Goodpatchでは企業の課題やニーズに、クライアントワークやワークショプ、セミナーといった様々なメニューにてお応えをしています。
今回の記事では、東京海上ディーアール様の社員のみなさんを対象に実施したセミナーの様子をご紹介します。
「新規事業創出に挑む社員を、より多⾓的なアプローチで後押ししたい」という経営企画部の責任者の想いがありました。そこで、新規事業に望む企画者の「好き」がなぜ大事なのか、そしてそれを形にするためにデザインをどう活かすかについてお話をしました。

実施の背景

東京海上ディーアールは、様々なリスク領域に関するエキスパートとしての貴重な経験と豊富な実績を元に、東京海上グループのデータ戦略の中核を担う会社として2021年7月に、東京海上日動リスクコンサルティングから社名を変更しました。

東京海上ディーアール社は、不確実性の高まる昨今の事業環境下、未来を担う新しい軸が欲しいという思いから2020年世より「新規事業社内公募制度」を実施しています。今夏の社名変更により、制度の重要性がさらに増し、推進する中で社員からは「新規事業立案に意欲はあるが、どう始めればいいかわからない。立案するためのスキルやデザイン思考が知りたい。」という前向きな声と課題が挙がっていたそうです。

新規事業担当者 黒川さんはデザイン思考の浸透による応募数向上はもちろん、「新しいことにみんなで挑戦しよう、新しいことは楽しい」という考えが社内により一層伝わることを目的に、本セミナーを実施しました。

登壇者紹介

島田 賢一 (ワークショップデザイナー/ゲームデザイナー)

新卒でナムコ(現バンダイナムコ)に入社。「リッジレーサー」などの家庭用ゲーム制作に携わったのち、新規事業やコンサルティング事業での経験を経てGoodpatchにジョイン。
これまで携わってきたプロジェクトの経験とゲームデザイナーとして培ってきた知見を生かし、様々なワークショップの設計とファシリテーションを行っています。

新規事業について考える

今回のセミナーでは、新規事業に挑む人のマインドやアイデアの考え方、そして新規事業を育てる側の姿勢について、以下の3つのポイントに分けてお話をいたします。

1.新規事業創出への向き合い方を知る

2.自分のアイデアを形にするためのヒントを得る

3.ユーザー視点の方法論(デザインプロセス)を理解する

アイスブレイク

最初に新規事業やデザインのことを考える前に少しアイスブレイクを挟みます。

これはフェリス女学院中学校の入試問題なのですが、まさに常識や当たり前を疑う問題なんですよね。この思考はデザインや新しいものを作るときに必要な要素になります。

皆さん2分間、「常識」や「当たり前」を捨てた時に起きる変化をイメージしてみてください。数名に考えを聞いてみようと思います。

実際の声

損害保険会社に長く勤めていて自動車保険、火災保険やケガの保険など、決められた商品に入っていくものだという常識があります。そうではなくてむしろ事故が起こった後にその事故に対応してアメーバのように保証が変わる保険という風にできれば、面白い世界ができるのではないかと思いました。

いまリモートで働いているんですが、会社に一年間行かないというのは私の中では「できるはずがない」という常識の壁になってました。これが続くと良くも悪くも帰属意識とか発想がガラリとかわるのでないかと思いました。

みなさんありがとうございます。社会や身の回りに対して必要となる変化が様々思い浮かぶと思います。現状を問う視点・考え方というのは違和感がヒントです。「自分はこっちの方が良い(好きだ)」という感覚を大切にしてください。そこにイノベーションの種があるはずです。

新規事業創出とは

新規事業創出は、既存事業の延長線上にあるものと捉えられがちですが、一つの側面として新しいものを生み出す超主体的でクリエイティブな活動と言えます。それを理解せずに既存事業同様に進めようとするときに、以下のような「新規事業企画の負のサイクルが回ってしまいます。

まず、アイデアが形にならないことが多いですよね。さらにアイデアを出しても批判されたり相談ができず、周囲からの支援を受けづらくなっていきます。それを続けると結果も出ず、自分の成長も感じられなくなり、最終的に挑戦する価値を見失ってしまうというものです。

こうならないように皆さん試行錯誤されていると思います。では、なぜこうなるのかを振り返ってみましょう。

新規事業を企画立案するみなさんは強い責任感や想いはあるのですが、そもそも「自分は何をしたいのか」がうまく描けないケースが多いのではないでしょうか。「何がしたいのか」を描けていない状態で企画者任せにしてしまうと、いくらアイデアを出しても良い企画として形になりにくいです。

【関連記事】新規事業立ち上げを成功に導くには?4つのステップやポイント、事例を紹介

イノベーションに成功している企業が大事にしていること

次に、イノベーションを大事にしている企業ついて考えてみます。
食パンが美味しく焼けるバルミューダのトースター、山の上でキンキンに冷えた美味しいビールを持っていけるスノーピークのポットなどを例に挙げます。

これらは徹底したコンセプトや研ぎ澄ました造形・機能、そして「自分たちがほしい」に特化したものを作っているんですね。これらは企画者やデザイナーの強い想い(=好き)の表れだったりするんです。

彼らは皆がいいねというモノではなくて、自分が「これを作りたい。これを表現したい」と思ったのを創っています。それが多くの人に受け入れられることでイノベーションに成功しているのです。

イノベーションを創るマインドセット

自分の興味(好き)からの起点で向き合うことが、変化・創造性を求められるプロジェクトや新規事業・既存事業のリニューアルでは大事なポイントです。「好き」という言葉だけとると趣味性を感じるかもしれません。ただ、私は自分のエネルギーやパッションを仕事に転換できるため、「好き」を意識することはとても大事なことだと考えています。仕事をしていく中で「決まったことを決まった通りにやってね」と自分の「好き」が表現しづらいケースもあります。ただ、好きを出すことで「あの人はこういうことをしたいんだ」という企画者への理解が拡がり共感してくれる仲間が寄ってきますし、他の人も「自分はこういうことをしたい」と言いやすくもなる効果も見込めます。

今までにない新しいコトを始めて形にしていくとき、自分の「好き」を解放し共感・共有していくことが大事です。これを個人として、組織としてやっていくときにそれぞれ大事なポイントが3つあります。

①自分の好きを追求し自己理解を進め、他者から理解・共感を得る

「好き」を深掘り、表現することが大切です。まずは自分の「好き」をありったけ挙げてみて共通する「好き」のコアを探りましょう。
その「好き」を他人に伝えることで自身の「好き」も再確認することができます。自己開示すると心理的ハードルも下がるので結果的に関係構築もできます。自分の想いに共感する仲間が出てきて、自然と実現する流れになります。そういう環境を作る上でも、自分の「好き」を表現していただきたいです。

②想いを伝え仲間を作ること

人が魅力に感じ、応援したい、参加したいと思うのは、その人が作る世界(Vision)が魅力的だからです。細かなアイデアは、仲間と一緒にどんどん形にして改善していけばいいと思います。
想いを伝えるときは、「良いアイデアだからこれを聞いて」というより「こんな状態になったら楽しくないですか!?」「やり方色々あると思うので助けてほしいです!」と言った語りかけをすることで、良いフィードバックをもらえるだけでなくファンになってくれます。

③好きの市場性を高める

好きには色々あります。なかなか理解されない好きもあると思います。それを市場化していくことは難しいですが、何かしら共感を得る部分があるはずです。深く愛されてるモノだからこそ、同じ共感値を持ってる人には深くささりますし、その後の広がりも期待できます。

この感覚を磨くために、「多くの人がいいと思うものを日々体感しておくこと」が大切です。人気のものに全て触ることは難しいですが、自分が興味を持って楽しめそうだなと思ったものを徹底的に楽しみましょう。そうすることで自分の好きの感覚が市場性の高いエゴになっていくのです。

次に組織として、新規事業創出支援における大切な3つのポイントを紹介します。

①仲間でアイデアを形にしていくカルチャーを根付かせる

新しいものを作る時、個人が興味を持ちトライする時、組織はそれを自由闊達に行える場を提供しなくてはいけません。情熱のある人がコミュニケーションを取りやすい環境を作りましょう。自分の考えを話しそれに対して返してくれる文化を根付かせることが大事です。

②明解なルールを提示・運用する

会社として企画の芽を育てる際、明確なルールが必要です。いつまでに何が達成できていなかったら撤退するのかを決めないと泥沼状態になってしまいます。足切りのようなハードルとして捉えられる部分もありますが、なかなかうまくいかない起案者にリスタートの機会を与えることにもつながります。

③教育型から「共育型」へ

出てきた芽(アイディア)に対して「これをやるといい」と指示をしがちです。そうではなく、出てきた芽に共感しそれを伸ばしていく姿勢・コミュニケーションが必要です。担当者が何をしたいのかを対話で引き出し・育て、想いの種がよく育つための仲間や風土やプログラムをととのえ、その上でスキルアップの機会などを提供します。

小さな種を発芽させてどんどん大きくさせていきましょう。

不確実性の高いクリエイティブな活動を進めるために「好き」から強い想いを持った私事(シゴト)を創りましょう。自分の好きから生まれた、「社会へ生かす想い(Vision)」と、会社にとってやりたいビジョンを掛け合わせましょう。そうすることで自ら情熱を持ち、周囲に支援される形でつきすすみ、さまざまな困難を乗り越え挑戦し続けるスタンスを持つことができるでしょう。

まずは、砂場で遊ぶように、自由な発想で手や頭を動かし仲間とともに見たこともないものを形にできる場・文化を創っていきましょう。

参考図書

今までお伝えしてきたことに関する本をいくつか紹介します。「好き」が何故大事か、事を起こすために何が必要か、それぞれのテーマに合わせたことが分かりやすく書いているのでぜひ読んでみてください。

「好き」から考えるミニアイディエーションワーク

セミナー受講者の方に、新規事業のアイデアの種を生み出す際の4ステップをミニアイディエーションワークとして体感してもらいました。

(1)新規事業に挑戦する「あなたの個人的なワケ」は?
(2)あなたが大好きなことを書き出し、そこから大事にしたい要素を明らかにしましょう
(3)会社(から見える社会)の目指すビジョンに向けて「足りていない」と感じるものは?
(4)あなたの「好き」の要素と、会社に足りていないものを掛け合わせたアイデアを自由に考えてみましょう。大事なことは「自分がワクワクすること」です

▼実際のシート

(セミナーでは、各項目数分の時間をとって手元のシートに記入していただき、数名の方にシェアしていただきました。)ミニワークを通じて、自分の「好き」をどう会社に活かすかを考えていただきました。このような個人的な想いを起点に発想する考え方を日々実践していただきたいです。そこから自分の好きを会社でどう活かして行こうかという発想が広がります。まずは小さな火種から作っていきましょう。

新規事業におけるデザインの力

新規事業でやりたいことが見えてきた段階で、デザインの力が役に立ちます。

デザインとは機能はもとより、美しさや調和を考えて一つのものの形態あるいは形式へとまとめあげる総合的な計画、設計のことです。

それは、先ほど皆さんの「好き」から生まれたアイデアと、商品・サービスの間を繋ぐものでもあります。誰に、何を、どんな体験を通じて、どのように伝えていくのかを考える際に役立つのがデザインなのです。

デザインとは

今日デザインという言葉はよく使われるようになりました。コンサルや金融機関が世界中のデザインファームを買収しているという事実からも、デザインのが価値や可能性が感じられるようになっています。

その背景には、機能的な価値や、表層的な価値の時代も終わりを迎えたことがあります。しばしば語られていることですが、モノを作れば売れる時代は終わり、コト(体験)を売る時代に変化しました。

ユーザーにどんな体験をさせるかがとても重要なのです。今までのデザインは認知を高めるための表層的な、点のデザインが強かった。ですが今は、ユーザーが長期的に体験し続けたくなる線のデザインが重要なのです。

デザインは造形を作るだけでなく、そのための調査や発想も必要です。翻って、体験をデザインするということは、利用者の気持ちや行動に変化を生み出す仕掛けを施すことを指します。

デザインを学ぶ上での3つのエッセンス

ではどのようにデザインのエッセンスを学んでいくと良いのでしょうか。①マインドセット②プロセス③ツールの3つの切り口で見ていきます。

①マインドセット

話すのではなく見せる手法や、人々の価値観や感情に焦点を当てるなどデザイナー的な思考を基に物事を進めていくことが重要です。ユーザーに共感し探求し続け、それを可視化することがデザイナー的思考だと言えるでしょう。

②プロセス

どのような課題をユーザは持っているのか。仮説をもとにアイデアをぶつけて検証と改善を繰り返して解決策を見つけていきます。

③ツール
最後にツールのお話をします。自分たちが対象にしているユーザーへの理解を深め共有するためのツールとしてペルソナやカスタマージャーニーマップなどを利用します。

「こういうことがしたい」と考えるユーザーの裏の気持ちは何か、それらを踏まえた上でユーザーに届けるべき体験とは何かをツールを駆使して議論します。

なぜビジネスにデザインのエッセンスが必要なのか

愚直にお客様の要望に耳を傾けて頑張っても、ただ単にモノやサービスを作るだけでは売れない時代になりました。

新規事業は非常に不確実性が高い活動です。どんなテーマに着目するか、それがどれくらいユーザーの価値観に響くのか、本当に実現できるのか、そのために何をするべきか、多くのことを考える必要があります。

デザインを知りその力を活かすことで人の価値観の重要性を知ることができます。未来の不確実性を前提に、チームで何かを創造的に設計することができます。なのでデザインの重要性を深く理解することが大切です。自分の強い想いが見えてきたらそれを形にしていくプロセスを仲間と一緒に進めていきましょう。必ずあなただけの「新しい私事」を実現できるはずです。

Q&A

Q:人間中心設計やとか体験価値といってもシーズが前面に出てしまうのではないか思います。自分たちの強みや持ってる技術を前面に出した開発になりがちですが、どのように防いでいますか。

A:いったん置いておくことが大事だと思います。自分たちが持っているものをどう使うかの思考は独りよがりですし、会社よがりです。お客さんはそれを求めているわけではありません。まずは、お客さんが欲しい価値を自分たちの理想像の中に描けるかを考えます。確かに特定のシーズがあることで、新しいことへの挑戦の足枷になるというケースは比較的多いと思いますが、お客様が求める価値をもとに「それは捨てませんか、置いときませんか」と言うべきだなと考えます。

Q:会社の中で「自分のやりたいこと」をやろうと思うと、「自分のやりたいこと」が狭まってしまうのではないかと感じています。

A:私の経験も踏まえてお話します。私も事業開発や既存事業改善の業務に携わる中で、既存業務を変えることの難しさや、別領域にクリエイティブの力を活かせない歯痒さを感じました。今振り替えると、自分の想いや課題をシェアし仲間を募り、共に提案できたのかもしれないなと思います。なので挑戦的に「自分のやりたいこと」をやるべきだと思います。会社の中で挑戦することは(独立起業することに比べ)とても低リスクです。ぜひ「こんな取り組みをしたい」と発信した方がいいのではないかと思います。周りの仲間と共に、その人の思いを会社の中で実現するための方法を考えて形にしていけばい良いのです。

セミナーを実施してみての変化・感想

今回のオンラインセミナーは、新規事業担当の黒川さんからのご依頼から開催させていただきました。黒川さんを通して、セミナーを受講した社員の変化を伺いました。

黒川さん:
今回のセミナーをやってみて、想像以上に社員のモチベーションや意識の変化が生まれました。セミナー受講後、私が配信していた部屋にきて、セミナーで芽生えた想いを30分程も語って下さる社員もいました。また、その後実施した新規事業社内公募制度に関するイベントなども出席率が上がり、メールへの反応や私への相談件数も増えました。応募数の向上もそうなんですが、「新しいことに皆で挑戦しよう。新しいことは楽しいんだよ」という考えをより一層社内に伝えることがセミナーの目的でした。当社はリスクに関する専門家集団であり、仕事柄堅実な考え方になることも多いですが、「ワクワクするテーマを考えましょう」という自分ごとにした発想ができる雰囲気がセミナーを通して強まったと思います。今後はさらに意見交換ができる時間やコンテンツがあるとさらに効果が期待できそうです。

最後に

この記事では、新規事業に挑む人のマインドやアイデアの考え方、そして新規事業を育てる側の姿勢についてポイントをお話するセミナー。の内容をご紹介しました。

新規事業に大切な「好き」という気持ちをどう育てていくか。デザインの考え方を新規事業創出とどう結びつけていくか。それらを組織単位で考えていくことが非常に大切です。

Goodpatchでは、ご要望に合わせたセミナー・ワークショップをカスタマイズして提供可能です。下記よりぜひお気軽にご相談ください!お問い合わせ後、ワークショップ実施の金額やその他事例などもお伝えさせていただきます。

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