欧米や中国を中心に、多くの国々がキャッシュレス社会・モバイル決済へと移行しつつある昨今。日本も海外の先進したプロダクトデザインから学ばなくてはという圧力をかけられ、動き始めています。

しかし、海外のデザインをそのまま適応するにはまだまだ法律が厳しいというのが日本の現状。FinTechスタートアップは制限のもとでより良いプロダクトを生み出さなくてはなりません。

今回のイベントでは、そんな日本のFinTechスタートアップ業界を引率する3社の代表に、『FinTechデザイナー反省会』と題して、各プロダクトを手がけるに当たって直面した課題や学びについてお話いただきました!

FinTech最先端中国から日本も学ばずにはいられない

坪田 paymo

坪田朋|Onedot株式会社
ライブドア、DeNAなどで新規事業のディレクション、UIデザイン、デザイン組織の立ち上げを実施。現在は、Onedot株式会社のCCOと兼業でスタートアップのデザイン支援を実施。AnyPayには2017年9月より業務委託として携わっている。

現在AnyPay『paymo』のUIデザインを担当している坪田さん。2017年夏まで中国でスタートアップ事業を手がけていたため、詳しい現地事情を話してくれました。

中国では基本全てのサービスがAlipayもしくはWeChat Payのアカウントを紐づけることによって利用できるそうです。両社の中でも、中国人の90パーセントが使っているAlipayは、今や水道代や家賃、消費財購入までほとんどのサービス購入に使えるアプリとなっています。また、各種シェアリングエコノミーサービスもAlipayを使えば簡単に利用できます。中国各地で目にするMobikeやシェアリング傘も、Alipay搭載のカメラをかざすだけ。さらに、Alipayは国民IDと紐づいており、信用度が可視化されてしまうことから、シェアリングアイテムの返却率も高まったそうです。

今では街を歩けば、ほとんどの店舗にAlipayもしくはWeChatのQRコードがプリントされて貼られているそうです。QRコードを読み取り、支払額を入力すれば支払い完了。日本だと、現金で割り勘する際に気まずい雰囲気になることもありますが、中国では携帯で個別に金額を入力するので、決済の工程がスムーズです。また、最近ではQRコード決済で支払い工程が完結する「無人コンビニ」も出てきて、中国ではもはや”財布を持たない生活が当たり前”となりつつあります。

3年後に「どこでもスマホ1つで支払いが完了する社会」の実現を目指す

神崎 paymo

神崎拓海|AnyPay株式会社
新卒でサイバーエージェントに入社、ソーシャルゲームのゲームプランナーとしてサービス開発に携わった後、株式会社FiNCに転職。2017年8月よりAnyPayでは「paymo」担当ディレクターを務める。

paymoは”日本にまだ馴染みがない個人間決済文化を広める”というミッションを掲げた決済アプリです。今回はPMを勤める神崎さんにリリースから現在までに直面した課題と未来に実現したいことについて話してくれました。

AnyPayが目指すのは、“どこでもスマホ1つで支払いが完了する社会”。個人が使うpaymoとお店側が使うpaymo bizという2つのサービスをpaymoという名で提供しているそうです。2つが揃えば、どんな場所でも簡単にQRコード決済が可能になります。すでにこのビジネスモデルを実現している一例として挙げられたのが、中国の深圳です。深圳では、メニューの代わりにQRコードを掲載するレストランや、スマホさえあれば財布を持たずに生活ができる社会がすでに実現間近まできています。

一方日本では、法律に大きくサービスが左右されています。制約の中でいかに手間を省いて、ユーザーにとって使いやすいサービスを生み出せるかが鍵となります。法律にしたがって主要機能をわかりやすくアプリ内に収めるためには、デザインの力が不可欠です。

例えば、paymoの「請求支払い機能」は、初めて使う人でもわかるようなデザインを心がけ、「何を入れるか」が明確にわかるインターフェースにする作戦に出ました。このフローの中でも、先に「だれ」を記入してもらうか、「何」を記入してもらうかなど、項目の順序にもこだわりました。paymoの場合は、「誰を」を先に選択するUIにしてしまうと、友達を事前に登録していないユーザーは迷ってしまうことから、「何を」を先に表示してよりわかりやすいUIを実現しました。

FinTechのサービスは細かいユースケースが多く、ユーザーごとに抱えているさまざまな課題に気を使って開発をしなくてはいけないのですが、リソースが限られているというのも事実。悩むポイントも多いですが、試行錯誤をしながらユーザーが求めているプロダクトに近いものをデザインしていきます。

他の投資サービスにはない「ワクワク感」をユーザーへ届ける

広野 FOLIO

広野 萌|株式会社FOLIO CDO
1992年生まれ。ヤフー株式会社へ入社後、新規事業・全社戦略の企画やアプリのUX推進に携わる。2015年、国内株式を取り扱う10年ぶりのオンライン証券サービスFOLIOを共同創業し、CDOに就任。

FOLIOは過去2年間で社員数約60人の事業へと成長し、日本のFinTech投資サービスの代表として知られています。今回の講演では、FOLIOとロボアドバイザーの違い、これからの戦略についてお話いただきました。

FOLIOで大事にしているキーワードは、“ワクワク”。「ロボアドバイザー」として、よく新聞などで取り上げられるそうですが、実際のFOLIOのビジネスモデルは、ロボアドバイザーとは全く異なるもの。ロボアドバイザーは、資産構成の提案のみで、かつ自動。一方でFOLIOは自動ではありません。ユーザーが自らの手で選択して取引を行います。言うならば、ロボアドバイザーが比較的ローリスクローリターンな「守り」のパッシブ運用なのに対して、FOLIOの提供しているテーマ投資は「攻め」のアクティブ運用です。

そんなFOLIOも、もともとの構想はテーマ投資とロボアドバイザーの2軸で投資できるオンライン証券でした。「攻めと守りのバランスをパーソナライズし、その人に見合った資産運用を行うトータルアセットマネジメント」を提供価値とし、攻めはテーマ投資・守りはロボアドバイザー、「攻めでもない、守りでもない、バランスのいい誰もが簡単に投資できるサービス」を実現していました。

しかし、ベータ版リリース前の2016年の夏から秋に、コアバリューを見つめ直す機会があり、議論を繰り返して、今の「簡単にはじめられて楽しく続けられる」というコアバリューに行き着いたFOLIO。β版においてはロボアドバイザー機能をリリースせず、テーマ投資一本にフォーカス。初心者でも投資の判断がしやすく、投資のきっかけとなるサービスを目指しています。

「おつり貯金アプリ」をイラスト中心の親しみやすいデザインへ

大橋 マネーフォワード

大橋瑞生|株式会社マネーフォワード
制作会社・Web広告事業会社でのデザイナー経験を経て、2014年11月にマネーフォワードに入社。自動家計簿・資産管理サービス『マネーフォワード』における改善や新機能などのUXリサーチからUIデザインまで担当。その他、お金の経済メディア『MONEY PLUS』の立ち上げや『マネーフォワード』デザインチームリーダーを経て、新規事業『しらたま』のデザインを担当している。

現在は、9月にリリースしたばかりの自動貯金アプリ『しらたま』のデザインを手がけています。これまでに乗り越えた壁についてお話いただきました。

しらたまは、“しらずしらずのうちに貯まる。”というコンセプトから命名されたそうです。“貯金を楽しもう、人生を楽しもう”という言葉のとおり、ただの貯金ができるツールではなく、ちょっとだけ贅沢をするために貯金を始めませんか?というテーマに沿って作られています。

大橋さんはしらたまを手がける前に担当していたサービスのUX設計段階で、マネーフォワードのサービスは「資産がどれだけあるか」などの家計や資産情報の可視化はできていましたが、その後の「どう資産運用をしたらいいか」の課題解決ができていなかったということを実感しました。そこで課題を解決するために、お金を貯められるサービスを発案。

現在の貯蓄機能は、積立貯金とおつり貯金の2種類。サービスを手がけるに当たって直面したいくつかの壁について話してくれました。まずはじめに直面した課題は、「想像以上に国内の銀行における諸々の規制の壁等があり、サービスの概念がなかなかユーザーへ伝わらない」ということ。海外ではすでにDigitなどのサービスで浸透している「お釣り貯金」という言葉が、そもそも国内では浸透していなかったのです。そこで、最初のチュートリアルでユーザーのリテラシーを上げる戦略に出ました。

また、同時に「お金に関する調査をする」という壁にも直面していたそうです。日本ではお金のことを話したりすることがタブーと思われがちなので、調査もしづらかったとのこと。人それぞれ異なるお金に対する感覚を、まずはセグメントを切らずに広く調査をし、その後軸を決めてグルーピングをして、ターゲットとなるセグメントを洗い出します。

インタビューをする際にも、まずは身近な人からインタビューをしました。また、いきなり突っ込んだ話をするのではなく、インタビューシートには貯金サービスだからといって貯金のことを最初から聞かずに、平日や休日の過ごし方、最近買った大きなものなど、自然に答えられる質問をしました。

インタビューの結果、出てきたワードは「大雑把」、「お得は好きだけどゆるく」、「どう改善したらいいか分からない」などでした。ターゲットは資産管理や投資に馴染みがないことがわかり、その壁を取っ払うために、お金をもっと身近にするデザインを心がけました。

現在のデザインは、貯金ツールではなく楽しさや手軽さにフォーカス。グラフなどを一切使わずに、ユーザーがリアルな貯金箱と同じような体験を楽しめるようなUIを実現しています。例えば、ユーザーがデバイスを揺らせば、実際に貯まったお金の量と同じ量のお金がアプリ内で揺れるインタラクションで「お金が貯まる手触り感」を演出しているのです。

最後に

FinTechデザイナー反省会

以上4名の方々に、FinTech事業に関わることで得た気づきや教訓をお話していただきました。

登壇者全員が触れた「中国」のインターフェースデザインは、世界でも凄まじく進んでいます。中国で実現しつつあるキャッシュレス社会の後を追うように、日本のFinTechスタートアップも益々業界を盛り上げてくれそうだという実感が湧きました。

FinTechデザイナー反省会

当日は会場にも約70名ほどが集まり、熱量の高いイベントとなりました。また、懇親会でもスタートアップやFinTech・デザインに興味のある方々が多く集まり、食事とともに有意義な意見交換をする様子が伺えました。

FinTechサービスは国内でも数多くありますが、まだまだ「国外から学んで、デザインを強くできる」というのが現状です。これから益々デザインの力で、日本のFinTech業界を一緒に盛り上げられる企業が増殖していくことを、私たちも期待しています!