ユーザーのハートを掴むMLP(Minimum Lovable Product)を生むには?

MLP(Minimum Lovable Product)というワードを聞いたことがあるでしょうか。MVP(実用最小限の製品: Minimum Viable Product)はよく聞くことがあっても、MLPは初めて聞いたという人が多いのではないでしょうか。以前Goodpatch BerlinのBorisがMLP(Minimum Lovable Product)を用いたプロダクトデザイン手法」という記事で、MLPとMVPの違いを実体験に基づきご紹介しました。

まだまだMLPは、世の中に浸透していない概念なので、確立した定義があるわけではありません。私の考えとしては、MLPとは熱狂的なファンを生みだす初期バージョンのプロダクト。つまり「ファンになってくれるようなユーザーが本当に世の中に存在するのか」を検証するための最小限のプロダクトです。

今回は、MLPが求められる理由と生み出すための2つのポイント、そしてMLPがイノベーションを生む可能性を秘めていることについてご紹介します。

MLPが求められるようになった理由

豊かな時代になった今、プロダクトやサービスが溢れています。そのため、機能や品質だけで差別化することが難しい時代になっています。また、それに追い討ちをかけるように、生活者の周りには基本的に「必要なもの」は揃ってしまっている状態です。

内閣府の「国民生活に関する世論調査」によると、人はモノの豊かさよりも心の豊かさに重きをおいた生活を送りたいという傾向が強まっています。このことからも、「自社プロダクトを選んでもらう・買ってもらう・使い続けてもらう」ためには、ユーザーの目に触れる瞬間からユーザーに感動を与え、機能的価値だけではなくハートを揺さぶるような情緒的価値を満たすプロダクトを生む必要があります。これはつまり、言いかえるとユーザーが「これでいい」から「これがいい!」と愛着を持ち、選ばれ続けるプロダクトを生み出す必要があるということです。

MLPが持つイノベーションの可能性

MLPは、新しい市場を生むイノベーションの可能性を秘めています。MLPは、一部の人に愛され、熱狂的なファンを生み出す反面、大部分の人には理解されず議論を生むものです。しかし、一部に熱狂的に支持されるプロダクトには、イノベーションを生む可能性があることを数々の有識者が言及しています。

米国のエンジェル投資家のジェイソン・カラカニス氏が語った急成長するスタートアップの特徴

誰もが最初から使いたくなる製品は大抵小さな成功に終わります。80%の人が理解できない・使いたくないと答える一方、残りの20%の人が熱烈に使ってくれる製品は大きな成功を手にすると感じます。大半の人に理解されない製品は、既存市場の後追いではありません。全く新しい市場を創り出そうとしているものだからです。

引用:http://thebridge.jp/2018/09/interview-jason-calacanis

サービスデザイナーの濱口秀司氏が語ったイノベーションの3要件

1つ目は『見たことも聞いたこともない』ものであること。2つ目は『実行可能である』ということ。そして最後が『議論を生む』ということです。見たことも聞いたこともないアイデアを出して、それが実行可能であるとします。それを自分のチームメンバーや仲間全員が賛成してくれたとしたら、それはイノベーションではありません。逆に全員に反対されたら、マーケットゼロということ。『半分は大賛成、半分は大反対』や『数人が大賛成、大多数が大反対』という状態なら、イノベーションの可能性があります。

引用:https://www.rakuten.ne.jp/gold/_event/business-insight/017/


彼らは、イノベーションを生むためにはまず「議論を生む」必要性があることを名言しています。つまり、不特定多数の人に好まれるプロダクトよりも、一部の人に熱狂的な支持を得るプロダクトの方が、イノベーションの種が宿っている可能性があるということです。

今、企業の非連続的な成長のために、どの企業も新規事業に注力しています。既存市場の後追いではなく、新市場を開拓するためにも、まずは「MLPを生み出すこと」に注力する必要があると言えるのではないでしょうか。

初期リリースから熱狂的なファン獲得に注力し、グロースしたサービス

Airbnb

https://goodpatch.com/blog/designer-founder-companies/#Airbnb

熱狂的なファンを生むことに注力して成功したサービスの代表例がAirbnbです。Airbnbは、部屋を貸したい人(ホスト)と部屋を借りたい旅人(ゲスト)をつなぐ世界最大級のマッチングサービスです。

創業当初、シリコンバレーの名門ベンチャーキャピタルY Combinatorのポール・グレアム氏が、プロダクトが軌道に乗らないAirbnbの創業メンバーに、「漠然と使ってくれる100万人より、熱烈に愛してくれる100人のファンをつくること」というアドバイスをしました。それを聞いたAirbnbの創業メンバーは、それを実行すべく当時最もユーザー数が多かったニューヨークへ毎週末向かい、ユーザーの声を聞きにいったのです。

そこからユーザーファーストを心がけ、ユーザーを一人ひとり訪問し、実際にホストの家に泊まり、ユーザーとの対話を深めました。その中で、ユーザーがサイトを使っている様子を観察して、多くの課題を発見し改善を繰り返したのです。

Airbnbがヒットするまでの有名な改善として挙げられるのが、サイトに掲載されている写真の差し替えです。当時、素敵な物件であったとしても、サイトに掲載されている写真が暗いために、サイトを訪問したゲストに部屋の魅力が伝わっていない課題がありました。そこで、Airbnbの創業メンバーは、物件まで足を運び写真を綺麗に撮影し、ホストが撮影した暗い写真と差し替えました。その結果、物件の魅力が伝わり、売り上げが倍増したのです。

また、彼らはユーザーに直接会いに行き、Webサイトの使いにくい点にフィードバックを貰うだけではなく、Airbnbが目指す世界観・起業理念を語ることで共感を生みだしました。強い共感を生むことで、初期利用ユーザーを単なるユーザーから熱狂的なファンへと変えていったのです。そして、熱狂的なファンが他人に勧めたり積極的にレビューを書くことで、熱狂的なファンが新しいユーザーを増やしていった結果、ユーザーがサービスの拡大を後押ししたのです。

過去に複数回ローンチして失敗に終わったAirbnbですが、ポール・グレアムのアドバイスをきっかけに、今では世界192ヶ国で2億人以上が使うサービスへと成長していました。Airbnbは、熱烈な100人のファンをつくることにフォーカスした結果、サービスのグロースに成功した良い事例といえるでしょう。

MLPを生むための2つのポイント

① 共感を生む一貫したメッセージがあること

例えば、先ほどご紹介したAirbnbは、初期に直接ホストに会い、自分たちの理念を伝えて賛同するホストを増やしたように、理念への強い共感が熱狂的なファンを生みました。これは、企業がユーザーに対して、プロダクトの理念に共感を生むような強い想いを伝えたいい事例です。SNSが発展し、ユーザー一人ひとりの発信力が強い時代だからこそ、熱狂的なファンが新たなファンを生むサイクルを作ること。それが、核となるブランド理念を定め、共感するファンを作ることが新たなファンの獲得に繋がるからです。ユーザーとのあらゆる接点に、一貫したメッセージを込めて伝えることによって、他のプロダクトでは代替できないブランド価値が生まれます。

Goodpatchでは、パートナー企業の強い想いを理解する手法の一つとして、ビジョンやブランドを掘り下げていくようなワークショップを行うこともありますが、「エグゼクティブインタビュー」と言われる手法をよく用いています。パートナー企業のCEOや事業部長などにお時間をいただき、「作りたいサービスの未来」や「会社の5年後10年後の未来」、時には起業の背景まで立ち返り、サービスの原点となった想いを振り返ることもあります。こういったインタビューすることで、企業がプロダクトを通じて実現したい世界観をデザイナーが理解した上で、プロダクトやサービスをデザインしていきます。

② ピークの体験に辿り着くまでのスピードが早いこと

ピークの体験に迷わずかつ早く辿り着くミニマムな設計が重要です。行動経済学者のダニエルカーネマン氏が提唱したピーク・エンドの法則によると、人間は、ほとんどの出来事をピーク(最良または最悪)とエンド(最終局面)の印象で判断しています。つまり、プロダクトを全体の平均点ではなく、ピークとエンドの部分点で判断しているため、ユーザーの心を掴み、愛されるプロダクトを生むためには、総合点の高さよりも突き抜けたピークを設計することが大切なのです。

よりピークの体験を高める1つの方法として有効なのが、Less is More(より少ないことは、より豊かである)の設計思想です。なぜなら多機能化は、ユーザーを迷わせることに繋がり、体験価値を損ねることが多いからです。ユーザーが目的に辿り着くまでの障壁となるような機能を削ぎ落とし、ピーク体験をより最良にするために、到るまでシームレスな流れをつくる必要があるのです。

例えばGoogleの検索ページでは、検索窓をページの中央に配置して無駄なモノは削ぎ落とすことで、プロダクトの価値をユーザーに分かりやすく届けています。また初期のInstagramは写真加工フィルター機能というシンプルな機能に絞り、ユーザーが写真のタグ付けを始める前に写真のアップロードを開始し、アップロードの体感時間を短くすることで、綺麗な写真をシェアするというコア体験までの体感スピードを短くする工夫を行っていました。

まとめ

いかがでしたか?今後、イノベーションを巻き起こすプロダクトを生むためには、MVP(実用最小限の製品)だけではなくMLP(愛されるための最小限の製品)という視点が重要になっていくことがお分かりいただけましたでしょうか。

Goodpatchはこれまで独自のデザインプロセスをもとに、MLPを目指して試行錯誤を繰り返しています。みなさんもぜひこの記事を読んで、ファーストリリースするプロダクト開発の現場にMLPという考えを導入してもらえると幸いです!

ABOUTこの記事をかいた人

kawaguchi

94年 福岡生まれ九州育ち。PM/UXデザイナーとして働いています。ハンドボールと散髪が趣味です。
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