会社によって、デザイン組織の規模やカタチは様々。プロダクト開発におけるデザイナーの役割が細分化されはじめ、デザイナーをマネジメントする方法やマネージャーの需要が高まっています。そこで、今後組織づくりにもトライしていきたいデザイナーが集まり「デザイン組織のつくり方 オプト×Goodpatchの場合」を開催しました。

今回の登壇者は株式会社オプトでデザイン イノベーション ファーム「Studio Opt」を立ち上げた竹田 哲也さん。Goodpatchでクライアントワークを担当するDesign Div. ゼネラルマネージャーの松岡 毅の二人です。

第1回目のデザイナーが輝ける組織とは?デザイン組織のつくり方イベントレポート【NewsPicks・Goodpatch編】もぜひ参考にしてみてください!

株式会社オプト Designer | 竹田 哲也さん『デザイン組織ができるまでの道のり』

竹田さんの当日の登壇スライドはこちらです:

竹田さんは2004年に株式会社オプトへ入社し、9年間広告デザイン業務から社内システムのリプレイスプロジェクトなど多岐に渡る業務を経験されました。その後、2014年にGoodpatchのPM/UXデザイナーとしてクライアントワークや新サービスの立ち上げにジョイン。2016年からオプトに再入社し、デザイン イノベーション ファーム「Studio Opt」というデザイン組織を立ち上げました。「Studio Opt」とは、国内外で活躍しているデザイナーやクリエイターを巻き込んで事業やサービスを創出する、オープンイノベーションを目的とした専門組織です。
Goodpatchからオプトへ再入社した竹田さんからは、どのように1からデザイン組織を立ち上げたのかについてお話がありました。

デザイナーが集まるVisionの再定義

2015年4月、オプトが現オプトホールディングの新設子会社として分社化したときの状況は、全社員650人のうちエンジニアが数名、デザイナーが0人、広告を作るクリエイターが数十人だけという営業色が強い会社でした。しかし、僕が再入社した時、組織体系が一変し「Opt Technologies」というエンジニア部署が結成されていたのです。つまり自社でサービス開発ができる体制になっていましたが、オプトにイノベーションを起こすためにはそれだけでは足りません。僕が目指しているTakram 田川欣也さんの「BTCモデル」を達成するためには、クリエイティブが欠けている状態でした。

(出典:http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/sangyo_design/pdf/004_s01_00.pdf

BTCモデルとは、ビジネス(B)・テクノロジー(T)・クリエイティブ(C)の三要素の結合がイノベーションを起こす組織形態のことです。オプトが今後イノベーションエージェンシーを目指しビジネスを革新していくためには、図の右にあるBTC全てを兼ね備えている組織形態になる必要があります。
これを実践するために、オプト内にクリエイティブな思考をインストールすることに取り組みました。

まず、仲間を集めるために注力したのがデザイナーの採用です。しかし、求人への応募は全くありませんでした。デザイナーの知り合いに求人募集のシェアをしていただきましたが、オプトにはデザイン組織のイメージがなかったのです。このとき、僕はGoodpatchのビジョンが持つ力強さを思い出し、直属の上司と代表の金澤に経営ビジョンの刷新を提案しました。当時のオプトの採用ページでは、オプトのビジョンやミッションが理解できない状態でした。偶然にも、金澤は前年度の社員満足度調査の結果で『ビジョンへの共感』が最下位だったことを課題にしており、一緒に経営ビジョンをつくることになったのです。
参考:初めての組織デザイン:出戻りして3ヶ月時点

ビジョンを再構築する上で、最初の3ヶ月は書籍や関連するイベントに参加して知識のインプットをしました。そこで参考となった資料をご紹介します。

一つ目がBizzineのWebメディアで掲載されている早稲田大学のビジネススクールの入山先生と、『Design School留学記〜ビジネスとデザインの交差点』を書いている佐宗さんの対談レポートです。
参考:『出戻り歓迎の組織だから活かせる企業内イノベーター』

イノベーションの軸を5層に分けて、グラフィックレコーディングを参考に、Vision, Mission, Valueを定義しました。

  • 一番上の層…世界・世の中・社会にメッセージを発信するVision
  • 中間の層…組織や会社へのメッセージとなるMission
  • 一番下の層…社員または一人ひとりの行動指針であるValue

二つ目に参考にしたのが、個人の能力を6つに分けたピラミッド図です。

  • 一番下の層…PotentialやMotivation Typeという一人ひとりの個性。
  • 真ん中の層…Portable Skill, Stanceという会社で共通させるべき基礎力。
  • 一番上の層…Technical skill, Literacyという会社によって一つにまとめず職種によって定義すべき専門性の高いスキル。

これらのフレームワークを参考に、プロのコピーライターに金澤が考えるビジョンを言語化していただきました。

Visionに加えて、オプト社員の一人ひとりが目指す人物像である Our Ism を「誠実な野心家であれ。」と定義しました。そしてこのIsmを達成するために、具体的な行動指針・バリューを社員全員で作ることにしました。

全社員を巻き込んだValueづくり

全社員とバリューをつくるために、金澤と全社員の対談での座談会を実施。コーチングのプロの方に、座談会の運営方針を相談したところ「再解釈」をさせるというアドバイスをいただきました。

「再解釈」とは、現時点で社員一人ひとりが「自分はどう捉えたか・感じたか」を言語化して発言するよう促すこと。自分の解釈を伝えると同時に、聞き手の反応や他人の解釈をインプットすることで、自分の解釈がどんどんアップデートされていくことです。

このアドバイスを元に、全4拠点で計35回の座談会を実施しました。部署ごとにフランクな会話やワークショップ形式など工夫して座談会をカスタマイズしました。座談会で社長のVisionを浸透させることのほかに、役員たちに行動指針をプレゼンしてもらい自分ゴト化させたのです。

これらの座談会やプレゼンで出てきた言葉をカテゴライズ化し、コピーライターの方と役員で作ったのが「OPT Octagon」です。

この8つのValueを社内に浸透させるために以下のことを行いました。

  1. 動画を撮影

    新しいVision、Ismの動画を作成し、全社員納会で配信。Valueの行動指針を自分ゴト化するために、動画の出演者は全員自社の社員です。
  2. クレドカードの作成行動指針となる言葉をいつでも見返せるように、クレドカードを作成しました。8色あるクレドカードを、全社納会のときに役員から社員へ一人ひとり手渡ししました。プラスチックカードタイプにして、社員がセキュリティカードケースに入れて常に携帯しています。
  3. 壁にVision-Ism-Valueを掲示  Vision,Ism,Valueがいつでも社員の目に触れるようオフィスの壁に掲示しました。
  4. 社長の週報での発信   設立から3年間欠かしたことの無い社長週報で、VisionやValueに触れる発信をし、記事化しています。

参考:『初めての組織デザイン:New Vision策定』
参考:『初めての組織デザイン:New Value策定』

デザインを組織に浸透させるまで

オプトのVisionをつくりあげていく過程で、チカイケさんがFacebookで投稿されたフレームワークが見事に僕たちのプロセスに当てはまっていることに気づいたのです。

(出典:https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1819648854765128&set=pb.100001600944738.-2207520000.1524671527.&type=3&theater

ビジョン、ミッションの言語化を行い、名刺や封筒、スライドのテンプレートなどのビジュアルを新しくしました。全社納会などの行動統一フェーズをへて、プレスリリースを発信することで、ありたい姿であるVisionに向かっています。

元を辿れば、BTCモデルのクリエイティブ(C)を社内にインストールさせるためにVisionとValueの策定を行っていました。社長や役員とともに行動することで、デザインの著名人が登壇するイベントに一緒に参加することができ、デザインの考え方を知ってもらうチャンスにもなったのです。社長と役員が自らデザインの力を体験しすることで、クリエイティブをインストールする一歩に繋がりました。
また社長と近い距離で仕事をしていたため、社長からエグゼクティブクラスのスライドのリデザインを依頼されました。それから社内での自身のプレゼンスが上がり、平社員である僕がオプトグループの人財コンセプトの議論に参加することができたのです。経営陣がいるトップダウンの会議でDesign in Tech Report 2018Takramの田川さんのBTCモデルを共有し、デザインの重要性をインストールすることができました。

これらの道のりをへて、現在オプトで実装しているビジョンのワークフレームをご紹介します。

ビジョンを頂点に、バリューとミッションのカテゴリーを整理しました。ミッションである事業戦略では市場とサービスに分け、バリューである組織・人材戦略では個人と環境に分けて整理できるフレームワークです。

他にもビジョンの定量的最終目標を書き込めるVision-Mission-ValueTree、KPIで組織マネジメントを整理できるOrganisation Canvasのフレームワークを作成し、公開しているのでぜひ活用しフィードバックをください!

テンプレート:https://www.dropbox.com/s/zqdz77svdtt53t6/OrganizationDesignTemplates.pdf?dl=0

参考:『初めての組織デザイン:Vision-Mission-Valueの可視化フレームワーク』

現在のStudio Opt

このようなプロセスを経て、2018年5月30日Studio Optを設立することができました。設立当時、この組織に2名しかいなかったデザイナーは、今は7名に増えました。

このデザイン組織を成長させるために現在実践していることを紹介します。

  1. Design knowledge
    • Slack:デザインの記事やナレッジをSlackでシェアして、インプットする
    • Design share :定量化しずらい個人のデザインの好き嫌いを言語化してシェアする( https://optdesignshare.tumblr.com/
  2. Design Quality
    • UI修行:デザインのクオリティを上げるために、毎週1時間、UI改善を実施。レポートnoteはこちら(https://note.opt.studio/m/m4beb1064bbcb )
    • Weekly UI:毎週、UIのお題を90分で1から作る。
  3. OODAというチームマネジメントを実践
  4. 週次の1on1

他にも、クリエイターが働きやすい環境や働き方、評価制度、報酬制度を導入していきます。これからどんどんStudio Optというデザイン組織をアップデートしていきたいです。

Goodpatch ゼネラルマネージャー | 松岡 毅『デザイン組織のつくり方 30人から60人のデザイナー組織にする過程で考えたこと』

松岡はGoodpatchのクライアントワーク部門であるDesign Div. のゼネラルマネージャーです。Goodpatchのデザイン組織が30人から60人に成長していく過程で、どのような課題に直面し、意思決定をしてきたのか話しました。

1. 予算と品質のバランス

GoodpatchのDesign Div.は利益を生み出すプロフィットセンターです。コストセンターと違い、品質を保ちつつ利益を生み出して予算を達成していくことが必要となります。

予算と品質、二つのバランスを取るためにまず検討したのが組織形態です。

機能別組織は同じ職種の人のみがいるチーム、事業部制組織は職種を混ぜたチーム分けです。

GoodpatchのDesign Div. では事業部制組織で組織形成をしています。その理由は、Goodpatchのミッションである『デザインの力を証明する』が由来しています。デザインの力を証明するためにも、僕たち自身がデザイン会社としてクライアントの求める解決策を提供し、利益と結果を生み出すことが必要不可欠です。これを実現するために、チームごとで予算のコントロールをしやすい事業部制組織にしました。

そして、予算を達成するのと同時に品質を損なわないために、マネージャーとメンバーは以下のような関係性を保っています。

通常の営業組織の場合、マネージャーに予算目標が設定され、メンバーに予算目標の数字が分解されます。しかし、Design Div. ではマネージャーのみが予算達成の責任を負っています。メンバーには売り上げや稼働率よりも、クライアントの課題をデザインの力で解決することに100%コミットするためです。

2. 採用の方針

採用を行う際、即戦力となるスキル重視かデザイナーとしてのマインド重視かで悩むと思います。Goodpatchでまず何よりも大切にしているのが、ビジョンやミッションへの共感です。そして、組織のステージごとにスキル面、マインド面で重視する割合を変えていきました。

組織が30人の時は、事業課題が最優先だったためスキルを重視した採用でした。そこから組織が成長し、60人になった今では、スキル面よりマインド面を重視しています。それに加え、今までGoodpatchにいないような人を『チャレンジ枠』として10%採用しています。
現在、デザインの領域はどんどん広がっています。その中で、僕たちが求める人材が、今後デザイナーとして世の中に必要とされる人材なのかどうかが未知数だからです。そのため、今までにいないような人材を採用して多様な特性をもつチームをつくりあげていきたいです。

3. マネジメントのリーダーシップ

マネージャーがリーダーシップを発揮できる組織体系を作り上げるため、今でも試行錯誤しています。そこでGoodpatchではPM理論の「成果重視 VS チーム重視」を参考にマネージャーと組織体系を作っています。

デザインの力で課題を解決するのに明確な答えはありません。そのためマネージャーたちがチームの一員となって、メンバーと一緒に答えを見つけること重要です。Goodpatchでは右下の人間関係の絆とチームのまとまりを重視したマネージャーが多いため、とてもバランスが良いチームになっていると思います。

60人の組織の場合、上手く運営できていましたが、今後80人、100人のチームを目指す上では、この方法だと限界があります。そこで以下のマトリックス型の組織運営を検討しています。

チームメンバーのマネジメントを行う直属の上司の『デザインマネージャー』と、成果重視型でクオリティーを担保する『デザインコーチ』、2つの役割で分担をする方法です。
以前、僕自身もこのようなマトリックス型の組織を経験したことがあり、そのマネジメントの難しさは理解しています。マネージャーとコーチ、2人の上司がいると、それぞれ意見が食い違い衝突してしまうこともありました。マネジメントのハードルは格段に上がりますが、品質を担保し、チームのマネジメントをするためにも、この方法を実践していこうと考えています。

4. デザイナーのキャリア開発

デザイナーのキャリア育成は、個人の強みを伸ばす「スペシャリスト」または弱みを改善する「ゼネラリスト」のいずれかで分かれるでしょう。以前までGoodpatchでは一人が様々な役割をこなせるゼネラリストを目標としていましたが、現在ではスペシャリストの集合体を目指しています。

デザインの領域がどんどん広がっている中、もはや一人で全ての領域を担うのは困難です。そこで、様々な強みを持った人間が集まり、チームとして正方形を埋める方針にしました。
この方法は10、20人の組織ではまだ難しく今の60人だからこそ、目指せる組織形態だと思います。

デザイン組織のマネージャーに必要なこと

デザイン組織のマネージャとして、必要なのは『未来志向』と組織に『揺らぎ』を落とすことだと思います。

今起きている問題の対策ばかりではなく未来に起こる問題を優先して対処をすること、そして既知の対策よりも未知の対策を行い、不確定要素も取り組むことが大切です。
マネージャーとして経歴が長くなると、過去の経験から答えを導き出してしまうことが多いでしょう。しかし既に知っている答えを掲示するのではなく、その答えが今の環境でも通用するのか、チームメンバーに応じて新しい答えを探すことが必要となります。

そこで僕が組織の施策や課題の対策を考えるときに使用しているマトリックスを紹介します。

縦横の2軸で分類することで、1象限に限定せず、4象限全てのケースで物事を考えるのです。例えば、採用を考えるとき、新しい社員のみ検討するのではなく現在の社員が離職せず働ける施策を同時に考えます。これが僕が考えている『未来思考』と『揺らぎ』であり、組織の硬直化を防ぐ考え方の一つです。

このような組織形態、キャリア育成方法を経て僕たちは30人から60人の組織へ成長していきました。

Q & A

Q1. Goodpatchの採用で『今までGoodpatchにいなかった10%の人材』とはスキル面またはマインド面どちらを重視した人材ですか?

Goodpatch 松岡(以下、松岡):
Goodpatchの社員になかったようなスキルを持っている人ですね。今までUIデザインの経験がある人のみを採用していましたが、最近はUIデザインをやっていなくてもグラフィックデザインの経験がある人を採用しました。マインド面は今まで通りビジョン、ミッション、行動指針に共感している人のみを採用しています。「Studio Opt」ではどのような採用をしていますか?

オプト 竹田(以下、竹田):
現在「Studio Opt」では、実装できる中途メンバーを募集しています。組織をつくり上げているフェーズなので、成長支援にはまだ手が回らない状態です。今は、一緒に組織をつくって、考えてくれる人を探しています。

Q2. オプトのビジョンが決まった後、いつ頃デザイナーを採用できると実感しましたか?

竹田:
コーポレートサイトのビジョンとバリューをアップデートし、行動指針を変えてから応募が増えました。これは僕自身、意識していませんでした。会社の中でクリエイティブの重要性を最優先で検討し、注力した結果だと思います。

Q3. 利益と品質どちらも追求する際、品質の評価はどのようにしていますか?

松岡:
一つ目にクライアントさんの満足度アンケートです。クライアントワークでは必ずプロジェクトの最後にアンケートをとり、クライアントの課題に対して適切な解決策を掲示できたかを評価基準にしています。それに加えて「弊社と仕事をしてデザインに対する考え方が変わりましたか?」という質問項目もあり、実際にマネージャーがクライアントに直接ヒアリングをしに行くこともあります。

二つ目は社内のプロジェクト評価です。プロジェクトメンバーは、デザインプロセスとアウトプットのプレゼンを社内で行っています。社長やマネージャー陣が、10項目を5点満点で評価しています。全社員、見学自由にしていますね。

竹田:
僕たちはまだ総合職の仕組みで評価されているので、360度評価です。今の仕組み上、評価する人に依存しているので、これからアップデートしていきたいです。

今回は、フェーズが異なる2つのデザイン組織をご紹介しました!組織づくりの一例として、参考になりましたか?

規模、企業形態、従業員の人数、フェーズによってデザイン組織のカタチは様々。今回のオプトとGoodpatchのように、1から立ち上げる場合もあれば、30人から60人へ成長させるケースもあります。組織形態が大きく異なるからこそ、それぞれの組織に合ったカルチャーやフレームワークを見つけてみてください。

これから新しくデザイン組織を立ち上げたり、デザイナーの仲間をお探しの方はぜひReDesignerをご活用してみてください!

今後もGoodpatchでは、デザイン組織のつくり方を紹介するイベントを開催しますのでお見逃しなく!(https://goodpatch.connpass.com/