ということで、この記事では、我々デジタルプロダクトに関わるデザイナーたちが普段よく使っているカタカナデザイン用語からいくつを選び、それらを繁体字で読むとどうなるのかを紹介します。皆さんの仕事にそんなに役に立てないかもしれないですが、少しでも用語を親しく感じてもらえたら幸いです。
デザイン分野、領域名用語
ユーザーエクスペリエンスデザイン:使用者經驗設計
「ユーザーエクスペリエンス」はもともと台湾では「使用者經驗」と訳され、中国では「用户体验」と訳されたのですが、近年「使用者體驗」という訳語も多く見られています。
サービスデザイン:服務設計
中国語で「サービス」は「服務」のため。
インタラクションデザイン:互動設計
ユーザーとプロダクトが「お互い」に「動く」イメージを感じられますね。「インタラクション」は台湾では「互動」と訳され、中国では「交互」と訳されています。
ヒューマン(マシーン/コンピューター)インタラクション:人機互動
「人」と「機器」が「お互い」に「動く」という意味です。4つの漢字だけでこんなに長い単語を表せるって、なんだかかっこいいですね。
情報アーキテクチャ:資訊架構
中国語では「情報」という単語もありますが、機密性のあるものや特別性のあるもの(例えば「軍事情報」)にしか使いません。代わりに、台湾ではInformationを「資訊」と訳され、中国では「信息」と訳されています。アーキテクチャは「構造」の意味に近い「架構」という単語を使っています。
ユーザーインターフェースデザイン:使用者介面設計
「インタフェース」は「介面」。ユーザーとプロダクトを「介」する「面」です。ちなみに、中国では「介面」ではなく「界面」と書いています。
デザイン手法用語
ユーザーリサーチ:使用者研究
User Researchそのままですね。中国では「用户调研」と訳され、「調査」と「研究」の2つの意味が含まれています。
フィールドワーク:田野調查
この単語を見ると、なんだか野外で汗をかきながら研究を一生懸命しているイメージが思い浮かびますね。
ペルソナ:人物誌
ある「人物」に関する「誌(しるし)」。
ジャーニーマップ:旅程圖
カスタマージャーニーマップだと「顧客旅程圖」と言います。
ユーザーストーリー:使用者故事
Storyは中国語で「故事」と訳されるので、日本語っぽく言うと「使用者物語」にしてもいいかもしれないですね。
ブレインストーミング:腦力激盪
日本語で発音すると「のうりょくげきとう」になってめちゃくちゃかっこいいです。また「頭腦風暴」と呼ぶ人もいますが、個人的には直接的すぎるようにも思います。
ワイヤフレーム:線框圖
wire=線、frame=框なので、wireframe=線框。簡単ですね。
プロトタイプ:原型
「雛型」と言うこともあります。また、「原型」の中国語読みは「圓形(円形)」と同じく、口頭で伝える時はそのまま英語のPrototypeと呼ぶ人も多いです。
ユーザビリティテスト:可用性測試
ユーザビリティには日本語でも「使いやすさ」や「使用性」などの訳語があるように、中国語でも「使用性」、「易用性」、「可用性」などいろんな訳語があります。ほかにも「優使性」という、発音がなんとなくUsabilityに近い訳語も存在しています。
GUI用語
アプリケーション:應用程式
Application Programからの正式の訳語ですが、普段そんなに使わないです。日本では「アプリケーション」より「アプリ」と呼ぶことが多いように、台湾でも「App(えっぷ)」や「A-P-P(えーぴーぴー)」と呼んでいます。
マウス:滑鼠
そうです。滑るネズミです。中国では「鼠标」と訳されます。
カーソル:游標、ウィンドウ:視窗、スクロールバー:捲軸、ボタン:按鈕
「游動」している「標(しるし)」、情報を可「視」化する「窗」、「捲」けられる「軸」、「按=押す」ことができる「鈕=ボタン」。どれも「滑鼠」と同じく「動詞+名詞」構造になっており、「動賓複合語」と呼ばれるそうです。これらGUIの基本になる大事な要素を一番先に翻訳してくれる人って誰なんでしょうね。
メニュー:選單、リスト:清單、フォーム:表單
「單」(単)という漢字が中国語では「物事を記載できる紙」という意味を持っているので、機能を「選」択できる「單」と「清」楚に項目を載っている「單」(中国語の清楚の意味は「明白」や「詳細」)と訳されます。そして「表單」の「表」はテーブル(Table)を指し、いくつのテーブルで構成される「單」という意味になっています。
ドラッグアンドドロップ:拖放
ドラッグ=引きずるを漢字一文字「拖」、ドロップ=落とすも漢字一文字「放」で表し、二つの漢字を組み合わせると複合動詞の「拖放」になります。
アイコン:圖示
「図」形で意味を「示」すもの。
デフォルト:預設
「あらかじめ設置している」もの。中国では「默认(認)」と訳され、日本語の「黙認」と似ていてちょっとおもしろいです。
モード:模式、モーダル:模態
この二つの用語は意味を理解するのは難しいので、正式な訳語が存在しているものの、実際に使うときはそのまま英語のModeとModalで呼ぶ人が多いでしょう。ただこの二つの訳語の素晴らしいところは、言葉の意味をちゃんと漢字で表しながら、発音もなんとなくもとModeとModalに似ていることです。
アフォーダンス:?
アフォーダンスという概念も説明するのは難しいので、中国語では「預設用途」、「環境賦使」、「承擔特質」、「示能性」、「能供性」などいろんな訳語が存在していますが、結局口頭でAffordanceと言うのが伝わりやすいです。この例で言いたいのは、複雑な意味を持つ外来語をすべて訳すことには限界があるということです。逆に、日本語のカタカナはこういう場合にとても使い勝手がいいと感じます。
おまけ
デザインとあまり関係ないですが、最近話題になっているあの二つの駅を漢字で書いたらどうなるのでしょうか。
高輪ゲートウェイ:?
台湾メディアは「高輪入口」と仮訳していますが、品川駅高輪口と名前が似ており観光客を混乱させる可能性があるため、「高輪門戶」のほうが妥当かな、と思います。
虎ノ門ヒルズ:?
虎ノ門ヒルズというビルがもともと存在していたので、森ビル株式会社のサイトを見たところ、どうやらまだ正式な中国語名称はないようです。同じ森ビルグループの六本木ヒルズは「六本木新城」と訳されていたので、虎ノ門ヒルズは「虎之門新城」になりそうですね。(中華圏の人は「六本木之丘」と「虎之門之丘」に慣れていた気がしますが……)
最後に
たくさんの繁体字用語を紹介しましたが、実は現代で使われている中国語の一部は、日本から輸入されたものです。19世紀後半から、日本の近代化とともに西洋の新しい概念を日本語で表すために、「和製漢語」と呼ばれる日本で作られた漢語が生まれています。その数は1万にも及ぶそうです。その後、中国から来日した留学生によって中国に逆輸出され、「経済」、「科学」、「文化」、「社会」などの言葉は、今も台湾や中国で頻繁に使われています。
人に新たな概念を伝えるために、これらの言葉を設計してくれた先人たちに改めて敬意を払いたくなりますね。