SXSW2018から紐解くデザイナーの未来
UXデザイナーのかつきです!2018年3月10日から18日にかけて、テキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に、Goodpatchが開発するプロトタイピングツール「Prott」のシニアUXデザイナー チェルシーと共に参加してきました。
本記事では、現地で聞いたデザイン系カンファレンスの内容などを
目次
SXSWとは
SXSWはInteractive(Tech系)、Music(音楽フェス)、Film(映画祭)の3種類のフェスティバルが同時開催されるアメリカでも最大級のイベントです。オースティン一帯がSXSW一色で、Convention Centerを中心にあたりのホテルやバーも全てカンファレンスやエキシビションの会場になっており、「Interactive」「Music」「Film」どれを見ても桁違いに著名な人たちが講演をしています。
「Interactive」では、レイ・カーツワイルの講演が聞けたり、イーロン・マスクが突如現れたり、 「Music」ではSteveAokiがライブしてたり、日本からはネオ可愛いで有名なCHAIが来ていたり、「Film」では、スティーブン・スピルバーグ監督の新作が初お披露目してたり(本人も来てたみたい)と、例を上げればキリがないですが、とにかく約10日間に詰めに詰め込みまくってます。
デザイン業界で働く人達にとってのSXSW
デザイン系に絞ると、IDEO, Airbnb, Facebook, Capital One, IBM, Stanford d.school等、有名所のDirectorレベルの人たちのカンファレンスが盛りだくさんでした。特に、ジョン・マエダさんのDesign in Tech report や、Fjord Trends 2018 は毎年の恒例で、グッドパッチでもいち早く話題に上がっています。
関連記事:包括性のためのデザイン – ジョン・マエダ氏とキャット・ホームズ氏が語る
なぜGoodpatchメンバーがSXSWへ行ったのか
まず一つ目は、ProttのシニアUXデザイナーを務めるチェルシーが、SXSWのパネルディスカッションで登壇する機会を頂いたからです。チェルシーは「How Gender Fluidity Recasts Brand Engagement」というタイトルで、ジェンダーとブランドのエンゲージメントの関わりについて講演を行いました。こちらの内容は後述します。
二つ目は、デザイン業界の最新トピックをキャッチアップするためです。Goodpatchが今後、デザインファームとして業界を牽引する存在になるために必要なことは何なのか。アメリカのデザイン業界では何がトレンドなのか。そして、そこから日本のデザインファームが学べることを知るという目的で、チェルシーに加えて私が本イベントへ参加して来ました。
SXSWから学んだ、デザイナーの未来
デザイナー系のカンファレンスを数々見た中で、デザイナーの未来を語るのに良いカンファレンスに出会いました。以下の3つです。
Leading for a Culture of Innovation & Creativity
The Designer’s Weakness: Understanding the Role of Power
How Gender Fluidity Recasts Brand Engagement
3つ目のパネルディスカッションが、Goodpatchのチェルシーも登壇したものです。
これらの内容を踏まえて、未来のデザイナーのあるべき姿についてまとめると、以下の3点になります。
- デザイナーは、組織にデザインをインストールする存在になろう
- デザインの領域、力を広げるために、安全地帯の外へ出ていこう
- デザイナーは、人類の複雑性を理解しよう
①デザイナーは、組織にデザインをインストールする存在になろう
デザイナーは今後プロダクトをデザインするのみならず、デザインに明るくない組織に対して、以下のような価値観をインストールする存在になる必要があるのではないでしょうか?
- 一貫した目的思考を持ち、デザインはその目的を達成するために使うこと
- まずは、周囲を観察すること。特にユーザーを観察すること
- そして同時に複数のアイデアを実験することで精度の高いフィードバックを得ること
- 多様性は備えるだけでなく、活用して始めて価値を発揮するということ
- 権力の移譲を積極的に行い、組織の自律性を高めること
- 改善する際の判断基準をプロジェクト、プロダクトごとにデザイン原則として言語化すること
(参考:The Designer’s Weakness: Understanding the Role of Power)
②デザインの領域、力を広げるために、安全地帯の外へ出ていこう
デザインの倫理を語る際に欠かせないのが、デザイナーのもつ「力」「特権」についてです。「力」とは、何を行使出来るのか?つまり何を変えることが出来るのか?ということ。「特権」は、リスクをどれくらい取れるのか?ということです。
私達デザイナーは、企業や経営者などクライアントから依頼を受けて、彼らの顧客のためにデザインをします。なぜデザイナーがそのような役割を担うのかというと、デザイナーと、クライアントの顧客が持つ、力や特権の大きさが近しいがゆえに共感し易いからなのです。つまりデザイナーは、自分に似ている層の課題を解決しがちだと言い換えることができます。
しかし今後のデザイナーは、力や特権のない人々(例えば、ホームレスの人)のためにも、デザインの力を使わなければならないのではないでしょうか。「意義があるデザイン」とは、自分とかけ離れた共感しづらい層の課題を解決することこそを指すのではないかと私は思います。
(参考:Leading for a Culture of Innovation & Creativity)
③デザイナーは、人類の複雑性を理解しよう
最後に、デザイナーは「人類は私達が思っているより複雑な存在である」ことを理解しなければなりません。その複雑性を理解するために、チェルシーのセッションではGender Fluidityの例を用いていました。
マーケターやデザイナーの方であれば、入力フォームのデザインに関わったことがある方が多いかと思います。その際、「男性/女性/その他」のような3つの選択肢を用意したフォームを見たことがありませんか?この時マーケターは、いくつかのことを自問自答しなければなりません。
- 性別のデータを取得することでユーザーにメリットを返せるか?
- その他とまとめられた人々がどう感じるかを考えられているか?
フォームの性別欄は一つの例ですが、「データを取得する」という行為と、ユーザーの便益は等価交換であると考えるのが倫理的です。そのデータを取得することでユーザーにどういうメリットがあるのかを明確にユーザーに伝えてから、適切なデータを取得しましょう。
(参考:How Gender Fluidity Recasts Brand Engagement)
最後に
これまで日本で学び実行してきたデザインは、どのようにデザインをするのか?という視点が大半でしたが、アメリカのデザイン業界では、倫理観や考え方に対する会話が中心だったように思います。デザインの力に光が当たってきた今だからこそ、再度デザイナーは自分たちの持つ力を認識し直すべきではないでしょうか。そして未来のデザイナーとは、ものを作るだけではなく、企業の倫理や文化に関わる仕事もする未来が来るはずだと私は信じています。