MLP(Minimum Lovable Product)を用いたプロダクトデザイン手法

多くのクライアントの皆様は、デジタルプロダクトのファーストリリースを上手く立ち上げることに苦労しているようです。
そこで、Goodpatch Berlinを率いるBoris Jitsukataと彼のチームは、過去数年間Minimum Lovable Product (MLP)を用いたデザイン手法を広める努力をしてきました。MLPとは、ファンになってくれるようなユーザーが世の中に存在するのかを検証するための最小限のプロダクトを指します。

このインタビューではBorisに、混同されやすいMVPとの違いから、MLPとはなんであるのか、どのようにして最初の1000人の熱狂的なファンを得ることができるのかなどを語っています。これから新しいプロダクトやサービスを生み出していきたいあなたにおすすめです。

MVPへの誤解

── まず、MVPという考え方にまだ慣れていない方々に簡単にそれについて説明してもらえますか?

2011年にエリック・リースという人がリーン・スタートアップという本を書き、その本は、世界中のスタートアップチームのバイブルのような本になりました。

「人生は誰も求めていない何かを築くには短すぎる」(“Life’s too short to build something that nobody needs”)という格言は、シリコンバレーをはじめ、世界中の合言葉となりました。

リーン・スタートアップとスティーブ・ブランク氏のCustomer Development(未翻訳)という本が全く新しいプロダクトやビジネスの構築方法を世界に発信しました。

「ビジネスプランは、最初に顧客と触れ合った時に決まる」とブランク氏は言っています。顧客とプロダクトとの関係性を構築するために、プロダクトを提供するということです。

MVP(Minimum Viable Product)を用いたリーンなプロダクト開発とは、まずユーザーに対して最低限のプロダクトとして成立するもの素早く提供してから、仮説検証、フィードバックを行って、学習を繰り返しながら良いプロダクトやサービスを作り上げていく方法です。

この開発手法でであなたが目指すものは、チームに与えられた「時間」や「お金」といった限られたリソースで、プロダクトの価値検証を行い、改善を繰り返していくことです。この段階では、1つのアイデアにこだわりすぎることはよくありません。なぜなら、検証して見た結果、実際は別のプロダクトやサービスを作った方が良いというケースがよくあります。

── リーン・スタートアップはプロダクトの開発手法を変えたということですね。しかし、まだ多くの人々は、MVPに関して何か誤解をしているようですが?

我々Goodpatchは、日本とヨーロッパを中心に多くのスタートアップの皆様と仕事をさせていただいています。その中で、彼らはMVPという言葉をたいてい正しく活用していますが、まだちゃんと理解できている人は少ないかもしれません。

彼らのMVPに対する誤解を解くために、私たちはエリック・リース氏が本来意図していたことを理解してもらえるように説明を行います。

例えば、クライアントは初期の段階から想定する機能が完備されていて、iOS版やAndroid版、ウェブ版など全てのターゲットに対してプロダクトをリリースしたいと思っていることがあります。しかし、これはもう最終的なプロダクトと言うべきものでMVPと呼ばれるものではありません。なぜなら、これは、プロダクトが最終的に目指すモノであり、初期に検証を行う為に作られるミニマムなプロダクトではないからです。ファンが存在するか検証されていない状態でこの規模の投資を行うことは非常にリスクが高いと言えます。

この場合、本当に作るべきなのは、MLP、すなわち「ファンになってくれるようなユーザーが本当に世の中に存在するのか」を検証するための最小限のプロダクトです。

── ではMLPとは何を表しているのでしょうか?

MLPとは、より「ユーザーにとって私たちの考えるコア機能が本当に求められているものなのか」を検証するための、初期バージョンのプロダクトのことを指します。

MVPでは、「存在できる最小限の機能はなんなのか」と言う判断軸で、実装するスコープを決めていきますが、MLPではさらに目的にフォーカスする必要があります。

ユーザーが、検証したいコア機能に対して障壁なく最速でたどり着けるようにし、コア機能に関して検証しやすくするためにプロダクトに余計なものが混じっていないかと言う視点で、本当にそれぞれの機能が必要なのか、それらがなくてもコア機能を体験してもらうことはできないかと言う視点でミニマムなプロダクトを設計します。

この図のように、MVPを作ろうとしても、ユーザーがコア機能に対してたどり着くまでに障害となるものをたくさん作ってしまうことがよくあります。ダウンロードしたらコア機能が現れている、そんな状態を作れないでしょうか。

“Lovable”なプロダクトであるということ

── それでは、愛される商品とはなんでしょうか?

哲学的に言うと、何がMLPたらしめるのかを自問することは非常に興味深いことです。物質的な世界でのユーザーに愛されているプロダクトとして、例えば特別な1本のワインや傘、自転車、ボートなどが挙げられます。あなたが個人的に愛している商品を思い浮かべてみてください。
もしかしたらそれは、あなたが無意識に引き出しから取り出して使ういつものスプーンなのかもしれませんし、それはとてもよくデザインされており、あなたの生活に完璧にフィットしているということかもしれません。

では、「デジタルなプロダクトは愛されるプロダクトになり得るのか?」と言うことが気になると思います。
例えば、Instagramはデジタルでも愛されているプロダクトと言えるでしょう。人々はInstagramを通して、クリエイティビティをシェアしたり、また、万華鏡のように人々の興味を見ることができます。視覚的に、とても刺激的です。そしてInstagramのコア体験は綺麗な写真を作ることができるフィルター機能と、非常に短いローディング時間です。

── もう、やみつきになりますね。

そうですね。それがInstagramの狙いです。
初期のInstagramは現在のものとは大きく異なるものでしたが初めからコア体験としてフィルター機能はついていました。フィルター機能によって初期から写真をきれいに見せることができたのです。この体験が、Instagramを「ユーザーから愛されるプロダクト」であることを証明しました。

アプリがダウンロードされてからそのアプリの本来の価値が理解されるまでを時間軸を追いながら詳しく想像してみてください。

ユーザーは、アプリやプロダクトに初めて触れた瞬間に、その第一印象を判断します。一度あなたのプロダクトから離れてしまうと、彼らはあなたのプロダクトに再び戻ってくる可能性は非常に低いです。
しかし、ダウンロードして、価値を理解し、長く使い続けられるアプリが存在するのも事実です。
コア体験の質やそれによってもたらされる感動、全てのユーザーがいかに早く確実に、コア体験にたどり着けるのか?これがとても重要なポイントです。

── コア体験の例を挙げていただけますか?

個人的には最初にグーグルマップを使った時の体験例にするのが好きです。
グーグルマップを使う際、サインアップしてログインする必要はありませんよね?サインアップやログインがなくても、アプリをダウンロードしてすぐに今自分が地図上のどこにいるのかを見ることができます。
それから、目的地を入力すればすぐに地図上でその場所を見ることができ、徒歩や自転車、タクシー、電車での行き方を教えてくれます。

一度アプリから提供されたコア体験の価値を理解したら、アプリを好きになって、登録や評価をすることを苦に思いませんよね。また後々、お気に入りのレストランに目印をつけるためにアカウント作成をしたいと思うようになるかもしれません。

── なるほど。ではなぜ全てのアプリがそのようにデザインされていないのですか?

実際難しいですよね(笑)。
コア体験の価値に気づいてもらうためにサインアップなどの余分な工程が必要だと思っているチームもあります。しかし、それらが障害となって、本来の価値を見出す道のりを困難にしてしまっています。1番わかりやすいのが「ユーザーにとって回避不能なサインアップ」です。サインアップしてもらう前にユーザーに価値を提供する方法はないのか?このタイミングでユーザー情報を取得することは本当に必要なのか?を考える必要があります。

さらに、サインアップだけではなく、より多くのことを求めてしまうことすらあります。例えば、ユーザーにプロフィールを完全に入力させることや、クレジットカード情報の入力、アンケートに回答させるなどのことを求めますよね。ユーザーに全ての友人を招待させたり、アプリの評価をさせるなんてことまで求めるケースもみられます。ユーザーはまだアプリを使ってすらおらず、なんの価値も体験していないのにです!

私たちは、このような誘惑を断ち切り、ユーザーをコア体験に導くことはできないのでしょうか。多くのアプリ開発チームが「作らなければならない」と思いこんでいる機能がたくさんあり、それらは、「必須」と「放置」の2つのグループに分けられます。そして、彼らは本当に重要なことを初期フェーズに集中して行い、徐々に改善していけば良いのです。

特に予算の少ないスタートアップでは、どの特徴や性能が「初期のユーザー(トライブ)」に求められているかを追求することがとても重要なことです。

── トライブとは?

トライブとは、例えば、最初の熱狂的な1000人のファンのことです。(EXILEトライブみたいですね笑)。

本当のファンは、あなたに5つ星の評価と「このアプリは私の人生を変えてくれました」のようなコメントをアプリストアに残してくれます。全ての人に好かれることは、本当に大事なことではありません。必要なことは、あなたが商品やサービスを届け、その価値を理解し、愛してくれる人々からの率直なフィードバックです。それをくれるのがトライブと呼べるユーザーです。

最初の1か月で100万人の人に使ってもらうことを心配する必要はありません。

Y Combinator(アメリカのベンチャーキャピタル)は、このような視点でどの会社に投資するべきか決定しているそうです。それは、「そのチームがユーザーが何を求めているのかを本当に認識して価値を提供しようとしているか」だそうです。それは少数の狭いユーザー層になってもかまいません。しかし、どのようなターゲットを狙うにしても開発チームは少数の熱狂的なユーザーを生み出すことが重要です。

── MLPの例を挙げてもらえますか?

Zeroというアプリが良い例だと思います。これは、断続的な断食を手伝ってくれるアプリです。例えば、16時間などの短期間の断食を行うもので、 ダイエットや健康のために流行しているアプリです。このアプリはとてもシンプルです。アプリ内でできることは断食のスタートボタンとストップボタンを押すことだけで、過去7回の断食についての情報を見ることしかできません。

アカウントを作ることもできません。アカウント作成はそもそも不可能であり、不必要なことでもあります。なぜならそこにある情報を誰とも共有しないからで、断食の記録ははあなたのためだけの情報だからです。あなたが唯一できるもう一つの機能は、「通知設定の変更」ですが、本当にそれだけです。

── 新たに初期のプロダクトを作っているチームの人々にどのようなことを伝えたいですか?

スタートアップの失敗の原因の1つは、プロダクトマーケットフィットとスケーラビリティが失われてしまうことです。 これを意識しているのは良いことです。

無数の試行錯誤を行う必要があります。まずは、初期のプロダクトを通して少数の熱狂的なファンから愛されるコア機能を作っていきましょう。それから、徐々にそのプロダクトを改善し、スケールさせていけば良いと思います。

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最後に、私たちのMLP流の生活に影響を与えたローレンス・マッカヒルズ氏の記事に感謝します。

ABOUTこの記事をかいた人

Daichi

福岡県出身。23歳。米国大学から英国の大学に転校後、今秋から再び、米国ペンシルベニア州立大学に編入予定で、ビジネス(マーケティング)とホスピタリティーを学びます!
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