技術の人間化を目指すシルヴァン・マレットにインタビュー

本記事はとある日の早朝にビデオチャットを通じて、Goodpatch Berlinで働くプロダクトデザイナー、シルヴァン・マレットに行ったインタビューをもとに書いたものです。英語で執筆された元記事はこちらをご覧ください。


まずはじめにバックグラウンドについて教えてください。どのようにして現在の職種であるデザイナーになったのでしょうか?

僕は南フランスのモンペリエという都市で育ったよ。実はフランスにはデザインに特化した教育を受けられる大学がほとんどないんだ。多くのデザイナーはグラフィックやアートを大学時代に選考するだろう。もちろん、パリに行けばÉcole des Arts Décoratifs de ParisLes Gobelinsのような良いデザイン教育を受けられる伝統的な学校もあるけどね。パリの物価や生活費はロンドンと同じぐらい高いんだ。フランスの田舎であれば、僕のように卒業後に2年間技術の専門学校に通うこともできる。

僕は高校への入学の時期が人とずれていたから、卒業後大学へ入学するまでに半年ぐらいの時間があった。「時間があるのなら法律を学べ。必ず役に立つ」という父の言葉に従い、自分自身でも何がしたいかわからないまま法律を学ぶために6ヶ月間ロンドンへ行ったんだ。そこで、何がしたいかを再確認できた。当時はPhotoshopやJavascript、CSSはある程度触れたけど、もっと何かについて深く考えることがしたいと思ったんだ。だからもう一度フランスに戻って2年間、よりデザインに近いことを学ぶことにしたんだ。そこでは広告戦略などについて学んだ。技術にある程度知識のある学生を対象としていたけど、そこまで難しくはなかった。多くの授業がハンズオンで一般の大学よりも自由は少ないように感じたけど、将来役に立つ実践的なスキルが身についた。在学中は年に1度実務経験をする必要があったし、全員が必ず印刷会社で1週間インターンをする必要があったんだ。私は印刷会社に雇われたからそこで夏の間中、タイポグラフィだったり写真だったり紙面のクオリティチェックを担当したよ。通常の大学で論文を書くのとは違って、実務経験を身をもってさせてもらったんだ。

その後何か違うことをしようとして、色々迷った末に政治学に目を向けたんだ。通常は法学を2年間学んでからしか政治学は受けれないんだけど、僕の地元に当時新しくできた政治学部は出願書によっては経歴問わず入れることができたんだ。僕は運良くそこに受かって、政治学を学ぶことができた。

当時の卒業論文では、「過激なSNSの使い方」と「アマチュアとアーティストのインターネットの使い方」に関して書かれていたことから、もともと人間とテクノロジーのインタラクションに興味があったように伺えます。人間とテクノロジーの関係性についてどのように考えていますか。

政治学の分野では経済についても少し学んだけど、通常の経済専攻の人たちが習うハードサイエンスと呼ばれる科目とは少し違うものだった。ここでいう経済学はどちらかというとソーシャルサイエンスを意味する。この世界はさまざまなものの摩擦により成り立っていて、人々は利己的な考えではなく他者と共存している一個人として協調性が必要であることを学ぶんだ。これはデザインとも密接に関連する。デザインとはチームワークであり、社会学を学んだ後もなお人について考えることの難しさを思い知らされている。例えばユーザーリサーチをした後も繰り返し質問をして、ニーズやインサイトを導き出す必要がある。物事の本質を見抜くために。

人々の経験について研究することは、潜在的なニーズを発見することに結びつく。シカゴのフランクフルト学派によって作られたThe Sociology of Receptionという概念によると、如何なる物事の捉え方も人によって違うそうだ。これは、メッセージを届ける側にも同じことが言える。例えば、広告1つにしろ、印刷物の方がラジオ広告よりもメッセージ性がより強くなる。また、Facebookなどのソーシャルメディアにおける人々の関連性についても学ぶ。これは、人々がどのような風につながっているのか、どういったメッセージ性の変貌があるのかなど、いわばソーシャルサイエンスとインターネットの融合にまるわる研究なんだ。

すごく哲学的に聞こえますね。

アカデミックな表現をすると、人々はたちまち僕がロジックに包まれた人間のような目で見てくる。よく人から言われるのはもっと「簡潔に説明して」という言葉なんだ。僕は人に説明をするときはいつもコンテキストから入り、論点を言い、その後に反対の意見を言うんだけど、多くの人は説明している間にぽかーんとしてしまうんだ。

とても面白い議論の仕方だと思います!では、ここからはご自身のデザイナーとしてのキャリアについて伺いたいと思います。デザイナーとしてのキャリアを選択したきっかけはありますか。

僕は小さい頃から動物の勉強をして、アマゾン熱帯雨林でドキュメンタリーを撮ることを夢に見ていた。僕の両親がいつも恐竜のドキュメンタリーを見せてきたことも関係しているかもしれない。両親にはいつも「お前は科学者になるんだ」と言われていた。だけど、僕自身は科学者にはなりたくなかった。フランスの研究設備もあまり良いものではなかったしね。

当時僕は趣味で友人と音楽やウェブサイトを作っていた。オンラインゲームもよくしていたよ。そして、ある日から突然「これを仕事にできたらどんなに良いか」と考えるようになった。実は、20歳ごろになるまでは、デザインのちゃんとした定義を理解していなかったんだ。最初は自分のベッドで趣味としてデザインをしていただけだったけど、ある日「小説を読むよりも、デザインにまつわる本を読めばいいんだ」と気がついた。

趣味で始まったことが職業へ変わったという事ですね。現在の仕事におけるチャレンジは何ですか。

多くの人は「趣味として楽しめなくなるから、好きなことは仕事にしない方が良い」って言うよね。確かに高校時代の方が楽しくデザインできていた気がするよ。だけど、大人になって思うのは、こんなにもやりがいのある職種はないってことなんだ。デザイナーは常に技術や社会事情について敏感でなくてはいけない。もちろんビジュアルのトレンドに対してもね。契約に関しても利益につながるように常に交渉しなくてはならないし、自分のデザインを言葉にして伝えなくちゃいけない。時々、すごく無力さを感じることもあるけど、クライアントからの期待値を上回れるようにデザイナーは常に自分の仕事に対してコミットしなくてはならないんだ。僕がクライアントワーク中心の働き方を選んだのは、事業会社に勤めて一つのプロダクトと向き合うよりも、複数のプロダクト開発を経験できる働き方の方が学びの速度が速いと感じたから。一つの会社に6,7年いればそこで安定する場合もあるけど、僕はもっと貪欲になりたい。エージェンシーはクライアントにとってもデザイナーにとっても、新しいアイデアや価値観をもたらす非常に重要な役割を担っていると思っているよ。

競争率が高い世界なんですね。シルヴァンさんはGoodpatchに1月頃に入社したと思いますが、Goodpatchに来てからの体験について少しお話いただけますか?

正式に始めたのは2018年1月なんだけど、契約書は2017年9月に交わしたよ。その前はヨーロッパ発のeコマース会社で働いてた。そこでは小さなチームで働いてて、モバイルマーケティングを担当していた。大企業だったからしんどいこともたくさんあったよ。他のチームに移ることも容易ではなかった。ちょうど転職を考えていた時に、ボリス(Goodpatch Europeのマネージングディレクター)からLinkedInで連絡が来たんだ。パリの拠点でUXデザインマネジメントをグロースさせたいとの相談だった。僕がパリに戻る気はないと伝えたら、「住まなくて良いから6ヶ月間通う形で働かないか」と言われた。だから僕はオファーを受け入れて、毎週ベルリンからパリまで通勤したんだ。毎週月曜日の朝にパリへ行き、木曜日の夕方にベルリンへ帰る生活だ。

すごいですね。ARとVRを使ってお仕事をしていることなんですが、これらの技術には昔から興味があったのでしょうか?ARとVRを使うお仕事の魅力について教えてください。

長い間SFにはまっていたんだ。日本の王道の漫画とアニメが好きだった。小さい頃に「攻殻機動隊」を読んで感激したんだ。心が揺さぶられたよ。社会科学を学ぶと社会的進歩や技術的進歩について詳しくなれるんだ。スクリーンっていうのは確かに良いけどすでにちょっと昔のものに感じるんだ。もう50年近くもスクリーンに向かっているのだから、そろそろ違う技術に触れたい。ユーザーにとって有利なサービスや体験を作って提供したい。ARで爆発した車を見て、エンジンの欠けてる部分を探したり、薬や施術をしたり、ビデオゲームをしたり。これらは全て人の共感を生むんだ。誰かに何かに関して話してもインパクトが小さいでしょ。でも誰かに何かを見せて、違う人の視点を直接体験させることは猛烈なインパクトを生む。創造者の意見に賛成はしなくても良いけど、彼らの「なぜそれを作ったのか」と「どのように作ったのか」が分かるようになる。グッドパッチではAthenaっていうVRのプロジェクトがある。将来私たちがもう車を運転する必要が無くなる時、何がどうなるかは誰も分からない。死んだ人がある日突然玄関に自動車で現れるかもしれないしね(笑)。

まるでSF小説のようですね。興味深いです。ベルリンでのARとVRに対する意識は高いと思いますか。

主にARとVRの仕事はハンブルクに集まっているんだ。前の仕事ではARとVRをたくさん触っていたよ。天井から釣り糸を使って靴を浮かばせて、25枚ぐらい写真を撮って3Dモデルを作ったりした。ベルリンにもクールな場所はあるよ。チェックポイントチャーリーにゲームサイエンスセンターっていう場所があるんだけど、そこではVRを使ったあらゆる革新的な創造作品が見れるんだ。

でも全体的に、この街には技術的な面と反資本主義的な面があって、そこにはギャップがある気がする。人々はステータスやポジションに関しては全く気にしないんだ。僕は比較的そのギャップを楽しんでいるんだ。サンフランシスコとは違って、スタートアップ企業の人々に囲まれることはほとんどない。ベルリンには自分の本当の居場所があるように思うよ。

音楽やゲームが好きとおっしゃっていましたが、それらをご自身の職業に取り入れたいと思いますか。

ゲームデザインに関しての本は全て読んだよ。あと、ラ・ソルボンヌ(パリ大学)では何人かのゲーム原理に関しての論文を書くのを手伝った。音楽を一緒に作ってた友達はビデオゲームの為に学校へ行ったよ。今はパリとモントリオールでビデオゲーム用の音楽を作ってる。トゥームレイダーなど有名なゲームの音楽を作ってるんだ。僕もいずれはゲームデザインの方向へ進みたい。ストーリーっていうのはデザインの仕事をする上でも重要だし、個人的にも好きだからね。

フォートナイトっていう人気なゲームがあるんだけど、そのゲームはストーリーが豊富なんだ。プレイヤーをよりゲームに巻き込む為に作るプロセスに心理学者を巻き込んでいるんだけど、そういう手順によってこのゲームは成功したんだ。それがまさにデザイン。ユーザーの興味と行動を促すことでビジネスゴールを達成すると同時に、ユーザーフレンドリーであり続けなくてはいけない。例えばスクリーンに挙動の激しいボタンがあったらそれをものすごく押したい気持ちになるでしょ。おでこに出来たニキビを潰したい気持ちと一緒。ビデオゲームの業界は自動車の業界となんとなく似てるんだ。まだまだユーザーにとって本質的に良い体験を提供するよりも見た目にこだわっている部分がある。

逆に音楽では生活費を稼ぎたくないな。もしプロジェクトでサウンドデザインをやらないといけない場合はしたいと思うけど、僕にとって音楽っていうのは他人の期待を気にしなくても良いから尊い物なんだ。

現在のプロジェクトについて教えてください。次は何をする予定ですか。

GoodpatchではプロダクトデザイナーとしてUIデザインからユーザーリサーチ、コーディングや3Dモデリングなどあらゆることにチャレンジしてるよ。6年間の社会人経験と学生時代に学んだ社会科学で培ったスキルを活かして、クライアント先で他のデザイナーをサポートしたり、デザインに関するワークショップを開いたり、デザインプロセスをブラシュアップしたりしている。デザインマネジメントという分野は私にとってとても興味深い分野の一つだ。もう少しイラストなどを描いてクリエイティブになりたいという欲もあるけど、今はそこに対する情熱が薄れている。今後はサービスデザインをもっとやりたい。もっとグローバルに働きたいし、スクリーンのインタフェースを超える何かをデザインしたい。インタラクションデザインに関して知っていたと思い込んでいたんだけど、最近ある本を読んで現実を見たよ。ゴールデン・クリシュナ作の『さよなら、インタフェース』っていう本なんだ。エージェンシーで主に売ってる商品はスクリーンの中のものだから、僕らデザイナーはスクリーンに集中しすぎちゃう傾向がある。でも本来デザイナーはもっと勉強して、未来をデザインしないといけない。そうでないとAIがブランディングやデザインシステムの構築など、デザイン・ビジネス関連の仕事を取っていっちゃうからね。

あと、Goodpatch Berlinの社内プロジェクトとしてVRソフトウェアを開発してる。まだ始めたばかりだけど僕らがやってることは革新的なんだ。僕らが得意とするプロトタイピングを使って、モビリティ領域の革命に挑戦している。50年間人々が移動時間に費やしてきた時間をどのように取り戻すかを想像することでもある。シリコンバレーの人たちは派手な交通ソフトウェアを作ってるけど、誰もその乗り物の進化が人々に与える影響については考えていない。他にも、やりたいことはたくさんあるよ!個人的にはフランスやイタリアのデザインよりもノルウェーやスウェーデンが好きだから、北欧のデザインにもっと習いたいと思っている。ノルウェー語のコースを取ったりもしてるんだ。もしかしたらノルウェーにGoodpatchのオフィスを出すことになるかもしれないからね(笑)。

楽しみですね!今日はありがとうございました。

ありがとう!

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