもらえるような施策を探すようにしています。

Goodpatch 石井:
アイデア出しは、サントリーさんとわれわれで一緒に考えて決めることがほとんどです。ミーティングでは毎回「もうこれ以上アイデアが出てこない」と思うまでやりますね。会議の後は大体干からびてます(笑)。

──アプリリリース後1年くらいだと、新規ユーザーもいれば、半年ぐらい使ってくれている方もいるような状況だと思います。ユーザーのペルソナが多く、施策を考える上で難しくなかったですか?

Goodpatch 石井:
確かにバランスを取るのが難しかったですね。新規ユーザーを増やすための改善によって、既存ユーザーが良いと思っている機能を削ってしまうんじゃないかとか。「こういう人にはこういう施策が刺さる」といったようにペルソナを分けて、考えたりはしましたが、なかなか大変でした。

Goodpatch BXデザイナー 石井

Goodpatch BXデザイナー 石井

サントリー 東さん:
長く使っていただいている方にもっと使ってもらうために、どうしても新たな機能を増やしたくなるんですが、このアプリは「シンプルさ」をコアバリューに据えています。そこをどう両立させるのかが難しかったです。

Goodpatch 小関:
それこそ「長期ユーザーに向けて、筋トレなどハードなタスクも導入してみては」といった議論もしました。同じことを続けると飽きてしまう人にどうアプローチするか。しかし、このブランドのコアはシンプルさ、簡単で身近な行動を続けられることなので。そこはぶれない方がいいだろうと。

また、インタビューを重ねると、長期ユーザーさんは同じ行動をやり続けることに意味を見出しているということが分かりました。アプリには、自分でオリジナルのタスクを設定できる機能もあるので、それでカバーできるという判断になった形です。

注力領域は従業員から「企業」へ。ビジネス課題の解決に着手

──2022年からは、企業の人事担当者向けの施策や機能に注力したということですが、方針を変えた背景を教えてください。

サントリー 東さん:
サントリープラスのビジネスというのは、アプリもそうですが、アプリと連動する自動販売機を社内に設置いただき、従業員の皆さまにサントリーの健康飲料を飲んでいただくという形で成り立っています。

ビジネスを伸ばすには、自動販売機の設置台数を増やす必要があるのですが、そちらが目標から乖離している状況でした。従業員の皆さんはサントリープラスを楽しく使ってくれている。ならば、次は企業担当者の方にもサントリープラスをもっと使っていただこう、となったというわけです。

──確かに。最後は従業員(Employee)の方に使っていただく、と考えれば「BtoBtoE」というか、本来は企業向けのサービスですもんね。

サントリー 東さん:
これまで、サントリーが自動販売機の設置を相談するときは、福利厚生の一環として主に総務の方に相談していました。しかし、サントリープラスは企業のヘルスケアサービスですから、相対するのは、人事や健康保険組合や保健師、産業医の方になる。彼らとコミュニケーションをする上での知見がほとんどない、というのが課題になりました。

最初は「とにかく顧客理解から始めよう」ということで、チームメンバー1人ずつに担当を決め、導入いただいている企業様を徹底的にフォローし、ニーズの理解に努めました。

──この段階では、Goodpatchはどういう関わり方をしていたんですか?

Goodpatch 小関:
管理アプリ「サントリープラスNavi」の改修です。別のベンダーさんが作った管理画面があったのですが、スピード重視で作ったものだったので、人事や企業担当者が使いやすいものに変えていこうと動きました。継続ユーザー率も高まってきたので、こちらに注力できるようになった形です。

管理アプリ「サントリープラスNavi」

管理アプリ「サントリープラスNavi」

──人事の方たちとコミュニケーションをした結果、どういったニーズがあることが分かったのでしょう。

サントリー 東さん:
さまざまな業種や職種の方にお話を聞きましたが、実はほとんどの企業で同様の悩みを抱えていることが分かりました。健康施策を行っても、健康意識の高い一部の人しか反応せず、多くの従業員は健康行動を「始めてくれない、続けてくれない」というものです。
また、健康経営を推進する担当者は、他の業務も多く抱えており、限られた時間の中でどうにか取り組みを行っていることも分かりました。

そこで、アプリの高い利用率や継続率をキーに「これまで続けられなかった人が続けられる」「手間をかけずに健康経営を推進できる」という点を押し出していくことにしました。

サントリー 四方さん:
私はこのタイミングで、カスタマーサクセス(CS)の責任者としてプロジェクトに加わりました。オンライン上の施策だけでなく、オフラインも含めたトータルでの体験設計、カスタマーサクセスを強化するためです。

──CS組織の立ち上げというのも、大きな変化ですね。

Goodpatch 小関:
人事への方へのサポートというのもいろいろで、「こういう情報を届ければいい」といった話はサントリープラスNaviでやればいいですが、オンボーディングなどで人的な支援が必要な場合もあります。そのためにCSチームが立ち上がりました。分担してオンライン、オフライン両面で支援をするという形ですね。

機能追加や管理画面の改修で営業が売りやすく。導入社数が1年で3倍以上に

──この時期で大変だったことや、印象に残っていることはありますか?

サントリー 東さん:
大変だったことで言うと、「歩こうフェス」というウォーキングイベントを開催できる機能をリリースしたことですね。

歩こうフェス

歩こうフェス

人事の方にお話を聞くと、社内で実施できる健康施策に対するニーズがありました。競合サービスを見ると、多くの企業さんでウォーキングイベントが行われていて、反響も良さそうだけれど、サントリープラスらしいイベントにするにはどうするか。施策作りもそうですし、チームも大きくなっていたので関係各所との連携に苦労しました。

無料で使える機能としてリリースし、幸い多くの企業さんに使ってもらえましたが、やはり課題や問い合わせがたくさん出てきまして(笑)。改修を重ね、2023年の春ぐらいに有料プランもリリースしたのですが、これがなかなか好評でした。サービスをバリューアップすれば、有料でも受け入れられるという手応えを感じました。

Goodpatch 小関:
ウォーキングイベントは人事のニーズがあったのもそうですし、イベントを通じてユーザーの継続率を伸ばせるのではないか、という狙いもあって意思決定した形です。東さんがお話しした「サントリープラスらしさ」を生むために、歩数の競争を楽しむだけではなく、自分のペースで歩くことも大切にしてもらえる工夫もしています。例えば、イベント期間中の自分の歩数が「富士山登頂に換算して何回分になるのか」の表示を出すなどですね。

イベントの画面に使われる言葉やビジュアルも、これまでブランド設計で石井などのBXデザイナーやUIデザイナーが構築してくれた言葉遣いやデザインガイドラインを基に、通常時もイベント時も統一された世界観でユーザーが体験できるようにしています。

Goodpatch UXデザイナー 小関

Goodpatch UXデザイナー 小関

──管理画面の改修や、さまざまな施策を通じて人事の方にアピールした結果、反響はどうでしたか?

サントリー 東さん:
ポジティブな評価をいただいたと思っています。人事の方に話を聞くと、PDCAに対する悩みが多かったんです。「データが見えないと、効果も成果も分からない」と。健康アプリを使って、社員が健康になってくれるのは良いことだけど、それだけでは「健康経営」とは言いにくい。データとして状況が可視化され、改善に向けて動かないといけません。

サントリープラスNaviであれば、従業員の利用率やタスクの実施数、歩数といったデータが分かりますし、「歩こうフェス」などのプッシュ型の施策もできる。結果として、人事の皆さんの関心も強くなった感覚はあります。

Goodpatch 小関:
機能や施策が強化されたことで、営業の方にとって売り込む「武器」になれたと思っています。無形のサービスを売る経験が少なかった方も、アピールポイントが増えたことで動きやすくなり、営業がしやすくなったと聞いています。導入企業数も大きく伸びました。

サントリー 四方さん:
そうですね。2021年末時点では導入企業が67社だったのが、2022年末には218社と3倍以上になっています。

ユーザーイベントを一緒に「デザイン」、オフライン施策もカバー

──1年で社数が3倍というのはすごいですね。カスタマーサクセスの面では、どのような施策を行ったのでしょう。

サントリー 四方さん:
今までサントリープラスNaviを中心にいろいろ機能を開発してきたので、2023年はプロダクト以外でのコミュニケーションも強化しました。

企業さまの健康経営に伴走するためハイタッチでのサポートを提供したり、ロータッチと言われるセミナーの提供も始めました。また、健康経営担当者を弊社オフィスにお招きしたリアルでのイベントを開催し、デジタルだけでは実現できない、カスタマーサクセスを提供してきました。こうしたチャネルごとの施策設計もGoodpatchの皆さんと考えましたね。

サントリープラス カスタマーマーケティングチームリーダー 四方さん

サントリープラス カスタマーマーケティングチームリーダー 四方さん

──オフラインイベントというと、ユーザーの交流会みたいなものですか?

サントリー 四方さん:
そうですね。「SUNTORY+交流会」という形で実施しました。サントリー田町本社で開催し、21社40名の担当者様にご参加いただきました。地方の方も多くいらっしゃったのはうれしかったですね、非常に好評でした。

オフラインイベントの様子

Goodpatch 小関:
ワークショップでテーブルファシリテーターみたいなことも皆でやりました。ワークショップでプレゼントする景品のデザインも、Goodpatchのデザイナーが手掛けましたね。

サントリー 四方さん:
交流会内でのワークショップは、ご参加された企業様のアンケートでも大変好評でした。「当社で抱えている課題と他社で抱えている課題が似ていること、それに対しての他社の取り組み事例などを直接伺う機会となり、大変勉強になった」「同じ悩みがあることを実感したり、こういうやり方もあるんだと気付きを得る場になりました」など、非常に前向きな声を多数いただきました。

当日のワークショップの体験も一緒にデザインしていただき、全てユーザーとの接点の1つとして捉えているんだなと感動しました。

徹底的にサービスとユーザーに向き合うから「当事者意識」が高い

──今回のプロジェクトを通じて、サントリーさんからGoodpatchのメンバーはどう見えていますか?

サントリー 東さん:
関わっているメンバー全員が、本気でユーザーと向き合ってくれていると感じています。やっぱりチーム全員がユーザーを見てないと、良い仕事やプロダクトって成り立たないと思っていて。そこはGoodpatchさんの強みの1つだと思います。

当事者意識の高さもそうですね。「どっちがサントリー社員でしたっけ」というくらい自分ごと化してくれますし、プロダクトだけじゃなく事業についても関心を持って、どこかデザインで解決できる部分がないかと常に考えていただいていますね。

サントリー 四方さん:
グッドパッチの皆さまは、全員が全ての仕事を自分ごと化してくださっていると一緒に仕事をしていて痛感します。プロジェクトチームに入ったばかりのころは、本当に自由に意見を言える環境に驚きました。まさに「偉大なプロダクトは偉大なチームから」のカルチャーを体現していただいていると思っています。

──「自分ごと」というのが、キーワードなんですね。

サントリー 東さん:
そうですね。本当に1つのチームとしてユーザーやプロダクトと向き合えているし、Goodpatchメンバーも「これは自分たちのプロダクトだ」って思ってくれているのが伝わってきます。

サントリー 四方さん:
Goodpatchさんは「一緒にやりましょう」と最後まで一緒に考えてくださいます。成果を出すためのチーム力を醸成してくださっているなと。

サントリー 東さん:
Goodpatchさんは担当領域の捉え方や当事者意識という点で、いわゆる「クライアントワーク」とは違っていると思います。一緒にプロジェクトをして、その意識やスタイルが「良いチーム」や「良いプロダクト」に繋がっているんだと実感しました。

──ありがとうございました。最後にサントリープラスの今後の展望について教えていただけますでしょうか?

サントリー 東さん:
みんなが楽しみながら健康と向き合えるのが「サントリープラスらしさ」だと思っているので、そこをさらに磨いていきたいですね。アプリのユーザーはもちろんですが、人事の方にも、「健康経営を推進するのが楽しい」と思ってもらえるようになったら最高です。

また、2024年はサントリープラスが事業としても飛躍する年にしたいです。最近はGoodpatchさんと営業資料のアップデートなども行っていますし、「事業のデザイン」をより強めていくフェーズに入るのかなと考えています。