こんにちは。UIデザイナーの菅原です。芸大を卒業後、2022年にGoodpatchへ新卒入社し、ヘルスケア業界のクライアントワークに携わるほか、社内クリエイティブのグラフィックデザインやワークショップのファシリテーターなどのサブプロジェクトも手がけています。

最近は新卒採用にも関わっているのですが、説明会では学生の皆さんから、仕事内容やカルチャー、キャリアなど、さまざまな質問をいただきます。中でも学生の皆さんからいただくよくいただくのが、「ポートフォリオって、どう作ればいいの?」という質問です。

僕自身も数年前までポートフォリオ片手に就活をしていたため、その疑問がよく分かります。一方で今振り返ってみると、「焦る気持ちを抑えて、そもそもを考える」ことがとても大事だったなと感じます。

そこで、この記事では「ポートフォリオって、どう作ればいいの?」 デザイナー就活のプロに聞いてみたの続編として、僕が当時何を考え、どうポートフォリオを作っていたのかを等身大でお答えできればと思います。もちろん、これが正解というわけではありませんが、一つの例として皆さんの参考になれば幸いです。

ポートフォリオは「高い壁」──就活当時の思い

僕は東北芸術工科大学のグラフィックデザイン学科に所属していました(大学でグラフィックデザインを専攻していた僕がなぜUIデザイナーを目指すようになったのかの経緯は、こちらのインタビューをご覧ください)。

3年生の夏頃に就活のムードが学内にも漂い始め、「そろそろやるか〜」と重い腰を上げ、手始めにポートフォリオ制作に手をつけたのを覚えています。

この腰の重さの原因は、自分の作品を丁寧に並べ直し、一つ一つに向き合い、そこに込めた思いやコンセプトを思い出しながら、ポートフォリオという形式でまとめていくという作業の「途方もなさ」にありました。

また、当時の僕は力を入れて就活の情報収集をしていたわけではなかったため、「このポートフォリオが完成しなければ、面談や面接というステージにたどり着けない」と思い込んでいた節がありました。そのため、ポートフォリオは自分の前に立ちはだかる高い壁のような存在だったと思います。

Goodpatchの人事担当と面談することになった際も、「僕まだ全然ポートフォリオ作れてないのに、受けちゃっても大丈夫なのかな……?」と不安でした。

その時相談したReDesigner for Student キャリアデザイナーの田口さんから「できていなくても問題ない。一歩踏み出してみるのがいいよ」という言葉をもらい、心が軽くなったのを覚えています。

その面談に持ち込んだのは、大学の課題で制作を始めていたポートフォリオ。本当にまだ作りかけの状態でした。もちろん、面接が進むにつれポートフォリオもブラッシュアップを重ねていきましたが、ポートフォリオ制作を立ちはだかる壁のように思っていた僕からすれば、大きな前進でした。

完璧を目指すより、まず人に見せてみろ

僕がまずお伝えしたいのは、「100点満点のポートフォリオを作ってからが就活のスタートではありません」ということです。20点でもいいから周りの友達や企業の方にぶつけてみて、反応をもらい、修正を繰り返すことが、ポートフォリオのクオリティを高くする近道だと思います。

そもそも自分が思っている100点は、デザイナーを生業にしている先輩デザイナーや企業人事担当者の方の100点ではありません。100点を構成する要素がおそらく違いますし、デザインスキルの解像度も違います。自分が思う100点ではなく「いかに読む人にとっての100点に近づけるか」が大切ではないかと思います。

ずっと自分の手元で抱え込んでいては、読む人にとっての100点に近づいたかどうかを知ることができません。「完璧を目指すより、まず終わらせろ(原文:Done is better than perfect)」という言葉をMeta社(前Facebook社)の創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は残しています。ポートフォリオ制作においては、「完璧を目指すより、まず人に見せてみろ」を作る上での一つの方針にしてみてもいいかもしれません。

就活時のポートフォリオを振り返る

昔の自分を振り返るのはやや気恥ずかしさがあるものの、記憶を掘り起こして、ここからは実際に自分が就活時に制作したポートフォリオを基に、「当時、何を考えて制作したか」を紹介できればと思います。

まず、このポートフォリオで誰に何を伝えたいかを整理します。

僕の場合は、UIデザイナーを志望していたため、「UIデザイナーの採用担当の方々」に「ユニークな着眼点とアイデアをUIに落とし込める」人であることを伝えられるポートフォリオを目指していました。

このように伝える相手をイメージし、「一言で自分のポートフォリオを説明するなら?」を決めておくことで、一貫した構成や見せ方を意識していました。

ポートフォリオの構成は大きく2部構成。前半はUI系の作品、後半はグラフィック系の作品を載せていました。

僕の場合は、まず一作品目に筋トレアプリをテーマにしたUIデザインを持ってきました。

ここではまず、「何のアプリか(概要+アイキャッチ)」「どういう体験ができるのか(画面遷移)」「どういうプロセスを踏んだのか(課題探索→インタビュー→解決策の発見)」という順序を決め、それぞれのセクションに分けて説明をしていきました。

また、他の筋トレアプリにはない、差別化のポイントとなる機能の説明や、マネタイズをする際のアイデアも記載しました。

大学の課題ではマネタイズのアイディアまで求められることは少ないため、どこで利益を生み出すのかを検討した作品があることで、実際に世に出たときには?という一歩踏み込んだ思考をアピールしたかったんだと思います。

2作品目には、「美大の4年生が廃棄に困っている家具や作品の素材などを新入生にお安く渡すCtoCフリマイベントアプリ」を載せています。

アプリでの体験に特化した1作品目とは違う方向性の広げ方をした作品で幅を見せたかったため、この作品では、イベント企画のアイデアや、フリマに出品される商品につけるタグ、告知ポスターなど、グラフィック展開も含めた見せ方にしています。

ポートフォリオ後半は、UI以外のポスターやブックデザインなども掲載していました。プロセス説明は最低限にして、できるだけビジュアルで魅せるパートという位置付けにし、前半・後半でのメリハリをつけることを意識していました。

ポートフォリオ作りで意識した3つのポイント

僕がポートフォリオを作るときに意識していたことは、次の3つにまとめられます。

①記憶に残る工夫を施す

基本ですが、誰が読んでもぱっと見て理解できるよう、あしらいや文字組など、デザインの4原則である「近接」「整列」「強弱」「反復」を意識した誌面デザインをしましょう。

デザインの4原則の詳しい話や、その他のデザインに関する知見はぜひノンデザイナーズ・デザインブックを読んでみるとさらに理解が深まると思います。

そうした読みやすい工夫がされてないと、面接官が読んだ際のファーストインプレッションが「なんか読みづらい」になってしまいます。日々の自分たち同様、そうなるとそこから先何を見ても頭に入らないものです。世界観と読みやすさのバランスを行き来しながら作ってみましょう。

また、面接が終わったあとに「あの子って◯◯を作っていた子だよね」という印象が残るか、という目線で自分のポートフォリオを見返すのも重要です。作ったものをちゃんと意図通りに記憶してもらえるのかはとても大事です。

「意図が伝わる」「記憶に残る」ための手法として、キャッチーなコピー、丁寧な制作プロセス説明、圧倒的なビジュアル力など、工夫の仕方はたくさんあります。どれか強烈な一作品を残す、でも良いですし、何となくあの子の作品は覚えてる。と感じてもらえる工夫をしてみましょう。

とはいえ、どうしてもそこでつまずいてしまう人もいるかと思います。その際は、自分が何も見ないで思い出せる作品を思い浮かべてみてください(映像でも、コピーライティングでもプロダクトでも何でもありです)。

そして、なぜ思い出せる(=記憶に残っている)のかを深掘りして見てください。自分の好きなものを見つめ直してみた中にヒントがあると思います。

僕の場合は、菅俊一さんの観察視点だったり、井上嗣也さんのシャープでパワフルなグラフィックが好きだったので、そういったものをUIデザイナーとしてどう展開できるのかを考えていました。

②ポートフォリオを使うシーンをイメージする

先ほどの「誰に何を伝えるポートフォリオなのか」を決めるという話にも近いのですが、「実際にこのポートフォリオを使う場面はどんな状況か」をイメージすることが大事です。

というのも、ポートフォリオを伝える場面は面接ですが、面接の時間は大体1時間ほど。話すペースにもよりますが、その中で深く説明できるのは大体1〜3作品ほどだと考えられます。面接官の視点に立つと、おのずと最初の複数ページにわたって紹介されている作品を中心に話すことになります。

僕の場合メインとなるのは、ページ数を割いて紹介した冒頭の2作品。ここで「この学生はUIに興味がありつつ、着眼点やアイデアを大事にしている人なんだ」という自分がアピールしたい文脈に誘導しながら会話することをイメージしました

よくポートフォリオの作品順について「企業に合わせた作品の順序にしましょう」というアドバイスを耳にします。このアドバイスは、「企業にとって見やすく、かつ自分にとっても話したい方向に持っていきやすい」ポートフォリオを作る意味で有効だと思います。

また、僕はメインとなる2作品以外にも、後半にたくさん作品を掲載しておく構成にしました。

僕の場合はグラフィック作品を後半に持ってきましたが、説明はあえて多く載せていません。あくまで面接官の興味を喚起するフックとしての位置付けで、面接官が興味を持った作品起点で「これを説明して」と聞かれたら、こだわりポイントや意外なエピソードを話す。そうすることで、書いてある文章を単に読み上げるよりも、より印象に残す工夫をしていました。

実際の面接でも、プロジェクトのデザインを起点に、他に参加していた地域連携プロジェクトの話や、学生間でどのように企画・会議・実施を行っていたかの話をするなど1つの作品から複数の深掘りエピソードを話すことができました。

そういう意味では、ポートフォリオで全てを語る必要はないと考えています。先ほどもお伝えした通り、このポートフォリオはどのように使われるのかを意識していれば、すべてに大量の説明を入れることなく、面接時に作品の価値を最大限発揮し、理解してもらえるような使い方ができるのかなと思います。

③自分だけでは自分は見えない

冒頭もお話ししましたが、「ポートフォリオがうまく作れない」という悩みは大体自分の中での観点が足りないか、ゴールを見失ってるケースが多いと思います。

闇雲にイラレで配置やバランスを試行錯誤する前に、「なんでこれ作ってるんだっけ?何を伝えたいんだっけ?」を考える。それが決まったら、実際に第三者に伝わるものになっているか、繰り返し見てもらって改善するのが、遠回りに見えて一番の近道なのではないでしょうか。

そうは言ってもポートフォリオを見せるのは怖く、勇気がいるのはとても共感できます。ポートフォリオは「自分の価値観や時間が全てが詰まった集合体」なので、これを批判されたら心身ともに削られる気持ちも分かります。僕自身も、人に見せることができていたかと言われるとそうでもないですし、今見ると改善の余地だらけで恥ずかしいです。

ただ、その「自分が詰まった集合体」という認識が、ポートフォリオが否定されたら自分が否定されたように感じてしまう原因なのかなと思います。ポートフォリオはあなたが作ったものですが、あなたではないですし、ポートフォリオの修正すべき点はあなた自身の修正すべき点ではないのです。

ポートフォリオは雪だるまのようなものです。雪だるまは、初めから2段重なって顔がついてる訳ではありません。小さい状態を転がして転がして(作って人に見せるを繰り返す)、時には削って(情報を整理する)、大きくなったらバケツをはめて枝を刺すのです(個性や世界観を盛り込む)。

「まだこれしかできてなくて見せられないです。ごめんなさい……」となる必要はなく、「大きくするために見てください!」と、必要な工程だと思って周りに協力を仰いで良いと、僕は思います。

ポートフォリオ制作に向き合う就活生に伝えたいこと

ここまでたくさん観点やアドバイスを書いてきましたが、「ポートフォリオはこう作るべし!」という絶対的な話ではありません。基礎的な観点を踏まえた上で、どのような形に仕上げていくか試行錯誤するのがポートフォリオの醍醐味であり、面白い部分です。

ポートフォリオ制作が辛いと感じる方の中には、自分のために作っているという感覚を持ちづらい人もいるのではと思います。どうしてもポートフォリオの先に「企業」「面接官」「社会」がうっすらと待っているように感じたり。

ポートフォリオを「受かるための武器」として磨くことが辛くてモチベーションが上がらない方は、「誰かのため」以前に、「自分のため」に、自分が大事に手元に置いておきたくなるような、「愛せるもの」として育てていく感覚でポートフォリオを作ってみてほしいなと思います。

僕は、制作したポートフォリオを印刷して自室の本棚に並べたりしていました。お気に入りのものたちを集めた棚に並べても、愛おしく思えるようなポートフォリオを作りたいなと思っていて、それは、相手に伝えたいという気持ちにもつながるのではないでしょうか。自分のお気に入りが詰まった本棚の中でも、輝くポートフォリオになっているか、パラパラめくって客観視するのもおすすめです。

人の数だけポートフォリオがあります。自分はどう作るべきか悩んだ際に、この記事の内容を思い出して参考にしていただけたら幸いです。

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