ケーススタディ

レシピ動画メディア「デリッシュキッチン」でデザイナー2人が向き合った、AI時代の体験づくり

レシピ動画メディア『デリッシュキッチン』を運営する、株式会社エブリー。レシピサービスにおいてアプリ+ウェブ利用者数 国内No.1(※)を誇り、毎日の献立づくりに欠かせない存在として、多くの家庭で利用されています。

そのデリッシュキッチンが今挑んでいるのが、「レシピ動画メディア」から「AI料理アシスタント」への進化です。2024年12月に提供を開始したAI機能を、より多くのユーザーに自然に使ってもらうために——AI体験の設計、iOSの大型アップデート対応まで、エブリーは約1年にわたりグッドパッチと協働しています。

社内に経験豊富なデザイナーが在籍する事業会社が、なぜ外部のデザインパートナーと組んだのか。チームでプロダクトを磨いてきたデザイナーとVP of Productとの対談から、その1年間を振り返ります。

(※)アプリの月間利用者数300万人以上かつウェブサイトでの国内における月間利用者数2,500万人以上の国内主要レシピサービス3社の月間利用者数(2025/10〜2026/4、スマホアプリ市場分析プラットフォーム「Sensor Tower」及びサイトトラフィックやユーザー行動の分析ツール「Similarweb」における数値)を比較(株式会社エブリー調べ)。

<話し手>
株式会社エブリー プロダクトデザイナー 大村さん
株式会社エブリー 執行役員 VP of Product 堀田さん
Goodpatch UI/UXデザイナー 平尾

なぜ、デザイナーがいる会社が外部と組んだのか

——まずは今回の取り組みの背景を教えてください。デリッシュキッチンには、社内に経験豊富なデザイナーの方々がいらっしゃいます。それでも外部のデザインパートナーと組もうと考えられたのは、なぜだったのでしょうか?

エブリー 堀田さん:
きっかけは、デリッシュキッチンを「レシピ動画アプリ」から「AI料理アシスタント」へと進化させていく構想でした。

私たちは2024年の12月に、AIを活用した「デリッシュAI」をリリースしました。デリッシュAIは、食と健康に関する質問を入力すると、『デリッシュキッチン』の5万7千本以上のレシピの中からおすすめのレシピを自動で提案してくれるサービスです。「さっぱり系/こってり系」などの曖昧な質問にも回答可能で、レシピ以外にも、旬の食材に関する一般的な知識なども回答できます。

ただ、当初はどうしても「検索の延長」として捉えられがちで。せっかくのAI体験を、もっと多くのユーザーに、もっと自然に使ってもらうにはどうすればいいのか。そのためには、既存の体験そのものを一度設計し直す必要がある。そう考えたときに、UXや体験設計の領域に強いパートナーとして思い浮かんだのがグッドパッチでした。

もう一つ期待していたのが、ナレッジの還元です。プロジェクトの成果物を納品して終わりではなく、そこで使われたプロセスや進め方が形式知として残り、社内のデザイナーやチームが後から使える状態になること。この2つがお願いした理由です。

株式会社エブリー 執行役員 VP of Product 堀田さん

株式会社エブリー 執行役員 VP of Product 堀田敏史:
プロダクト戦略・組織を統括する執行役員。本プロジェクトではプロジェクトオーナーを務める

——エブリーさんとグッドパッチは、以前にも接点があったそうですね。

エブリー 大村さん:
5年ほど前にも一度支援に入っていただいていて、そのときは「デリッシュキッチンらしさとは何か」を一緒に掘り下げてもらいました(プロジェクトの詳細はこちら)。当時から当社を深く理解してくれている、信頼のあるパートナーです。

デリッシュキッチンの新しい体験を調査から問い直す

——プロジェクトの初期段階において、デリッシュキッチンの体験をAI料理アシスタントをベースとしたものへとシフトさせていくために、まずはどのようなアプローチから始められたのでしょうか。

Goodpatch 平尾:
まずユーザーインタビューから入りました。日々のレシピ探しにどんなニーズやペイン(悩み)があるのかを探索して、サービスデザイナーと体験コンセプトを組み立てていきました。

見えてきたのは、料理との関わり方には段階があるということです。まず「料理に対してネガティブに感じない」状態があり、その先に「料理を自分なりに楽しむ」、さらに「理想の姿を描いて近づいていく」という段階がある。今どの段階にいる人を、どう次の段階へ後押しするのか。その整理をした上で、まずは一番手前の「ネガティブに感じない」──日々の献立を考えること自体の疲弊をどう解消するか、に注力する方針を立てました。

そして、このコンセプトが本当に実態と合っているのかを、アプリ内のアンケートで検証しました。ありがたいことに数百件規模で回答が集まるので、仮説を定量でも確かめながら、どんな寄り添い方や提案の仕方が響くのかを2回目の調査でさらに検証して、案を絞り込んでいきました。

Goodpatch UI/UXデザイナー 平尾

Goodpatch UI/UXデザイナー 平尾帆野佳:
本プロジェクトでUIデザインを担当。並行してエブリー社の10周年ロゴやコーポレートサイトのムービー制作も手掛けた

——この調査や体験設計は、デリッシュAIをどう使ってもらうか、という課題ともつながっていたそうですね。

Goodpatch 平尾:
そうなんです。AIの導線ひとつとっても、検証すべきことは山ほどあります。どんな「切り口」でユーザーに語りかけるのか。それをテキストで見せるのか、画像なのか、アイコンなのか。同じ機能でも、見せ方が変わるだけで「使ってみよう」と思ってもらえるかどうかは大きく変わります。だからこそ、どの見せ方がいちばん直感的に伝わり、実際に触れてもらえるのかを、感覚ではなくアンケートで一つひとつ確かめながら決めていきました。

エブリー 大村さん:
社内でも「AIに問いかけたらレシピが出てくるなら、今のホーム画面の形って本当にこのままでいいんだっけ?」という議論が出ていたんです。ただ、ホーム画面は事業を支える大切な場所でもあるので、いきなり作り変えるわけにはいかない。ユーザーが本当に受け入れてくれる形はどれなのか、根拠を持って探る必要がありました。そこを、外部の視点と調査で一緒に詰められたのは大きかったです。

——大村さんは、この動きをどうご覧になっていましたか?

エブリー 大村さん:
私はUIのエキスパートレビューという形で関わっていました。ホームは日々の施策では大きく手を入れづらい場所だったので、グッドパッチさんと一緒に取り組むことで、どんな新しい変化が生まれるのか、楽しみにしていました。

実際に始まってみると、デザインの一つひとつに「ユーザーがこう感じているから」という調査の裏付けがついてくる。これまでの経験値で判断してきた「らしさ」に明確な根拠が加わっていく過程は、レビューする立場としても大きな収穫でした。

株式会社エブリー プロダクトデザイナー 大村博子さん

株式会社エブリー プロダクトデザイナー 大村博子:
『ヘルシカ』のデザインをメインに担当しながら、『デリッシュキッチン』のデザイン品質管理、コーポレート領域のクリエイティブまで幅広く手掛けた

Goodpatch 平尾:
今回のプロジェクトは、私たちが調査してUIをつくって終わり、ではなく、大村さんにレビューしていただく体制だったからこそ成功したと感じています。デリッシュキッチンを長く見てきた方の目で「これはらしい」「これはらしくない」を確かめながら進められたので、ユーザーにとっての違和感を最大限つぶした状態でインターフェースを磨き込めました。

AI時代のUIは「振る舞いの共通言語」から始まる

——ここまでの体験設計に加えて、もう一つ大きく取り組まれたテーマが、AI料理アシスタントとしての振る舞い方の設計だったそうですね。

Goodpatch 平尾:
はい。ここで取り組んだことの一つが、「AIというプロダクトが、ユーザーに対してどういう態度・トーンで応えるべきか」という方針──ブランドパーソナリティの策定でした。

きっかけは、私自身の課題意識です。エブリーさんの社内会議に参加させていただく中で、デザイナーの方々はデリッシュキッチンらしさをすごく意識されている一方で、職種を越えてその「らしさ」を共有できる言葉が、まだ明文化されていないと感じたんです。これが言語化できれば、「AI料理アシスタントとしてのデリッシュキッチンはこう振る舞うべきだ」という判断が、UIにも、使う言葉にも一貫してつながっていく。そう考えて、堀田さんに提案させていただきました。

エブリー 堀田さん:
「デリッシュキッチンらしさ」の言語化がAIの体験設計(ユーザー体験の向上)に直結すると判断し、言語化の取り組みを進めてもらいました。

Goodpatch 平尾:
実際には、デリッシュキッチンのPdMやデザイナーの方々も巻き込んだワークショップ形式で進めました。ワークショップの事前準備として、デリッシュキッチンに関わる社員に向けてに向けて「デリッシュキッチンらしさ」に関するアンケートを実施し、インプット(情報源)として活用しています。アンケートにはPdM、デザイナー、エンジニア、マーケター、フードスタイリスト、採用広報など、あらゆる職種のメンバーが回答してくれました。全職種のリアルな声を土台にできたことで、より解像度の高いワークショップにすることができました。

デザイナーの立場から言うと、画面の設計に入る前に「AIがどう振る舞うか」の共通言語をチーム全体で作っておかないと、UIの一つひとつの判断がブレてしまうんです。ボタンひとつの文言にも、その裏には「このプロダクトはユーザーにどう接するのか」という思想がある。実装のコストが下がっていくAI時代こそ、「どう見せ、どう感じさせるか」という意思決定の重みは増していくと思っています。

ブランドパーソナリティのワークボード

ブランドパーソナリティのワークボード

ブランドパーソナリティを含むブランドガイドライン

ブランドパーソナリティを含むブランドガイドライン

エブリー 堀田さん:
グッドパッチさんの進め方で印象的だったのは、議論をきちんとドキュメントに構造化しながら進めてくれることです。前半で体験設計の考え方が整理されて言語化されているから、後半の意思決定では「何を重視して決めるのか」の軸が明確になっている。「なぜこうなったのか」を社内に説明しやすいし、チームに協力してもらいやすい状態を、常につくってくれていました。

OSの刷新に、”らしさ”で応える。Liquid Glass対応の舞台裏

——並行して、iOSのLiquid Glass対応にも取り組まれたそうですね。

Goodpatch 平尾:
デリッシュキッチンは独自コンポーネントでていねいにつくり込まれてきたアプリなので、OSの大きなデザイン刷新に合わせるには、全画面の総点検が必要でした。iPhone、Androidそれぞれ50画面ほどをすべて洗い出して、崩れる箇所・体験を損なう箇所をリストアップし、優先度をスコアリングして、エンジニアの方々と一つひとつ潰していきました。

エブリー 大村さん:
このリストの作り方が、すごくていねいだったんです。どの画面のどの箇所か、デザイナーにもエンジニアにも一目で分かる構成に整えて、参照リンクまで貼ってくれる。誰が見ても迷わない仕組みになっているから、抜け漏れなく進められました。進め方そのものが上手だなと横で見ていました。

Goodpatch 平尾:
Appleが開催していたLiquid Glassの勉強会にも、エブリーのエンジニア・デザイナーの方と一緒に伺いました。セオリーとして迷っていた点を直接質問できて、対応方針の解像度が一気に上がりましたね。

エブリー 大村さん:
思い出深いのは「ブランドカラーの黄色をどうするか」という問題です。Liquid Glassの表現だと、黄色の上の文字のコントラストが取りづらくなってしまう。でも色を変えすぎると、デリッシュキッチンらしさが揺らぐ。らしさとアクセシビリティのぎりぎりを、デザインチーム全員で議論して着地させました。

平尾さんは毎週のデザイナーレビュー会にも1人のデザイナーとして参加してくれていたので、外部・社内の区別なく、同じ目線で議論できたのが良かったです。

「1を聞いて100」──デザイナーに任せられる仕事の広さと深さ

——1年間の協働を振り返って、外部のデザインパートナーと組む価値をどう感じていますか?

エブリー 堀田さん:
デザイン業務をやるだけではなく、それに必要なステークホルダーの巻き込みや、プロジェクトの推進そのものを、こちらから指示しなくても能動的にやってくれる。途中、大変な局面もあったのですが、必要な人を巻き込んで進めてくれて、きちんとリリースまでたどり着けました。

エブリー 大村さん:
グッドパッチの皆さんは「1を聞いて10やってくれる」人たちだと思っているんですが、平尾さんはそれが桁違いで、「1を聞いて100」なんですよ(笑)。

アプリにもグラフィックにも強いので、依頼の意図を汲み取って、説明の手前から全部できてしまう。忙しい中で「これお願いできそう?」と走りながら渡したものを、ちゃんと拾って形にしてくれる。高いスキルを持つチームを呼びたいときの選択肢が、グッドパッチさんなんだと思います。

実際、プロダクト以外の領域もお願いしました。10周年のロゴも、コーポレートサイトのファーストビューを飾るムービーも平尾さんの制作です。デザイン決定は普通なら何度も出し戻しが発生するものですが、「どんな世界観を伝えたいか」というコンセプトをストーリーとしてドキュメントにまとめた上でデザインを提案してくれたので、スムーズに決まりました。

Goodpatch 平尾:
調査して、コンセプトを立てて、デザインして、意思決定の場に持っていく。実はUIもロゴも、進め方は同じなんです。デザインの手前の「なぜこれなのか」を言語化して共有することが、結局一番の近道なんだと、この1年で改めて実感しました。

エブリー10周年のロゴ

エブリー10周年のロゴ

エブリー 堀田さん:
外部と組む価値は「手が増える」ことだけではないと思っています。今回実感したのは、良いパートナーは、デザインをつくるだけでなく、プロジェクトそのものを能動的に前へ進めてくれるということでした。指示を待つのではなく、必要な人を巻き込み、厳しい局面でもリリースまで走り切ってくれる。

社内のデザイナーも日々の運用やグロースを支えながら向き合ってきた中で、なかなか腰を据えて進められなかった領域に、グッドパッチという専門性の高いパートナーと組むことで一気に踏み込めました。社内チームとしても新しい進め方や視点を吸収できた、次のフェーズに進む1年間になったと思っています。


前編では、1年間の協働の中身を中心にお届けしました。

では、エブリーのデザイナーたちは普段、どのようにユーザーと向き合い、どんな環境で働いているのか。後編は、エブリーさんのオウンドメディア「every.thing」にて公開中です。AIファーストカンパニーとしてのデザイン組織のリアルを、ぜひ合わせてご覧ください。

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