グッドパッチでは毎年4月から7月にかけて、新卒向けの研修を実施しています。
営業、PM、エンジニア、UI/UXデザインなど、さまざまな専門領域を横断して学び、その後は実際のプロジェクトに入りながら実務経験を積んでいきます。毎年少しずつアップデートを続けていますが、今年度は研修設計そのものを大きく見直しました。
最も大きな変更は、研修の一環として、例年より早い5月から新卒を実プロジェクト(実際のクライアントワーク)へ配属したことです。この変更の背景にあるのが、生成AIの急速な普及でした。
生成AIによって、アイデアを形にすることやプロトタイプをつくることは以前よりずっと簡単になりました。デザイン案をつくることも、コードを書くことも、試行錯誤を繰り返すことも、以前より圧倒的に速く行えるようになっています。
一方で、「つくれること」だけでは差別化しづらくなりました。
だからこそ、これからのデザイナーに求められる価値も変化しています。生成AI時代に価値を持つデザイナーとは、単にアウトプットを生み出せる人ではありません。課題を捉え、周囲を巻き込みながら、プロジェクトを前に進められる人だと私たちは考えています。
そして、その力は座学だけで身につくものではなく、実務の中で挑戦し、振り返り、改善する経験を通して育まれていくものです。
そこで今年度の新卒研修では、「スキルを教える研修」から「実務の中で成長する力を育てる研修」へと考え方を見直しました。そのために育成の軸として据えたのが、自走力、思考力、内省力という3つの力です。

また、これらの力を身につけるために、研修全体のフローも見直しました。研修内に実務が入ることで、いわゆる「経験学習サイクル」が回る機会が増えるようにしています。

知識を学ぶだけで終わるのではなく、実務の中でこの成長サイクルを回しながら成長すること。それが、今年度の26卒研修で目指したことです。今回は、その考え方と具体的な取り組みをご紹介します。
目次
26卒研修の全体像
研修は大きく3つのフェーズで構成されています。最初に行う全社研修では、社会人としての基礎や会社理解を深め、部門研修では、営業・PM・エンジニア・UI/UXデザインなど、それぞれの専門領域を学びます。
そして、今年度の研修の目玉となるのが、5月から始まった実プロジェクト配属研修です。

部門研修で実施したこと
部門研修は、それぞれ異なるテーマを扱っています。しかし共通しているのは、「実務の中で成長するための土台をつくること」です。

MD研修|ビジネスの文脈を理解する
デザイナーが価値を発揮するためには、デザインだけでなくビジネスを理解することが欠かせません。
MD(Market Design/営業)研修では営業オリエンテーションや会社紹介に加え、実際の商談にも同席しました。どのようにクライアントと関係を築き、どのような課題からプロジェクトが始まるのか。現場を体験することで、自分たちがこれから関わる仕事の全体像を理解することを目的としています。
また、商談や提案の場で行われている合意形成や期待値調整にも触れながら、「良いデザインをつくること」と「プロジェクトを前に進めること」の両方が重要であることを学びました。
生成AI研修|「適切に使える」を目指す
今年度から新たに追加した研修です。
生成AIを使うこと自体は、多くの新卒にとって珍しいことではありません。一方で、実際の業務では個人利用とは異なる観点が求められます。

生成AI研修の講義の様子
機密情報はどこまで入力できるのか。生成物の著作権はどう考えるべきか。AIのアウトプットをチームでどう扱うのか。研修では利用ルールや知財の考え方を学んだ上で、デザインプロセスの中に生成AIを組み込む実践ワークを行いました。
また、「AIに作らせる」のではなく、「AIと共創する」こともテーマの一つです。アイデア発散からプロトタイピング、ユーザーテストまでを短期間で繰り返しながら、人とAIが役割分担しながら価値を生み出す体験を行いました。
AIによって試行回数を増やせる時代だからこそ、どのアイデアを選ぶのか、どの方向に進むのかを判断する力の重要性についても学んでいます。

講義資料の一部

プロトタイプ制作の様子
ファシリテーション研修|場を前に進める力を学ぶ
デザイナーはアウトプットをつくるだけでなく、多様な関係者と対話しながらプロジェクトを前進させる役割も担います。
本研修では社内のワークショップデザイナーを講師に迎え、場の設計から合意形成まで、ファシリテーションの基礎を学びました。
実践形式のワークを通じて、目的共有・発散・収束・意思決定といったプロセスを体験しながら、「良い議論を生み出すために何が必要か」を学んでいます。

実際のワークの様子
PM研修|プロジェクトを設計する視点を持つ
PM研修では、グッドパッチにおけるプロジェクトマネジメントの考え方や、クライアントワークの進め方について学びました。
プロジェクトを成功に導くためには、与えられた依頼をそのまま進めるだけではなく、目的や制約を整理し、関係者の認識をそろえながら進めることが重要です。
研修ではケーススタディや擬似プロジェクトを通じて、プロジェクト設計から合意形成までを実践的に体験しました。
エンジニア研修|AI時代だからこそ、仕組みを理解する
エンジニア研修のテーマは、AIを活用しながらデザイナー自身が動くプロトタイプをつくれるようになることです。
ただし、いきなりバイブコーディングから始めるわけではありません。まずはHTMLやCSSを書きながら、Webの仕組みそのものを理解するところから始めます。AIがコードを書いてくれる時代だからこそ、生成されたものを判断するための基礎知識が必要だと考えているためです。
その後はAPI連携やCRUDなどの概念を学びながら、生成AIと協働してアプリケーション制作を行いました。
研修の後半ではバイブコーディングを活用し、デザイナー自身がプロダクトを実装する体験にも挑戦しました。

エンジニア研修の様子

実際に作成したアウトプットの一部
UI/UXデザイン研修|スキルの前に、スタンスを学ぶ
こちらは例年行っている研修ですが、昨年から大きく変えたのは、スキルを学ぶ前に「スタンス」を学ぶ時間を設けたことです。
これまでもUI/UXデザインの考え方、設計手法については研修の中で扱ってきました。しかし生成AIによってアウトプットを生み出すハードルが下がった今、私たちは改めて「どのような姿勢で仕事に向き合うのか」が重要になると考えています。
そこで今年度は、「グッドパッチのデザイナーとしてのスタンス」と「生成AI時代のデザイナーとしてのスタンス」をテーマにした研修を新たに実施しました。
良いアウトプットをつくることだけを目的にするのではなく、成果に向き合うこと。自分一人で完結するのではなく、チームで価値を生み出すこと。正解を待つのではなく、自ら問いを立てて行動すること。
こうした考え方を共有した上で、UI/UXデザインの専門的な内容へと進んでいきます。単にデザインスキルを学ぶだけではなく、実務の中で成長し続けるための基礎を身につけることを目指しています。

スタンス講義の様子

実プロジェクト配属研修に向けた目標共有会の様子
今年度最大の変更|5月から実プロジェクトへ配属
先ほども触れた通り、今年度の研修で最も大きく変えたのが、5月から新卒を実際のプロジェクトへ配属したことです。
これまでは、一定期間の研修を終えてから実務へ入る流れが一般的でしたが、今年度は、部門研修で基礎を学んだ後、できるだけ早い段階で実際のプロジェクトに参加する設計へと変更しています。
背景にあるのは、「実務の中で成長する方法を学ぶ」という研修方針です。
もちろん、実際のプロジェクトには難しさがあります。クライアントごとに課題は異なり、チームごとに進め方も異なります。研修課題のように正解が用意されているわけではありません。
だからこそ、経験から学べる環境づくりにも力を入れました。

新卒一人ひとりにはQM(Quality Manager)とバディが伴走します。
QMは挑戦の機会を設計しながら学びを最大化し、同時にプロジェクト品質を担保する役割です。バディは、日々の不安や悩みを相談できる存在として、新しい環境への適応を支援します。さらに、自社開発した振り返りツールも活用し、内省を加速させることを狙っています。
SNSでも共感やいいね!が集まった、新卒の成長見守りツール「Sprout」
経験したことを経験のまま終わらせず、学びとして言語化し、次の行動へつなげる。単にプロジェクトへ配属するのではなく、成長の土台をつくること。それが、今年度の実プロジェクト配属研修で重視していることです。
配属から約1カ月が経った現在、少しずつその変化も見え始めています。もちろんまだ道半ばですが、新卒たちは日々の実務の中で失敗と挑戦を繰り返しながら、自ら考え、周囲を巻き込み、プロジェクトを前に進める経験を積んでいます。
新卒A
プロジェクト内でクライアント向けのロゴ提案を担当し、方針が採用されました。当初はQMから「HOWに偏り、WHY/WHATが薄い」「提案すること自体が目的化している」との指摘を受けました。そこで「なぜこの設計か」と「満たすべき条件」を起点に論理を組み立て直し、その上で発散・検証へ展開することで提案の説得力が向上。結果として採用に至りました。
新卒B
ユーザー調査の設計および検証観点の整理を担当しました。当初は検証項目が散発的になっていましたが、「この調査で何を明らかにすべきか」を起点にロジックツリーで検証観点を可視化し、プロトタイプ検証インタビューのシナリオを作成しました。定量・定性それぞれの役割や目的を明確に切り分けて構造化したことで、チームやクライアントとの認識を揃え、調査設計をスムーズに前進させました。

実際のアウトプットの一部
7月末には成果発表会を実施予定です。研修の一貫なので、評価するのは成果物の完成度ではありません。この3カ月でどのようなチャレンジを行ったのか、どのような機会を自らつくったのか、そして何を学んだのかを振り返ります。
成果と成長のプロセスそのものを言語化することも研修の一部と位置付けています。
おわりに
生成AIによって、「つくること」のハードルは大きく下がりました。一方で、本当に価値のあるプロダクトを生み出すためには、課題の本質を見極め、多様な関係者と協働しながらプロジェクトを前進させる力が、これまで以上に重要になっています。
私たちグッドパッチが育てたいのは、つくるスキルが高いデザイナーではありません。課題を捉え、周囲を巻き込みながら、価値につながる意思決定ができるデザイナーです。
だからこそ、教わることを前提とした研修ではなく、実践の中で挑戦し、失敗から学びながら成長する機会を重視しています。自ら考え、行動し、周囲を巻き込みながら前に進む。そんな姿勢を持った人が大きく成長できる環境を目指しています。
もちろん、この研修設計が完成形だとは考えていません。私たち自身も新卒と向き合いながら、試行錯誤を続けています。変化の大きい時代だからこそ、育成のあり方もまた変わり続ける必要があります。この記事が、これからのデザイナー育成や新卒研修について考えるきっかけになればうれしいです。
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