デザインパートナーとディスカッションをするなかで「アプリの”使いやすさ”を競合との差別化要素にしたい」という意見や、「目を引くデザインであっと驚く体験を提供したい」という意見をよく聞きます。それらを実現するためには様々な方法がありますが、実は突飛なデザインを作るよりも”普通なデザイン”を作ることが一番効果的であることが多くあります。

この認識のギャップを乗り越えてチーム全員が同じ認識を持ってものづくりに向き合うために、今回は「使いやすい」を作るための考え方や手法をまとめます。

「使いやすい」と「使いづらい」は何が違うのか

初めて使うサービスに触れた時に「これ使いづらいな」と思うものと「これ使いやすいな」と思うものがあるのはなぜでしょうか。ターゲットの整合性やユースケースパターンの考慮など色々な原因が考えられますが、多くの場合は学習のしやすさの違いが影響しています

サービス初級者にとっての「使いやすい」とは「学習しやすい」に近い

アランクーパーが”中級者に合わせてデザインせよ”と言っているように、サービスを利用するユーザーの中に”サービス初心者”のままでいたい人はほぼ存在せず、基本的には「もっと上手に道具を使い倒したい」という欲求を全てのユーザーが持っています。つまり、誰かが何かの道具を使い倒すには学習という工程が必要なのです、逆に言えば、ユーザーが新しい何かを使い始めたときに「学習しにくいこと」や、「学習しようとしたけど中々上達しない」ことを、ユーザーは「学習しづらい」と言う代わりに「使いづらい」と言ったりするします。

つまり「使いやすい」の正体とは「使いやすいと感じるまでの学習コストが低い」もので、反対に「使いづらい」というものは「使いやすいと感じるまでの学習コストが高い」ものだといえるでしょう。そのため、「使いやすい」を作るためには学習しやすい状態を作ることが大切です。

サービス中級者にとっての「使いやすい」とは「習熟した」に近い

少し話は変わり、「使いやすい」を考えるときによくある意見として、「日々使っているものが一番使いやすい」という意見がありますが、この状況の時は何が起こっているのでしょうか。この場合、多くの場合はそのモノ自体が最初から使いやすかったというわけでは(おそらく)なくて、学習によってそのモノと使い方に対する習熟度が高まったことで結果的に「使いやすい」と感じている可能性が高いと思われます。熱心なユーザーがサービスを長い期間触って操作感に慣れ、”サービス中級者”になっているような状態と捉えることもできます。逆に言えば、サービス中級者が口にする「使いやすい」とは「習熟した」と言い換えることができるかもしれません。

いずれにしても、早期に「使いやすい」を実現するためにはなるべくユーザーが学習しやすい状態を作ることが大切です。では、学習しやすい状態とはどのような状態のことを言うのでしょうか。それは、ユーザーがそのモノを知っているか・使い方を知っているかによって分かれます。

新しいものを使い始めるユーザーの4つの状態

新しいものを使い始めるときのユーザーの状態を4つに場合分けしてみました。

一番右側①は、それがどんなモノか知っていて、かつ使い方もわかるような状態です。この場合、ユーザーはほぼ説明なしで新しいモノを使い始めることができるし、使うことになんの疑問も持ちません。そのため、学習コストも限りなく低いような状態にあります。既に習熟度が高まっている状態とも言えるかもしれません。

次いで隣の②は、それがどんなモノか知っているが使い方は知らない、というような状態です。少しわかりづらいため具体例を用いると、”確定申告”というものが何かは知っているが、確定申告のやり方はわからない、というような状況が②に当てはまります。この場合は使い方さえ教えてもらえば次回以降はスムーズに確定申告ができるようになるはずですが、何のサポートもない場合は、使い方を知らないし手順も複雑なため、自力では学習しづらい状態になってしまうかもしれません。

③は、それがどんなモノなのかそもそも知らないが、知ってしまえば使い方はわかるような状態です。これは例えば、目的別口座や電子書籍のような、それが何かは知らなくても、「お財布を複数持てる感じか〜」とか「本のデジタル版か〜」と思えば使うことはできるようなパターンに当てはまります。この場合、「それはどんなモノか」という概念を学習する必要があるため、②よりも学習コストはかかるし、ある程度使い方を推測できるようなメタファーがないとユーザーにとっては学習がしづらい状態になるでしょう。

④は、それがどんな物なのか知らず、かつ使い方もわからない、というような状態です。画期的な新サービスや新機能などで多く、InstagramのStoriesなどが④に当てはまると思われます。「Storiesとは投稿が24時間で消えるSNSです」と説明されて最初は多くの人が戸惑ったと思うが、Instgagramからの詳細な説明やオンボーディング、他の人の使い方を見るなどの工程を経て徐々に理解していったはず。この場合はモノそのものを学習する必要もあるし、使い方も理解する必要があるので最も学習コストがかかる物になりますし、何の説明もなければかなり手探りになるので相当学習しづらい状態になってしまう、と言えるでしょう。

ユーザーごとの「使いやすい」を作るための4つのアプローチ

では、4つのユーザー状態ごとに、どうすればユーザーが「使いやすい」「学習しやすい」と思ってもらえるのでしょうか。それぞれのパターンごとに考えてみます。

アプローチ1. ”普通”を目指す

①はユーザーのモノの習熟度が高く・使い方の習熟度も高いような状態です。この場合、なるべく突飛なことをしようとせずに普段からユーザーが扱っているような見た目で、普段からユーザーが使っているような動きで、いつも通り使っててもらうのが良いと思います。つまり、”普通”を目指すというアプローチです。既にユーザーの習熟度が非常に高い状態なので、わざわざ学習が必要な新しい何かを用いるのでは無く、よく見るモノを作ることで結果的に「使いやすい」と思ってもらえるものになるはずです。アプリ的にはよく見るオブジェクトを使って、何の疑問も持たないような体験を提供できると良いでしょう。

アプローチ2. フローを活用する

②はモノの習熟度は高く・使い方の習熟度が低いような状態です。この場合は説明的なフローでユーザーに使い方を教えてあげて「しっかり理解して出来た!」というアプローチをとるか、誘導的なフローで「よくわからないけどなんか出来た」というような習熟度が低くてもできるような工夫が必要になります。アプリ的にはオンボーディングで説明をしたり、線形のフローに乗せてタスクを絞ったりするUIにして、「理解して出来た!」や「いつの間にか出来ていた」と言われるような体験を提供できると良いのではないでしょうか。

アプローチ3. メタファーを活用する

③はモノの習熟度が低く・使い方の習熟度が高いような状態です。この場合は前項で述べたように、ある程度使い方を推測できるようなメタファーを利用して、既知の概念に誘導することが良いと思います。例えば”目的別口座”であれば複数のお財布や複数の封筒のメタファーを扱うことで”普通の口座と似たようなもの”というような理解や”家計管理のために現金を分けている封筒と似たようなモノ”というような既知の概念に誘導することで、使い方を理解してもらえると思います。”電子書籍”だったらページの端を操作できるようなUIにすることで”紙のようにページをめくれる”というような理解を作って本をよんでもらえば良いでしょう。

アプローチ4. 段階的な設計にする

④はモノの習熟度も使い方の習熟度も低いような状態です。なるべくメタファーを使って理解を醸成するのはもちろんですが、ある程度「これはどんなモノなのか」という説明と、「どうやって使うのか」という説明を行う必要があります。よく見るアプリのチュートリアルのような形で丁寧に説明することも必要かもしれないし、アプリを使っていく中で都度都度ネクストアクションを提示してあげるなどの工夫も必要になってくると思います。前述したように、他の人の使い方を見ることができる仕組みを作ることで自発的に学習してもらうような設計も必要かもしれません。

以上のように、4つのユーザー状態に合わせたアプローチを取ることで、それぞれにとっての「学習しやすい」状態を作り、「使いやすい」を目指すことができると思います。

実現手順のまとめ

これまで、ユーザーの4つの状態に合わせた4つのアプローチをまとめてみましたが、実際にはサービスの中にはこの4つの状態と4つのアプローチが複合的に含まれる形で存在すると思います。そのため、最後に「使いやすい」を作るための手順をまとめて終わりにできればと思います。

アプリの場合、よっぽど特殊な部分以外はだいたい「見たことあるし使い方もわかる」と言えるような部分が多いため、まずはなるべく”普通の見た目”で”普通の動き”を目指すことが良いと思います。一方で、尖ったサービスであればあるほどサービス独自の概念やサービス独自のフローが存在したりするため、②〜④のどのアプローチを取るかを検討するために「使い方が特殊」なのか「モノ自体が特殊」なのか「両方特殊」なのかを見極めて、適切にユーザーが学習しやすい状態を作ることを意識し形作っていくと良いでしょう。特に、③や④の場合は全く新しい見た目になりやすいため、ここがデザイナーの力の見せ所であり、遊びどころでもあったりします。「目を引くデザインであっと驚く体験を提供したい」という希望があるとすれば、この③や④の設計に多くの時間をかけて、ほかの部分は”普通”のデザインを時間をかけずに作っていくことが大切です。