包括性のためのデザイン – ジョン・マエダ氏とキャット・ホームズ氏が語る

毎年3月にSXSWで発表される、Design in Tech Report。4年目となる2018年版が数週間前に発表され、テック界やデザイン界で話題となっています。そのDesign in Tech Reportが大きなテーマとして伝えているのが、包括性と多様性の重要さです。

今回ご紹介するのは、Design in Tech Reportを作成しているジョン・マエダ氏と、彼がリサーチの中で出会った、以前Microsoft社でInclusive Designを率いていたキャット・ホームズ氏の合同インタビュー記事です。インタビューしているのは、Own Your ContentというWordPress.comとCreative Morningsとの共同プロジェクト。オンラインでコンテンツを作成し所有することについて、そしてなぜコンテンツ作成において包括性と多様性が重要なのかについてが語られています。
著者及び記事掲載元から許可を得て、翻訳及び掲載しています。

元記事:John Maeda & Kat Holmes on Designing for Inclusiveness
著者:Paul Jun

ジョン・マエダとキャット・ホームズが語る、包括性のためのデザイン


Illustrations by Jeffrey Phillips

みんなが気づいてる。テクノロジーは私達の100年先を行っているように感じられるが、私達の振る舞いは何十年も前のものを反映しているに過ぎない、ということに。デザインやテクノロジー、そして人材の採用における包括性の欠如という体系的な問題は、根深い文化的失敗を露わにしている。だけど裏を返せば、これは「better(より良いもの)」とはどんなものであるのかを明示的に伝え、私達が作りたい未来に大きく関わる大切な仕事を行うための、きらきら光る可能性だ。

今回、WordPressを運営するAutomattic社のGlobal Head of Design and Inclusionであるジョン・マエダ氏と、KATAのファウンダーでありAutomattic社の顧問であるキャット・ホームズ氏を迎え、包括性の未来がどのようなものになるのか、私達が作り出すコンテンツを、多様性を通してどのように豊かにすることができるのか。そして、ゆっくりではあるが確実な変化の進展についてお話しいただいた。

包括性と多様性

デザインやテック界、そしてその他の多くの分野において、包括性が欠如しているという共通理解があるようです。お二人にとって、成功とはどのようなものですか?2027年は、どのようになるのでしょうか?

マエダ氏: まず正直に言うと、2016年までは包括性というトピックに明確に仕事としてフォーカスしていたわけではありませんでした。2016年、若きプロフェッショナル達数名とDesign in Tech Reportを作成していた時、キャットがMicrosoft社で携わっていた仕事に偶然出会ったのですが、幸運だったと感じます。これは当時Keliner Perkinsで働いていたジャスティン・サヤラットに大きく感謝するべきで、彼は今Helixというスタートアップで働いています。ジャスティンは学校卒業後、人生の大部分をシリコンバレーで過ごしてきています。

当時の私のアプローチというのは、もっと純粋にビジネス、あるいはデザインにフォーカスしたものでした。しかしジャスティンは私に、今日生まれている企業の社会的な次元、具体的に言うと、包括性を考慮するよう後押ししたのです。ビジネスについて、特にテック業界に関して私達がもっと厳密に目を向けるべきものとして。未来がどのようなものになるかという点については、正直言って分かりません。ですが、私がAutomatticに入社した後CEOのマット・マレンウェッグに包括性の重要さを提言した時、彼がそれついて何かするように私に頼んてきたのは、これが理由です。そこから一年以内に、Automatticの顧問役員にキャットを迎え入れることができたのは幸運でした。なので、みんなキャットの話を聞いたらいいと思います!

ホームズ氏: 私が包括的デザインに取り組み始めたのは何年も前ですが、確実に意識が高まってきています。ただ、共通理解までには至っていないと思います。包括性は、多くの人々にとって様々な意味を持ちます。異なる種類の包括性を説明するために、もっと良い言葉が必要とされていると思います。私達には、包括性を築き、測定するための具体的な方法が必要です。包括性を、ただの素敵なアイディアではなく繰り返し可能な実践にするために、まだまだやることがたくさんあります。

社会のどの面をデザインする時も、包括的デザインがデフォルトの方法になった時が成功です。10年以内に、テックにおける包括性の緊急度はこれまでよりも高くなるでしょう。私が願っているのは、そういった困難に遭遇した時、私達が実践的な手法を準備できている状態にあることです。

私達の主張というのは、コンテンツ作成チームがより多様性を持っていれば、より良いコンテンツが作られる、というものです。これが間違いとなる場面があるとしたら、どんな時ですか?逆に、正しい場面とは何でしょうか?

ホームズ氏: 表現は重要です。しかしながら、表現を変えればカルチャーが変わるとは限りません。カルチャーを変えることは簡単ではなく、時間がかかります。そして、カルチャーは常に勝るのです。チームの多様性を強化しても、そのチームを取り巻くカルチャーを同時に進化させなかったら、数々の困難が出て来るのがお決まりです。私が見てきた中で、上手く行ったアプローチには二通りあります。1つめは、最上層部にあるリーダーシップのポジションに多様性を築きあげること。力を持つポジションにある人々は、カルチャーをより素早く動かすことができます。2つめは、包括的な顧客体験にフォーカスすること。私達はみんな、自分がどんな人口カテゴリーに属しているかにかかわらず、優れたプロダクトを作るためにここにいます。これは多くのテック系チームにとって核であるもので、より包括的なカルチャーへと全員をガイドする優れた方法です。

マエダ氏: 全ては、私達が「better(より良い)」という言葉をどのように定義していると思っているか、です。私は、「better」とはマーケットスペースでの大規模な成功であると考えたいのですが、これは想像するのが難しいです。この、「想像するのが難しい」部分に、コンテンツやプロダクトを作る人材の多様性がなぜそれほど重要なのか、という理由があるのです。似たような育ちや社会的なサークルにいる人々は、ある時点で既成概念にとらわれずに考えることが出来なくなります。なぜなら、彼らは大体同じ人間だからです。信頼するとしたら、自分に似た人と、自分に似てない人、どちらを選びますか?答えはシンプルです。私達は、自分と同じように考える人々を好きになる傾向があるのです。そして、私達がコンテンツやプロダクトを作る時に真っ先に感じる直感は、自分たちのためにデザインする、ということです。ですがもし私達のゴールが、ビジネス風に言うと「Total Addressable Market(訳注:トータル・アドレッサブル・マーケット、企業やサービスが到達したいと考える市場の全体、略してTAM)」と呼ばれる、一般的にプロダクトやサービスの対象人口幅を意味するマーケットサイズを拡張することだとしたら、それを成長させる方法はコンテンツ及びプロダクトチームに多様性を採り入れることです。それによって、「想像するのが難しい」部分を見つけるというハードルが低くなります。なぜなら、自分の想像できない、あるいは共感できない場所で生きていたり、働いていたりする人々と、自ら協働することになるからです。包括性は良いビジネスなのです。

包括性は単純ではない

もし包括性がチェックリストでないとしたら(または、そうなのかもしれませんが)、一体何なのでしょう?信頼できる純粋な方法で、どうやってそれを行うことができるのでしょうか?

マエダ氏: その質問に私が答えられたら良かったのですが、残念ながら私は答えを持っていません。誰にも答えられないと思います。なぜなら、包括性は非常に個人的なもので、あるグループで上手くいった一つのチェックリストが、他のグループでも上手くいくとは限らないからです。

例えば、私がMITで多様性に向けた努力を主導した時(これはほとんど偶然でした。1つめの理由は、MITのカクテルパーティーで自分がどう貢献できるか学長に相談したから。2つめの理由は、主催したいと思う人があまりいない委員会だったから!)、アメリカ先住民をルーツに持つ学生が委員会に対し、彼が受けてきた苦い体験の多くを共有してくれました。私は彼に対して抱いた共感の気持ちを表そうとして、私自身が人生の中で受けてきた人種差別的な発言や、瓶まで投げつけられた体験などを共有したのですが、彼の反応によって私の考え方は変わりました。彼は、「あなたは移民差別の犠牲者で、私は先住民差別の被害者だ。たくさんの理由から、後者の方がずっと酷いんだ」と言いました。その瞬間から私が認識したのは、一人ひとりが持つ痛みとは、異なる種類の痛みなのだ、ということでした。だから、そういったものを十把一絡げにしてキレイな箱に押し込んで、複雑な課題を何でも解決できる非常に単純なビジネス雑誌の記事を書き、大きなリボンでラッピングする、なんてことはできないのです。

とはいえ、その質問をテック系プロダクトのデザインという文脈に合わせることは可能で、Automatticではそれを達成するために取り組んでいます。私達の最近の取り組みとして、Automattic Designが作った「包括的デザインチェックリスト」はこちらで確認できます。

ホームズ氏: 「包括 (inclusion) 」という言葉は、「善良な意図」という世界を表現する言葉になりました。しかしながら、「含む (include) 」という単純なラテン語の起源は、文字通り「封じ込める」という意味なのです。ほとんどの企業が包括性について語る時、従業員を壁の中に封じ込めたいなんて思っていないはずです。では、いったい、包括とは何を意味するのでしょう?

「グリーン」という言葉が、当初は環境的持続性を目指す取り組みの複雑なシステムを表す簡略的な表記として使われていたのと同様に、「包括性」にももっとニュアンスを含んだ定義への境界線が必要です。例として、アクセシビリティ・チェックリストは強力なツールになるでしょう。排除されたコミュニティのために、コ・クリエーションによってより良い解決策を作るのも、包括性を築くための優れたツールの一つです。ビジネスやチームのそれぞれが、包括性とは何であるのか、そして包括性を築いていることをどうやって確かめるのかについて、自分達自身の語彙を作り出さなければなりません。

包括性を擁護するために個人的に使われているフレームワークは何ですか?そのフレームワークを作るにあたって、何に影響を受け、また過去数年においてそれはどのように変化してきましたか?

ホームズ氏: デザイナーとして、そしてエンジニアとして、私は人々が共に働く姿に魅了されています。彼らが交流する仕組み、特に会話が成否を分けるのです。包括的なソリューションを作り上げるために何千人もの人達と働いてきた後、3つのテーマが浮き出てきました。私はこれを原則と呼んでいますが、同時に誰もが発展させることのできるスキルでもあります。1つめは、排他性を認識すること。これは、自分達の偏見を元に何かを作ってしまうことで起きます。2つめは、人間の多様性から学ぶこと。人間とは、多様な状況に適応するエキスパートなのです。3つめは、一つのために解決し、多くの元へ拡張させること。排除されたコミュニティーで上手く機能するソリューションを作ったら、それをマス・マーケットへの機会へ変換する方法を見つけ出すこと。アクセシブル・デザインには、これがどのように上手くいくかを示す長い歴史があります。

マエダ氏: 私はキャットのフレームワークが好きだし、Automatticではそれを包括性について考える時の指針として使っています。そして数ヶ月以内に、包括性やデータに基づいた実践を中心に置き、分散したデザインチームに向けたデザイン言語である”Muriel”をオープンソースにする予定です。

どの研究も、多様性がチームを良くすると示していますが、こういった知見を無視し、強く否定的な態度を取る人達もいまだに存在します。包括性に価値を置かない人達をどのようにインスパイアし、彼らのプロセスに包括性を取り組むよう考慮することをどのようにして促しますか?

マエダ氏: それはかなり単純です。私はひどい間違いを犯します。あらゆるものを試します。そして、失敗した時はすぐに回復します。包括性は切り出すのが難しいトピックです。そして、誰一人として同じ人間はいないので、会話が最も上手く作用する適切な「無線周波数」を見つけることが必要です。なので、チューニングのつまみを時には速く、時には遅く回す必要があります(今時はただボタンを押すだけかもしれません。でも、簡単に押せるボタンなどないのです。)

ホームズ氏: 包括性の価値を一人ひとりに説得することをゴールにしたことは一度もありません。包括性のための利他主義的な議論は、大体においてビジネスの現実とエンジニアリングの制限の間で争っているのです。

それと同様に、人々を包括性へとインスパイアすることはできないと思います。私は、透明性をもたらすことを目指しています。自分達のソリューションがいかに排他的であるかに気づいた時、そして排除された人へのインパクトを理解するために時間を費やした時、私達には選択があります。それを修復するか、しないか、です。しかしながら、結果について責任を持つのは私達です。どちらにしても、これは意図的な選択であり、偶発的な弊害ではありません。責任を持つことは、インスピレーションよりも恒久性があるので、私はそこにフォーカスします。

コンテンツの未来

お二人にとって、コンテンツの未来とはどのようなものですか?

マエダ氏: それは、私たちの声全てを聞くということであり、包括性を可能にするメディアだということです。だからこそ、私は民主主義を信じ、ウェブ上でお互いを体験することを可能にしている会社で働くことに誇りを持っているのです。Automatticにおいて私達は、コンテンツを作る人物こそ、それを所有して然るべきだと強く信じています。これは、オープンソースプロジェクトが始まった2003年以来、WordPressの精神であり続けています。これが、包括性の健全性が育まれていることで、テック界における包括性が維持され、拡張されていると私が信じる、重要な理由なのです。

ホームズ氏: 私は、人々の働き方について私達がより良い理解を得ることを祈っています。私達の身体と心の両方が、どのようにして学び、コミュニケートし、情報をプロセスするのか。これにはもちろん、人々とコンテンツが関わるための方法が複数存在することが含まれなければなりません。私達が耳にしたり、感じたりできるものは、私達が見たり、味わったりできるものによって補強されます。ですが、私はコンテンツを発展させる人達こそ、テクノロジーとのあらゆる交流において人間に主導権を与えるための、より丁寧な方法を作る上で重要な役割を果たしていくだろうと考えています。コンテンツは、個人の注意を引こうとして競うだけでなく、人々のゴールを補完するようにデザインされることもできるのです。

自分のコンテンツを所有することの意味を、どのように定義しますか?

ホームズ氏: クリエイティブに関する主導権の先には、経済的な主導権があります。自分のコンテンツが経済的な利益のために使われることに反対しているわけではないのですが、それがいつ、どのように使われるかについては決定権を持ちたいです。そしてそれによって個人的な利益も得たいと思います。

マエダ氏: これはビジネスの基本を知るということです。そしてそれは、所有と主導権に基づいています。私はこれを、両親がシアトルで豆腐屋を何年も運営した後に引退した時、目の当たりにしました。両親はどちらも大学教育を受けておらず、ビジネスについて理解していませんでした。何十年にも及ぶ運営の後、彼らには売れるような大きな資産というものがありませんでした。というのも、彼らは使っていた場所を購入するという発想すら知らなかったのです。ベンチャーキャピタル業界で働いたことで、私は所有するということの力をいくらか目にしてきました。そして、そのための仕事に比例して、時とともに価値が生じていくということも。なので単純に、自分が本当に作りたいと思うコンテンツを作るための唯一の方法とは、自分のコンテンツを所有することなのです(そのコンテンツがティナ・ロス・アイゼンバーグやマリア・ポポーヴァのブログのように、全身全霊をかけたものであるならば)。そして、それをどのように人に提供するか、あるいは売るかについての選択は、あなた次第でなければなりません。

テック業界には、「ローチ・モーテル(訳注:モーテルの形を模したゴキブリホイホイのようなもの)」という、ちょっとイヤな感じに聞こえる、文字通りイヤな言い方があります。これは以前、短い文章や長い文章、写真や動画などを友人と共有できる、ものすごく素敵なサービスのことを指していました。しかし、人々がここで気づいていないのは、そういった自分のコンテンツのあらゆる断片に対して、所有権を失っているということです。自分の作ったコンテンツを自分の手元に戻すことは簡単ではありません。ウェブサイトや文章作成、あるいは写真を共有するためのシステムの多くには、「エクスポート」ボタンがありません。つまり、あなたは罠にハマったということです。ゴキブリみたいに。イヤな言い方ですが。

Free WordPressは、こういう風変わりな例外の一つです。これには「エクスポート」ボタンが付いていて、自分のデータを持ってどこでも好きな場所に行けます。そして商業版の、クラウドホストされたAutomattic製のWordPress.comも、同様に「エクスポート」ボタンを持っています。なぜならAutomatticは、人々の自由はオープン・ウェブを生かし続ける基礎部分に宿っていると信じているからです。だから、自由でいましょう!


This interview was produced in partnership with WordPress.com & CreativeMornings.

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Interview by Paul Jun. Illustrations by Jeffrey Phillips. ‘Own Your Content’ illustration by Annica Lydenberg.

 

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