仮説の確からしさを調べる検証型のリサーチではなく、仮説を「つくる」ための探索型リサーチ──。
こうしたコンセプトを掲げ、グッドパッチは2022年6月、探索型リサーチ「Insight Research」の本格提供を開始しました。
先日、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスである「RESEARCH Conference 2023」にて登壇の機会をいただき、約1年間さまざまな探索型リサーチプロジェクトを行って得た学びを詰め込んだ「GUIDE」というアプローチ方法をご紹介しました。本記事では、その内容をご紹介します。
なお、登壇した際の資料はこちらをご覧ください。
目次
道なき道に光を照らす、探索型リサーチの道標「GUIDE」とは?
GUIDEを簡単に説明すると、2〜3カ月の探索型リサーチプロジェクトを行う上での「道標」のようなものです。
フレームワーク化して妄信的にプロセスを追うことを後押しするためのものではなく、行ったり来たりすることも想定した、あくまで道標という位置付けで作成しています。
「GUIDE」の全体像は以下の図の通りです。
- 「G」oal:着地点を明確にする
- 「U」ntangle:既知と未知を整理する
- 「I」nsight:洞察を得る
- 「D」irection:方向性を決める
- 「E」ntrust:信じて託す
の5つの単語の頭文字を取り、GUIDEと名付けました。
探索型リサーチは道なき道を進む、ダイビングで海に深く潜る行為に似た部分があります。ダイビングの際に隊列の先頭にいて、メンバーを先導する。そんな「ガイド(GUIDE)」と呼ばれる存在というのも名前の由来になっています。
Insight researchでの実際のプロジェクトでも、GUIDEに従い、クライアントメンバーとGoodpatchメンバーが一緒に進んでいきます。ここからはGUIDEの5つの要素を説明していきましょう。
Goal:着地点を明確にする
1つ目の「Goal」は、リサーチプロジェクトで到達する着地点・実現することを明らかにする段階です。具体的には、以下の3つのステップがあります。
①個別ヒアリング
プロジェクトメンバーや関係者へ、プロジェクトへの思い・期待値を個別にヒアリングする
②組織の方向を再認識
企業理念や中期経営計画、事業部方針など、組織として向かう方向をチーム全員で再認識する
③着地点の言語化
リサーチ後の着地点をチームで言語化して合意し、同じものを目指せるようにする
着地点を言語化するために大切なことは2つあります。1つは「組織の将来像を踏まえ、KGI/KPIあるいはOKRなど、組織として定めた指標に紐づいたビジネス視点での言語化を行うこと」。もう1つは「施策や方向性は、プロジェクトを進めながら決定すること」です。
例えば「アプリを作る」「パンフレットを作る」といった施策の方向性は、プロジェクトを進めながら検討するという形です。施策を最初に決めてしまうと、視野が狭まった状態でリサーチプロジェクトを進めることになり、効果が半減してしまうでしょう。
Untangle:既知と未知を整理する
次の段階は「Untangle」です。Untangleというのは、絡まったものを解くという意味があります。
リサーチプロジェクトの開始時は、今チームや事業がどういうフェーズなのか、そして何が分かっているのかすらも分かっていない、そんな「絡まった」状態であることが多いです。
GUIDEにおいては、以下のステップを通じて、自分たちの「居場所」を理解し、過去のリサーチや経験などから「分かっていること」と「分かっていないこと」の整理と理解を行います。
①フェーズの明確化
以下のフローチャートを参考に、検証型と探索型のどちらのリサーチをするべきか、フェーズを見極め決定します。
②既知の可視化
既知の可視化は、何が分かっていて、何が分かっていないのかをチーム全員で認識を合わせることが目的です。そのためにはまず、分かっていることの整理から始めます。過去のリサーチや公的な調査資料など、材料は各所に散らばっているため、整理する必要があるのです。
また、事業領域に関わる思考や行動の背景となりそうなことを幅広くインプットすることが大切です。過去からの流れも踏まえた文化的背景や、未来につながる変化の兆候とその背景も理解していきます。ここでのインプットが、後の分析フェーズでの仮説立てをより深く、精度の高いものにする効果もあります。
一例ですが、飲食に関わる新規事業を企画する調査プロジェクトを行った際は、過去に実施していたユーザーへの定量・定性調査を分析し直したほか、日本の食文化についての歴史や、近年の生活の変化がどのように食生活に影響を与えているのか、といった論文も参考にしました。
Insight:洞察を得る
次はInsightです。Goal、Untangleで明らかにしたことを基に、「問いの設計」「リサーチ設計」「実施・分析」という3つのステップで進めていきます。
①問いの設計
「Goal」で言語化した目的と「既知の可視化」を基に、調査における問いを立てます。ポイントはユーザーの立場で「問い」を言語化することです。
②リサーチ設計
リサーチ手法やリサーチ対象など、リサーチの具体的な内容を設計していくステップです。ここでは「メンバー間で認識を合わせるため、設計はチームで進めること」、そして「設計を進めながら『問い』を振り返り、間違っていたら修正すること」の2点を意識しましょう。
③実施・分析
インタビューや行動観察などの調査実施と分析を行うステップですが、このステップは2セット以上行うことをおすすめします。その理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は「リサーチの質が向上すること」です。調査を行う中で、調査そのものの課題を見つけたり、分析で得た洞察で深掘りしたい点が見つかったりすることは多いです。それを2セット目の実施に生かすことで、調査の質は大きく上がります。
また、調査の実施と分析を一通り行うことで、流れが分かり、2セット目で積極的に参加し、意見を出す関係者が増えるケースも少なくありません。
これが2つ目の理由である「リサーチの価値を実感してもらいやすくなる」につながります。1セット目と2セット目で設計を変えることで、設計がどれだけリサーチの意味や質に影響を与えるか体感しやすくなります。
「これまでたくさんリサーチをやったが、結局何にもつながらなかった。リサーチは意味がない」と思っている方もいるかもしれませんが、こうしたステップを踏むことで、リサーチ自体に価値がないのではなく、「的確な設計・実施・分析が行われなかったリサーチには価値がない」のだと理解してもらえるでしょう。
GUIDEにおいては、1セット目の実施・分析が終わった段階で、再度「検証型と探索型のどちらのリサーチを行うのかを決める」というフェーズにまで戻ることもあります。それだけ、問いの再設定をすることが大切なのです。
Direction:方向性を決める
Directionは洞察を基に着地点までのアクションを決める段階です。ここで十分に時間と労力をかけてもうまくアクションが出ない場合、Goal・Untangle・Insightのいずれかの段階に戻ってください。どこかに足りない部分がある可能性が高いです。
このフェーズで行うことは、以下の3つです。
① アクションアイディア洗い出し
洞察に基づき、実現性などの制約は考えずにアイディアを発散させる
② 優先順位決め
アイディアの優先順位を決める軸を決め、優先順位をつける
③ タスクへの落とし込み
何を(What)・いつまでに(When)・誰がやるのか(Who)の粒度までタスクをリスト化する
Entrust:信じて託す
最後はEntrust。どのような洞察を得て、どのような思考プロセスでアクション案に至ったのか、記録に残し伝える段階です。
伝える相手は、他部署や経営層といったアクションを実現するための巻き込み対象だけでなく、将来の自分たちも含みます。アクションがうまくいかなかった場合に、将来の自分たちが立ち戻れるようにすることも大切です。
このフェーズで行うのは、①リサーチレポートの作成、②レポート・リサーチデータの保管、③(必要な場合)巻き込みワークショップの実施 の3つです。
特にリサーチレポートは、今後行われるかもしれない別のリサーチプロジェクトを見据え、以下のような点に注意して作成しましょう。いずれもリサーチが「ナレッジ」として生かせるようにするために必要なことです。
- 個票も作成し、できるだけ具体的内容も理解できるようにする
- 最終の結果だけではなく、どのような洞察と思考プロセスでアイディア案の優先順位が決まったのかの記録を残す
- フォーマットを作成し、誰がまとめても同じ内容が残るようにする
③の巻き込みワークショップの実施については、アクションの実行を実現するために、他の部署や承認者の巻き込みが必要な場合に効果的な手段です。
リサーチの結果だけを伝えるのではなく、一次情報に触れ、自分の中で洞察を得て、アイディアを考えるリサーチプロジェクトの体験を追体験できるようにするという観点で、ワークショップという手法が有効になります。
「ユーザーを理解する」とは、関係者まで含めた過去・現在・未来の「価値」を探索すること
この1年、さまざまなリサーチプロジェクトを進める中で「ユーザーのことを理解しなければ」という言葉を何度も聞いてきました。
GUIDEでは「問いに立ち戻る」ことを重視していますが、私たちは「本当にユーザーのことを理解できているのか」と自問し続けなければなりません。
例えば、ユーザー「だけ」を理解すればいいのでしょうか。本当に理解しようとするなら、周囲の人まで範囲に含めなければ。仮に患者さんがユーザーであれば、ご家族やその症状の専門家を理解することを重視しています。
彼らの「今」だけを理解すればいいのでしょうか。彼らの価値観を理解するためには「過去からの文脈」や「未来へのつながり」を知る必要があるでしょう。普遍的な価値観と変化する価値観、双方を知ることで、今後も影響する要因の理解や、何があると変化していくのかを理解することもつながり、洞察を得る上で重要なヒントになります。
Insight Researchにおいて、ユーザーの理解というのは「潜在部分も含め、人が何を求めていて何を価値と感じるのか、それに対し、自分たちのアセットを使って、どういう形で価値を届けられるのかを理解する」ということだと考えています。
つまり、探索型リサーチの本質は「価値の探索」に他なりません。これを心に置きながらプロジェクトを進めているのです。
というわけで、長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
この記事が、そして「GUIDE」が少しでも探索型リサーチを行うヒントになればうれしいです。
Goodpatch Blogでは今後、それぞれの段階の詳細を説明する記事も発信していく予定です。お楽しみに。
また、探索型リサーチに興味を持っていただいた方に向け、並走型探索リサーチプロジェクト「Insight Research」の資料や、問い合わせ窓口もご用意しております。お気軽にご連絡いただければ幸いです。