コンサルティング業界のトレンドスタディ:なぜデザインエージェンシーが買収されるのか
2011年頃から、コンサルティングファームや大手インターネット企業、金融機関によるデザインエージェンシーの買収が急増しています。Design in Tech Report 2018によると、2004年から71社のデザインエージェンシーが、大手インターネット、戦略コンサル、金融機関などに買収され、その半分である30社以上が2015年以降に買収されています。
以前にGoodpatch Blogでは金融機関とデザイン会社の提携事例をご紹介しました。今回は、コンサルティング業界においてなぜデザインが求められているのか、具体的な事例を交えながら考察します。
目次
近年のコンサルティングファームの課題
まずはじめに、なぜコンサルティングファームは新たな試みに取り組む必要があったのでしょうか。その部分を見つめることで、近年のコンサルティングファームにおける課題が何なのか、なぜデザインが解決策の要になるのかを理解する土台になるでしょう。
戦略策定から施策実行までを一気通貫できる構造が必要とされている
従来のコンサルティングファームにとっては、ロジックこそが問題解決への糸口です。データを直視し、フレームワークに基づいてどのような戦略で進めれば良いのか協議する。この「型に当てはめる」思考によって、コンサル業界は発展していきました。
しかし、「コンサル業界」が潤えば潤うほど、参加するプレイヤーは増え、いずれはロジックによって固められたフレームワークも飽和状態に達することが予想されます。この刻一刻と押し寄せる波に危機感を覚える企業が増えてきたことで、従来の数字がらみのコンサルティングとは別のベクトルにも手を出すファームが増えてきたのではないでしょうか。そこで登場するのがそこで浮上するのが「デザインエージェンシーの買収」という選択肢なのです。
(参照:Newspicks 「活況でも課題は山積。コンサルはイノベーションを起こせるのか」)
事例1 デロイトデジタル→Heat
2016年、デロイト(米大手コンサルティングファーム)の広告代理店部門が、米独立系クリエティブエージェンシーHeatを買収しました。デロイトデジタルは2012年に発足しわずか3年で年間約2300億円売り上げを出すまでに上り詰めましたが、一方のHeatもカンヌ国際広告祭で8冠を獲得したクリエイティブ業界のホープです。デロイトデジタル最高経営責任者であるアンディ・メーン氏が「ヒートの素晴らしい、輝かしい受賞歴のあるクリエイティブを傘下に加えることで、市場をリードしてきた我々のデジタルビジネスが完璧になる」と語るように、デザインの力への期待は大きいようです。
(参照:Digiday 「デロイト、カンヌ8冠の制作会社買収:止まらないコンサルの広告業拡大」)
事例2 Capgemini SE→Adaptive Lab
今年6月、Capgemini SE(仏大手コンサルティングファーム)が英デザインスタジオAdaptive Labを買収しました。Capgeminiグループの執行委員であるCyril Garcia氏は、Adaptive Labの強みを「デジタルを優先させたエクスペリエンスデザインの手法」とし、クライアント企業が新しい技術をよりスムーズに取り入れるための工夫を期待しています。
(参照:CRN “Capgemini Nabs London Studio As Buying Spree Rolls On”)
Design in Tech Report 2018 from John Maeda
デザインエージェンシーを買収するメリットとは?
コンサル業界に変革をもたらすにしても、果たしてデザインエージェンシーを買収することにどんな効果、意味があるのか。そのような疑問をお持ちの人は少なくないと思います。そこで、コンサルティングファームがデザインエージェンシーを買収するメリットを考察しました。
デザイナーの観察力、思考が必要とされている
前述した通り、現在のコンサル業界はロジック以外のベクトルにも問題解決の糸口を見つけようとしています。数字は客観的が故に説得力があり、正確な数字には安心感があります。ですが、人間の行動が全てロジカルに行われるのかというと、ほとんどの場合そうではありません。通勤時に急いでコンビニに入った時、「なんとなく」いつもと違う銘柄のお茶を買ったような体験は誰しもが経験しているのではないでしょうか。人間の無意識な行動や直感は数字だけでは表現しきれないため、より「人間そのもの」を観察することが今後のビジネスには求められており「デザイン思考」がビジネスパーソンに必要になり始めています。
画像出典:【初心者向け】ビジネスに必要な「デザイン思考」とは何か?プロセスをイラストで紹介!
自社開発で独自価値を磨くため、デザインプロセスを内製化
コンサルティングファームがデザインエージェンシーを買収する背景に、テクノロジーの発展も挙げられます。クライアント企業の多くがIoTやAIを扱う世の中で必要とされるのがUI/UXの研究です。世の中のユーザーに浸透させることを目的とした場合、商品の見た目から使いやすさまで、その細部をプロトタイプ化することがコンサルティングファームにも求められる時代です。そこで、そのプロセスを外部のデザインエージェンシーに委託するのではなく、自社で請け負うことで他のファームとの差別化を図ることも選択肢として挙がってきました。既に一企業として成立しているデザインエージェンシーを買収することで、ゼロからデザイン戦略事業を立ち上げるコストを減らす手法です。
(参照:Career Incubation Inc. 「なぜコンサルティングファームがデジタルエージェンシーやデザインファームを買収するのか?」)
デザイン思考の導入による企業文化の変革
買収や事業提携によって、デザイナーが長けているデザイン思考を企業文化に取り入れることも、コンサルティングファームの新たな試みです。しかし、それが実際に上手くいくかどうかは長期的に分析しなければならない点です。
一つの例として、2016年に博報堂の戦略事業kyuが米デザイン会社IDEOに出資した件を見てみましょう。IDEOはデザイン思考を用いて問題解決策を講じることで知られており、博報堂はその革新的な視点を取り入れることで企業としての成長を促そうとしています。博報堂(1895年創立)は長年独自の企業文化を形成してきましたが、IDEO(1991年創立)への出資によって企業文化にどのような影響が生まれるのかは見所です。
Design Weekの“Being acquired: why big brands are buying design studios”という記事では、大企業がデザインエージェンシーを買収する上で留意しなければならない事柄として「デザインエージェンシーの文化を尊重すること」と明記しています。博報堂の件は買収ではなく出資という点での違いはありますが、大企業とパートナーシップを組むことによってデザインエージェンシー独自の文化を壊してしまっては勿体無いという意見です。2014年に米国の金融大手キャピタル・ワンがUXコンサルティングファームのAdaptive Pathを買収しましたが、サンフランシスコにあるクリエイターのオフィスは現在でも自由な形で保たれているそうです。逆に、大企業が長年築き上げてきた文化を外部要因によって良い方向へと変えていけるかどうかも、勝負所なのでしょう。
【関連記事】UXデザインに強いコンサル・支援会社5選!依頼するメリットや選定時のポイントも紹介
コンサルティング会社の新たな門出
いかがでしたか?今回はコンサルティング業界における「デザイン」の位置付けと期待される影響を、事例と共にご紹介しました。考察していくと、コンサルティングとデザインの領域は限りなく近くなっているように思えました。Goodpatchのクライアントワークでは、クライアントのデザインパートナーというスタイルでビジネスに並走します。そんなデザインパートナーの考え方に関しての記事で「言われたものを作るのが私たちの仕事ではなく、まだ見ぬ答えを一緒に探すのが私たちの仕事である」とお伝えしました。まさに世界中で今、そんな仕事が私たちのようなデザインパートナーに期待されてきているのだと感じました。
Goodpatchでは、UI/UXデザインを強みとして企業の新規事業立ち上げや事業戦略立案などをお手伝いしています。デザイン思考やプロトタイピングを学び、体験できるワークショップなども提供しているので、ご興味がある方はぜひご連絡ください!お待ちしております。