はじめに

この記事はGoodpatch Design Calendar 2021の17日目の記事です。

サービスやプロダクトを検討しているときに「今考えているものって本当にユーザーの普段の業務や生活の中で受け入れてもらえるかな…?」「自分たちが掲げている仮説はユーザーに正しく伝わるのだろうか…?」と不安になったことはありませんか?

企画の構想が固まってきたタイミングでユーザーにどのように受け入れられるのかという不安を払拭するためには、実際のユーザーや想定しているユーザーを巻き込んで検証をすることが重要です。

今回は数ある検証の中でも体験価値に焦点を当て、体験をプロトタイプして検証する「価値検証」について、自身の経験を踏まえて目的や手法についてお伝えしていきます!

なぜ価値検証が重要なのか

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今日、デジタルサービスはますます消費者の生活に浸透しています。OMO(Online Marges with Offline)のようにデジタル体験がフィジカルの体験を包括する概念も広がる中で、私たちUXデザイナーの関わる領域は1つのアプリケーションの体験設計には留まらなくなっています。デジタルサービスがより業務や生活に溶け込んできたことにより、これまで以上にサービスやプロダクトがユーザーにどのような影響を与えるのかを知ることの重要性が高まっていると私は感じています。

その背景には過去に関わったプロジェクトがあります。私はデジタルとフィジカルの共存するサービスやプロダクトの開発を行うプロジェクトにUXデザイナーとして商品企画から開発まで関わっていました。

フィジカルの体験を考える際は、別のことをしながらスマホの画面を見て情報を取得することがよくあります。レシピを見ながら料理をしたり、歩きながら目的地の場所を知るために地図を見るなど、ユースケースや利用文脈を限定することが難しくなってきたため、考えうる可能性に気を配りながら設計する必要がありました。

プロジェクトの中では詳細を作り込む前に、サービスやプロダクトの利用前後の体験を一通り可視化し、対象のユーザーに当てる検証することで以下2点を明らかにしました。

  1. そもそもこの一連の体験に価値を感じたか、使いたいと思ったか
  2. どのような状況でより使いたいと感じたか、このサービスによって自身の業務や生活がどのように変わるイメージを持ったか

この価値検証により、今までチーム内では見えていなかった新たな示唆を得ることができたり、検証結果を元に検討していたユースケースに優先度をつけることができたりと、チーム内で共通認識をもった上で、開発に臨むことができました。

価値検証とは

価値検証とは、サービスやプロダクトの一連の体験を通じて提供すべき価値の仮説の確度を明らかにするための調査のことです。

この調査は、ユーザーの視点に立って「サービスやプロダクトの一連の体験を通じて価値を感じることができるか?」という問いを明らかにするために行います。つまり、サービスやプロダクトを実際に提供した際にユーザーの業務や生活に与える影響を探るために行う調査です。

価値検証は企画や構想の方向性が見えてきた後、詳細を詰める前に行われることが多いです。これは、具体的な形に起こす前の段階でユーザーの声を知ることにより、生活の中でプロダクトがどのような影響を与えるのか、どんな価値を提供できるのか、仮説がどのように受け取られるのかなどに気づくためです。

自身の経験から感じたコンセプトの定義の難しさ

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ここまで読んでいただいた上で、コンセプトテストと何が違うのだろう?と思った方もいるかもしれません。

UXデザインの教科書では、コンセプトテストは「製品・サービスのコンセプトを想定ユーザーに提示し、その反応を調査するユーザー参加による評価方法」と取り上げられています。

プロジェクトの中で私はコンセプトテストではなく価値検証と呼ぶことが多いです。理由は「コンセプト」という言葉の捉え方や意味などが人やチーム、文脈などによって定義が大きく変わるものだと考えているためです。

また、調査の対象である「価値」を名称に組み込むことで体験価値の検証であることを明示し、認識がブレないようにするためでもあります。

これは自身の過去の経験ですが、コンセプトの定義を擦り合わせるのは時間をかけた割に腹落ちしづらいことが多いため、検証の対象をコンセプトとすると誤解を生む可能性が高いと考えています。そのため、あえて今回はコンセプトテストではなく「価値検証」として紹介しています。

価値検証とユーザビリティテストとの違い

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価値検証と混乱しがちなのがユーザビリティテストです。

価値検証とユーザビリティテストでは検証の対象が異なるため目的が異なります。

  • 価値検証でできること
    • 体験価値の仮説に対するユーザーの反応や印象とその背景を知る
    • サービスやプロダクトが普段の業務や生活の中に存在することでどんな変化がありそうかを知り、ユーザーに与える影響を探る
  • 価値検証ではできないこと
    • 具体的な体験の実現手段やインターフェイスについての印象を知る
    • 検討しているサービスやプロダクトの市場規模に当たりをつける

一方、ユーザビリティテストは、体験価値を実現するために考えたプロダクトや機能の使いやすさの程度や背景を明らかにするための調査です。主に作成したプロトタイプを調査対象者の方に操作していただき、その過程で見受けられた特徴的な行動や困ったことなどを明らかにします。

  • ユーザビリティテストでできること
    • プロトタイプの操作につまづいたり、困ったときの行動を観察したり、その背景をヒアリングすることでブラッシュアップの手がかりにする
    • 現状のプロダクトと比較した際のギャップなどをヒアリングし、メンタルモデルのズレを検知し、今後の開発に活用する
  • ユーザビリティテストではできないこと
    • サービスやプロダクトの体験価値の仮説に対する印象を知る(具体度が高いと全体の体験に対するフィードバックはもらいにくい)

価値検証の手法の具体例

価値検証の具体例として4つの手法と特徴をお伝えします。

  1. ストーリーボードを用いた価値検証
  2. アクティビティシナリオを用いた価値検証
  3. Lo-Fiプロトタイプを用いた価値検証
  4. 動画やアクティングアウトを用いた価値検証

ストーリーボードを用いた価値検証

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これは、検討しているサービスやプロダクトの利用前/利用中/利用後の体験の流れを文章と簡単なイラストや写真で表現したものをユーザーに見せてストーリーから受けた印象や価値についてヒアリングしていく検証方法です。9コマシナリオなどもストーリーボードと同じように検証に活用することができます。

文章だけでなくビジュアルも一緒にあるため読み手の負荷が少なく、状況を正しく理解した上で意見を言ってもらえる可能性が高いためプロジェクトではよく用いられます。ヒアリング時に文章中で価値を感じた箇所と価値を感じなかった箇所を聞いた上で、その背景や原体験を深掘りしていきます。

冒頭で価値検証の重要性に触れたときにも挙げましたが、デジタルに閉じない体験を描くことができる点においてストーリーボードは非常に有効でした。生活の中でプロダクトがどのように振る舞うのかの理想を描くことで、検証時にユーザーが自身の生活の中にプロダクトがある状態を想像しやすくなり、より実生活に紐づいた体験価値の検証ができるようになるのです。

注意点としては、具体的な画面などを見せながらインタビューするわけではないため、表現方法やインタラクションについての意見を集めるのは難しいことが多いです。

このストーリーボードを用いた価値検証は概ねどのようなサービスでも検証を行うことが可能です。その中でも冒頭で伝えたようなオフラインの体験を包括したサービスの価値検証を行うのに有効です。

 

アクティビティシナリオを用いた価値検証

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これは、検討しているサービスやプロダクトの利用前/利用中/利用後の体験の流れを文章で表現したものをユーザーに読んでいただき、読み取った内容や受けた印象などについてヒアリングしていく検証方法です。

プロジェクトの中で構造化シナリオ法を用いた整理をしていた場合は、アクティビティシナリオをユーザーに見せるだけで済むため、ストーリーボードのように素材を準備するコストがかかりません。コスト面では非常に良い手法と言えるでしょう。

注意点としては、文章以外に補足する要素がないため、解釈のズレが起きやすいことです。想定していたシーンを正しく文章に落とし込めないと、ユーザーに誤った内容を伝えてしまうことになるため、検証結果に大きな影響があります。

このアクティビティシナリオを用いた価値検証は、サービスの詳細が固まりきっていない企画初期の段階での価値検証に向いている手法です。具体的なビジュアルイメージを用意しなくとも検証ができるため、廊下を歩いている社内のメンバーに声をかけて行うホールウェイテストのようなライトな検証も可能です。

Lo-Fiプロトタイプを用いた価値検証

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Lo-FiとはLow-Fidelityの略で忠実度の低いプロトタイプという意味です。ここでいう忠実度の高低は最終成果物と比較しており、内容が詰まり切っていない簡易なプロトタイプを指します。

Lo-Fiプロトタイプを用いた検証を行う手段は複数あります。例えば、数画面と誰がどのような状況でどう使うのかを文章にして読んでもらい、プロトタイプと文章から読み取ったシーンについての印象や利用意欲などをヒアリングしていく検証方法などです。

プロトタイプを用意することで機能を利用するイメージを持ってもらいやすいため、使用感を踏まえて価値が伝わるかを知るのに適していますが、注意すべきこともいくつかあります。よりプロダクトに近いのでラベルの詳細などをダミーのままにしておくとインフォーマントを混乱させる恐れがあります。また、プロトタイプを作り込みすぎるとユーザーから得られる発言の内容がインタラクションの良し悪しなどディテールに寄ってしまうことがあります。これでは正しい検証結果が得られたとは言えないので注意が必要です。

また別の視点では、準備工数の増大が考えられます。全体の体験の検証をするためにはある程度の画面数を作る必要があり、チームのスキルセットによってはストーリーボードなどと比較して準備工数がかかってしまう可能性があります。

Lo-Fiプロトタイプを用いた価値検証は既存プロダクトとの差異を検証によって計測できるため、既存のプロダクトの改善プロジェクトなどの場合で有効な場合が多いです。一方で、既存のプロダクトに慣れ親しんだユーザーに検証を行う場合にはバイアスがかからないように注意が必要です。

 

動画やアクティングアウトを用いた価値検証

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これは、検討しているサービスやプロダクトの利用前/利用中/利用後の体験の流れを動画や寸劇で表現したものをユーザーに見ていただき、その内容や受けた印象などについてヒアリングしていく検証方法です。

この方法では、デジタルプロダクトに閉じない実体験に近い体験の流れや人の行動を伝えることができるので、VUIなどマルチモーダルな状況における体験価値を検証するのにも有効です。

他の手法よりも没入感のある検証ができる一方で、プロトタイプを用いた価値検証と同じく特定の人物の行動や言葉遣いなどのディテールに目が向きやすくなるため、本来の目的から外れたフィードバックが返ってくる可能性があります。

また、目的が明確でない状態でこの方法を選択すると得られる検証結果に対して準備工数が膨大になってしまう可能性があるため注意が必要です。

動画やアクティングアウトを用いた価値検証は、ストーリーボードと同じくどのようなサービスでも有効ですが、工数などの関係からユーザーだけでなくより多くのステークホルダーに価値を伝える必要がある場合や言葉では伝えきれない複雑なサービスなどの価値検証に向いています。

さいごに

今回はUXデザインの検証フェーズで行う価値検証の重要性の背景、概要とユーザビリティテストとの違い、具体例について紹介しました!ユーザーの価値を明確にするためには、目的に合わせて適切な手法を選び、工夫していくことが非常に大切です。

また、GoodpatchではアプリやWebサービスのようなデジタルプロダクトだけでなく、フィジカルの体験も包括した商品企画から開発まで行うプロジェクトも増えています。そういったサービスや商品開発のプロセスの中では、まさに今回紹介したような目的に応じた検証手法から適切なものを選ぶだけでなく、工夫してより目的達成に近い手法を見つけることが大事になってきます。

デジタルだけでなくフィジカルの体験にも染み出すようなUXデザインに興味のある方がいましたらこちらからお気軽に連絡いただければと思います!

また、GoodpatchのUXデザイナーにサービスやプロダクトについて相談したい方がいましたら、こちらからお問い合わせいただけると幸いです。

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