TestFlightアプリ観察日記
突然ですが、皆さんはTestFlight上で公開されているアプリを知っていますか?
「TestFlight」とは、Appleが提供している主に企業や開発者・クリエイターがアプリを内部・外部向けに配布できるサービスです。App Storeで公開する前、いわゆる「ベータ版」のテストを目的として作られています。
私自身、デザイナーとしてクライアントワークに携わる上で、「クライアントが活動するドメイン外の事例を着想源にアイデアを発想する」ということを意識しています。
新幹線の騒音問題が、フクロウの羽の構造を参照することで解決された!なんて事例があるように、一見、結びつきそうにない事象同士が、デザイナーをはじめとする個の主観が介在することで有機的に結びつき、筋の良いアイデアが生まれると信じているためです。
あくまで開発者向けのサービスではあるものの、TestFlight上で公開されているさまざまなアプリはコンセプチュアルなものも多く、体験コンセプトやUIパターンのインプットにもつながると考え、「テスター(※)」として参加しています。
本記事では、筆者が直近インストールした約70個のTestFlightアプリからいくつかを厳選して、デザイナーとして参考になる・面白いと感じたポイントと共にご紹介します。TestFlightの世界の面白さが垣間見える──そんな記事になっていれば幸いです。
(※)開発者にバグなどのフィードバックを送る役割。テスターの情報はAppleならびにアプリ開発者に共有されます。参加する場合は自己責任でお願いします。
目次
『Soulie』(ソーシャルメディアアプリ)
🔎Soulieとは
Soulieは、ユーザーが自らの気分や関心トピックをはじめとするアルゴリズムを微調整しながら、それに沿った記事を閲覧できるソーシャルメディアアプリです。
まさに昨今、SNSなどで問題視されているアテンション・エコノミー(ユーザーの関心・注意を奪い合う経済)に対する、アンチテーゼのような位置付け・思想のサービスと言えるでしょう。
あなたの注意は、あまりにも長い間乗っ取られてきた。
ソーシャルメディア・プラットフォームは、あなたに広告を見てもらいたいのだ。受動的に楽しませ、何時間もスクロールさせる。それは本当に脳に良いのだろうか?
💡参考になる・面白いと感じたポイント
まずは、初回ウォークスルー(オンボーディング)にて、気分や関心トピックなどのアルゴリズムを微調整できる点です。
コンテンツ(記事)を表示する上での前提条件かつサービスのコア機能を使用してもらった上で、自らが設定したアルゴリズムに沿った記事を閲覧できるというコア価値をユーザーが爆速で享受できる設計に、「基本的に初回ウォークスルーは不要」と考えている私は舌を巻きました。
その際に気分をスライダーで選択できるUIは、気分という曖昧な性質であり、入力に正確性が求められないという点で、直感的かつ理に適ったUIだと考えます。
さらには、スライダーの値を変化した際のフィードバックとして、絵文字が変化していく設計には遊び心が感じられます。私もこのような愛着の感じられる遊び心を程よい量で、特にコア機能などに宿したいなと思い直した次第です。
また、先述したサービスの思想が、UIへ色濃く反映されている点も面白いです。
UIから思想が感じられた点の1つは、記事カードに対するアクションです。一般的には「お気に入り」や「いいね」をはじめとする、後で見返すためのアクションが優先度高く表示されるケースが多いと思うのですが、Soulieでは「削除」が表示されています。また、カードを左スワイプしても「削除」を行うことができます。
上タブの「棲み分け」にも注目です。一般的には、自分が気になるトピックに関するコンテンツや他のユーザーが共有したコンテンツが1つのタブ(タイムライン)上に並ぶケースが多いと思うのですが、Soulieでは、①自らが設定したアルゴリズムに沿った記事が並ぶタブ(Articlesタブ)と②他のユーザーが共有した記事が並ぶタブ(Sparksタブ)によって明確に区別されています。
インストールはこちらから:
https://testflight.apple.com/join/grMFiOKb
『Globetrotter』(旅行記録アプリ)
🔎Globetrotterとは
Globetrotterは、自分が撮影した写真を撮影地と共に見返す・共有できる旅行記録アプリです。
単純に撮影した写真を撮影地と共に見返すことは、Apple純正の写真アプリでも可能ですが、Globetrotterでは、特定の1日に撮影した写真同士を時系列順につなげることで、旅行ルートを擬似的に浮かび上がらせることができます。
💡参考になる・面白いと感じたポイント
まず、単純にサービスコンセプト自体が面白すぎますよね。
写真を撮影して後から見返すという行為は、撮った瞬間の記憶を呼び起こす行為へとつながるでしょう。一方で、それが旅行という文脈にもなれば、1枚の写真を撮った瞬間だけでなく、その旅行全体の記憶を呼び起こしたいと思うものです(実際に私の友人には、Instagramのハイライト機能を旅行の備忘録的に活用している人もいます)。
Globetrotterでは、特定の日に撮った写真を時系列+経路とともに見返せることで、その日の空気感や隣を行く友人の歩幅までもを思い出せそうなほどに、旅行全体の記憶を鮮明に呼び起こすことをサポートしてくれます。
また、Look Around機能の振る舞いも興味深いです。
一般的な地図アプリにおけるLook Around機能のウィンドウは、地図ビュー上にデフォルト表示されておらず、特定の地点や望遠鏡ボタンをタップしなければ表示されません。しかしGlobetrotterでは、地図ビュー上にLook Around機能のウィンドウがデフォルト表示されています。
これを見て私は、「撮影地や移動経路の風景を確認できることは、旅行の記憶を呼び起こす価値に寄与するため、ユーザーがそれを行いやすくできるように、Look Around機能のウィンドウをデフォルト表示したのではないか?」と推測しました。どうでしょうか?
インストールはこちらから:
https://testflight.apple.com/join/FOKxyxxg
『Neatsy』(靴EC・ヘルスケアアプリ)
🔎Neatsyとは
Neatsyは、足の撮影データを解析した上で、自分の足にフィットした靴を購入できる。また、データを基にしたエクササイズプランを提供してくれるアプリです。
足の写真を奥行きの感知に優れているFace IDカメラ技術で撮影した上で、人工知能ベースのアルゴリズムと自動運転車で使用されているものと同様の計算技術を使用して、自分の足にフィットした靴をレコメンドしてくれます。
💡参考になる・面白いと感じたポイント
参考になると思ったのは、AIをはじめとする高技術を用いた機能に、運動主体感(この運動を引き起こしたのは、他の誰でもなく自分であるという感覚)を与えている点です。
先述した高度な技術やハーバード大学医学部と共同開発している技術を基に、靴をレコメンドしてくれるのですが、正直なところ私は腑に落ちませんでした。
もう少し自分の心を見つめてみると、足の写真を撮影することで、靴が瞬時にレコメンドされる体験のブラックボックス感についていけなかったのです。
Neatsyでは、自分が履き慣れている靴の情報を入力することで、それを基にフィットする靴をレコメンドしてくれる機能があります。
靴のブランドやサイズ、具体的なモデルを逐一入力する工程を踏まえた上でのレコメンドには、自らが結果を引き起こした!という運動主体感を感じると同時に、レコメンドが腑に落ちました(もちろん、履き慣れている靴の情報を入力したという点が大きいと思うのですが)。
これから人とAIが共生していくにあたって、運動主体感という概念は一つキーワードになるのではないか?と妄想しています。
インストールはこちらから:
https://testflight.apple.com/join/uD5TBzhC
参考記事:
https://startupsavant.com/startup-center/neatsy
・・・
ここからは特定の機能に絞られた、かつ普段使いできそうだなと感じたアプリをゆるくご紹介します。
『Converter』(単位換算アプリ)
Converterは、「通貨」や「長さ」といった単位を換算してくれるアプリです。
普段、海外のサイトでよく買い物をする私としては、「xxユーロ・ドル、何円」などとインターネット上で換算を行うことに煩わしさを少々感じていたので、これからも手元に置いておきたいアプリだなと思いました。シックなアイコンも最高です。
また、単位を換算した際に、単位にまつわる豆知識的なコメントが表示される仕掛けも、なんだか使いたくなるなと感じました。
『Fusion』(音楽発見アプリ)
Fusionは、Apple Musicと連携して新たな音楽との出会いを促してくれるサードパーティーアプリです。
私は、TestFlightでアプリを漁っている最中も、こうやって文章をぼんやり書いている最中も、ほぼ絶え間なく音楽を聴きます。しかしながら気付くと、同じアーティストの曲を1年間で40,000分も聴いていた!なんてことも(Converterでは「時間」を換算できなかったのでリクエスト申請しました)。他にも素晴らしい音楽が満ち溢れていることを思うと、少しばかりもったいなさを感じていました。
Apple Musicのステーション機能では、さまざまな曲を次々にレコメンドして再生してくれるのですが、プレイリストやミックス機能のように、曲を一覧で見ることができません。
それに対してFusionでは、ステーションでレコメンドされる曲を最大50曲一覧で見ることができます。また、ステーションの曲たちを気に入った場合は、Apple Musicのプレイリストへ保存できたり、逆に気に入らない場合は、シャッフルすることもできます。
まさに痒い所に手が届くようなアプリだったので、これからも重宝したいと思います。
アプリ観察友達募集中
いかがでしたか?比較的コンセプチュアルなアプリが多いTestFlightアプリだからこそ、設計思想から紐解いた考察が少しはできたのではないかと思います。
同じドメインのサービスでも、設計思想によってUIの振る舞いやアクションの優先度が異なる様子は、観察をしていてやはり美しいなと思った次第です。以前、人間性という似たような観点でアプリを観察する記事も執筆したので、よろしければそちらもご覧ください。
今回の記事を読んで、話題のアプリや気になるアプリ、それこそTestFlightのアプリなんかを触ったといった感想があれば教えていただけませんか。他の会社のデザイナーの方(もちろんデザイナーでなくても!)、もしよろしければX(Twitter)で一声掛けていただけると嬉しいです。一緒にワイワイ観察しましょう。気軽にご連絡ください!
📱筆者のX(Twitter):
https://twitter.com/lauciz_
お知らせ:2023年アドベントカレンダー開催中🎄
この記事は Goodpatch Design Advent Calendar 2023 Day6 の記事です。今年も12月25日までさまざまな記事を公開していきますので、お楽しみに!
エンジニアが中心となって展開するGoodpatch Advent Calendar 2023 もありますので、合わせてご覧ください!