(参考: QUARTZ)

デザイナーが経営の中枢を担うことは、スタートアップ全盛の時代では珍しいことではありません。CXOやCDOなど比較的新しい職種も生まれてきています。以前もGoodpatch Blogではデザイナーが創業をしている、または共同創業者である会社を2回に渡ってまとめてきました。

今回は新たにデザイナーが創業に関わっている企業をいくつかピックアップし、デザイナーがどのように起業の成長に貢献しているのかを交えつつ紹介したいと思います。これから起業を考えている人や、他の企業のCDOについて知りたい人の参考になれば幸いです。

1. スチュワート・バターフィールド

(参考: Flickr)

Instagramとは異なり、主に写真家や写真が好きな人向けのイメージ共有コミュニティサイトFlickrの創業者は、評価額5000億円以上(2018年3月時点)のビジネス向けコミュニケーションツールSlackの創業者と同じ人物です。スチュワート・バターフィールド氏は90年台中盤にカナダの大学で哲学を学ぶ傍、フリーランスのWebデザイナーとして生計を立て始めます。2002年にはゲーミングサービスを立ち上げましたが、プロダクトが成功することはありませんでした。2004年にFlickrを立ち上げ、翌年にはYahoo!に買収されています。

2011年にバターフィールド氏は新たにゲーム会社を立ち上げますが、こちらも日の目を見ることはありませんでした。実はSlackはそのゲームを開発する際に使用されていた社内ツールでした。その後使い勝手の良さや連携性の高さから、Slackは世界中の企業で利用され、大成功を収めます。

バターフィールド氏自身、デザインについてはビジネスの重要な一部分だと捉えていて、Inc.comの記事では以下のように語っています。

“One day, a few of us at Slack were going for a walk in a neighborhood with narrow sidewalks and a lot of sandwich boards, so it was really crowded. It started to rain, and two-thirds of the people pulled out umbrellas. The spikes are basically at the height of other people’s eyes, and it was interesting to watch: Some people don’t realize they’re nearly gouging another pedestrian’s eye out, and others realize it but have this panicked moment of not knowing what to do to avoid it. So much of life is like that, with people either not realizing the problems or not knowing what to do–and there are huge opportunities for businesses that can come up with solutions. Financial services now have these design groups: Capital One has put massive effort into the design of everything from its online payment portals to its mailers. I think it’s likely that design will increasingly have a seat in the C-suite. Anything where design can make a difference and other entrepreneurs aren’t yet thinking about it–that’s where the opportunity lies.”

「ある日、Slackのチームと凄く混んでいる道を歩いていたら、雨が降りはじめておよそ3分の2くらいの人が傘を開きはじめました。その傘の先端は目の高さぐらいにあり、今にも他人の目をえぐりそうでした。観察していて興味深かったのが何人かはそれに気づくことはなかったのですが、他の何人かはその問題に気づくことはあってもどうすればいいか分からず戸惑っているということでした。人生とはそれと似ていて、ほとんどの人がある問題に気づかずもしくは、気づいていてもどう解決すればいいか分からないのです。そこには大きなビジネスチャンスが転がっています。Capital Oneはメールシステムからオンラインのペイメントポータルなどあらゆるものにデザインを取り入れようとしています。今後デザインは経営上層部に肩を並べるでしょうし、デザインはビジネスに大きな違いをもたらしてくれるのに他の起業家はあまりそのことについて考えていません。」

デザイナーとしてキャリアをスタートさせたButterfieldならではであり、これからのデザイン思考を取り入れたビジネスにおいてのスタンダードになるべき考え方ではないでしょうか。

(引用:https://www.inc.com/magazine/201706/kate-rockwood/design-obsessed-founders/design-awards-2017.html)

2. ジャック・ドーシー

(参考: QUARTZ)

今やLINEやInstagramと並び、日本のユーザーに必須となったSNSのTwitterや、外国のお店やレストランでよく見られるモバイル決済サービスSquareの創業者の1人はジャック・ドーシーという起業家です。ドーシー氏は2006年にビズ・ストーン氏等と共にTwitterを立ち上げ、2009年にSquareを設立します。

今では起業家やソフトウェアデザイナーの側面をもつドーシー氏ですが実は若い頃はファッションデザイナーになりたかったこともあり、ジャンルこそ違いますが昔からデザインとの関係は密接だったようです。

Squareは2015年に個人間送金アプリのCashをリリースしていますが、それついてDorseyは以下のように語っています。

“Square’s mobile app Cash lets you do one thing: send money to a friend. “I think I’m just an editor, and I think every CEO is an editor. “We have all these inputs, we have all these places that we could go…but we need to present one cohesive story to the world.” In organizations like Square, you’ll find product leaders saying no much more than they say yes. Rather than chase the market with follow-on features, they lead the market with a constrained focus.”

「SquareのモバイルアプリCashは友達に送金するという一つのことだけができます。恐らく私は編集者であり、全てのCEOは編集者なのだと思います。世界にはこれだけ多くのインプットがあり色々な場所に行けますが、私達のしなければならないことは世界に一つの調和した物語を届けることです。Squareみたいに組織には、Yes以上のことは言わないプロダクトリーダー達がいます。他の企業と同じような機能を付け加えて市場を追うより、彼らは不自然といえるまでに集中し市場をリードするのです。」

(引用:https://hbr.org/2015/09/design-thinking-comes-of-age)

記事の中ではデザインという言葉を明言はしていませんが、デザイン思考はストーリーテリング、物語を紡ぐようにあるべきだという考えの元成り立っているので、ドーシー氏がビジネスにおいてデザインを重視しているのは間違いないようです。そのかいもあってか、以前TwitterがDisneyやGoogleに買収されるとの噂もありましたが、2017年第四半期は創業以来初の黒字を収めたことが話題となりました。

3. チャールズ・アドラー

(参考: ChicagoTribune)

Kickstarter以前の記事でも紹介させて頂きましたが、今回はデザイナーでもあり共同創業者のCharles Adlerの経歴とともに、より詳細に紹介したいと思います。

Kickstarterは2009年にヤンシー・ストリックラー氏とペリーチェン氏、そしてチャールズアドラー氏によって設立された世界1、2位を誇る規模をもつクラウドファンディングサイトです。アドラー氏は2013年まで同社のCDOを努め、現在はクリエイターの支援などに努めています。

アドラー氏自身、ビジュアルデザインだけではなくデザイン思考にもキャリア当時から関わってきたと明言しており、デザイン思考とどのように向き合ってきたかを下の記事では述べています。

“I think my attraction to design thinking is that it is actually somewhat inherent to the way I’ve always worked. It starts with a thing we commonly forget about: people. People are at the center of the process. So being able to apply the things that we produce around the outcomes we want for the people who are going to use it — it seems very commonplace for me, but is interestingly quite profound and powerful.

「デザイン思考への関心は私の働き方に昔から備わっていたように思います。”人間“という一般的に私達が忘れてしまいがちなことから始まるのです。人々はいつも工程の中心にあります。なので、私達が製品を使う人々にとって必要な成果を生み出すために私たちが生み出すものを適用できるということは私にとっては普通のことではありますが、実は非常に複雑で力強いのです。」

(引用:https://www.freeman.com/insights/events-as-a-platform-for-creativity-and-innovation-q-a-with-charles-adler)

またアドラー氏が去ったあとでもKickstarterではデザイン思考やHCD(人間中心設計)の文化が根強く残っているという証拠に、全体の過半数の従業員がデザインやコーディングのみならず、プロダクト開発の上流工程に関わっています。そして世界中の色々なジャンルの物事を扱うクラウドファンディングならではとも言えるのが、デザイナーだけではなく詩人やコメディアン、ミュージシャンなども在籍しているということです。色々なバックグラウンドを持った人材を揃えることで、より多くのユーザーに寄り添った経営ができるということでしょうか。

4. マルコス・ウェスキャンプ

(参考: FAST COMPANY)

FlipboardはiOS、Android、Windows Phoneに対応するキュレーションサービスアプリです。今ではGunosyやSmartNewsなど多くのニュース系アプリが存在しますが、Flipboardは2010年にリリースされたので、ニュース系アプリの元祖とも言えるアプリではないでしょうか。

元々、マイク・マキュー氏とエヴァン・ドール氏によって創立されたのですが、創業して間もなく日本でグラフィックデザインを学び、電通やAdobeでのデザイナー経験もあるのマルコス・ウェスキャンプ氏が創業メンバーに加入して以来、Head of DesignとしてFlipboardのプロダクトデザインを担当しています。またウェスキャンプ氏は、2016年にUberのHead of Product Designとして参画しています。

DESIGNER FUNDの記事では、Flipboard内でのデザイン思考におけるスケッチを含めたプロトタイピングの重要性に言及しており、基本的なプロトタイピングを高速に繰り返しグループ全体で議論することが大事であると述べました。さらに初期のスケッチからエンジニアが加わることで、実際のエンジニアリングの作業が関わる前に起こり得る細部のミスを防げると主張しています。この記事内にもある通り、優れたプロダクトにはデザインとエンジニアリングが相互に影響し合うことが必要不可欠であり、成功している多くの企業がこの哲学を大事にしていると感じました。

またウェスキャンプ氏は、「デザイナーは常にアイデアをまとめて形にしながら、会社全体を巻き込んでプロダクトを磨くことが重要で、編集者のような仕事だ」とも主張しています。この考え方は前述したジャック・ドーシー氏の思想ともリンクしています。

5. ペリン・ケネズ

(参考: Twitter)

Zeplinは2014年にイスタンブールで創業したデザインとエンジニア間でのコミュニケーションを容易にするアプリケーションを提供するスタートアップです。創業時のメンバーはバーク・ティビ氏とプロダクトデザイナーのペリン・ケネズ氏を含めた4人で、2015年にはY Combinatorに参加し、拠点をサンフランシスコに移しています。今やUIデザインをする上でプロトタイピングアプリと並び、必要不可欠なツールではないでしょうか。

Zeplinのコーポレートページによると、Zeplinは創業者でエンジニアのティビ氏とデザイナーのケネズ氏がお互いのコミュニケーションの際に抱えていた問題を解決するために生まれた製品で、実際に他のデザイナーやエンジニアが同じ問題に悩んでいたことを暗示しているのか、今や多くの企業やチームに採用されています(参考: https://zeplin.io/about)。

Zeplinは現在でも頻繁に改良を重ねています。ユーザー目線になりデザインするというデザイン思考の思想は今では当たり前になりつつありますが、デザインツールを開発する企業だからこその理念を大事にしているのでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は新たに5つの創業メンバーにデザイナーが存在する海外のスタートアップ企業を選んでみました。海外ではAppleを始め家電メーカーのPhillipsやペプシコーラなどを販売するペプシコなどの多くの大企業にCDOが在籍しています。そしてその流れは海外のスタートアップ界隈にも見られ、創業当初からデザインに重きを置くことは当たり前になりつつあります。

また前述したいくつかの例にも見られるように、今後のデザイナーにははただグラフィックが作れるだけではなく、開発全体のプロセスに積極的に参加し、デザインの重要性を証明することが求められてきていると感じました。そうした考えをもつ人が企業の創業メンバーや上層部にいるだけで、プロダクトや企業自体に大きな変化をもたらしてくれるということは間違いないでしょう。