Goodpatchには現在、約30名のUXデザイナーが在籍しており、UXデザイナーの中でも専門性はいくつかに分かれています。そんなUXデザインチームの中でも、プロダクト単体だけではなく、プロダクトに関連する全ての体験の品質向上に専門性を持つのがサービスデザインチームです。

そして、前回の記事でもお話した通り、私たちサービスデザインチームは「ユーザー」「組織」「ビジネスモデル」の3つの視点に着目しながら、すべての“体験”の集合に対して、持続的な価値の提供をデザインしています。

今回の記事では、実際にGoodpatchはどのようにサービスデザインに取り組んでいるのか、を上記の3つの視点を踏まえながら、実例で紹介します!

※前回記事はこちら!

ユーザーの視点:プロダクトの成長を考慮したユーザー行動の予測

ある新しいプロダクトを開発するプロジェクトでは、現時点でのプロダクトの状態だけでなく今後のプロダクトの成長を考慮してユーザー行動を予測しながら、中長期の時間軸でユーザー体験を描いていきました。

成長曲線で、成長するユーザーの姿を捉える

このサービスは、ユーザーが単発で使用するものではなく、日常の中で継続して使用する、いわゆる「習慣化」を見据えたものでした。だからこそ「ユーザーの視点でのデザイン」をするからには、それは短期の体験ではなく、習慣化した後の姿も含めて中長期で捉える必要があったのです。

この場合、十分に考慮すべきは「ユーザーは変わっていくもの」というポイントです。日々、プロダクトを利用し続ける中で、いつの間にかユーザーの意識や行動に変化が起きているはずなのです。さらに、その結果として習慣すらアップデートされているはずなのです。

このような「プロダクトの継続利用を通して成長するユーザー」を捉え、その段階に応じて次なる価値を提供することが、サービスデザインでは重要になります。そこで、私たちは「ユーザーの成長曲線」を作成し、成長するユーザーの姿を中長期で捉えることに挑戦しました。

成長するユーザーの姿から、価値と機能を抽出する

このように、ユーザーの成長曲線を描き、変わりゆくユーザーの姿を捉えながら、その段階に応じた提供価値と必要となる機能を抽出していきました。プロダクト開発において、サービスの利用前後という時間軸は意識されがちですが、ここまでの長い時間軸での検討は、すべての体験の集合を捉えるサービスデザインならではかもしれません。習慣化を見据えたこのプロジェクトにおいて、大きなポイントであったと考えています。

また、中長期での体験のデザインは、ビジネスを拡張する際にも寄与します。対象とするターゲットユーザーも拡張されるものであり、新しくターゲットとなるユーザーの行動さえも捉えることができるからです。ユーザー起点で検討しながら、ビジネスモデルにまで行き着くという、まさに「サービスデザイン」を実践したプロジェクトと言えるでしょう。

組織の視点:スターモデルによる組織デザイン

次にご紹介するのは、あるBtoBのプロダクトを提供している企業の組織デザインに取り組んだ事例です。この企業の新しいプロダクト開発をご支援していたところ、その裏側にある組織課題が浮き彫りになっていきました。そこで、価値あるプロダクトを作るだけでなく、その価値を継続して提供できるような組織デザインを含めてご支援することにしたのです。

職種を横断したメンバーと一緒に組織課題を捉える

組織の視点で大きなポイントになるのは、「オペレーター」「エンジニア」といった現場社員の声です。ユーザーに価値を届けるには、運用面でのボトルネックの解消がマストであり、その肝を握っているのが現場の社員であるからです。

そこで、プロジェクトの序盤にて、現場社員にインタビューを実施。さらに、そこで得たインプットを基に、異なる職種の社員とワークショップを開催しました。このワークショップでは、業務フローを可視化した上で、会社として取り組むべき課題を議論するようなプログラムにしました。職種ごとの課題や優先度は異なるものなので、全体を俯瞰しながら職種を超えてすり合わせることを狙い実施しました。

スターモデルを活用して、As-IsとTo-Beの組織の姿を分析する

組織デザインでは、今時点の組織の姿(As-Is)を正しく可視化、分析した上で、取り組むべき課題を明確にしながら、あるべき組織の姿(To-Be)を描いていきます。

このプロジェクトにおいては、前述のワークショップで得た情報を基に、「スターモデル」というフレームワークを活用して組織デザインに取り組みました。「Strategy」「Structure」「Process」「Rewards」「People」の5点から構成されるフレームで、組織課題を多角的に捉える際に有効となるツールです。組織設計の名著と言われる『組織設計のマネジメント』でも取り上げられています。

スターモデルで組織の姿を可視化して、どの課題が本質なのか?ボトルネックなのか?を俯瞰で捉え、クライアントと一緒に「私たちが解くべき課題」と「あるべき組織の姿」を詰めていきました。大事なのは、ワークショップなどで得られた組織課題を、どのようにして納得感あるTo-Beに落とし込めるのかです。その1つのやり方として、Strategyといった最上流、現場を含めたPeopleやProcess、それをつなぐStractureなどが含まれるスターモデル の活用は、非常に有用であったと考えています。

このようにして、クライアントの担当者だけでなく、現場の社員も巻き込みながら、あるべき組織の姿を描くことができました。ユーザーが持続的に使用するプロダクトには、それを可能にする組織が必要です。サービスデザインとは、プロダクトの裏側さえも含んで、体験の集合をデザインするものなのです。

ビジネスモデルの視点:グロースサイクルを基にコアを意識した構造のデザイン

私たちがサービスデザインに取り組む際、ビジネスモデル自体に向き合うことも少なくありません。この場合のビジネスモデルとは、単にマネタイズの話ではなく「サービス全体の構造設計」を意味しています。

最後にご紹介するのは、BtoB向けのサービス開発で、ビジネスモデルの構築と、その活用についての事例です。このプロジェクトでは、クライアントからの期待が「プロダクトを作る」から「サービス全体を作り、運用する」にまで拡がっていました。そこで、ビジネスモデルとして全体構造を明らかにした上で、機能や効果などの位置付けや必要性を1つ1つ整理しながら、プロジェクトを進めていきました。

グロースサイクルを作成して、サービスの構造を捉える

新しいサービスを開発する際、プロジェクトの序盤で重要になるのは「サービスの構造を明らかにすること」だと考えています。解くべき課題を選ぶにせよ、打ち手を選定するにせよ、KPIを設定するにせよ、全体構造があってこそ検討できるものだからです。

そこで私たちは、このタイミングで「グロースサイクル」を作成しました。グロースサイクルとは「価値の循環図」と言えるもので、noteの深津氏も紹介している考え方です。グロースサイクルでビジネスモデルを可視化し、どこがサービスにとってのコアな体験なのか?を見極めながら、優先度高く取り組んでいく領域を選定しました。MVP(Minimum Viiable Product)の要素抽出に寄与する考え方なのかもしれません。

そして、サービス開発は「あれもしたい、これもしたい」が発生しがちなプロジェクトです。みんな良かれと思ってアイデアを出し合い、闇雲に取り掛かってしまいがちです。サービスの構造を捉えることは、クライアントを含めたチームで「まずはこれ」を合意する上でも、非常に有用であったと考えています。

構造を理解した上で、CSや営業のKPIをデザインする

ビジネスモデルの検討というと、やはりKPIをはじめとした指標設計も外せません。そこで私たちは、グロースサイクルでサービスの構造を把握し、その上で「この効果を実現するには、誰が、何を達成すべきなのか」といった観点でKPIの設計を行いました。

下図に例を載せている通り、このグロースサイクルの場合、真ん中のコア体験の右側に「アフターゾーン」が存在します。このゾーンは、サービスを利用するユーザーをサポートするカスタマーサクセス (CS)が活躍するエリアです。実現したい効果に対して、カスタマーサポートは何を、どれくらい行う必要があるのか。それをグロースサイクルを活用して明らかにしていくのです。コア体験の左側に営業のKPIも置いていますが、考え方はCSと同様です。

このようにして、サービス全体を構造化し、ビジネスモデルを可視化することが、体験設計のみならず、サービスデザインのあらゆる検討の土台となるのです。

「ユーザー」「組織」「ビジネスモデル」の三方良しに向けて

それぞれの事例で共通していることは、「プロダクトを作ること」をゴールに設定しておらず、そのプロダクトが持続的に運用され、継続的に成長していくことを、広くサービスの視点からデザインしていることです。つまり、サービスデザインとは、「作る」のみならず「届ける」「伸ばす」を念頭に置いたデザインと言えそうです。これこそがサービスデザインの真髄ではないでしょうか。

サービスデザインチームはこれからみなさんとサービスデザインについて語り合いたいです!

わたしたちGoodpatchが実践しているサービスデザインの事例をみなさんにご紹介させていただきました。このブログの内容を解説しているPodcastも配信していますので、聞いていただけると嬉しいです!

これからも引き続き、ブログやポッドキャストを通じてよりサービスデザインとは何かを深堀りながらより明確な輪郭を掴む取り組みを行っていきたいと思っています。

そこで、サービスデザインに興味あるよって方や、実際にサービスデザイン的な問題を抱えている方とカジュアルにお話させて頂きたいと思っております。
是非実際にプロダクト開発にお困りの方や、サービスデザイン自体にご興味のあるデザイナーさんなどお気軽にお問い合わせいただければと思います!

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