医療問題をデザインで解決。ロンドンの病院内にあるHELIX Centreとは?

以前、医療領域で起こる問題にデザイン的アプローチをしている事例を紹介しました。

医療×ITで患者の体験をデザイン。医療の質を定量的に評価する「PX」を紐解く

今回紹介するのは、ロンドンにあるセント・メアリー病院にあるHELIX Centreというデザインスタジオの事例です。なんでも、ロンドンにある世界トップクラスの2大学が共同で設立したスタジオだそうで、2015年2月より病院内に設立されました。

なぜ病院内にデザインスタジオがあるのでしょうか?そして、実際にどんなことに取り組んでいるのでしょうか?

今回は、HELIX Centreの概要と彼らが取り組んでいるヘルスケア領域においてのデザイン事例を紹介します。

HELIX Centreとは?

理系の世界トップ大学であるインペリアル・カレッジ・ロンドンと、アート・デザイン系の同じくトップ大学のロイヤル・カレッジ・オブ・アートの合弁組織として創設されました。病院の中間に位置しており、日々研究・開発が行われています。

チームには、デザイナーやエンジニア、医師やリサーチャーなどさまざまな職種を持つメンバーが集まっています。

どうして病院内にこのようなデザインスタジオが存在しているのでしょうか?公式ホームページから彼らのゴールを引用(拙訳)します。

研究をエビデンスベースのソリューションに変換することで、実際に起きる医療問題に取り組みます。さまざまなデザイン手法を用いて、迅速に問題を分析し、解決に対するチャンスを模索し、ソリューションを試作します。

つまり、医療・ヘルスケアの現場で起きる問題をデザインを用いて解決しようとしているからです。HELIXはHealthcare Innovation Exchangeの略。ヘルスケア領域にイノベーションを起こそうという意気込みが感じられるネーミングですね。

「デザインを用いて医療・ヘルスケア問題の解決をする」と言葉では簡単にいえますが、実際にはどのようにアプローチをしているのでしょうか?

以下、HELIX Centreが行なった2つの事例を紹介します。

事例①:運動不足の子どもたちに楽しく体を動かしてもらうために

先進国の健康問題のひとつに、肥満問題があります。アメリカやメキシコなどはイメージしやすいですが、実はロンドンもその問題を抱えている都市のひとつ。22%の子どもたちが肥満体型であり、世界でもかなり多い分類に入るそうです。

日本でも肥満が増えつつあると言われていますが、その数値は10%前後なので、イギリスのロンドンと比べると半分ほど。肥満は、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病との関係性があり、放置しておくと健康を害してしまう可能性があります。肥満率の高さは深刻な問題なんですね。

カードを引いて、ヘンテコに動き回る!

子どもの肥満問題に対し、HELIX Centreは新しいカードゲームを提案しました。その名も「Zilli」。おもしろおかしく楽しみながらカードを使い体を動かすことで、運動体験をデザインする試みです。

画像:Ujinga: Survival of the Silliest (an activity card game) by Ifung Lu — Kickstarter

Zilliは9歳から13歳の子どもたちをターゲットにしており、安価で堅苦しくなく、人とのつながりを感じながら楽しめる運動を目指して作られています。

デザイナーたちは子どもたちにインタビューを重ね、彼らがおもしろおかしいことを試したり話したりすることが好きで、ちょっと恥ずかしいことでもあっても楽しめるというインサイトを見つけました。

そこで発案・デザインされたのがZilliです。

どんなカードゲームかというと、数人が集まった中の一人が親となり、デッキから3枚のカードを選びます。親以外の参加者は、引かれた3枚のカードを見てそれらを全て合わせた動きをします。

画像:Get Zilli: Survival of the Silliest

上記の例だと、カエルのジャンプとロボットダンス、エアギターをあわせた動きをするので、ちょっとへんてこな動きになりそうなことが予想できますよね。体を動かしつつ、同時に異なる動きを掛け合わせるので創造性も必要です。それぞれが自分なりの動きを見つけ出し、楽しく動き回ります。

Kickstarterで公開すると賞賛の声が!

ZilliはKickstarterで公開されました!

約100万円、300人以上に支援され、実際に支援した人たちの元に届けられました。

以前はUjingaという名前でしたが、現在はZilliに改名されています

Zilliのローンチ後、世界中の子を持つたくさんの親からの声が届いたそうです。

「子どもたちは実際にZilliで遊ぶのを楽しんでいるよ!座っている人なんか誰もいなくて、全員が参加しているんだ! ──イギリス」

「7歳の娘とその友だちに遊んでもらったけど、すごく楽し組んでくれたみたい!英語版だけじゃなくて、スペイン語版も作ったらどうかな? ──メキシコ」

「とても感動するゲームだ。 ──ドイツ」

大人の目から見たら、恥ずかしくてやりたくないように思えますが、子どもからしたらちょっとふざけた内容の方が楽しみやすいのかもしれませんね。

事例②:多忙な医師・看護師のタスク管理

夜勤はやることがたくさんあります。血液検査や抗生物質の投与、容態の悪化した患者の再検査など、患者のケアするために医師も看護師も大忙し。そのような状況の中、これまでの医師や看護師同士のコミュニケーション手段は、なんとポケベル頼りだったんだとか(ポケベルを知らなかったのでどんなものかと調べてみると、一方的に相手に数字を介した合図を送るのみで、通話はできないみたいですね)!

膨大なタスクがある中で人命に関わる意思決定を瞬時に行い、その対応に適した人をアサインするにはポケベルだけだとあまりにも非効率でした。

夜勤の膨大なタスクマネジメントをハックする!

画像:Hark – Transformative clinical task management

そんな状況にメスを入れるべく、デザインされたのが「Hark」です。忙しい医師や看護師向けのタスクマネジメントサービスで、スマートフォンで操作ができます。もうポケベルは必要ありませんね!

このサービスの開発にあたり、デザイナーたちは若手医師の夜勤に帯同し、同僚たちとのコミュニケーションの難しさを観察しました。医師たちの夜勤の忙しさを見て、Harkのアイデアへと繋がったそうです。

具体的な機能の一部は以下です。

・タスクのアサインを瞬時にできる!
ある患者の対応に適した医師や看護師に、タスクをアサインできます。ポケベルだと相手からの反応を待つ必要がありましたが、Harkを使えばタスクを割り振るだけなので、これまで返信を待っていた時間を他のやるべきタスクに充てられます。

・患者の緊急度によってタスクの優先順位付けができる!
毎分のように患者に対する意思決定をしないといけない医師や看護師は、患者の状況によって対応する優先順位を決める必要があります。Harkを見れば各患者のバイタルデータや緊急の対応策、そのほかの意思決定における重要な情報が載っているので、どの患者から対応すればいいかを決められます。

・医師や看護師のコラボレーションを促進する!
ただのタスク管理サービスに留まらず、コラボレーションを促進するためのチャット機能も搭載されています。これは開発チームにも言えることですが、コミュニケーションの流量がアウトプットに比例することは往々にあるため、このコラボレーションが大事になるのです。

以前よりも対応までのスピードが37%アップ

Hark導入後、ポケベルのときよりも37%ほど早く対応できるようになり、効率よくタスクを進めることに役立ったそうです。スピードが上がることで、患者の安全性に対してのポジティブなインパクトを与えられます。

その後、HarkはGoogleが買収したイギリスの人工知能開発会社のDeepMindに加わることになったそうです。DeepMindが展開するThe Streamsというアプリも、Harkと同じように医師向けのアプリで、患者に対しての適切な対応をするための情報を一元管理できます。

インペリアル・カレッジ・ロンドン薬学部の学部長であるGavin Screaton氏は、「Harkは患者の安全においてわくわくするプロジェクトであり、Google傘下のDeepMindにポテンシャルを認められたことを非常に嬉しく思います。このプロジェクトは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの臨床医や他のパートナーと協力して、患者のケア改善を目指すイノベーティブな方法を作り出した素晴らしい例です」と話しています。

さいごに

以上、デザイン的アプローチによって医療という複雑性の高い領域に潜む問題にもアプローチできるということを紹介しました!

今回の記事のリサーチを終えて思ったことは、非IT領域だからこそITやデザインが介在する余地があるんだなということです。ポケベルを使っているという事実自体、ITサービスに慣れ親しんでいる我々からしたら信じられないことですが、ずっとその体制でやってきた人たちにとっては、それが当たり前になっています。異業種が混ざりあったチームで課題に向き合うことで、一方向からじゃ気付けない視点からのソリューションを模索できます。

今回の例は医療にデザイン的視点をインストールして課題解決に取り組んだ例でしたが、まだまだ他の領域でも事例はありそうだなと思いました。

今後もさまざまな領域でのデザインの活用について、紹介できればと思います!

参考サイト

Helix Centre
イギリスの医療問題解決を目指す、産業界と連携したデザイン・プロジェクト [Helix Centre]  | WORKSIGHT
Hark – Transformative clinical task management
Ujinga: Survival of the Silliest (an activity card game) by Ifung Lu — Kickstarter
Get Zilli: Survival of the Silliest
Google の DeepMind がヘルスケア領域へーー医療現場と協力して開発進める – THE BRIDGE
How we’re helping today | DeepMind
New app could help busy medical staff to spot which patients need urgent care

ABOUTこの記事をかいた人

磯部 俊哉

94年 千葉県生まれ。学生時代は東南アジア×働くに興味を持って活動していました。現在グッドパッチでは、マーケティング部署に所属しながら自社プロダクト『Prott』『Balto』に関するインタビュー記事やイベントレポートを中心に発信しています!好きな食べ物は高野豆腐です。
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