生成AIによって、アウトプットを生み出すこと自体の価値が急速に変化している時代において、グッドパッチが取る事業戦略も変わってきています。
自分たちはどんな価値をクライアントに提供するべきなのか、ひいてはデザイナーはどんなパフォーマンスを発揮していくべきなのか──。
グッドパッチの執行役員としてデザインパートナー事業を率いる石井は「成果物をつくることではなく、成果が続く仕組みを残すこと」に価値があると語ります。
UIデザイナーを率いる立場から執行役員へ。役割の変化を通じて見えてきた事業の可能性、AI時代におけるデザイナーの価値、そしてグッドパッチが描くデザインパートナー事業の未来について話を聞きました。
目次
経営視点を得て見えてきた「掛け合わせ」の可能性
──石井さんは前回のインタビューから約2年半が経ち、肩書きも変わりましたよね。執行役員となって、グッドパッチという会社に対する見え方は変わりましたか?
前回のインタビューのときは、UIデザイナーチームのディレクターを務めていた時期だったと思います。それからはゼネラルマネージャー(GM)、デザインパートナー事業のトップ、そして執行役員と本当に目まぐるしく役割が変わっていきました。正直に言えば、それぞれのポジションや新しい役割にキャッチアップするのに一杯一杯で、あまり社外のことを見る余裕を持てなかったのは反省ですね。
ディレクター時代は「とにかくいいUIを作るぞ」みたいな部分が自分自身の主軸になっていました。その後GMになって、UXデザインや開発まで管掌する領域がグッと広がった段階でも、まだ「自分が持っている領域の中で、どういいものを作るか」という、モノづくり中心の思考が強かったなと思います。
しかし、そこからポジションが上がると、もちろん「いいものを作る」っていうところはベースにありつつも、自分がこれまで得意としていなかった領域、やってこなかった職能まで、自分の責任として含めた上で、デザインパートナー事業という大きな単位でどう成果を出していくのか、ということを求められるようになりました。
これは本当に難しい変化で、自分で考えては「これじゃダメだ」、また別の方法を考えては「これでもダメだな」みたいなのを、繰り返していた試行錯誤の期間が長くありましたが、あるときからデザインパートナー事業を俯瞰して見たときに、ポテンシャルの見え方が変わってきたと感じています。

──どういうことでしょう?
今まではUIデザイナーやUXデザイナー、エンジニアっていう個別の職能をずっと縦割りで見ていて、「その中でどうするか」を考えていたんですけど、違う領域や職能まで含めて全体を捉えたときに、これらを掛け合わせることで生まれるポテンシャルみたいなものが、今まで自分が見えていなかったものも含めてもっとたくさんあると感じられるようになったんです。
さらに執行役員という立場になると、自分の管掌領域以外、会社全体のことを考えることになります。例えば、『Strap』や『ReDesigner』など自社プロダクトやサービスも含めて、グッドパッチが持つすべての事業やプロダクトを組み合わせることによるポテンシャルを考えたときに「まだできてないこと、仕掛けられることがたくさんある」と感じるようになったのは、大きな変化だと思っています。
──さまざまなリソースの「掛け合わせ」によって、クライアントにどのような価値をもたらせるのでしょうか。
クライアントからよく聞くニーズは「自組織でデザインを内製化したい」というものです。これは僕がグッドパッチに入社して12年、変わらず聞くニーズです。
デザインパートナー事業でクライアントワークの支援をするときは、もちろんプロジェクトで成果を出すというのもあるけれど、その後に「クライアントがどう自走していくか」「内製化をどう支援できるか」というところこそが、クライアントが一番求めているところではあると思うんです。
グッドパッチが持つナレッジや方法論で内製化を支援するのがデザインパートナー事業だとすれば、ReDesignerは人材という形で組織づくりを支援できる。そう考えると、事業ごとに価値を提供するのではなく、グッドパッチ全体で一つのクライアントの課題を解決していくことができる。そこに、これからのデザインパートナー事業の可能性があると思っています。
「偉大なチーム」に、AIが加わる時代 Layermateは「成果が続く仕組み」を組織に残すためのプロダクトへ
──昨今は生成AIの進化によって、デザインの作り方も変わっていると思いますが、それに従ってクライアントワークのあり方も変わる面があると思います。グッドパッチがクライアントへ提供する価値はどのように変わると考えていますか。
先ほどお話ししたように、内製化のニーズ自体は変わりませんが、AIによって手段は完全に変わりました。これまで人間が労働力とかアイデアを提供する形で課題を解決しようとしていたところを、これからはAIで代替していくといった話が起きている。
そうすると、グッドパッチのデザインパートナー事業がクライアント先に「残してくるもの」が何であるべきか。その定義自体が変わると思っています。
──なるほど。クライアントワークの「成果」と呼ぶ対象も変わる可能性があると。デザインパートナー事業そのものの在り方を変える挑戦ですね。
そうですね。今まではデザインシステムとかドキュメントとか、あるいはデザインの成果物そのものを残してくることがほとんどでした。でもこれからは、AIによって構築された新しい業務のワークフローとか、自走を助けるAIエージェントそのものをクライアントの組織の中に「仕組み」として残してくるように変わっていくんじゃないかなと。
例えば『Claude Code』『Claude Design』といったテクノロジーは、誰でも触ること自体はできます。じゃあ、それをどう使えば自分たちの業務が良くなるのか。どうすれば、それぞれの組織やカルチャーに合った運用フローを作れるのか。その技術のトレンドや環境に合わせて、業務を再設計する力こそが、これからデザイナーに強く求められるようになると思っています。
──事業成果を出すために「AI」が必要不可欠な存在、もはやプレイヤーのような存在になっていくのかもしれませんね。
グッドパッチには「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる」という思想があるのですが、その「偉大なチーム」を構成する要素、あるいはメンバーとして、これからは間違いなくAIが入ってくると思っています。
これまでも言葉で伝える、資料で細かくニュアンスを伝える、あるいはデザインシステムを作って共通言語を作るなど、さまざまな方法で「偉大なチーム」を作るために取り組んでいましたが、AIも強力な手段の1つにはなるわけです。しかも、それを今までとは比較にならないほどの圧倒的なスピードで実現できる可能性があるかもしれないと注目しています。そのためにカギになるのが「Layermate」ですね。
──AIデザインツールの「Layermate」ですよね。どういった形で使われるのでしょうか。
Layermateとデザインパートナー事業の掛け合わせで、まさにその「仕組み化」をやりたいなと思っています。今はFigmaのプラグインという形ですけど、それだけにとどまらず、新しい価値提供の形を検討したいと思っています。
先日、デザインハーネス構築ソリューションを公開しましたが、このソリューションをAI×デザインのノウハウを持った、Layermateチームと一緒に実現していきたいと思っています。
クライアントと一緒にハーネスを構築しながらプロダクトをデザイン、開発していく。そして、プロジェクトを離れるときにハーネスがしっかり機能する状態になっていれば、クライアントはハーネスを利用して継続的に価値提供を続けられるようになる。
これが実現できたら、デザイン会社がクライアントに残せる新しい価値として、仕組みを超えて成功のストーリーを作れるなと考えています。組織を動かす原動力として、仕組みに加えて理想はストーリーも残していけるようになりたいですね。
そして、その価値を自信を持ってクライアントに提供するためにも、まずは僕たち自身が日々の業務やプロジェクトの中で、デザインワークのAXを進めていかなければならない。そう思っています。
「一次情報を身体的に持っていること」がデザイナーの価値に

──AIが進化し、クライアントワークで生み出す価値も変わる可能性がある中で、今後「デザイナー」はどういう価値を発揮できるのでしょうか。
これからのAI時代に圧倒的に大事になるのは、デザイナー自身が「身体的に一次情報を持っていること」だと思うんですよね。つまり、自ら体験しているかどうかということです。
今やAIはものすごい量と精度でリサーチを完了してくれるじゃないですか。わずか数分で。それを見た人間側が「これでいいや」と納得してしまう。そうすると考えている主体が、人間ではなくAIになってしまうんです。AIが考えたロジックやリサーチを、人間がただ形にしているだけ。これだと、人間がAIに支配されていると言われても文句は言えないですよね(笑)。
──AIが持ち得ない情報やデータを得ることが、より大切になってくるということですね。
AIが持ってきたデータや提案に対して、自分の身体的な体験、すなわち一次情報を基にして「でも実際のユーザーはこうだったから、もっとこうするべきだ」と自分の言葉で対等に伝えられるようにならないといけない。クライアントを相手にしているときと同じことではあるんですけどね。
AIとのやり取りをコントロールするということも含め、デザイナー自身が自分で生身の体験をして、それを基にアイデアをもっと発展させていくことをやらなきゃいけないなと。
──「身体的に知る、体験する」とは、具体的にどのような行動を指すのでしょうか。
例えば「ECサイトの売り上げを増やしたい」という依頼があったとします。AIにサイトを分析させることは、今なら簡単にできるでしょう。しかし、その前にやるべきことは、自らそのサイトで商品を買うこと。実際に届いて、開封して、生活の中で使ってみる。そこまでやって初めて、「ユーザーはこう感じるんだ」という仮説が立つと思うんです。
極端な話、フードデリバリーのサービス改善だったら、実際に配達員として登録して、街を走って、配達してみるくらいのことをやったらいい。そのときに感じる、配達のしやすさ、微妙な違和感、現場の空気。こういうものって、オンラインのデータでは再現できないし、データ化もしづらい。その領域にこそ、人間ならではの、AIではカバーできない戦い方やデザインの突破口があるだろうと思っています。
リモートでは分からない、クライアントの本音が分かれば「問い」も変わる
──オンライン上に残らないデータ、というと、昨今は、コロナ禍を経てオンラインから再び出社回帰のトレンドもありますよね。AI時代、オフラインのコミュニケーションが重要視されているのも似た話のように感じます。
グッドパッチでも、クライアントのオフィスに出社、常駐するタイプのプロジェクトが増えてきており、その流れは必然だと思っています。
リモートワークだとすべてのミーティングがログとして残るし、文字データとしてはきれいに取れる。しかし、その一方で声色や表情、テンションの高さといった「落ちていくデータ」もあります。オフラインとかリアルな体験の背景にあるもの、つまり「コンテキスト(文脈)」を自分が身体的に感じられるかどうかっていうのは、とても大事なことだと思うんですよね。
クライアントの方も、僕たちに課題を伝えるときにいろんな社内のコンテキストがあった上で、それをできるだけ分かりやすく整理して僕たちに伝えてくれようとする。もちろん、僕たちはそれを信じて仕事をするわけですが、もしその背景を、自分の目で見て、耳で聞いて、その場の空気として感じられたら、クライアントに言われたこととは「全く違う問いを立てる」ということもできるかもしれないわけで。
──代表の土屋も「クライアントが気付いていない課題や価値を見つけることが大事」とよく言っていますよね。
ですね。クライアントのオフィスで担当者と隣の席で一緒に仕事をしてたら、もしかしたらその方がリアルに頭を抱えてるかもしれないじゃないですか(笑)。そういう姿って、リモート会議では絶対に見られないんですよ。
そしたら「僕たちに言ってないことで、実は社内で困っていることがいっぱいある」という、当たり前のことですが、それにちゃんと気付ける、リアルタイムに認知できるというのはビジネスをドライブする上で、大切なことだと思うんです。
「僕たちの前では毅然と振る舞ってるけど、裏では社内調整が本当に大変なんだな」みたいなことが分かれば、その人を支えるために、どういう資料や成果物があれば動きやすくなるのか、というアプローチも変えられる。本当は会社の中で何に困ってるのか、みたいなのを肌で知れるっていうのは、デザインの力をビジネスの成果につなげるための強力な武器になるはずです。
AI時代において「デザインの力を証明する」意味

──役割が変わっても、逆に石井さんの中で、昔から変わらないデザインへの想いはあるんでしょうか。
自分の中で全然変わっていないところで言うと、やっぱり「狭義のデザイン」が好きなんですよね(笑)。単純にカッコいいインターフェースが好きだし、ダサいものは使いたくない。そこへのこだわりや美意識は、今でも自分の根底にあります。
一方で、グッドパッチが掲げている「デザインの力を証明する」というミッションに対する見え方は、新しく考えられるようになりました。
これまではいいアウトプットを作る。そのアウトプットで事業成果を出す。ここまでが価値でした。でも今、自分が挑戦したいと思っているのは、成果の出し方そのものをクライアントの組織の中で仕組み化すること。そこをAIや新しいテクノロジーを使って実現したいですね。
さらに言えば、技術の進化に合わせた、新しい価値提供のスタイルやビジネスモデルも検討する必要があると考えています。デザイナーの稼働に対して対価をいただくという形だけではなく、「プロジェクトのアプローチ」や「提供できる価値の量やスピード」に応じたメニューにするとか。価値を構造化して、クライアントのフェーズや予算に合わせて柔軟に提供できることも、これからは重要になるでしょう。
──それが、石井さんなりの「デザインの価値を証明する」というスタンスであると。
AI時代の中で「デザインって要らないんじゃない?」「デザイナーってもうオワコンじゃん」みたいな考え方って、どうしても世の中的に出てくるとは思うんです。
だけど僕たちは、デザインの力を証明して、デザイナーの市場価値をちゃんと上げていこう、という活動をずっとやってきた会社なので、それを止めることは絶対にありません。AIがある世界の中で、グッドパッチのようなデザイン会社が「社会に絶対に必要である」というふうに思ってもらえるかどうか。
プロジェクトを成功させる仕組みやプロダクトをクライアントにしっかり残し、社会的に責任を果たしていく。その結果として、関わったすべての人や世の中から「応援される会社」にならなきゃいけないな、ということを強く考えています。
──デザインの価値を証明するため、新たな戦いが始まるということでしょうか。
UIデザイン、UXデザインという言葉を頻繁に聞くようになってから15年、20年くらい経ちましたが、今まではビジネスにおいてデザインには価値がある、大事なものだという論調が強かった、いわば「追い風」が吹いていた状態だったのだと思います。
しかし、今はデザインの価値そのものが揺らいでいる、懐疑的に見られているという、いわば逆風の状態。「証明」の意味合いが、世の中に対するカウンターに変わっているんです。でも、だからこそ今が本当に面白いと思っています。AI時代における新しいデザインの価値という、誰も正解を知らないテーマの最前線に、当事者として立てるわけですから。
ただ「いい見た目」を作るだけではなく、一次情報の重みを誰よりも理解し、泥臭く現場を体験しながら、経営、組織、テクノロジーを掛け合わせ、クライアントのビジネスそのものをデザインしていく。そんな難題に、事業戦略のコアとしてコミットできるのが、グッドパッチの面白いところです。
会社の中でいろいろな人が、AIを使ったデザインの価値を試している、という他の企業にはない環境もあります。だからこそ、不確実性を恐れず、「これを使って自分たちは新しい何を創り出せるか」を一緒に実験していけるような、強い熱量を持ったデザイナーと、新しい時代の『偉大なチーム』を共に作っていきたい。デザインビジネスの未来を自分たちの手で切り拓いていくプロセスを、一緒に面白がれる人と、ぜひこれからのグッドパッチの可能性についてお話ししてみたいですね。
グッドパッチでは、AI時代にデザインの未来を切り拓いていく仲間を探しています。インタビューを読んで興味を持っていただいた方、石井との面談をご希望の方はこちらからぜひご応募ください。

