新しいものが大好きなGoodpatchで9月話題になったアプリ、サービス、デザインまとめ(2021)
街中でもトンボを見かけるようになり、秋らしくなってきましたね。
今月も、Goodpatchで話題になったアプリケーションやサービスをご紹介します!
サービス
集英社が誰でも漫画家になれる新サービス「World Maker」をリリース。同サービスを使用した漫画賞も開催
https://note.com/worldmakerapp/n/n2652aa3245c6#Jq4Qj
2021年9月5日、「週刊少年ジャンプ」など人気漫画雑誌を発行する集英社は、物語の構想を文章にするだけでネーム(コマ割りやセリフ、キャラクターの配置を大まかに表す漫画の下書き)が作れるサービス「World Maker(ワールドメーカー)」のβ版をリリースしました。さらに同社は「World Maker」で作った作品で応募できる「World Maker ネーム大賞」の開催を発表。最優秀作品は人気漫画家によって漫画化され、「ジャンプ+」への掲載が確約されます。
「World Maker」は、専門的な技術を必要とする漫画執筆の裾野を広げます。これまでも、漫画を書くことのできるアプリやサービスはありました。しかし、それらはいずれも自分で絵を描くこと、漫画の構成を作ることが前提とされています。一方「World Maker」は、文章を打ち込むだけでコマ割りや吹き出しの位置が自動で設定され、キャラクターや背景も60万点以上の素材から選ぶことができ、自分で絵を描く必要は全くありません。実際にβ版を試したユーザーは、わずか30分程度で作品を作ることができたといいます。今まで絵を描くことが苦手で漫画を描きたくても描けなかった人や、漫画以外の表現方法で作品を作ってきた人にとっても漫画を描くことができる新しい機会ができたといえるでしょう。
また、同サービスで作れるのはあくまで「ネーム」であることにも注目できます。「World Maker」で完成する作品は、細かく描き込まれた漫画作品ではなく下書きです。気軽に公開して意見を募ることができます。描き直す際も「World Maker」ですぐに新しく描き直し、作品をブラッシュアップ可能。このように、粗くても形にして他の人から意見を求め改善する「プロトタイピング」は、デザインにおいてもその価値を検証する手法として重宝されています。「World Maker」によって、アマチュアの「漫画家」が漫画を描いて公開するサイクルは劇的に早まるでしょう。埋もれていた才能が発見され、今までにない面白い漫画が世に出てくることを思うとワクワクしますね。
EmojiでマイページのIDを作成できるサービス「Yat」が22億円の売上達成
Yatは2021年にローンチした、ID・アドレスをEmojiの組み合わせで表現するユニバーサルアイデンティシステム。そんなYatが2021年9月、売上22億円を達成しました。YatのユーザーはEmojiの文字列を自由に組み合わせて購入し、オリジナルのリンクを作成することが可能です。組み合わせた文字列が人気であればあるほど高価格になります。Emojiの購入が完了すると、y.at/〇〇というアドレスに紐づくマイページが付与され、世界で一つだけのマイページのURLが誕生します。Yatで扱えるEmojiは現在452種類で、組み合わせも無限大です。
例えばこんなEmojiを使ったマイページURLはいかがでしょう。y.at/🎨💙🚗✨
(広報やプロダクト開発担当の方、ぜひご検討を…!)
Yatで作成したマイページ内には、ID保有者のTwitterやFacebook、InstagramなどのリンクをEmojiとともに配置することができ、各種サービスへのハブになります。
Emojiは日本から生まれた、使用言語に関係なく世界中の誰でも直感的に識別可能なユニバーサルな文字です。日本ではポケベル時代から馴染みのあった絵文字が「Emoji」として普及したのは、GoogleがGmailを日本にローカライズするために2010年にUnicode化されたことがきっかけと言われています。またAppleでも2011年5月にiOSキーボードとして実装され、現在ではNotionのアイコンとして採用されるなど、Emojiの可能性は広がっています。
またEmojiをURLとして利用することは以前から技術的には可能であったものの、オリジナルのドメインを非エンジニアが利用することはハードルが高いものでした。Yatは言語や技術のハードルを乗り越えるサービスと言えるでしょう。グローバル化が進む中、アルファベットでは伝えきれない個人や企業の「想い(Emotion)」をEmojiで可視化し、世界中の人々に伝えることが今後求められるかもしれませんね。
フェイスブックがVRコラボ・ミーティングツール「Horizon Workrooms」オープンベータ開始
https://jp.techcrunch.com/2021/08/20/2021-08-19-facebook-finally-made-a-good-virtual-reality-app/
Facebookは「Horizon Workrooms」というワークプレイスアプリのデモを公開、米国時間2021年8月19日にはOculus Quest 2のユーザーを対象にオープンベータを開始して話題を集めました。
「Horizon Workrooms」とはVRの仮想空間に誕生したオフィスです。これまでオンラインコラボレーションツールとして通話アプリやオンラインホワイトボードなどあらゆるツールが使われてきましたが、やはり同じ会議室にいる時にしかできないコラボレーションがあったように思います。しかしVRゴーグルをつけると仮想空間上でホワイトボードやPCが表示され、実際にホワイトボードに書き込んだり、それを見ながらパソコンで議事録をとったり、まるで本当にオフィスでワークしているような体験が可能となり、オンラインのコラボレーションがリアルに一歩近づきました。
現在Facebookでは「Horizon Workrooms」を筆頭にメタバース化(デジタル空間でリアルのように人と繋がることができる仮想環境の構築)を進めています。現状のVRゴーグルは重さもあり身体的な負荷もあるため直ぐに普及することは難しいでしょう。しかし、VRゴーグルの軽量化などの技術の進歩で、私たちが眺めているインターネットにいつの間にか入り込んでしまう日が訪れるかもしれません。一見SF映画のような世界観に思えますが実現までそう遠くはないかも。未来にはどんな生活があるのか、そのために今のサービスはどのように進化していくべきなのか作り手としての想像が広がりますね。
プロダクト
自動運転の開発ができたならロボットも、テスラが人型ロボット「Tesla Bot」を発表
https://robotstart.info/2021/08/23/teslabot-concept.html
Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk氏は2021年8月19日(米国時間)、同社のイベントTesla Al Dayにて、人の肉体労働の代替になりうる人型ロボット「Tesla Bot」を発表しました。2022年にプロトタイプを完成させる計画です。頭部は黒く、スクリーンを搭載できるようになっており、全身は白のボディースーツに身を包んでいます。身長は約173cm、体重は約57kgで、移動速度は8km/h、可搬質量は約20kgとなっており、人間と同等の能力を持っています。
Musk氏は、「繰り返される退屈で危険な作業を代わりにやってくれる」と語っています。ロボットが人間の代わりに店で食品を買う未来がくるというのです。ロボットが一人で道を歩いて買い物をしている様子を怖がる人もいるでしょう。人間がAIを制御できないかもしれないという懸念もあります。しかし、Tesla Botは人が簡単に制圧できるように開発されるそうです。Tesla Botが結束して協力しない限りは安心できるでしょう。
イベントのプレゼン中に「退屈な反復作業は報酬が低いので経済的に見合わない」という指摘もありました。しかし、Tesla Botができることはそこに留まらず、Teslaが販売する自動車と同じようにソフトウェアをアップデートすることで進化し続け、未来には今では想像つかない価値を提供してくれると考えます。もし、Tesla Botを一家に一台置くとしたら、肉体労働の代替のためだけではなく、人間の温もりを持って優しく寄り添ってくれる存在であって欲しいです。
今あるものを例に挙げると可愛らしい家族型ロボット「LOVOT」がありますね。LOVOTの特徴は役に立たないけど愛着があることです。「愛着」の力で注文が殺到しているほど愛着は大事なコンセプトの一つですが、愛着がありつつ人間の役に立つ技術をテスラ社が開発すれば、より使い続けたくなる家族型ロボットができるのではないでしょうか。テスラが持つ技術と人間の環境になじむデザインができれば人間と人型ロボットの共存をより受け入れられると思うのです。
バルミューダから「世界でもっとも近いカフェ」発売
https://www.balmuda.com/jp/brew/
2021年9月8日、バルミューダからコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」が発売されました。2度の開発中止がありながらも、合計6年間の研究開発の末に販売に漕ぎつけたという独自の抽出法で、ストロング&クリアなコーヒーが実現されているそうです。
「BALMUDA The Brew」は、コーヒー豆の膨らむ様子や香ばしい香りをユーザーに直接届けられるよう、ドリッパーがオープンに設計されています。また、待ち時間のBGMや日頃のメンテナンスまで、体験すべてがデザインさており、HP上でも謳われる「最良のコーヒー体験」を作り上げています。バルミューダがこれまで熱烈なファンを獲得してきた理由は「製品」はもちろん、それを通した「体験」がデザインされている点にあるのではないでしょうか。
その「体験のデザイン」を生み出すもののひとつに、非常に個人的な経験や情熱があると考えられます。今回のコーヒーメーカーでは「太田くん」という1人のコーヒー好きの社員の想いが開発を押し進めました。また、バルミューダを代表する製品の一つであるトースターは土砂降りのBBQでの原体験が開発のヒントになっています。その経験や情熱は、製品そのものではなく製品によって得られる体験を測る基準として働くため、そこで生まれる製品は自ずと体験をベースとしたものになるのではないでしょうか。
11月以降には同社初となるスマートフォンの発表が控えています。スマートフォンはこれまでバルミューダが発売してきた製品以上に、そこでの「体験」を前提としたプロダクトです。より良い体験を生むものづくりの本領発揮となるか、コーヒーを片手に見守りたいと思います。
イベント
パタゴニアが古着専門の期間限定ポップストア「Worn Wear」をオープン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000021813.html
アウトウェアブランドのパタゴニアは、2021年8月20日から9月26日までの期間限定で、国内初古着専門のポップアップストア「Worn Wear」を渋谷にオープンしました。「修理して長く着続けることの楽しみ」をコンセプトに、パタゴニアのスタッフからの寄付や買取った製品が販売されます。
この「Worn Wear」で大きく注目されたのは、「必要ないモノは買わないで」といったアパレル店のビジネスを考えると真反対の型破りなメッセージ。衣服廃棄問題に関して目先の利益を追うのではなく、環境保護を掲げ、アパレル業界を先導していくパタゴニアの姿に共感を覚えたユーザーも多いのではないのでしょうか。
店内では、裾上げズボンの余った布をつなぎ合わせたクッションを店内の装飾で使用することでコンセプトを視覚的に訴えていたり、商品に持ち主のメッセージタグが付いており服に愛着の湧く設計になっていたりと、インテリアから手に取った時の体験まで丁寧に設計されているので、「Worn Wear」のブランドコンセプトが一貫して伝わってきます。機能的価値だけでなく情緒的価値も重要視される今、急がば回れという言葉のように丁寧に1つ1つ体験を作り上げ、一貫してメッセージを伝えることがユーザーを惹きつけ、魅了する上で非常に重要となってくるでしょう。
デザイン
批評された新一万円札のデザイン、実はユニバーサルデザイン
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA31AWZ0R30C21A8000000/
日本銀行の公式アカウントが9月1日、新一万円札のデザインをTwitterに投稿しました。同Tweetは13万リツイートを超え大きく話題を呼びました。
新一万円札の顔が渋沢栄一氏に変更されることで、1「諭吉」という単位が消えてしまうという声が上がった一方、20年ぶりに刷新されたデザインに対して「デザインがダサすぎ」、「全体のデザインが適当に配置されたように見える」などと厳しい声も寄せられました。特に今までの「壱万円」の漢字表記が、「10000」と大きなアラビア数字になっているところに違和感を感じる人が多かったようです。しかし、ダサいとの指摘が多かった細いゴッシク体の「10000」、実はユニバーサルデザインを目指した結果です。できる限り多くの人が「読みやすい」ことを実現するため、視認性の高い数字を採用しているのです。それだけではなく、後日に同アカウントから投稿された千円札のデザインと比べてみると、10000と1000の「1」の形状があえて区別されており、それによって「連続したゼロの認別が苦手な人」まで使いやすいように工夫されていることが分かります。
見た目の綺麗なものを作ることがデザインの仕事とイメージされる人も多いかもしれないですが、それはデザインの仕事の一部にすぎません。見た目をととのえることはもちろん、「それがどう機能するか、問題解決につながるのか」が大切です。新紙幣のデザインについても、できる限り多くの人が使いやすいようにデザインされたという意図を知って納得する人が続出しています。今回の刷新によって、ユニバーサルデザインへの関心が高まっていくことも期待できます。
その他
メルカリが「Culture Doc」を一般公開
https://careers.mercari.com/jp/culturedoc/
株式会社メルカリが、会社と社員の共通の価値観をまとめた「Culture Doc」を一般公開しました。このドキュメントは、メルカリの採用サイトの1ページとして公開されています。内容には、近年多くの企業で注目されているMissionやValuesに加えて、「Foundations」と呼ばれる概念や企業のガイドラインも公開しています。
Goodpatchでも公開しているVision/Mission/Valuesは、昨今その企業について判断する大事な基準となりつつあります。Vison/Misson/Values自体を公開することはもちろんですが、今回のCulture Docの中で特に興味深かったのは、企業としてのガイドライン。一般的な採用サイトでは、福利厚生や報酬などを具体的な内容で示すことが多いですが、このガイドラインではメルカリがそれらをどのような基準で策定しているかという考え方の部分が示されています。これによって、メルカリの社員および入社を検討している人は、会社の制度をより納得感を持って理解することができるようになりますし、気になるところがあったときに指摘しやすくなるというメリットもあると思います。
今後このような動きが増えれば、より働く人も自分の価値観にあった会社を選びやすくなるでしょう。また企業としても、採用や企業運営のミスマッチを減らし、より組織としてのパフォーマンスをあげられるというメリットもあると思います。ぜひこの多様化の時代に、そういった変化によって一人でも多くの人が自分にあった働き方ができるようになっていって欲しいですね。
以上、9月に話題になったアプリやサービスをお届けしました。
毎月新しい情報をお届けしておりますので、来月もお楽しみに!
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