今回話を聞いたのはUIデザインリードの蔡 漢翔(サイ・カンショウ)。台湾で工業デザイナーとして働いたのち、2014年より慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に進学。同年にGoodpatchのサマーインターンに参加し、そこから7年間UIデザイナーとしてキャリアを積んできました。「失敗ばかりだった」と振り返る7年間で起こった自分自身の変化と組織の変化、それらを通して気づいた「Goodpatchらしさ」について語ってもらいました。

「もうすぐ現金がなくなる」そこまで話す透明性とデザインへの熱量に惹かれた

Goodpatchではインターンから働いているのでもう7年になります。私は台湾出身で、台湾のハードウェアを扱う会社で工業デザイナーとして働いていたので、日本ではGoodpatchが1社目です。2014年のサマーインターンでチーム優勝して、そこから長期インターンを始めました。それまでUIデザインに触れることはあまりありませんでしたが、実際にUIデザインをやってみたら「これは面白いぞ」と。そこからUIデザイナーの道を歩み始めました。

インターン当時からGoodpatch以外で働くことははほとんど考えていませんでした。一番の理由は、(当時は)30人ほどの小さな規模の会社だけれど、そこにいる全員がデザインが大好きなことが伝わってきたから。何か新しいアプリがリリースされたらそのUIを触ってみる会があったり、マニアックなUIの話をできる人がいたり。とにかくみんなデザインが好きで仕方がないという空気に惹かれました。

台湾で働いていた会社は上下関係がしっかりあって、大きな会議室の一番奥に社長が座ってるような、いわゆる旧来的な「ザ・会社」のような風土でした。Goodpatchにはそんな「ザ・会社」のイメージはありません。印象に残っているのは、インターンをしている時に土屋が「このままだと、あと何ヶ月で現金がなくなる」とインターン含めた全社員の前で包み隠さず話をしたこと。こんなに透明性の高い会社はなかなかないと思いました。また、会社が初期の頃は土屋から直接DMで給与明細が送られてきたりして、台湾の会社と比較しても、こんなに社長との距離が近いのはすごいなと感じていましたね。 

また社内の自発的な取り組みの豊かさもGoodpatchならではだと思います。社員になったばかりの頃に参加していた「Baseup」という取り組みでは、有志で構造設計の研究をしていました。誰か指導する人がいたわけではないのに、1年近くの間、毎週欠かさずに続いていたのは、改めて考えるとすごいことですね。

当時、UXの5段階モデルでいう「構造」への知見をもっと集めたいという意識の高まりがメンバーを動かしていたのだと思います。毎週それぞれがインプットしてきたことを持ち寄って、正解のない問いに向かって議論する白熱した時間でした。ここで体系的な知識を得たことによってUIデザイナーとしての自信を得られたので、本当に参加できて良かったなと思っています。

インターンを経て正式に社員として入社してからは、社内のバナーを作ったり、先輩たちの案件のサポートをしていました。特に焦ったのは実際のクライアントワークに入った時のことです。インターンとして働いてた当時とは求められる責任の差が圧倒的で、正直かなり焦りました。頼まれたものを作るだけではダメで、「なぜこれを作ったのか」と経緯や意図を常に問われるので、勉強の毎日でした。

その当時、ぞみさん(現 Catlog CDOの香林 望さん)がメンターで、一緒に参加したミーティングの内容をグラレコ(グラフィックレコーディング)で必ずまとめてくれていたんです。自分が話したことを可視化してもらえたことで、振り返りがとてもしやすかったのを覚えています。新人のためにここまでやってくれるんだ、といまだに感謝の思いでいっぱいです。また、新入社員が日報を必ず書くというルールにも助けられていました。日報で毎日自分がやったこと、できることやできないことをきちんと振り返ることで、成長に繋がっていったと思います。

初めてのクライアントワークでぶつかった壁。「なぜこのUIにすべきなのか」

社員になって初めて担当したプロジェクトはFiNC Technologiesでした。関わった期間は一年半で、この後と比較しても一番長く担当しました。

当時は新卒研修のカリキュラムも今のように充実しておらず、UIのことをほとんど何も知らない状態でプロジェクトに配属されたので、始めは一緒に配属されていたUIデザイナーの先輩をひたすら真似して勉強しました。

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途中からはUIデザイナーの先輩が抜けて、サービスデザイナーの恵太(齋藤恵太 現Goodpatch Anywhere事業責任者)とふたりでプロジェクトを担うことになりました。

FiNCは多くの機能がある複雑なアプリです。「何が正解かわからないけど作るしかない」。そう考え、毎週UIを改善していきました。

2〜3週間のスプリントで開発をしていたので、自分が作ったUIをユーザーにすぐに使ってもらえることが特に嬉しかったです。また、アプリのレビューが自動でSlackに通知されるようになっていたので、即時にユーザーの反応を見ることができたのは、やりがいにも繋がっていました。

当時のデザインノートの一部

一緒にFiNC Technologiesを担当した恵太からもいろんなことを学びました。今では彼は事業責任者を務めていますが、当時クライアントワークに関わる際、彼はプロジェクトのゴール以外に自分なりの裏目標を持つようにしていました。「このプロジェクトではこのプロセスを実践したい」「このスキルを学びたい」というように、プロジェクトを通して自分が達成したいことを明確に持つことで、「ただアサインされている」状態ではなく、自分ごととしてプロジェクトに関わることができる。この考え方を教わった時に「なるほどな」と思わされたので、それ以来意識的に裏目標を決めるようになりました。

とてもやりがいのあるプロジェクトだったからこそ、悔しい思いをしたこともあります。クライアントに納得してもらえるロジックをきちんと組み立てられなかった時には、UIデザイナーに必要なのは知識だけではダメなんだと痛感しましたね。そこから、「なぜこのUIにした方がいいのか」クライアントが納得感を持てるような説明をするために、コミュニケーションスキルも磨いていきました。FiNC Technologiesでの経験が、UIデザイナーとしての基礎を鍛えてくれたと思っています。

関わる案件領域のヘビーユーザーのつもりで柔軟にスタイルを変えていく

FiNC TechnologiesでUIデザイナーの基礎など多くのことを学びましたが、その後関わったプロジェクトでも自分の力不足を感じる失敗はたくさんあります。UIプロセスの設計がうまくできておらず、クライアントが用意したものに沿ってUIを作るしかない状況になった時には本当に歯痒い思いをしました。

本来であれば、Goodpatchはクライアントから渡されたものをそのまま請け負うことはしません。クライアントと対等に、意見を交わしながらプロダクトやサービスを磨いていく、いわば併走者のような役割も担います。ですから、Goodpatchとして要求されていたレベルのアウトプットを提供できなかったことは本当に悔しかったです。クライアントの想像を超えるデザインを提案するためには何が足りないのか。とにかく必死でプロジェクトと向き合うしかないなと思います。

UIデザイナーとしてキャリアを積み上げていく中で、うまくいったことと同じくらい失敗もして、浮き沈みしながら走ってきた7年でした。その中でずっと意識していたことは、自分が関わるサービスのヘビーユーザーのつもりでその領域のサービスを使い倒すことです。どんなプロジェクトであっても、柔軟に自分のスタイルを変化させながら、その領域のヘビーユーザーとしてUIデザインを考えていくことは、入社当時から一貫して変わらない姿勢かもしれません。

「デザインが好き」という情熱、そして好奇心と観察力。この3つがGoodpatchのデザイナーらしさ

ずっとプレイヤーとしてキャリアを積んできましたが、2020年からは他のUIデザイナーのメンターをする機会に恵まれました。元々は一人でいる方が楽なタイプでしたし、関心の対象も自らのデザインスキルやプロジェクトにだけ向いていて、誰かの成長に関わりたいという思いはほとんどありませんでした。ですが、メンターとして見ている人が成長していく姿を見ていると、素直に嬉しいと思えたのです。そんな自分の中での大きな変化がきっかけで、2021年からはUIデザイナーチームのマネージャーも務めています。

変化で言うと、Goodpatch自体にもこの7年で大きな変化がありました。個人的に一番の変化だと思うのは、ナレッジ共有の仕組み。それから、組織崩壊後に策定したバリューが全社に浸透したことです。社員総会で全員からキーワードを集めて5つのバリューに落とし込み、バリューを表現する言葉ができてからは、それをもとにデザイナーがポスターを作ったり、バリュー浸透チームが奔走したりと、いろいろな努力の末に今の会社があるので、本当にすごいことが起きたなと思いますね。

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自分が会社/組織に向きあうようになって気づいたのは、社内で自発的にさまざまな取り組みや施策が試されるようになったことです。いろいろなところでプロトタイピングが行われているようなイメージです。社員同士の交流や成長のために自主的に動くカルチャーが確実に根付いてきているなと実感があります。

普通のデザイン会社は属人性が高くなりがちですが、Goodpatchには再現性やデザインプロセスを重視する特徴があります。これはチームだからこそ成し得ることです。先ほどお話しした社員発の施策などを通して、それぞれがプロジェクトで実践・経験したナレッジを共有することで、再現性の高いデザインプロセスがどんどん蓄積されています。

私は「好きなことを楽しくやりたい」と思って仕事に向き合ってきました。「UIデザインがとても好き!」という情熱さえあれば、今はスキルが足りなくても、後からいくらでも学んで身につけることができます。私自身が何よりの証明ですね(笑)。

「好き」という情熱を持っていることが大前提で、その上でいかに好奇心と観察力を持てるかどうか。「なぜこのようなデザインになっているのか」といった背景を深掘る力がとても大切です。これこそが、「Goodpatchのデザイナーらしさ」とも言えるかもしれません。


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