「プロトタイプ」という言葉を聞いたことはありますか?
プロトタイプとは日本語で「試作品」を意味します。一般的によく使われるのは、自動車の機能をテストする目的で作られているプロトタイプではないでしょうか。

プロトタイプは、工業製品に限らず、サービスのデザインをする工程において非常に重要な存在です。プロダクトのビジョンを目に見える形にしているからです。ユーザーへ実施するテスト、チーム内での意思疎通、上長への提案やプレゼンテーション…様々なシチュエーションで、いくら言葉で説明してもサービスの価値を伝えられなかった。理解してもらえなかった。そんな経験はありませんか?

今回は、なぜプロトタイプが重要なのか、プロトタイプの種類をご紹介しながら解説します。

プロトタイプとは何か

まず、プロトタイプとは何なのかを説明したいと思います。初心者でも理解しやすいように、料理の試食に例えてみますね。

例えば、もうすぐ特別なイベントを控えている時に、あなたが少し凝ったレシピの料理に挑戦するとしましょう。新しいレシピなので、イベントの当日にぶっつけ本番で作ることは不安です。失敗せず、喜んでもらうためにはどうすればいいでしょう。そこで多くの人は、何度かの練習を重ねるのではないでしょうか。
1回目の練習で作った試作品は食感に歯ごたえが足りず、レシピの工程を見直しました。2回目に作った試作品は、試食してみると味が薄かったので、味付けを変えたほうが喜ばれることに気づきました。
この練習の工程で大切なことは、完璧ではなくとも試作品があることです。試作品の試食を通して、ユーザー体験を疑似体験できることが重要です。試食という疑似体験から得た気づきや反省から、味付けを調整したり、見た目を工夫してみたりと、よりクオリティが高い料理を目指すことができます。

すでにお気付きの方も多いでしょう、この例における試作品は、プロトタイプと言い換えることが出来ます。
サービス開発におけるプロトタイプは、ユーザーやチームメンバーがそのサービスを「試食」するとき、最初に接点となるものなのです。

プロトタイプがサービス開発プロセスにもたらすメリット

意思疎通がスムーズになる

従来のサービス開発のプロセスでは、ディレクター/プロジェクトマネージャー、デザイナー、エンジニア間でそれぞれ依頼をする時は、依頼内容を全てドキュメント化することが必須でした。しかし、デザインカンプなどのドキュメントでは伝えきれない細かいニュアンスの認識に、メンバーによって違いがあることも。コミュニケーションで大幅に時間が削られてしまい、意思疎通の面に課題がありました。

しかし、目に見える形でプロトタイプがあることで、それを元にフィードバックをしたり、議論ができます。プロトタイプの存在が議論を呼び、建設的なコミュニケーションを生むのです。例えば社内でユーザーテストをする際にも、プロトタイプがあれば、職種が異なるメンバーにも同じ前提を持ってもらってからテストしてもらうことが可能です。

手戻りが減る

開発の初期段階から、動きがわかるプロトタイプでチームメンバーの認識を揃えておくことで、プロジェクトのフェーズが移った時にも手戻りを減らすことができます。初期段階においては、プロトタイプは完璧である必要はありません。検証したい項目だけでも構いません。可視化されていることが重要です。これによってエンジニアは技術的な実現可能性を早くからジャッジできますし、小さく早く検証を重ねることができます。

ユーザー体験を共有できる

上記2点が影響し、検証と改善をミニマムで繰り返す中で、開発チームはプロトタイプを通してユーザーの視点を疑似体験できます。動かせないドキュメントやデザインカンプでは実現できない違和感に気づくことができ、結果としてユーザーに寄り添ったプロダクトに近づけていくことができるのです。

プロトタイプが果たす役割

動きを検証する

ざっくりとしていても構わないので、まずそのサービスがどのように動くのかを検証することから始めましょう。プロトタイプを用いたサービス開発においては、検証と改善を繰り返すことが前提にあるので、少ない機能からプロトタイプを作成することが多いでしょう。InstagramやAirbnbも、初期のサービスのコンセプトは現在のものとは異なっています。サービスを使うのはユーザーで、ユーザーは変化し続けるということがよくわかる事実です。一度作って終わりということはまずありませんから、開発の初期段階では、動きを検証できるプロトタイプから作成することが良いでしょう。

サービスの世界観、ビジュアルを伝える

サービス全体のコンセプトを、UIデザインに落とし込むときにもプロトタイプを作成します。ここでは大本となるコンセプトをいかに最大化した状態でユーザーに届けるかが重要になります。UIはその名の通り、ユーザーとサービス開発者の間にある接点だからです。より詳細なプロトタイプを作り始めるフェーズでは、ビジュアルやインタラクションを用いて、ユーザーとコミュニケーションをしているとも考えられるかもしれませんね。

ストーリーを伝える

ビジュアルやインタラクションなどを詳細に決定したプロトタイプは、サービスの価値を物語のように伝えたい時に使えます。つまり、サービスのランディングページに置くプロモーションムービーなどもプロトタイプだと言えるのです。以下はGoodpatchが提供しているProttのムービーです。

Prott – Prototyping tool for Web, iOS, Android apps from Goodpatch on Vimeo.

「こんなサービスです」と価値を伝えたい時、ストーリーに沿っていると共感しやすく、使う場面が想像でき、さらに言うとニーズが顕在化します。サービス開発の提案フェーズでは、上長から理解をもらうことも大切ですから、いかにサービスの価値に共感してもらうかを考えながら、ストーリー仕立てのプロトタイプを作成してみてはいかがでしょうか。
ストーリーを用いてサービスを作る方法については、以下の記事でわかりやすくご紹介しています。

プロトタイピングとどう違うのか?

ここで明らかにしておきたいのが、プロトタイプとプロトタイピングの違いです。これはデザイン思考とデザインスプリントのように、両者の意味あいが異なります。

プロトタイプはサービス全体の価値を視覚化したツールであり、プロトタイピングとはプロトタイプを用いて検証と改善を繰り返す手法やプロセスそのものを指します。

プロトタイプがもたらすメリットからもわかるように、サービス開発においてプロトタイプを作成することはもはや当たり前となりつつあります。そのため、海外を中心にプロトタイピングツールがいくつも生まれています。プロトタイピングツールがあれば、コードを書かずに動くプロトタイプを作成できるので、チームの規模やリソースに関わらず、サービスの価値を明確にブラッシュアップしていくことができるのです。

最後に

今回はプロトタイプとはそもそも何なのか、メリット、種類、プロトタイピングとの違いについてご紹介しました。

ユーザーが自由に取捨選択できる現在は、サービスを作る人間にとってはシビアな時代かもしれません。だからこそ、ユーザーの視点になってサービスの価値を疑い、仮説を立てて検証し、少しずつ磨き上げていくプロセスが求められています。プロトタイプは、サービスの価値を向上させるためには切り離せない存在です。上記で少しご紹介しましたが、現在はコーディング不要でプロトタイプを作ることができるツールもあるので、アプリやサービス開発に役立ててもらえたら何よりです。