2021年4月22日にGoodpatchのビジュアル専任パートナー“TORO”のメンバーによる、「ビジュアルデザインで組織の共通認識を作った事例」の紹介をオンラインで開催しました。

TOROはGoodpatchのUI Designerのなかでもビジュアルデザインにおいて高い技術を持ったメンバーによって構成されているチームです。エモーショナルなビジュアル表現はもちろん、Goodpatchがこれまで得意としてきたリサーチやワークショップに基づいた戦略的なビジュアル表現をかけ合わせることで、クライアントの課題解決に寄与してきました。今回のウェビナーでは、特に「組織の共通認識を揃えること」に焦点を当てて、ビジュアルデザインの力をご紹介します。

登壇者の紹介

高城 栄一朗 / モデレーター

本日のモデレーターを務める高城です。Goodpatchではデザインストラテジストとして戦略設計や、さらにその前フェーズに必要なリサーチをしています。本日は、ビジュアルの力を使ってビジネスに寄与していくというのはどういうことなのか、事例を交えてお話しできればなと思っています。

 

山木 拓実 / デザインリード

はじめまして、山木と申します。GoodpatchではUIデザインのリードデザイナーとマネジメントを担当しています。これまでの略歴ですが、広告代理店フリーランスを経てコロプラという会社のデザインユニットでデザイナー、アートディレクターをしていました。コロプラで担当していた領域はゲーム開発のコンセプトや世界観設計などです。その後、ドローンファンドという所で、2020年年代のドローン前提社会実現プロジェクトに参加しし、ビジュアルの制作に従事しました。2018年に退職して、現在Goodpatchに至ります。

 

中田 彩 / UIデザイナー

UIデザイナーの中田と申します。Goodaptchでは助太刀という建築業界のマッチングアプリのリニューアルなどを担当させていただきました。アプリのリニューアルだけでなく、ロゴやビジュアル、ウェブサイトなど、トータルでデザインさせていただきました。それまで、ウェブプロダクションで8年ほどデザイナー兼アートディレクターとして働いていた経験がありますので、ビジュアル表現の幅広さが強みです。

 

石黒 澪 / UIデザイナー

UIデザイナーの石黒 澪です。Goodpatchではサントリー食品インターナショナルさんのSUNTORY+を新規事業の構想からグロースフェーズまで携わらせていただいています。主に最初に作った世界観をビジュアルやプロダクトに落とす役割を担っています。

ビジュアルデザインの重要性

高城:
ビジュアルデザインによって視覚的な効果を生み出すことは組織やプロダクトのビジョンをメンバーに伝える上で非常に影響力があります。実際に視覚情報がどのように活きるのか、2つの事例からご紹介します。

課題1:指針となるものを作れず、認識の統一化が図れない

高城:
指標となるものがものを作ることが難しく認識が取れない事例として、某SIer企業様と共創したプロジェクトをご紹介します。

このクライアント様はビジョンを作りたいと考えていましたが、お互いの認識を合わせることができなかったそうです。そこで、Goodpatchは会社の社員の方々の理想の働き方とオフィス像を議論し、理想の形をビジュアル化することでメンバーの共通認識を揃えるお手伝いをしました。

山木:
プロセスとしては、まず最初に進め方のご相談をして、ワークショップの開催、コンセプトストーリーの作成、最終成果物の制作という流れで共通認識のビジュアル化を行いました。約3ヶ月に渡るプロジェクトになります。

まずはワークショップをGoodpatchが設計し、働いてる社員の方々から、「こういったオフィスが良い」「こういった未来の働き方がしたい」「こんな環境で仕事をしたい」などの理想を2日間に分けて抽出しました。ワークショップで得たアイデアはこのようにラフに書き起こします。ワークショップで心がけたのは、頭で描いているイメージを口に出すことを恥ずかしがらずに、どんなアイデアでも引き出しやすい環境を作ることでした。

ラフスケッチファから、次に物語を作成します。この時点で一度、クライアント様にご提案をして、ビジュアルに落とし込んでいくフェーズに移ります。

ビジュアルを作る上で、まず考えるのはワークショップで得たアイデアを元に「エントランス」「庭園」「ワークスペース」「ショールーム」など空間要素のリストと、配置方法です。配置ラフからラフ、線画、着色へと展開していき、最終成果物としてのビジュアルに落とし込まれます。

このビジュアルの実寸サイズは2m以上あり、実際は1人ひとりの表情が分かるほどです。よく探してみると、宇宙飛行士や侍や猫がいることが分かります。ぱっと見の面白さもあるのですが、じっくり探す面白さも盛り込んでいます。

この事例のポイントとして、未来の姿をビジュアル化することにより、言葉では伝わりきらない「ニュアンス単位」で認識を揃えることができました。

実際にクライアント様から「想像以上のクオリティ」「頭に描いていた漠然としたイメージが一気に明確になり明確な指標となった」「1枚絵があるだけでも簡単な言葉でイメージを共有することができる」といった声を頂いています。ワークショップの設計をして具現化するまでの流れを作ったことで、参加した方のアウトプットに対する納得感が非常に高くなることがこの案件によってわかりました。

課題2:行動指針などをつくったが、浸透しない

高城:
2つ目にご紹介するのは、「行動指針等を作ったが浸透しない」というケースです。これはGoodpatchの事例です。 Goodpatchには離職率が40%を超えていた組織崩壊期がありました。

組織崩壊からカルチャー再構築までを綴った代表土屋のnote:https://note.com/naofumit/n/n028df2984256

会社の方向性を示すバリューを定めたのですが、社員が自分ごと化できていませんでした。これを解決するために、ビジュアルの力を使いながら行動指針の浸透に取り組んだ事例です。

石黒:
Goodpatchには5つのバリューがあります。

  • Whyが人を動かす(Inspire with Why
)
  • 
領域を超えよう(Go Beyond
)
  • 
最高のチームのつくり手になる(Play as a Team
)
  • 
こだわりと遊び心を持つ(Craft Details, Create Delight
)
  • 良いデザインを良いビジネスにする(Good Design Equals Good Business

)

しかし組織崩壊期、バリューを作成しても浸透率は8%と非常に低い数値でした。当時の状況として、離職率や全体イベントの参加率の低下が挙げられます。バリューが浸透していないことが直接的な理由ではありませんが、組織の共通認識が取れていない状況は離職率やイベントの参加率が低下する傾向が見られます。

バリューの浸透率の低さの要因として、バリューと社員のタッチポイントの少なさが挙げられました。また、ビジョン、ミッション、バリューを策定するとき、社員の皆さんに覚えてもらいやすくするため、短い言葉にまとめることは往々にしてあります。覚えやすい分、バリューが表現したい背景の文脈が落ちてしまう可能性も含みます。そこで、バリューのタッチポイントを増やし、文脈の欠如を保管する施策を実施しました。

この事例では、浸透度調査、メンバーへのヒアリング、ムードボード・テーマの作成、最終成果物の制作、浸透度の再調査という流れでビジュアル化を行いました。

浸透度調査のフェーズでは、ビジョン、ミッション、バリューを行動指針として受け止められているかについて全メンバーにアンケートを取り、「認知していない」「認知している」「理解している」「行動している」の4段階に区分した上で、「行動している」もしくは「理解している」の合計数を浸透度として調査を試みました。

浸透度調査の結果が得られたところで、メンバーにヒアリングを開始します。ヒアリング内容は例えば「5つのバリューの中で1番納得しているものと、その理由を教えてください」という設問です。

浸透度とヒアリング結果を得たところで、ムードモードとテーマに落とし込みます。ムードボードデザイナーとノンデザイナーが共通の認識を持つために、写真やイラストを集めてアウトプットイメージを想像できるようにしたものです。これをもとに最終成果物を制作しました。

最終成果物の一つとしてバリューを表現したポスターを制作しました。例としてご紹介するのはバリュー3つ目の「最高のチームの作り手となる」のポスターです。こちらを手がけたのが山木です。

山木:
「最高のチームの作り手になる」というテーマなので、手を中心的なモチーフとして使いたいと考えていました。複数の手が絡み合って、石が研磨されて輝いていく。周りにいる動物がそれを見ては凄いチームだなと思っている様子をビジュアルに落とし込んでいます。

石黒:
現在、Goodpatchでは1つのバリューに対して2つのポスターを作成しています。それぞれ、全く違うアウトプットをしていて、作ったデザイナーの解釈によって展開される方向性は様々です。

例えば、私は「遊び心とこだわりを持つ」というバリューのTシャツをデザインしました。子供の時に作って親にプレゼントしたような折り紙のように「一生懸命に作る気持ちと思いやりを忘れないようにしたい」という気持ちを込めて子供が描いたようなモチーフを使っています。

対してこのポスターではお弁当をモチーフにしています。こだわりと遊び心の裏にある、そのものに対する愛をテーマにしています。

このように同じビジョンでも少しずつ解釈の幅は違ってきます。これはつまり解釈の幅を広げることが目的です。それによって共感しやすいストーリーを作ることができると考えています。バリューを文章だけで表現すると、言葉の創造性を狭めてしまったり、前後の文脈が落ちてしまう可能性が生じますが、それをポスターなどの制作物によってフォローすることで社員一人一人が自分の文脈に合った解釈を見つけやすくできるのです。

その上でグッズ化し、使いたいと思ってもらえるような見た目にすることによって、バリューのタッチポイントを増やすことを目的としています。

浸透施策の実施後、浸透率は変化し、バリューの策定直後は8%、施策前は68%だったのが、施策後においては90%まで向上させることができました。離職率においても40%から浸透後においては8%まで低下、社内イベント参加率については30%から80%にまで向上しました。

TOROはいかにビジュアルによってサポートするか

中田:
まずTOROというチームについてご説明します。

Design Divisionというクライアントワークを担う事業部があり、その下にUI-Designerが所属するUI-Design UNITがあります。その中でビジュアル表現のスキルが高いメンバーが所属しているのがTOROです。今回お話ししている山木、石黒、中田の3名を含めて現在は7名がTOROに所属しています。

TOROはビジュアルデザインによって、企業や事業を運営していく中で対面する小さな課題解決から大きな夢の具現化までを行うビジュアル専任パートナーです。

ビジュアルデザインを専門にしているプロダクションは世の中に多数ありますがTOROの提供できる独自価値は、ロジックとエモーショナルの両輪の力を生かしてクライアントと共創していくことにあります。ここで指すロジックとはGoodpatchがこれまで専門領域としていたリサーチやユーザインタビュー、ワークショップなどから得られる社会との接合力です。エモーショナルとは一目で魅力を感じるビジュアルに定着させるスキルです。2つを融合させることで初めてユーザー、プロジェクトチームから共感を得られるデザインが成立します。

実際にTOROができる課題解決をご紹介します。

例えばプロダクトやサービスなど、事業におけるデザイン課題については、

  • ターゲットに刺さるビジュアルが欲しい
  • ビジュアルを通じて他社との差別化を図りたい
  • サービス設計のプリンシパルとなるビジュアルが欲しい

などにお応えできます。またビジュアルにおける印象テストを行うことでよりユーザーの感情に訴求するビジュアルデザインを提供できます。

組織デザインにおいては、

  • 個人の中でバラバラだったイメージを揃えたい
  • 言葉だけだと説明に時間がかかってしまう
  • 見れば伝わるビジュアルがシンプルに欲しい

といった課題感に対してTOROはご支援できます。

ビジュアルは時に激しく目を奪って、時に優しくサービスやブランドの世界へと誘います。分かり辛いことを明確にしたり感情を動かすこともできます。私たちはその有用だけど特殊なビジュアルのプロとしてクライアントと共に歩むパートナーです。一緒に悩み、一緒に探しワクワクしながら道をひらきたいと考えています。数字、言葉、知識では足りないというとき、ビジュアルという手段は大きな力を発揮します。

小さな課題解決から大きな夢の具現化かでまで何か抱えている方がいらっしゃいましたらぜひご一緒に解決していきましょう。


以上、TOROのメンバーによる「ビジュアルデザインで組織の共通認識を作った事例」のイベントレポートをお届けしました。組織の共通認識を図ろうとするとき、認識のズレや意見の不一致によって、展開できない、伝わらないという問題が発生します。ビジュアルデザインは、完全に言語化できない感覚的なニュアンスも包括的に取り込み、ステークホルダーが同じ視座を持てる大切な要素となることが述べられていました。

TOROはビジュアルデザイン領域で、企業の課題解決の伴走者として支援して参ります。ご依頼やご相談については、お気軽にこちらからお問い合わせください。

またTOROの詳しい料金体系、TOROで解決できる課題と具体的な手法などをご紹介する資料もございます。ぜひこちらからご覧ください。