「ポートフォリオって、どう作ればいいの?」デザイナー就活のプロに聞いてみた
「ポートフォリオ」
と聞くと、何だか不安になる就活生の方は多いと思います。
他人と比べられるのは怖い。自分の作ってきたものは通用するのだろうか。伝えたいことがありすぎてちゃんと伝わっているか不安、という方もいるかもしれません。
今ではデザイナー就活でほとんどの企業が提出を求める「ポートフォリオ」。まずはポートフォリオから……と、就活の手始めに取り掛かる学生が多い一方、ポートフォリオへの悩みもよく聞かれます。「どんなポートフォリオを作ればいいか」に答えはあるのでしょうか?
今回はそんなポートフォリオにまつわる不安と誤解を解消すべく、デザイナー就活支援サービス「ReDesigner for Student」のキャリアデザイナーとして、これまで数多くの学生に向き合い、ポートフォリオも見てきた田口さんにアドバイスを聞いてみました。
目次
ポートフォリオで失敗しないために必要なこと
──田口さんは、芸術大学の大学職員からキャリアデザイナーという経歴ですよね。大学勤務当時、デザイナー就活を見ていて課題感はありましたか?
田口:職員をしていたころから、学生の「大学での評価」と「社会での評価」とのギャップに違和感を抱いていました。学校で優秀とされている学生でも、なかなか内定が取れないケースが多かったんです。
理由はさまざまでしたが、ポートフォリオの例で言えば、プロセスがなく、クリエイティブを載せただけのものになっていたり、逆にほぼ企画だけのものになっていたり。自分がやってきたことや、伝えたいことをうまく表現できていない例が少なくありません。
──具体的にはどういうことでしょう。
田口:例えば、かわいい動物のイラストデータが掲載されていて、そのクオリティが非常に高いものだったとしても、それが「小児病棟のエレベーターホールを降りた瞬間に目に入るホスピタルアート」であることを伝えていないと、見る側が「かわいいか、かわいくないか」でしか判断できません。
さらに、そこに病院ならではの「やってはいけない表現」なども明記された上でプロセスが載っていてはじめて、製作者側の思考や意図が伝わる。作品を見る側の好みやセンスだけに委ねずに済むようになります。
──なるほど。作品に込めた意図や、制作の背景をていねいに書く必要があるということですね。
田口:「アートやデザインに正解がない」というのと同じように、「ポートフォリオに正解はない」という雰囲気もありますが、僕は“ある程度はある”と考えています。ある地点から先は正解がないとしても、土台として押さえねばならないポイントは同じじゃないかな、と。
特に就活においては、ゴールが分かりやすいです。「不特定多数の人に、自分のやってきたことを理解してもらう」ことを目指すのが、最低限築くべき土台だと思います。その上で、魅力を感じてもらったり、面白いと思ってもらったりする必要があるわけですが、それはまず土台が出来上がってからの話かな、と思っています。
今、僕はいくつかの美大でポートフォリオの授業を任せてもらっているんですが、授業の最初に伝えるのはこの辺りのことです。ポートフォリオは始めから完璧なものを目指すのではなく、ざっくり「理解してもらえるものにする」「魅力を感じてもらう」「自分らしさを感じ取ってもらう」という三段階くらいに分かれていて、壊しながら積み上げていくものかなと考えています。
ポートフォリオは、とにかく他人に見せまくってブラッシュアップするべき
──就活は特にそうですよね。まずは自分のことを知らない人に自分自身のことを知ってもらうという。
田口:はい。だからこそ就活生の皆さんには、自分が作ったものを友達に見てもらいながら説明したり、一旦、適当にでもポートフォリオの形で、レイアウトを組んで誰かに見てもらうことをやってほしいと思っています。それが制作物に「客観性」を与えることになりますし、就活をやりきるための練習になるので。
──ES(エントリーシート)なども、他人に見てもらった方がよいと言いますもんね。
田口:それと同じですね。もちろん、制作物を見せるのは怖いと思います。就活というのはそれに加えて、誰かと比べて評価されてしまう。しかし、だからと言って、自分ひとりでポートフォリオ制作に取り組み、就活解禁日を待っていきなり知らない人にポートフォリオを見せる方がとんでもないリスクです。
それで「思ったより伝わらないな」と実感して、自信を無くしてしまったり、かと言って今から作り直すのは難しいと右往左往した結果、つくるのがすごく好きだったり、上手な人でも「自分はデザイナーに向いていない」と諦めてしまう方を見てきました。本当に残念なことです。
美術大学や芸術大学の学生は、「自分の表現を突き詰める」ということを叩き込まれてきている人が多い。個性での勝負をしてきた人からすると、やっと応用専門演習の課題をいくつかこなしたばかりの3年生の夏くらいから、急に社会に合わせて自分を変えることを求められるわけで、戸惑いを感じやすい構造になってしまっていると思います。
──戸惑い……ですか。田口さんは日々多くの学生と話す機会があると思いますが、学生は就活に対してどんなイメージを持っていると感じますか?
田口:就活といえば「企業研究をして、対策を打つもの」というイメージを持っている人は多いと思います。見渡せば、世の就活対策本や就活サービスには、企業研究や面接対策といったコンテンツがあふれていますよね。
でも個人的には、企業の対策ってそんな簡単にできないと思うんです。学生が見れるのは、その企業が「これまで」やってきたことやイメージであって、これから先、その企業が何をするのかを分かっているわけではない。
食品メーカーが、包括的なヘルスケア領域に踏み出してデジタルサービスを始めたり、大手のコンシューマゲーム企業がCG映画を作ったりするわけです。だから、何となくのイメージで対策しても、むしろミスマッチになるケースがあります。だからこそ、デザイナーを目指す学生には、自分の作品や考えを正しく伝えることに注力してほしいですね。
ポートフォリオ制作は、作品の幅や自分の可能性を広げるためにある
──デザイナー採用では、ポートフォリオの提出を課す企業が一般的です。ポートフォリオの作り方について、学生にどんなアドバイスをしていますか。
田口:セミナーや授業などでは、まずは学生にこれまで作ったものを全部見せてもらっています。ポートフォリオ形式になっていないデータの状態でも良いので、作品を見せてもらいながら、制作時に何を考えていたのかを聞くなど、作っているものの共通点を探っていくような、対話を心がけています。
──どんな作品を載せるかの前に、まずは棚卸しから始めるのですね。
田口:そうですね。個人的には、そもそもポートフォリオ作りが就活のためだけになってしまっている現状がもったいないなと感じていて。
──どういうことですか?
田口:自分がこれまで作ってきたものを並べて眺めながら、自分の特性に気付く。ポートフォリオ制作では、そのプロセスが大切だと思います。そして、先ほど話した通り、それを自分ひとりだけで終えてしまわないのがポイントです。
「こういうイラストって、こういうロハスフードのパッケージとかブランディングに合いそうだよね」という話をすれば、次の課題制作は、単なるイラスト制作ではなくロゴの設計まで手を出せるかもしれない。「つくっているものがいつも若い女性向けっぽいけど、プロダクトデザイナーとして考えるとそれはどう?」と投げかけてみると、次のサービスは壮年層向けに作ってみようと思えるかもしれない。
こういう問いかけは、就活のためというよりも、より良いものづくりをするための投げかけにできるといいなと思っています。その上で、「こういうことができるのなら、こんな企業もあなたを求める可能性があるのでは」というような形で進路の話をしています。
──制作物をもとに他人と対話をすることで、思考や作品の幅を広げられると。
田口:就活的に言えば「自己分析」なのかもしれませんが、とにかくリフレクションが大事。自己分析って「自己」というワードが入っているせいで、「一人で完結するもの」というイメージがある人もいると思いますが、絶対誰かと一緒にリフレクションした方がいいです。
リフレクションを通して、自分の手癖や思考の癖に気づき、意図的に自分の作るものの幅を広げていくきっかけを得られるところに、ポートフォリオ制作の価値がある。だから、個人的には、総合職就活をする学生にも、やってきたことの実績をまとめたポートフォリオ制作が浸透するといいなと思っています。
ポートフォリオはレイアウトも重要、面接での使い方は?
──ポートフォリオ制作が自己分析につながるというのは面白いですね。棚卸しが終わり、ポートフォリオを企業に提出する前には、どんなアドバイスをしていますか?
田口:基本的なことですが「読みやすさ」ですね。作品を伝える最適なレイアウトは必要です。
エディトリアルデザインに深く触れてこなかった学生の中には苦手意識がある人もいますが、ポートフォリオをつくる以上、レイアウトへの気遣いは必須だなと最近思い直しています。最初に話した「不特定多数の人に、自分のやってきたことを理解してもらう」ための条件に入ります。
ぶっちゃけてしまうと、レイアウトができなくてもいいのは、クリエイティブがぶっちぎりにいい人だけですよ。作品さえ見てもらえば、全員を納得させられる人。プロセスもコンセプトを伝えなくても良い、圧倒的なクオリティがあるか、あるいは作品を見るだけでプロセスやコンセプトを想像させられるビジュアルがある人だけです。でも、そんな人はあまりいません。
──レイアウトも、「自分がやってきたことを伝える」手段の一つというわけですね。
田口:UIデザインのポジションを受けるなら、UIの作品を最初に持ってくるなど、ちゃんと相手の意図しているものと噛み合う内容にするのも意識しておきたい点です。最初にお互いのボタンが掛け違ってしまうのはもったいないので。
良いレイアウトをつくるには、「これをちゃんと伝えたい」と思えるような作品があることが前提になるため、先ほど話したようなリフレクションのプロセスがここでも生きてきます。
──デザイナーとして大事な部分でもありますね。面接でもポートフォリオ内の作品について解説を求められることが多いと思いますが、伝える際のアドバイスはありますか?
田口:最初に「すでにご覧いただきましたか」「どの作品の話が聞きたいとかありますか」などと面接官に投げかけるといいと思います。面接官がポートフォリオを見ているかは企業によってバラバラで、事前にとても丁寧に確認する企業もあれば、忙しい現場デザイナーが面接に来てくれていて、あまり目を通せていないケースもあります。まずは相手と前提条件を揃えましょう。
その上で、「見てますよ」と返されたら「どれに興味を持って面接に呼んでいただいたのでしょう」と続けながら、徐々に作品の話に寄せていけば良いですし、「見てません」と言われたら、その会社にとって魅力を感じてもらえそうな作品の概要をざっと話すところから始めれば良いと思います。
「プロデュースしてもらう」くらいの気持ちで、ポートフォリオでは自分の全てをさらけ出す
──最近は、ポートフォリオに載せる作品をすごく絞っている学生さんも多いように見受けられます。Goodpatchでは「UI作品以外は載せないほうがいいですか」と質問を受けることもあります。
田口:個人的には、自分のやりたいことだけを押し出しすぎなくてもいいんじゃないか、とも考えているんですが、逆に人事としてはいかがですか?
というのも、相手企業が最低限求めていそうなものは提示しつつ、自分がこの会社でどんなことができそうか、会話の中で見つけてもらうこともあると思うんです。「こんなことが向いているかもしれない」と相手にプロデュースしてもらうというか。自分がどんな活躍ができるかを全部解説できる人はいないので、自分が持っているものを幅広く見せて損はないと思いますね。
──幅広く見せたほうがいい、というのは同感ですね。人となりを想像しやすいので、私は「UI以外にも、スケッチや写真などもぜひ載せてください」と伝えますし、「意外とこんな部分もあるよ、というものがあれば教えてもらえませんか?」と作品の解釈や可能性の幅を広げるようなやりとりをしている気がします。ポートフォリオを見る側の採用担当者に伝えたいことはありますか?
田口:そうですね、最初から自分の活躍しどころを自ら言語化してプレゼンテーションできる人はなかなかいないので、どんな活躍ができそうか、まだ見えてない可能性を見出していくスタンスで会話してもらえたらいいなと思います。とはいえ、それをきちんと言語化できる学生に来てもらいたい、という企業もあるので一概には言えませんが。
でも、逆にそういう企業は「こういう人に向いています」とか「こういう人材を求めています」とはっきり示す責任がありますよね。作ったものだけで見るのではなく、「こんなこともできるのかもしれない」という視点でポートフォリオを見る人が増えるといいなと。
──ありがとうございました。最後に、就活でポートフォリオ制作に取り組む学生さんに伝えたいことはありますか?
田口:まずは手を動かして作ってみて、と伝えたいです。ポートフォリオにまとめるのが難しければ、フォルダに入っているデータを誰かに見てもらうのもいいと思います。
ポートフォリオに完成はありません。一度作って終わりではなく、いろんな人に見てもらい、何度もアップデートしていくものだと考えれば、まず手を動かしてみるハードルも下がるのではないでしょうか。いきなり100点のものを目指さなくて大丈夫。最初は30点でいいので、ぜひスタートしてみてほしいです。