「バイアスを捨てて向き合った」アドウェイズでデザイン組織を率いるゼネラルマネージャーが留職した理由
2011年以降、世界では金融機関やコンサルティング会社によるデザインエージェンシーの買収が相次ぎ、ロジカルシンキングだけではなくデザインシンキングを用いてイノベーションを産み出す人材の需要が高まり続けています。2018年5月23日には経済産業省・特許庁から「デザイン経営」宣言が発表され、企業でデザインを経営資源として活用していくためにCDO、CCO、CXOといったデザインの最高責任者の参画が求められています。しかし国内の企業においてデザイナーは不足しているのが現状です。そこでGoodpatchではデザイナーの教育、育成に注力するべく「留職」という試みに挑戦しました。
今回はGoodpatchに8ヶ月間出向し、自社のデザイン組織を拡大し続けている株式会社アドウェイズ(以下、アドウェイズ) クリエイティブディビジョン ゼネラルマネージャーの遠藤さんと、Goodpatch執行役員 松岡の対談をお届けします。留職のきっかけから、期間の半分以上担当していたというGoodpatchでのユニットマネージャーの仕事、そして両社に訪れた変化について伺いました。
留職のきっかけ
遠藤
私はアドウェイズがUXデザインに弱いことに課題感を持っていて、「Goodpatchの人に出向してもらえないかな」と最初は考えていました。当時、UXデザイナーの採用が思うようにいかなかったり、クライアントに提案ができなかったりと悩んでいたんです。
そんな時に、アドウェイズ取締役の山田を含めて、土屋さんと食事をする機会がありました。お話ししているうちに、山田が「遠藤をGoodpatchへ行かせてもらえませんか」と言い出したんです。びっくりしましたね。(笑)土屋さんはその場で前向きに検討すると返事をしてくれたのですが、実はちょっと迷いました。そんな試みは今までも無かったですし。でも、一人で勉強しているよりも、実際に体験しないと分からないことがあると思ったので、思い切って飛び込むことに決めました。私が見ていたデザイン組織の体制が整い始めて、マネージャーが育ってきたタイミングだったことも理由でしたね。
出向する前にGoodpatchに期待していたことは3つありました。主に私がアドウェイズで悩んでいたことです。
- UXデザイナーの採用と教育
- デザインチームをコストセンターからプロフィットセンターにする方法
- クライアントワークのマネタイズ方法
これらを学んでアドウェイズに持ち帰り、実践したいと考えていました。
吸収するために「自分バイアス」を捨てた
松岡
実際にGoodpatchに来てみて、驚いたことってありましたか?
遠藤
実は、Goodpatchに「チームワーク」というイメージがなかったんです。プレイヤーとして有名な人も多いから、チームというよりはスタープレイヤー集団なのかなって思っていました。アドウェイズでのデザイナーは個人でアサインされることが多く、そんな感じなのかなと。いざ入ってみると、チームで働きチームワークを重視することに驚きました。
松岡
確かにGoodpatchはチームで働くことを大切にするので、一人のスーパークリエイターに頼る構図ではないですね。他に変わったなと思うことはありますか?
遠藤
UXデザイナーとしてGoodpatchで働きはじめたばかりの頃は、決まったデザインプロセスや手法、フレームワークを使わなければならないという思い込みでガチガチだったんです(笑)。でも、デザインスプリントを一度経験させてもらって、フレームワークはインサイトを引き出すための手段に過ぎないと気付いた時、腑に落ちる感覚があったんですよね。形がないものに定義をすることもデザイナーの役割なんだなと思いました。一般的な事業会社のデザイナーには「これを使ってこんなもの作ってね」というオーダーが降ってくることが多いと思いますが、私もいつの間にか、自分でデザイナーの仕事の範囲を決めつけてしまっていたんだなって。
自分自身のスタンスもかなり変わりました。限られた時間でGoodpatchを骨の髄まで吸い尽くすために「自分バイアス」を取っ払ったんです。私もデザイナーとして6年くらいのキャリアがあるので、自分なりのこだわりやポリシーもありましたが、思い切ってそれを捨てて、Goodpatchのやり方を吸収できるように食らいつきました。メンバーに対しても、新卒とか年上だからという点にこだわらず、自分は全部間違っているという思いで向き合いました。「アドウェイズではこうしてるよ!」と押し付けることはしないように気をつけていましたね。もちろん、いい面はシェアしていましたよ。
松岡
ゼネラルマネージャー(以下、GM)が留職するって、大変なことですよね。アドウェイズで期待されている役割もある中で、どのようにバランスを取ってたんですか?
遠藤
理想的にはGoodpatchが80%でアドウェイズが20%くらいですが、私は気持ち的にはどちらも100%でやっていました(笑)。Goodpatchのメンバーと飲みに行ったり、携わらせてもらったプロジェクトの打ち上げに行く時間は絶対に確保したかったので、コミュニケーションにできる限り時間を使いました。
そのかわり、アドウェイズでのユニット編成や、勤怠承認などの管理業務は、すべてマネージャーたちに任せていました。現場のマネージャーには迷惑もたくさんかけてしまうこともあったのですが、留職がきっかけで自分だけで抱えてしまっていた業務を任せられるようになったので、そこは良かったなと思っています。
留職しながらマネージャーを経験。組織への影響は?
松岡
カルチャー面のギャップで悩んだりはしませんでしたか?
遠藤
アドウェイズは営業カルチャーが強いので、デザインパートナー事業に関わったとき、ユーザーよりもクライアントの体験を優先しそうになることが何度かあって、そこはマインドの切り替えに苦労しました。違うことは違うとハッキリ言うのは勇気がいりましたね。
でも、GoodpatchにはGoodpatchなりのやり方があるし、いいものを作ってユーザーの体験を良くすることがゴールだったので、すぐに慣れた気がします。
あまり悩むことはなかったかもしれません。アドウェイズとGoodpatchのマネージャー交流会を設けてもらったり、Goodpatchでもマネージャー同士の時間がたくさんあったからだと思います。マネージャーレイヤーがカジュアルになんでも話せる場って意外と少ないですよね。採用、教育、評価などを話せる横のつながりができたのはありがたかったです。
松岡
僕たちも、他社のマネージャーさんがどんなことに悩んでいて、どんな人たちなのか知れる機会は少ないので、勉強させてもらえました。遠藤さんにはGoodpatchに来てもらってすぐにユニットマネージャーをお願いしましたが、その経験についてはどうでしたか?
遠藤
まさか本当にマネージャーをやらせてもらえるとは思っていなかったので、自分に務まるのかと不安ではありました。でも、アドウェイズでやってきたマネジメントがGoodpatchでも通用したので、自分のマネジメントスキルには少し自信が持てるようになりました。留職期間中にプレイヤーとしてプロジェクトに関わるだけではなく、マネージャーとしてユニットのメンバーと1on1をしてそれぞれのプロジェクトの話を聞いたり、一緒に課題に向き合うことで、何十倍もの学びを得られたと思います。
松岡
遠藤さんのメンバーへの接し方は、勉強になるところがたくさんありました。影響されたGoodpatchのマネージャーも多いと思います。きめ細やかなマネジメントもしてくれて助けられました。結果としても、遠藤さんが関わったメンバーは成長していて、活躍してくれています。UXデザイナーとして担当してもらったプロジェクトは、2018年度の全社総会でベストプロダクト賞を取って表彰されましたよね。
僕はデザインの領域が拡がり続ける中で、デザイン組織が均質化することは避けたいとずっと思っていたので、他社で80人(2018年9月時点)のチームを率いているGMが来てくれるのなら、自由に任せたかったんです。新卒で入社した会社でGMになるって、簡単なことじゃないですから。だからこそ遠藤さんを信頼して任せられた部分は大きいですね。しかも遠藤さんには「お客様感」がまったくありませんでした。営業からワークショップのファシリテーターまで、何でも前向きに取り組んでくれるので、こっちが心配になるくらいでした(笑)。
一人の留職が会社同士の結束を作る
遠藤
マネジメント視点からすると、メンバーを出向させるってとても勇気がいることだと思います。「帰ってこなかったらどうしよう」って心配にもなりますよね(笑)。実際、うちの代表の岡村も最初は反対していたんです。そこを取締役の山田が、今後デザインがどれだけ会社の経営にとって必要な武器になるか、私の成長が会社にどういったインパクトを残せるか一緒に説得してくれたんです。その結果、実際に体験してみることを尊重してもらえました。
実は私の出向事例がきっかけになって、アドウェイズの他部署でも留職の動きがあるんです。私以外にもアドウェイズからGoodpatchに出向してきているメンバーもいます。今後もこんな感じで、新しいチャレンジをしたいメンバーを送り込ませてもらえたらと思っています。
はじまりは私一人の留職でしたが、結果的に会社同士の結束が強くなったと思います。私だけではなく、Goodpatchでマネジメントさせてもらったメンバーにも、残してきたアドウェイズのメンバーにもそれぞれ学びがありました。私はこの留職で、アドウェイズの社員以外にもたくさん味方ができたと思っています。
松岡
「デザイン」という共通のキーワードで一緒に働ける機会って意外と少ないんですよね。組織全体にいい影響があったと思います。でも正直、こんなに変わるとは予想外でした(笑)。それは遠藤さんがいつもフラットにメンバーに接してくれて、貪欲でいてくれたからだと思います。マネージャーが集まるミーティングにはすべて出てもらっていたし、組織課題もすべてオープンにして、かなり濃い時間を同じ場所で過ごしたことは大きかったと思います。大企業から子会社に出向するというケースとはまったく違いましたよね。Goodpatchでの留職は終わりましたが、これからはどんなことをやるんですか?
遠藤
おかげさまで、やりたいことが増えました。まず全社的な変化として、アドウェイズ全体でデザインに力を入れていくことが決まりました。なので、まずはReDesignerを使ってUXデザイナーを採用したいです(笑)。デザイナー不在の会議で決まっていたことをデザインの力で整えていきたいですし、今までは踏み込めなかった領域にも、デザイナーが主体となって進められるようにしたいです。すごく楽しみですね。
Goodpatchに出向して様々なプロジェクトに関わる中で、デザイナーの領域の広さを実感した反面、そうした場がまだまだ少ないことにも気づきました。なのでゆくゆくはアドウェイズとして、デザイナーが活躍できるプラットフォームを提供したいです。
あとは、カルチャーやブランドデザインにも取り組んでみたいです。元々の構想にはありませんでしたが、Goodpatchがデザインを使って企業や組織に様々な関わり方をしていることを知って、挑戦したいと思うようになりました。アドウェイズには元々強いカルチャーがあるので、それをもっと確かなものにしたいです。
アドウェイズからやってきたGMの留職は、アドウェイズとGoodpatchそれぞれのデザイン組織に大きな化学反応をもたらしました。これから必要性が高まっていくデザイン経営を支える高度デザイン人材は、異なるカルチャーの中でも組織や課題に向き合い、領域を飛び越えていけるようなデザイナーなのではないでしょうか。
Goodpatchでは、留職の取り組みをご一緒させていただける企業からのご連絡をお待ちしております。経営チームでデザインに責任を持つCDO、CCO候補を育成したいと考えている方は、こちらよりお気軽にご連絡ください!