VUIがユーザー体験にもたらす可能性
Goodpatchでは、Webサイトやスマートフォン用のアプリケーションだけでなく、IoTやVUI(Voice User Interface)、VR/ARのような新しい技術のデザインにも興味があるメンバーが多く在籍しています。そのため、毎月末に更新しているトレンドの記事でも頻繁にご紹介しています。
特にVUIに関しては、AmazonやGoogle、Appleがこぞって音声アシスタントの開発に力を入れており、スマートフォンやスマートスピーカーという形で多くの人々に広がってきています。さらに近年では、自動車業界でも音声認識技術が注目され、音声対話で操作できる場面が増えてきています。
今回は、そんなVUIがデジタルプロダクトのユーザー体験にどのような影響を及ぼすのかをご紹介します。
目次
VUIの良いところ
1. テキスト入力より断然早い
モバイル端末における音声入力のスピードは、テキスト入力より早いことがスタンフォード大学の研究で明らかになっています。この実験は英語と中国語で行われたものですが、おおよそ3倍ほどの速度差があるそうです。
日本語でのテキスト・音声入力の速度の差を実験した例は見当たりませんでしたが、日本語での普段のテキスト入力を振り返ると、漢字やカタカナ、全角半角などの複雑な変換(出てほしい変換は一発で出ない)があります。そのため、英語や中国語と同じように速度差が表れそうです。
このように、音声入力はテキスト入力の複雑な操作や検索の手間を減らし、瞬時に操作を行うことを可能にします。
2. 両手がふさがっていても操作できる
基本的に手を使わなくても入力ができるため、両手が話せない・別の目的で埋まっている状態での操作が可能です。タッチやキーボード入力から音声に置き換えることで、ハンドルから手を離せない運転中でも、手が濡れていてタッチしづらい料理中でも操作ができます。ただし、同時に操作できるということは認知的負荷が増えることにもなるので、例えば運転ならスピードを出しているとき、料理なら包丁を使う時など、特に注意しなければなりません。
また、物理的な操作面が不要ということは、ディスプレイや筐体の大きさにとらわれないという特徴もあります。
3. 操作を学習しやすい
我々が慣れ親しんでいる「人との会話」に限りなく近いので、基本的に操作のための学習・慣れのコストが非常に低いです。キーボード配列が覚えられないから挫折してしまったり、どこをどの順番で押せば求めている操作ができるのか…といった方法で悩む必要がありません。一度発話での入力に慣れてしまえば、あとは友人に話しかけるように入力すればよいのです。
ユーザーがすぐに使い方を学習できるということは、操作の迷いを減らすことができるので、初めて操作する際の障壁を下げることができます。
VUIの気になるところ
1. 機械に話しかける不自然さ・恥ずかしさ
機械に話しかけるという体験には、まだまだ違和感を感じる方も多いのではないでしょうか。私も家でGoogle Nest(旧 Google Home)に話しかけて無視されたときのあの侘しさにはまだ慣れません。
また、自分が不自然さを感じるということは、周りから見ればもっと不自然に見えます。自宅などプライベートな空間での音声操作はまだしも、それ以外での音声操作にはまだまだ抵抗があります。
2. プライバシーが筒抜け
声を発する必要があるため、自分がおこないたい操作やその結果が周りの人々に筒抜けになります。例えばVUIを使ってスケジュールを確認(読み上げ)した時、もしそれが会社のスケジュールであればクライアント名などの機密情報が周りに聞こえてしまうかもしれません。さらに、これは人間側からの操作だけのみならず、VUI側から働きかけるときも考慮しなければいけません。
3. 適切ではない音も認識してしまう
同じ空間にVUIが複数存在した場合、自分のどの発話がどのVUIにひっかかるのかわかりません。あるいは、自分のVUIに話しかけたつもりでも周りのVUIが何個も反応してしまう、という状況が起こり得るわけです。
AlexaやGoogle Assinstant搭載のスマートスピーカーを持っている人は、テレビの音声に反応してしまったり、何も話しかけてないのに急に「すみません、わかりません」と言ってくるような場面に心当たりがあると思います。iPhoneのSiriでは、誤作動を避けるために機能をオフにするよう促される場合もあるそうです。
とうとう芝居でこんな注意書が配られる世の中が来たよ。iPhoneのSiriに注意だそうです pic.twitter.com/rTkfeQ9UHc
— くまちん(弁護士中村元弥) (@1961kumachin) January 28, 2020
上記のようにVUIは、公共の場以外での部屋や車の中、あるいは親しい人のみという状況でないと音声を使った操作は行ないづらいというデメリットがあります。そのため、VUIを用いる際のユーザーの環境や心情を配慮して、情報を入出力する際の状況を適切に設計する必要があります。(これはGUIなどの他のUIのにおいても同様です。)
まとめ
これまで述べたように、VUIは「会話」という日常にあふれている行為を使うからこそ、ユーザー体験に対して良い影響をあるものの、ユーザーの利用環境に大きく左右されるため、VUIを用いた設計をする際には考慮するべき点も多いといった印象です。さらに、VUIは機械がいかに人間の環境や意図を理解できるかで大きく体験が変わるため、自然言語処理などの技術レベルにも依存します。
しかし、それらの課題点がある上でもVUIが生活に及ぼす利便性の可能性は大きく、家の中や車内ではVUIを活用したプロダクトを見かける機会も実際に増えてきました。プロダクトデザインに関わるデザイナーとしては、VUIの特徴をしっかり踏まえた上で、良い面を活かしながらデザインすることを心がけると良いでしょう。