ナレッジ・ノウハウ

生成AIを使って、デザイナーにプロジェクトマネジメントスキルを「インストール」 4カ月の試行錯誤の記録

こんにちは。グッドパッチでサービスデザイナーをしているwanです。

生成AIがデザインの仕事にも急速に入り込んでくる中で、「デザイナーとして、このままの専門性やスキルだけで本当に大丈夫だろうか」と考えたことはありませんか。リサーチもドキュメント作成も、AIが手伝ってくれる領域が広がるほど、「自分にしかできないこと」を問い直される場面が増えているように思います。

グッドパッチのサービスデザイナー(UXデザイナー)は、もともとデザインの専門性を起点にしながらも、プロジェクト全体を俯瞰して動く役割を担ってきました。クライアントの課題を把握し、関係者と合意を形成しながらプロジェクトを前に進める。そのために、デザイン業務と並行してスケジュール管理や関係者調整にも積極的に関わっています。

つまり、サービスデザイナーはすでに「デザインだけ」の枠を超えた動き方をしてきた。そう言えるかもしれません。ただ、こうした幅広い業務への関わりは、これまで「個人の経験やセンス」に大きく依存していたのも事実です。「どう進めるか」が属人的なノウハウとして蓄積される一方、メンバーが変わっても再現できる「型」は整っていませんでした。

そんな課題意識と、「AI時代に自分の領域をどう広げていくか」という問いが重なり、サービスデザイナーの有志で「AIを使って、サービスデザイナーがプロジェクト管理業務にも自信を持って関われる状態をつくろう」というプロジェクトが始まりました。

この記事では、2026年4月に始まった、約4カ月間の試行錯誤を共有します。デザインの専門性はそのままに、自分の武器を一つ増やすヒントになればうれしいです。

属人化していた「プロジェクトの段取り」を、誰でも再現できる型に

グッドパッチにおける「サービスデザイナー」の仕事を一言で表すなら、「クライアントの課題を把握し、それを解決するための体験やサービスを設計すること」。ヒアリングを設計し、ユーザーを理解し、コンセプトをまとめる、そこが本来の主戦場です。

デザインの方針を決めるという、プロジェクトの「上流部分」を担うこと、そして一連のユーザー体験を設計するために、プロダクト(サービス)全てのステークホルダーと関わる必要があることから、プロジェクト全体の進行や管理に関わることが多くなるのです。

💡 サービスデザイナーが関わる主なプロジェクト管理業務

  • プロジェクトの目的・範囲・制約条件を整理したドキュメントの作成
  • 「誰が何を決めるのか」という関係者の役割整理
  • 新しい案件に入るときのクライアント業界の事前調査
  • 定例会議の準備や議事録の管理

デザインの視点でユーザーや事業全体を見渡せるサービスデザイナーだからこそ、プロジェクト管理においても質の高い判断ができる。この強みを、グッドパッチは意図的に生かしています。

プロジェクトマネジメント業務を整理・分解するところからスタート

とはいえ、私たちはプロジェクト管理のプロフェッショナルではありません。「まずはプロジェクトマネジメントの仕事を正確に理解しよう」。チームはプロジェクト開始直後、社内のプロジェクトマネージャー職のメンバーにヒアリングを行いました。

そこで参照したのがPMBOK(Project Management Body of Knowledge)です。プロジェクト管理の国際標準となっているフレームワークで、プロジェクトの業務を「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「終結」の5段階に分けて整理しています。

このフレームワークをベースに、「サービスデザイナーが実際に担っているタスク」と「AIが代替できる可能性があるタスク」を一覧化しました。

この作業で見えてきたことが2つあります。

  • 発見1:サービスデザイナーはすでにPM業務の多くを担っている
    スケジュール設計、関係者の整理、要件の取りまとめ、会議の設計など、これらはすべてPMBOKに定義されたPM業務です。サービスデザイナーがすでに実質的なPMとして機能していることが、客観的なフレームワークによって可視化されました。
  • 発見2:AIが最も得意なのは「構造化とドキュメント生成」
    ヒアリング内容の整理、情報を一定のフォーマットにまとめること、抜け漏れのチェックはAIが得意とする仕事です。逆に「クライアントとの合意形成」や「どの優先順位で進めるか」の判断は、人がやるべき仕事です。

ここから「AIが作るのはドラフトと構造、判断するのは人」というゴールの基本方針が決まりました。

PM業務を支える、9つのAIスキル

グッドパッチでは、Claude Code(Anthropic社が提供するAIツール)を活用した業務効率化に取り組んでいます。

このツールには「スキル」と呼ばれる仕組みがあります。スキルとは、特定の業務をAIに任せるための専用設定のこと。「この種の依頼が来たら、こういう手順で情報を収集・整理して出力する」という作業フローをあらかじめ定義しておくと、次からは一言指示するだけでAIがその手順通りに動いてくれます。プログラムを書く必要はなく、自然言語(日本語)で「やってほしいこと」と「出力のフォーマット」を記述するだけで作れるのが特徴です。

チームメンバーで担当領域を分けてスキルの開発を並行して進め、約3カ月で9種類のスキルを整備しました。

スキル1:プロジェクト開始時の全体像を整理する

プロジェクトを始めるとき、「何のために、誰と、どこまでやるのか」を文書でまとめておくことはとても重要です。しかしこの文書の作成は、抜け漏れなく、かつ関係者が読んですぐ理解できるレベルに仕上げるのに、経験と時間を要します。

このスキルは、担当者とAIが対話形式でやり取りしながら、プロジェクトの目的・関係者・範囲・スケジュールの骨格を整理するものです。AIが完成した文書を一発で作るのではなく、「何から考えるべきか、どの順番で整理するか」という思考の流れを支援することに絞っています。

スキル2:プロジェクトの関係者を整理する

「誰が意思決定者か」「どのタイミングで誰に報告するか」——これを整理しないまま進むプロジェクトは、後半でコミュニケーションのトラブルが起きやすくなります。しかし、関係者の構造を整理する経験は、ベテランでないと難しいのも事実です。

このスキルは、会話形式でプロジェクトの登場人物の情報を入力すると、関係者の役割・責任・報告ルートを整理した一覧表と、組織の関係を視覚化した図を出力します。「誰が何の意思決定に責任を持つか」を整理するグッドパッチ独自のフォーマットを組み込み、実際の案件で試しながら精度を高めていきました。

スキル3:新規案件のクライアント業界を素早くキャッチアップする

新しいクライアントの案件に入るとき、その業界・市場・競合を理解するのに半日〜1日かかることがあります。「打ち合わせまで時間がないのに、どこから調べればいいか分わからない」——そんな経験をした方も多いのではないでしょうか。

このスキルは、クライアント企業の業界情報を以下の6つの切り口で自動的に整理します。

  1. マクロ環境(景気・技術トレンドなど)
  2. 業界・市場の構造
  3. 法規制・制度
  4. 競合他社とポジション
  5. ユーザー・顧客像
  6. クライアント企業の組織と意思決定者

さらに、集めた情報の信頼度を「公式資料ベースの確かな情報」「複数ソース確認済みの参考情報」「要確認の情報」の3段階でラベリングします。

ちなみに開発の過程で、チーム全体に影響する重要な気付きがありました。「情報量が多ければ多いほど良い」わけではなく、AIに渡す内部整理用の資料と、クライアントに見せるコミュニケーション用の資料では目的が違う。出力を分けて設計しないと、どちらにも使えないものができてしまう、というものです。

これもスキルを作ってみないと、言語化できていなかったかもしれません。残り6つのスキルについては、以下のようになっています。

そのほかに整備したスキル一覧

スキル どんな場面で使うか
先行事例・競合リサーチ 「他社はどうやっているか」を調べて比較整理したいとき
プロジェクトトラブル対応 遅延・スコープ膨張・人手不足など、困った状況への対応策を複数案出したいとき
成果物の品質チェック 作ったドキュメントに抜け漏れや論理的な矛盾がないか確認したいとき
コミュニケーション計画 どの頻度で誰にどう報告するかを整理したいとき
定例会議のアジェンダ生成 次回の会議の議題案を自動で生成したいとき
要求事項の整理 クライアントからヒアリングした内容を「要望→要求→要件」の段階に整理したいとき

個別のスキルをつなぎ、ワークフローを自動化

個別のスキルがそろってきたところで、次のステップに進みました。「それぞれのスキルをシームレスにつなげないか」というものです。

例えば「新規案件の初回打ち合わせ前」を想像してください。理想的な準備のフローは、

  1. クライアントの業界・競合を調べる
  2. 調べた内容を分かりやすくまとめる
  3. 内容の正確性・抜け漏れをチェックする

という手順ですが、これを人がやると半日以上かかることもあります。これをスキルを組み合わせた仕組みを使うと、以下のように動きます。

  1. 「○○社の業界調査をして」と入力する
  2. AIが公開情報をもとに6つの切り口で情報収集・整理(5〜15分)
  3. 別のAIが内容の整合性と抜け漏れを自動チェック
    1. 問題なし ── 打ち合わせに使える資料として完成!
    2. 問題あり ── 指摘内容をもとに自動修正 ➔ 再チェック

担当者の実働時間は約10分(質問への回答3分+最終確認5分程度)。残りはAIが並行して作業してくれます。

そして、チーム内の他のサービスデザイナーにも、実際の案件でこのワークフローを試験的に使ってもらいました。プロジェクト内でこのまま使えるクオリティに達しているものもありましたが、改善の余地がある部分も見えてきました。

そのフィードバックを基に設計を見直し、また試してもらう。このサイクルを繰り返すことで、特定の案件だけでなく幅広いプロジェクトで使えるワークフローへと磨き込んでいきました。

「なぜ、そう設計したか」を記録し続ける

スキルを作る過程では、多くの設計上の判断が発生します。「どちらのアプローチを選ぶか」「どこまでAIに任せるか」——こういった判断を後から追えるよう、チームでは意思決定の記録を習慣にしました。

意思決定一つひとつを「論点・背景・選択肢・結論・理由」の形式でドキュメントに残します。これはソフトウェア開発の現場でよく使われる手法ですが、AIを使ったスキルづくりでも同様に有効でした。 新しいメンバーが「なぜこう設計したのか」をあとから理解できる記録を残すことが、チームの学習の蓄積につながります。

成功のカギは”型”、そして”段階的な設計”

業務の自動化を形にする中で、AIを実務に組み込んで初めて見えてきた「本質的な価値」や「推進上のリアルな課題」があります。約4カ月の試行錯誤を通じて、私たちが得た気付きを、成功体験とプロセスの工夫の2つの側面から振り返ります。

👍 うまくいったこと

「どう使うかの型」を提供することが一番の価値だった

AIを使えば誰でも情報を集められる時代に、「ただ情報を集めるスキル」には差別化の余地がありません。振り返ると、チームが作ったスキルの価値は「情報収集」ではなく、グッドパッチが現場で培ってきたプロジェクト管理のノウハウをテンプレートとして提供することにありました。

こういったノウハウが型として使えることで、経験の少ないメンバーでも一定の品質でアウトプットを作れるようになります。

会議の準備・議事録の自動化で、定例運営が変わった

AIによる定例会議の議事録自動生成と、アジェンダを自動で作るスキルを組み合わせることで、「会議の前後の準備作業」が大幅に軽くなりました。「次の会議で何を話すか」という議題案までAIが出してくれると、準備にかける時間が体感で半分以下になります。

🔄 推進プロセスにおける気付きと工夫

「AIで何を目指すか」の方針を段階的に精緻化した

活動の初期、チーム内で「AIとは何をするものか」の定義をていねいにすり合わせるプロセスを踏みました。「定型作業を自動化するもの」という捉え方と、「自律的に計画から実行までやり切るもの」という捉え方、どちらも有効な方向性だったため、段階を分けて進める計画に切り分けました。 

その結果が、まず9つのスキルを完成させることに集中し、その次の段階でスキル同士をつなぐ自動化を考えるという2段階の計画です。最初に「何をゴールとするか」の認識をチームでそろえることが、後の開発をスムーズにします。

複数のスキルをつなぐと、設計の前提が食い違うことがある

複数のスキルを連携させると、それぞれの設計上の前提が食い違うケースが出てきます。例えば、品質チェックのスキルが「このフォーマットでなければ評価できない」と判定するのに、別のスキルが生成するドキュメントのフォーマットが微妙に違うといったような衝突です。 

こういった問題に気付いたとき、論点と解決策の候補を記録に残してチームで議論するプロセスを定着させることで、問題の再発を防ぎやすくなりました。

AI時代に手にした、もう一つの武器

「サービスデザイナーがプロジェクトマネジメント業務に染み出す」というテーマで約4カ月活動してきて、伝えたい学びが3つあります。

「何をAIに任せるか」を最初に整理する

AIを使う前に「この仕事のどこがAIに向いているか」を考えることが大切です。プロジェクト管理のフレームワークと現場ヒアリングを使って業務を棚卸しし、「AIが得意な構造化・ドキュメント生成」に絞って着手しました。この分解作業をせずにAIを使おうとすると、何を作ればいいか分からなくなります。

スキルの価値は「収集」より「型の提供」にある

AIで情報を集めること自体は、誰でもできる時代です。価値が生まれるのは、「収集した情報をどのフォーマットで整理するか」という型の部分。自分たちの現場で培ってきたノウハウをその型に組み込むことで、「汎用的なAI」ではなく「自分たちの仕事に合ったスキル」になります。

試行錯誤の記録がチームの資産になる

AIを使ったスキルづくりは、最初から完成形にはなりません。うまくいかなかったことや設計を変えた理由など、こういった判断の記録を残すことで、「なぜこうなっているのか」を後から理解できるチームの知識資産が蓄積されます。記録の習慣こそが、個人の経験を組織の学びに変える鍵です。

AIがリサーチもドキュメント作成も代わりにやってくれるようになるほど、「デザインの専門性」だけを磨いていれば安泰、とは言いにくい時代になってきました。

だからこそグッドパッチでは、サービスデザイナーが自分の得意領域をデザインの外側にも広げていけるよう、AIを使ってその拡張を「特別なスキルを持つ一部の人だけができること」から「誰もが型として再現できること」に変えていく取り組みを続けています。今回紹介したPM領域への染み出しは、その一部分に過ぎません。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

AI時代に、自分の領域を積極的に広げていきたい方。そして、AI時代のデザイナーの価値を一緒に考えていきたい方。少しでも興味を持ってくれた方は、まずは気軽なカジュアル面談から、お話しさせてください。お待ちしています。

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