この記事はGoodpatch UI Design Advent Calendar 2018の12日目の記事です。

事業を作るとき、とりあえず価値が検証できるプロトタイプを作ることも大事です。
ただ、本当にユーザーにとって価値のあるものを作ろうとするときや、企業としてその事業がどうしても成し遂げなければいけない領域をカバーするものであるときなどには、これからどこに向かうのかを明確にしながら先へ進める必要があります。

そんなとき、私たちは事業の長期的な方向性を示すVisionをしっかりと持つ必要があります。

この記事では、私たちが事業のVisionを決めていく上で意識すべきものはどのようなことなのかを実際の企業とサービスをベースに考察していきたいと思います。

なぜ、関連性を考えるようになったのか

きっかけはとある企業の新規事業立ち上げのプロジェクトでした。
その企業と事業が進む方向を考えていく中で、どうしたらその企業の強みを活かしたまま、企業が達成したいところからブレる事なく、新規事業のコアの価値を定義しMVPとなるプロダクトを作っていけるのだろうか?と考え、プロダクト立ち上げの初期フェーズでVisionの策定をすることを提案したのがきっかけです。

そのときは以下のような図を見せて、現時点からVisionに一本の線を引いた時の通過点にβや1stがあるということを説明しました。
もちろん、各フェーズの検証の結果によって、ピボットしたり方向性を調整したりすることは前提としています。

企業と事業の関連

少し話をずらしますが、元Gpのたけてつさんの記事に以下のようなフレームワークがあります。

この記事でお話ししたいのは、この図の上段にある「Vision/Mission」と「Product」のところに内包されるProduct Visionの関連のお話です。

結論から言うと、Product Visionは企業の「Vision/Mission」の下位互換になっているべきだと考えています。

なぜなら、企業が強みを十分に発揮しながらその事業をやる意義を設計するためには、そこに強い関連を作り、社内外に対して一貫した姿勢を保つ必要があるからです。
ですので、良い「Product Vision」は企業の「Vision/Mission」を少し具体化したり領域を絞ったりしたものになっている場合が多いです。

ここからは、実例を出しながらそれらを確かめていきたいと思います。

具体例

GoodpatchとReDesignerの場合

まず弊社 Goodpatch と弊社サービス ReDesigner を例にして解説したいと思います。
それぞれのVisionやMissionは以下の通りです。

▼ Goodpatch
・Vision:ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる
・Mission:「デザインの力を証明する」 Prove the power of design

▼ ReDesigner
・Vision:「デザイナーの力を再定義する」 Redesign the power of designer

最初のたけてつさんのフレームワークで言うところの企業の「Mission」と「Product Vision」をきちんと繋げていることがわかります。

▼分析


  1. ・Gp Mission「デザインの力を」→ReD Vision「デザイナーの力を」

    これもデザインというものの領域を限定し、デザイナーに対象を絞っています。

  2. ・Gp Mission「証明する」→ReD Vision「再定義する」

    証明するための手段として「再定義」というものを扱い、より具体化したVisionとしています。

DeNAとMOVの場合

次にDeNAさんと先日リリースされたMOVを例に分析したいと思います。
ただ、DeNAさんの中でMOVが属するDeNA オートモーティブのVisionも重要ですので、そちらも同時に記述して関連を見ていきたいと思っています。

▼ DeNA
・Mission:世界に喜びと驚きを
・Vision:インターネットやAIを活用し、永久ベンチャーとして世の中にデライトを届ける

▼ DeNA オートモーティブ
・Vision:「インターネット×AI」で交通システムにイノベーションを。

▼ MOV
・Vision:インターネット・AIのチカラで今そこにある移動の体験を変革する
・Concept:乗りたいときに、確かに、つかまる。

▼ 分析


  1. ・DeNA Vision「インターネットやAIを活用し、」

    ・オートモーティブ事業本部 Vision「インターネット×AIで」
    ・MOV Vision「インターネット・AIのチカラで」
    基本的にインターネットとAIというものはぶれていません。

  2. ・DeNA Vision「永久ベンチャーとして世の中に」
    ・オートモーティブ事業本部 VISION「交通システムに」
    ・MOV Vision「今そこにある移動の体験を」
    世の中にという広い言葉を、交通システムという部分に限定しています。
    そこからMOVでは、移動の体験という具体的なワードに絞って更に限定しています。

  3. ・DeNA Vision「デライトを届ける」
    ・オートモーティブ事業本部 Vision「イノベーションを。」
    ・MOV Vision「変革する」
    この部分は、言葉の空気感として全て人に対してより良いものを届けるために変革(イノベーション)するといった思想が一貫しているように思えます。

任天堂とNintendo Switchの場合

最後に任天堂さんと大人気のNintendo Switchを例に分析したいと思います。

▼ 任天堂
・事業方針:世界のユーザーへ、かつて経験したことのない楽しさ、面白さを持った娯楽を提供する

▼ Nintendo Switch
・コンセプト:「いつでも、どこでも、誰とでも楽しめる」

▼ 分析


  1. ・任天堂 事業方針:「世界のユーザーへ、かつて経験したことのない楽しさ、面白さを持った娯楽を提供する」

    ・Nintendo Switch コンセプト:「いつでも、どこでも、誰とでも楽しめる」
    任天堂さんの場合、公式に各プロダクトのVisionというものは公開されていません。
    その代わり、事業方針の言葉を体現するようなプロダクトとそのコンセプトがセットで世に出ています。
    Nintendo Switchの場合は、CMでも何度も繰り返し「いつでも、どこでも、誰とでも。」というコンセプトが流れます。

任天堂はNintendo Switchで事業方針である「世界のユーザーへ、かつて経験したことのない楽しさ、面白さを持った娯楽を提供する」ことを体現し、作り出したい世界を明快に示されているのではないでしょうか?

まとめ

Product Visionの策定方法については色々な手法があると思うので割愛しましたが、ある企業で事業を立ち上げるような場合において、その事業が企業全体に寄与できるような強度のある「Product Vision」を作ることによって、そのVisionを目指してブレることなくプロダクトデザインをすることができるようになるのではないでしょうか。

また、企業の「Vision/Mission」と事業の「Product Vision」を関連させることで、マーケットに対しても社内に対しても強い価値や強度を持った事業を提供することができます。

ですので、世の中にリリースされる新規事業が脈絡なく見えたとしても、何をやるのかの部分だけを見て意義を問うのではなく、なぜその事業を出したのかを上記のような関連性を意識しながら見ると途端に理解が進む場合もあるのではないでしょうか?

是非みなさんも、クライアントワークや自社事業を立ち上げる際には、同じような視点で企業と事業の関連を考え、Product Visionの策定をしてみるのはいかがでしょうか?