個人の持つ影響力が高まり続ける現在、企業と個人の関係性や働き方にも変化が訪れています。2019年6月から放送されている「採用やめよう」というCMをはじめ、時代の変化を後押しするのがランサーズ株式会社(以下、ランサーズ)です。「個のエンパワーメント」をミッションに「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンを持ち、テクノロジーの活用によって個人の働き方を変革するサービスを多く展開しています。
Goodpatchはランサーズの新規事業「Lancers Enterprise」におけるコアの価値定義から事業ビジョン策定、α版検証、β版のUIデザインなどをデザインパートナーとしてお手伝いさせていただきました。SaaSの新規事業立ち上げにデザイナーがどのように関わり一つのチームになっていったのか、プロジェクトチームにインタビューし、パートナーシップのあり方を紐解きます。
お話を伺った方:
ランサーズ 取締役 執行役員 グループ戦略担当 曽根さん
オンラインマッチング事業部 VP of Product 中嶋さん
開発部 エンジニアリングマネージャー 神庭さん
Goodpatch UX/Serviceデザイナー 國光
デザイナー 夏音
デザイナー 米永
パートナーシップを支える、情熱と共感
ーー まずは今回のプロジェクト立ち上げから、Goodpatchとの出会いを教えてください。
曽根さん:
ランサーズは「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンの元、国内最大級のフリーランスプラットフォームとしてさまざまなサービスを提供しています。最近では、2019年6月1日付の日本経済新聞本誌に「#採用やめよう」という広告を掲載したり、「外部人材の活用なくして企業の成長なし」をテーマにオープンタレントサミット主催なども手がけています。
我々がプロジェクトを立ち上げる時は、ランサー(ランサーズに登録するプロフェッショナルのこと)の皆さんに参画していただいたり、プロジェクトベースでお手伝いいただくことが多かったので、企業の社外人材活用を活性化させる「LancersEnterprise」の構想は自然と生まれました。
事業の構想は描けていたものの、社内にはSaaSの知見がなかったため正直不安もありました。また、ユーザーの目に触れる表層の部分を作り込めるUIデザイナーも不足していました。開発が事業に直結するサービスになることは分かっていたので、どうやって戦略から開発まで一気通貫できる環境を作ろうかと考えたとき、社外にいる専門性の高いチームと一緒にやろうと思ったんです。そこで、もともと知り合いがいたGoodpatchさんに僕から声をかけさせてもらいました。
そのあと、ヒアリングに来ていただいた國光さんにビビッと来たんです(笑)。もう少し言語化すると、僕自身も思想にとても共感しているサービスであるUniposを初期フェーズから支援されていたことは大きかったです。Uniposのコンセプト設計から担当されていた國光さんとプロジェクトをご一緒できるなら、心強いなと思いました。
國光:
曽根さんに初めてお会いしたときは、すでに大枠の構想があって、「どこから優先順位をつけて検証すればいいのか分からない」とおっしゃっていましたよね。ヒアリングする中で議論が盛り上がり、β版を挟んだ方がいい、α版もやってもいいかもしれない、と話した記憶があります。帰り道は、僕と同じくヒアリングに同席したUXデザイナーのメンバーと「曽根さんのスピード感はすごい」という話題で持ちきりでした(笑)。とにかく曽根さんの熱量に圧倒されましたね。
プロジェクト開始前のヒアリングの時点で、どこにフォーカスするのか認識が揃った状態だったので、実際にプロジェクトが始まってからの1〜3週間は他に類を見ないほどのスピード感を持って進められました。
また、僕たちは今までフリーランスの方と働く機会がなかったので、曽根さんのお話を聞くまでオンラインの仕事マッチングなど、フリーランス業界の動向を理解はできていても、実感を持てていなかったんです。でも曽根さんが描く事業の構想から、ランサーズさんが実現しようとしているちょっと先の未来を見せてもらえたことで、「これからは個の力が増していき、働き方も変わっていくんだろうな」という実感を強く持てたんです。同時に事業構想の価値や向き合うべき課題も見えました。
曽根さん:
パートナーシップは選ぶものではなく結ぶものなので、僕らが一方的に選ぶのではなく、同時に選ばれているんだと思います。上下関係があるパートナーシップの時代は終わった。僕たちもGoodpatchさんにパートナーとして選んでもらうために、最初からパッションがどれだけ伝えられるか真剣勝負で臨みました。
ーー これまでの新規事業開発と、プロセスに違いはありましたか。
曽根さん:
これまでランサーズで立ち上げた新規事業でも、フリーランスのエンジニア・デザイナーの方にプロジェクトベースで参画してもらうことが多かったのですが、チームごとプロジェクトに入ってもらったのはGoodpatchさんが初めてでした。コミュニケーションツールはSlackを導入していましたが、Goodpatchさんのワークスペースにランサーズチームが入ってやりとりをしたりと、これまでよりも新しいチームが出来上がった感覚がありました。
また、「LancersEnterprise」はこれまでの新規事業の中でも特に気合の入ったプロジェクトだったので、初動から成功する空気感を作らないといけない、というヒリヒリ感は一番ありましたね。
https://www.lancers.jp/enterprise
Lancers Enterpriseとは
社外人材活用ソリューションとして2019年5月よりランサーズからリリースされたサービスです。社外の高スキル人材を活用したい企業に、タレントプールや発注承認の一元管理などを提供し、チームパフォーマンスの向上をサポートします。
ーー ワークショップ形式で策定した事業ビジョンについて感想を教えてください。
曽根さん:
最初は「事業ビジョンを決めるのがこのタイミングでいいのか」「もっと後でもいいんじゃないか」という意見もありました。でも、ワークショップ中に「競合と比べてこの機能差分が…」という話は全く出ず、一つのチームとして「ランサーや企業にどんな価値を提供したいのか」という問いに向き合う時間になったことが大きな影響を与えたと思います。
ーー 神庭さん、中嶋さんはワークショップに参加されてどんな感想を持たれましたか。
神庭さん:
ワークショップの最中は「今やるべきなのかな」とも思いましたが、プロジェクトが忙しくなるに連れて、軸が決まっていることの大切さが分かりました。このプロセスを経ていたからこそ意味があるものを作ることに集中できたので、このワークはやってよかったなと思います。
作り手側のエンジニアが、プロジェクトの初期段階から参加することはなかなかありません。でも、参加していなかったら後々開発が山場を迎えた時に、立ち返るものがなく困っていたと思います。
中嶋さん:
これまでのプロジェクトでは、僕らも曽根のスピード感についていけてなかった部分もあったのですが、今回はワークショップ形式で國光さんが曽根に並走することでカバーしてくれていたと思います。
僕自身はワークショップに参加したことで、自分の中で「今やってることはビジョンに沿ってるのか?」と常に疑問を持てるようになりました。そう思えるようになった人たちは僕以外にも増えたと思います。新規事業立ち上げフェーズにおいてはスピードも大切ですが、ビジョンに立ち返ることができることが本質だと思うので、参加してよかったです。
一方で、これまでにもランサーズ内で議論した話題が再度挙がることもありました。事業ビジョンだけではなく、それを実現するコアバリューの深堀りに時間を使うと、プロジェクトメンバーがもっとプロセスを楽しめたのかもしれないと思います。
曽根さん:
開発チームを率いる二人がプロジェクト初期から参加してくれたことは心強かったです。きっと不安もある中で「ワークショップにも顔出してみよう」と前のめりになってくれた。その本気を引き出してくれたのは、Goodpatchさんのチームのスピード感が大きく影響していたと思います。
“スピード&クオリティ”を実現するチームの共創の形
國光:
実は、Goodpatchチームのコンセプトは「スピード&クオリティ」でした。それが実現できたのも、プロジェクト初日から曽根さんが手配してくれて各事業部の責任者の方にヒアリングさせてもらえたからです。最初に事業オーナーの方に直接お話を聞けることってなかなかないと思うんです。それも初期一週間という短期間であれだけ多くの方が時間を割いてくれることにランサーズさんの文化を感じましたし、僕たちも同じくらいの価値をお返ししたいと強く思いました。スピードとクオリティを両立できたのも、ランサーズさんとGoodpatchがワンチームになってインプット、アウトプットをスピード感を持って循環できたからだと思います。
プロジェクト初期、小さく速く濃い検証をするため、事業のどこに価値があるのかをチームで話して「コアバリューから外れる機能はスコープ外にしたほうがいい」という結論に行き着きました。
とはいえ、僕たちはそれを提案することに不安もあったんです。「スコープに含んだ方がいいと言われるかな」とも考えていたのですが、ランサーズの皆さんは競合などの状況も判断した上で「コアの価値にフォーカスしましょう」とすぐに切り替えてくれて、すごく心強かったです。
神庭さん:
これまでの新規事業では「あれやりたい」「これやりたい」と発散しがちで収束に困っていましたが、國光さんはコンセプトに紐づいてやらないことを明確に持っていましたよね。開発側としてはそれがやりやすかったです。
コンサルティング的な関わり方には、社外から意見だけを言うだけという勝手なイメージを持っていましたが、Goodpatchさんのチームには親近感も持ててフランクに意見交換ができました。
「スコープに含まれる機能に対しても、こうして開発チームの工数削減しましょう」など、かなり現場寄りの実装レベルでも考えてくれたところも良かったです。
夏音:
やらないことを決めたからこそ、やるべきことやコアの価値にフォーカスできました。早い段階から「絶対これが価値だから、サービスに入れないといけない」と思えたのもランサーズさんと一つのチームとして意思決定ができていたからだと思います。ランサーズさんとGoodpatchのオフィスを行き来する時にいつもチームメンバーと「絶対に成功させたいよね」と話していましたね。
最初の1ヶ月はランサーズ社内で各事業部長の方を中心に多くの方にインタビューをしました。それぞれどんな目的、目標、ビジョンを持っているのか。今回のサービスにはどんな形で連携していくのか。かなり多くの方に協力してもらいました。このサービスについて理解を深めるために、ランサーズ全体を俯瞰しながら理解を深めていきました。
それぞれが得意領域で自走するためには、以下についてチームで一気にインプットしました。
- どこにエンゲージメントを感じてもらうか
- そのためにどんな機能があればいいのか
- ランサーズが持っているデータをどう活かすか
米永:
Goodpatchの通常のプロジェクトでは、UXデザイナーとUIデザイナーが共創しながらクライアントと戦略を練って、要件が出てきて情報設計をして…と前段階のインプットをアウトプットに活かしながらステップを踏んで進めるプロセスが多いです。ただ、今回はもっとスピード感が必要だと感じていました。そこで、各段階ごとに決まることを待たず、共通のインプットを得ながらチームメンバーそれぞれの得意な部分から作っていくことにチャレンジしました。作っていく中で見えてくる「ここがないと作れない」「次の段階でこれが必要になる」という情報はどんどんお互いにパスする形で連携していきました。
國光:
全レイヤーを同時進行することは、僕らにとっても初めてのチャレンジでした。結果的にこの進め方を取り入れたことで、戦略を練るときにも同時進行で目に見えるものがある状態を作れたので、ランサーズの皆さんとの議論もしやすくなった実感があります。
パートナーに寄り添うアウトプットとスタンス
ーー みなさんが特に印象に残っているアウトプットはありますか?
曽根さん:
初日に行った社内の事業部長とのインタビュー後、すぐに体験フローマップが出てきたことが印象に残っています。一つひとつの体験は当たり前のことでも、全体を俯瞰して見たときに「ここってなぜランサーズが介してないんだろう」などポテンシャル層がクリアになりました。
「デザイナーはプロジェクトに入らなくても自分たちだけで大丈夫だろう」という発想はビジネスサイドであり得ることです。でも、デザイナーがユーザー体験の根幹から可視化して課題をあぶり出し、ユーザーにどんな価値を提供するのか考えていくことが当たり前だけど大事だなと改めて教えてもらいました。
神庭さん:
僕は普段インフラを担当することが多いので、Prottを初めて使って、こんなに簡単に動的なプロトタイプが作れることに驚きました。デザイナーの米永さんと夏音さんが動くものベースで作り込む前に用意してくれたので、API設計するときにもイメージしやすく助かりました。
中嶋さん:
アウトプットではないのですが、僕は國光さんに結構“No”を言われたなぁって印象があります(笑)。何度持ちかけても絶対頷いてくれない部分がありましたよね。
今思えば、國光さんが頑なに譲らなかった部分が事業のベースを作っているところもある。逆もあるとは思いますが、いい意味で日和見じゃないスタンスがとても印象に残っています。
デザインする文化をインストールする
ーー みなさんがGoodpatchメンバーと働いた印象を教えてください。
曽根さん:
個人同士でも会社同士でもなく、チームの感覚が強かったです。
プロジェクト開始時、Goodpatchの皆さんはニックネームで名乗ってくれて、チームビルディングが徹底してるなと感じました。
あとはランサーズの世界観に強く共感してくれて、本当に楽しんでサービスに向き合っていることが伝わってきました。「このままだとランサーズ乗っ取られるんじゃないか」ってくらいのプレッシャーがあったことは新鮮な驚きでした。すごくありがたかったのは、常に全体を俯瞰してひとつ後のプロセスまで考慮してくれていたことです。僕がイメージできていない部分に関しても「このあとのプロセスでこうなるから、こうした方がいい」というアドバイスをたくさんいただいたなと思います。
米永:
Goodpatchチームの3人の頭の中にはいつも強い共感がありました。私たちは曽根さんはじめランサーズさんが実現したい構想をインプットした上で、それを共感、理解しやすい言葉にできるまで細かく分解して、チームで常に共有していたんです。
中嶋さん:
Goodpatchさんは自分たちのことを会社員と思っていないですよね(笑)。
会社員とフリーランスの間にいるようなイメージで、会社員と働いているって感覚はあまりなかったです。「ランサーズにいてくれたらいいのにな」といつも思っていました。今回のプロジェクトは、良くも悪くも役割分担が常に明確だったことが特徴だと思うのですが、スピード感を持って共創する時に仲間にいてほしい人たちがGoodpatchのチームです。一見カオスな環境でも必ずバリューを出してくれる気がするし、カオスに価値を見出してくれるところにシンパシーを感じました。
曽根さん:
細かいところだとSlack上での反応がすごく速かったり、シンクロしていると感じることが多かったです。ランサーズの社員並み、むしろそれ以上にインプットしているんだろうな、って情報を毎日シェアしてくれたり、いつも僕たちのことを考えてくれてる感じがリアルタイムで継続的に伝わってきていました。
実際に会った回数以上に常に近くにいたような気がするのは、そんな部分から感じたのかもしれません。パートナーとしての距離の近さに加えて、パーソナルな面での距離の近さをいつも感じられていました。
広義の意味でのデザインには元々関心があったので、自分の中で大きな変化があったというよりは、手触りを持って実感できたことが大きかったです。デザインについて言葉で聞いてイメージしていたものが「これか」と思えました。同時に「Goodpatchチームと同じ役割が出来る人材って社内にいるかな」といい危機感も持たせてくれました。
神庭さん:
僕はプロトタイプをベースに会話するプロセスを経て、「今はまだ作り込み過ぎなくていいんじゃないか」と考えることができるようになりました。今回はGoodpatchさんに全プロセス並走していただきましたが、「次はもっとうまくできるな」という実感が持てています。
中嶋さん:
Goodpatchさんのチームは、実際にやってみないとわからないところに並走して、組織に伝えるところまでを含めて「デザイン」だと思っているんじゃないかなと思います。関係者を増やすことで、将来まで受け継がれる資産としてデザインを用いた取り組みが残りますよね。ワークショップ形式のプロセスは、より多くの人にデザインの考え方を伝えるためにも有効だったのではないでしょうか。
また、デザインが浸透している状態を「普通」の状態にすること、全社員が自然とユーザーの視点で考えることができる環境がすごく大切だなと思いました。だけどGoodpatchさんとのチームの価値を最大限発揮するためには、僕たちも真剣に時間の使い方や、やることとやらないことを決める必要があるので、そこには今振り返ると反省点もあります。
ーー 最後に、ランサーズ全体の構想をお聞かせください。
曽根さん:
今後は我々ランサーズが日本の価値観をアップデートしていきたいと思っています。個の影響力が強くなっている時代だからこそ、社内人材だけではなく、社外人材を活用しないと生き残っていけません。「Lancers Enterprise」は大企業の方からも導入のご相談をいただくことが増えてきました。時代の変化の潮流に一石を投じるこのタイミングに「Lancers Enterprise」をサービスとして出せたことは良かったと思います。僕たちが大切にする「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」を証明するためにも、まずは自分たちがサービスを使い倒そうと考えています。
近い未来、サービスだけではなく様々なソリューションを合わせて提供することで、ランサーズの価値は今とは比べ物にならないくらい強くなると思います。登山で言うならばまだ一合目に立ったばかりですが、先に見えている世界は大きいですし、とても楽しみにしています。
Goodpatchでは無料相談会を毎月開催しています。
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